• アプリケーションノート

アドバンスドポリマークロマトグラフィー(APC)™システムによるキシレン中のポリマー分析のヒントとコツ

アドバンスドポリマークロマトグラフィー(APC)™システムによるキシレン中のポリマー分析のヒントとコツ

  • Jennifer Gough
  • Waters Corporation

要約

タール、ビチューメン、アスファルトなどの石油由来製品に対して、溶解しにくいポリマーのゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)分析が困難な場合があります。キシレンは、これらの GPC アプリケーションで用いられる一般的な移動相です。キシレンは、多くの場合、3 つの使用可能な立体配座(オルトパラ、メタ)の混合物として販売されています。各キシレン異性体には独自の特性があり、液体クロマトグラフィー(LC)に適さない場合があります。Waters™ ACQUITY™ APC システムなどの高耐圧システム(上限 15,000 psi)でキシレンを移動相として使用する場合、分析法の調整が必要になります。この低拡散システムには、Waters BEH 小粒子カラムの高分離能を維持するための独自の機能があります。ACQUITY APC システムで O-キシレン移動相を使用して、ポリマーのサイズに基づく分離が正しく実施できました。ここでは、効率的な分析法開発と迅速な分析時間が実現できる例を挙げています。

アプリケーションのメリット

  • 石油由来のサンプルの GPC 分析用の O-キシレンに適合するシステム
  • 分析時間 10 分で、有害な廃液や有機溶媒の使用量が低減できる GPC オプション2
  • キシレンを用いるアプリケーションに使用されてきた実績のある APC アイソクラティックソルベントマネージャ(ISM)システム

はじめに

ACQUITY APC システムは o-キシレンと互換性があり、この移動相を使用する際には、実験前に複数の点を検討しておく必要があります。石油由来のサンプルなどのキシレン可溶性ポリマーは、THF のような一般的な GPC 溶媒に通常は溶解しません。また、キシレン可溶性ポリマーの多くには通常複雑なマトリックスがあり、サンプル溶液を LC 注入の許容範囲内にするには、追加の手順が必要になることがあります。システムに新しい移動相を追加する前に、以前の移動相と、以前の分析で使用したサンプルの種類を、システムから排除する必要があります。前のサンプルが LC で沈殿すると、背圧が問題になることがあります。移動相の調製がクロマトグラフィーシステムのパフォーマンスに影響するのと同様に、サンプル前処理の品質も影響を及ぼします。ポリマーサンプルは、装置の設定内で安定している必要があります。キシレンポリマーの溶出と GPC のためのこのような調整すべてが、APC を使用したキシレン可溶性ポリマー分析の専門家によって数多く報告されており、いくつかの実験条件を含むテクノロジーブリーフが参考文献に含まれています。APC システムを使用して溶媒を切り替える際のガイダンスについては、参考文献内の個別のドキュメントを使用できます1。 ここでは、以下のトピックを取り上げています。

  • システム溶媒との適合性
  • 移動相についての検討事項
  • 装置設定についての検討事項
  • o-キシレンを使用する APC アプリケーション
  • まとめおよび参考文献

実験方法

システム溶媒との適合性

 

このセクションでの o-キシレンの使用に関する APC Waters サポートは、以下のドキュメントリンクからの抜粋です。APC での o- キシレンの使用、ならびにこのセクションの情報は、以下のドキュメントリンクからの抜粋です。シール洗浄にはイソプロパノールが使用され、ニードル洗浄溶媒とパージ溶媒には o-キシレンが使用されます。ニードル洗浄溶媒およびパージ溶媒には、添加剤を使用していません。

  • 全般的なコメント:ウォーターズではキシレンの試験を行っておらず、この溶媒で評価を実行する予定もありません。ただし、これを ACQUITY APC システムの溶媒として正常に使用しているお客様もいます。
  • 包括的な寿命試験は実施していませんが、材料適合性の観点から、キシレンはトルエンと同様であり、APC システムで機能することが予想されます。
  • o-キシレンの使用を選択する場合、シール洗浄にはイソプロパノールを推奨します。
  • o-キシレンの使用を選択する場合、ニードル洗浄溶媒およびパージ溶媒には o-キシレンを推奨します。
  • THF(25 ℃ で 0.48 cP)のような他の代表的な GPC 溶媒と比較すると、o-キシレン(20 ℃ で 0.81 cP)は粘性がありますが、DMSO および IPA(25 ℃ で 1.9 cP)ほどの粘性はないことに注意してください。
  • p-キシレンの融点(Mp)は室温に近く、高圧下では凍結することがあるため、適切な選択肢とはいえない場合があります。
  • キシレン混合物には p-キシレンが含まれているため、使用することはできません。キシレン混合物は、全体的な溶媒特性に悪影響を与える可能性があります。

https://www.waters.com/waters/support.htm?lid=135084097&lcid=135084096&type=USRM

移動相についての検討事項

キシレンには、オルトメタパラの 3 つの異なる配座があります(図 1、表 1)。ウォーターズで APC システムでの使用について限定的にサポートしているのは、オルト-キシレンのみです。メタ-キシレンも適切な選択ですが、使用するには価格が高すぎる場合があります。パラ-キシレンの融点は室温に近いため、この配座は避ける必要があります。キシレン混合物にはパラ-キシレンが含まれているため、APC ではサポートされていません3

図 1.  キシレンの 3 つの異性体
表 1.  キシレンの物理的特性の表

装置設定についての検討事項

o-キシレンの粘度は水の粘度よりわずかに低いため、ニードル吸引レートを自動設定のままにするか、230 µL/分に上げることができます。クロマトグラフィーでは、溶出時間の開始時にアーティファクトが発生することがあります。これは、ニードル吸引レートを調整することで低減できます(表 2)。サンプルマネージャーの温度設定は、サンプル注入中の移動相の粘度に影響することがあります。

表 2.  溶媒に対応する APC シリンジニードル吸引レートの表

結果および考察

o-キシレンを使用する APC アプリケーション

ウォーターズ、Laboratory of Bioinorganic Analytical and Environmental Chemistry(フランス、ポー)、TOTAL Refining and Chemicals(フランス、アルフルール)の共同作業により、APC およびキシレンを使用する石油由来サンプルの分析のデモが行われました。このアプリケーションでは、APC 分析用の移動相としての o-キシレンの使用を実証しています。分離は、125 Å と 450 Å(4.6 × 150 mm、2.5 µm)の 2 本の ACQUITY APC XT カラムで行われました。160 倍に希釈した 10 µL のサンプル溶液を注入しました。ポリスチレン(PS)キャリブレーション標準試料を使用して、分析時間は 10 分でした(図 2)。サンプル前処理は単純で、THF、キシレン、またはクロロホルムを 160 倍に手動希釈しました4

表 3.  石油由来のサンプル分析用の APC 装置メソッド
図 2.  ACQUITY APC システムで得られた、PS 単分散ポリマーキャリブレーション標準試料(挿入)と石油由来のサンプルのクロマトグラフィーデータの重ね書き

結論

  • ACQUITY APC システムは、特に溶媒の粘度と融点の特性に基づいて、o-キシレンの使用に対応しています。このドキュメントでは、使用時の重要な検討事項について説明しています。
  • o-キシレン可溶性ポリマーは、通常は THF のような代表的な GPC 溶媒に溶解しません。また、石油由来のサンプルアプリケーションの 10 分間の分析の例では、1 回の分析あたりの有害な廃液や有機溶媒の使用量が削減しています。
  • APC で o-キシレンを移動相として使用するための調整については、このドキュメント、参考文献、および共同研究アプリケーションを通して説明されています。

参考文献

  1. ACQUITY APC System Chemical Compatibility Guide, Waters User Manual.USRM135084097, 2021.
  2. Richard Mendelsohn, Jennifer Gough.Fast, High-Resolution Analysis of Polydimethylsiloxanes in Toluene with Advanced Polymer Chromatography Coupled to Refractive Index Detection, Waters Application Note. 720007658, 2022.
  3. Wikipedia: Xylene, https://en.wikipedia.org/wiki/Xylene.
  4. Investigating Metal Containing Aggregates in Crude Oil with ACQUITY APC, Waters Application note.720005625, 2016.

720007882JA、2023 年 3 月

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