• アプリケーションノート

熱分解-APGC-QToF MS から開発されたマススペクトルレファレンスライブラリーを用いたプラスチックの特性解析

熱分解-APGC-QToF MS から開発されたマススペクトルレファレンスライブラリーを用いたプラスチックの特性解析

  • Rachel Sanig
  • Rhys Jones
  • Cristian Cojocariu
  • Waters Corporation

要約

多くのポリマー標準試料の熱分解による分解は、再現性が高く特徴的であるため、ライブラリー検索は、ポリマー材料中の化学成分の同定における重要なツールになります。ただし、熱分解物のスペクトルライブラリーは自由に利用できません。熱分解-ガスクロマトグラフィー-ソフトイオン化を用いた高分解能質量分析は、気相分離を用いた複雑なポリマー材料の組成分析を専門とするラボに有効な分析ツールです。ソフトイオン化により、分子イオン検出が化学元素組成の確認、構造解析、および化合物の同定に役立ちます。このテクニカルノートでは、ライブラリー検索機能について、この分析プラットホームの調査を行っており、ポリマー化合物同定の信頼性を高めるために、社内で構築されたライブラリーを使用しています。 

アプリケーションのメリット

  • 熱分解-APGC-QToF MS は、気相分離を用いた複雑な材料の組成分析を専門とするラボに有効な分析ツールです。
  • APGC を使用したソフトイオン化により、元素組成の由来となる分子イオンを検出でき、化合物の同定に役立ちます。
  • Py-APGC-QToF MS を、ポリマー標準試料の平均質量スペクトルからのライブラリー作成に利用し、実際のサンプルに適用することができます。

はじめに

ポリマーの研究の分野では、熱分解とガスクロマトグラフィー質量分析を組み合わせた分析(py-GC-MS)が幅広く使用されています。例えば、多くのポリマー標準試料の分解は再現性が高く特徴的であるため、サンプルを可溶化できない場合に使用されています1,2。ただし、熱分解物のスペクトルライブラリーは自由に利用できません。また、高エネルギーの電子イオン化(EI)においては、十分な感度と選択性が得られず、プラスチック製品、不純物、および添加剤の特性解析が困難になります。

ソフトイオン化および四重極飛行時間型高分離能質量分析(QToF MS)を搭載した熱分解-GC は、この分野での問題の解決に役立つツールとなりうる可能性があります。大気圧ガスクロマトグラフィー(APGC)により、よりソフトなイオン化が可能になり、分子イオン検出が行われます。QToF MS では MSE モードでデータを取り込むことができ、これにより低コリジョンエネルギーと高コリジョンエネルギーのスペクトルが両方同時に取り込まれます。これらを組み合わせることで、プリカーサーイオンとフラグメントイオンの精密質量を利用して、構造解析が可能になり、最終的に化合物の同定に役立ちます3

熱分解物のスペクトルライブラリーを作成する機能は、ポリマー材料の特性解析のための重要なツールであり、化学成分の同定が容易になります。このテクニカルノートでは、py-GC-EI-MS および py-APGC-QToF MS の両方について、熱分解物ライブラリー検索機能を調査しています。得られた結果では、社内で構築されたスペクトルポリマーライブラリーを使用するシンプルな組み合わせアプローチにより、ポリマー化合物同定の信頼性が向上することが示されています。 

実験方法

サンプルの説明

一連のポリマー標準試料を約 0.1 mg ずつ量り、石英ウール製の 2 つのプラグ間のガラスキャピラリーにロードしました。次に、このガラスチューブを熱分解装置のオートサンプラーに入れ、GC-EI-MS と APGC-QToF MS で 3 回分析しました。 

熱分解の条件

熱分解装置:

CDS 5000、CDS 分析用

インレットの温度:

310 ℃

昇温速度:

20 ℃/ミリ秒

最終温度:

750 ℃

GC 条件

インレットモード:

スプリット

スプリット比:

75:1

スプリット流速:

75 mL/分

インレットの温度:

310 ℃

カラム:

Rtx-5MS、30 m × 0.25 mm × 0.25 μm、RESTEK

カラム流速:

1 mL/分

セプタムパージ流速:

3 mL/分

オーブングラジエント:

45℃ で 5 分間、20℃/分で 300℃ まで上昇させ、最後に 10 分間ホールド。

合計 GC 実行時間:

27.75 分

MS 条件

システム 1: Xevo™ TQ-GC

イオン化モード:

EI+

電子エネルギー:

70 eV

蛍光波長:

300 µA

イオン源温度:

250 ℃

質量範囲:

m/z 10 ~ 650

スキャン時間:

0.1 秒

GC インターフェース温度:

300 ℃

システム 2: Xevo G2-XS QTof*

イオン化モード:

APGC™ のポジティブイオン化

コロナ電流:

3 µA

サンプルコーン電圧:

30 V

イオン源温度:

150 ℃

質量範囲:

m/z 10 ~ 1500

スキャン時間:

0.2 秒

コーンガス:

50 L/時間

補助ガス:

550 L/時間

GC インターフェース温度:

280 ℃

MSE コリジョンエネルギー:

低エネルギー 6 V、高エネルギー 15 ~ 45 V

*(Xevo G3 QTof では同等以上の性能が期待できます)。

データ管理

データ取り込み、解析、およびレポートは Waters™ MassLynx™ 4.2 ソフトウェアを使用して実行しました。ライブラリーは、既存の NIST スペクトルライブラリープラットホーム内で作成されました。

結果および考察

純粋なポリマー標準試料から取得した平均質量スペクトルから、各装置設定用のライブラリーを構築し、既存の NIST スペクトルライブラリープラットホーム内で使用しました(図 1)。

両方の装置プラットホームで分析されたポリマー標準試料から作成されたライブラリーエントリー
図 1.  両方の装置プラットホーム(py-GC-EI-MS および py-APGC-QToF-MS)で分析されたポリマー標準試料から作成された NIST ライブラリーエントリーの例

ライブラリーの検索機能を調べるために、プラスチックおよびバイオベースのプラスチックサンプルを、ポリマー標準試料と同じ条件で分析しました。これらのサンプルのピログラムから平均質量スペクトルを生成し、社内のスペクトルライブラリーに対して一致するものを検索しました。装置のフルスキャンでデータが収集され、py-GC-EI-MS と py-APGC-QToF MS ライブラリーの両方で、前方一致および後方一致のスコアリングに基づいた比較結果が示されました。通常、1 つのマッチにつき 800 を超えると良好であると見なされ、これにより、ライブラリーを使用した正しい割り当ての可能性が高まります4

例えば、両方の装置から生成されたリサイクル PET(ポリエチレンテレフタラート)容器のスペクトル検索では、PET 標準試料のプライマリー一致が示されました。ライブラリーの前方一致と後方一致のスコアは、それぞれが py-GC-EI-MS では 865 および 865(図 2)、py-APGC-QToF MS では 818 および 818(図 3)でした。

py-GC-EI-MS ライブラリー内の PET 用のライブラリーでの一致および後方一致のスコア
図 2.  py-GC-EI-MS ライブラリー内の PET 用のライブラリーでの前方一致および後方一致のスコア
py-APGC-QToF MS ライブラリー内の PET 用のライブラリーでの一致および後方一致のスコア
図 3.  py-APGC-QToF MS ライブラリー内の PET用 のライブラリーでの前方一致および後方一致のスコア

py-GC-EI-MS で生成されたバイオベースのプラスチックストローのスペクトル検索により、これは主にポリ乳酸(PLA)でできていることが示され、ライブラリーでの前方一致および後方一致のスコアは、それぞれ 863 と 868 でした(図 4)。これは、このサンプルの主成分が PLA であると特定するには十分でした。また、py-APGC-QToF MS フルスキャンライブラリーは、プラスチックサンプルのピログラムの検索および比較結果にも使用されました。バイオベースのプラスチックストローは、PLA に対してそれぞれ 851 および 852 の一致を示しました(図 5)。

py-GC-EI-MS ライブラリー内の PLA 用のライブラリーでの一致および後方一致のスコア
図 4.  py-GC-EI-MS ライブラリー内の PLA 用のライブラリーでの前方一致および後方一致のスコア
py-APGC-QToF MS ライブラリー内の PLA 用のライブラリーでの一致および後方一致のスコア
図 5.  py-APGC-QToF MS ライブラリー内の PLA用 のライブラリーでの前方一致および後方一致のスコア

結論

py-GC-EI-MS および py-APGC-QToF MS の両方を利用して、ポリマー標準試料の平均質量スペクトルからのライブラリーを作成できます。プラスチックおよびバイオベースのプラスチックサンプルの質量スペクトルは、NIST などの既存の市販ライブラリーに簡単に統合できます。これを実際のサンプルに対する検索に使用して、プラスチック成分の推定同定を迅速に行うことができます。プラスチック製品の詳細な特性解析を行う必要がある場合、py-APGC-QToF MS には、フラグメンテーションを低減し、分子イオンの生成を促進するソフトイオン化など、追加のメリットがあります。これにより、未知化合物同定の信頼性を向上できます3

参考文献

  1. Suge S., Ohtani H., Watanabe C. Pyrolysis-GC/MS Data Book of Synthetic Polymers.2011.
  2. Peacock P. M., McEwen C. N. Mass Spectrometry of Synthetic Polymers.Anal.Chem.2006;78(12): 3957–3964.
  3. Sanig R., Cojocariu C., Jones R. Pyrolysis-gas chromatography-high resolution mass spectrometry with soft ionization for increased confidence for polymer characterization.Waters Application Note 720007599, April 2022.
  4. NIST/EPA/NIH Mass Spectral Library Compound Scoring: Match Factor, Reverse Match Factor, and Probability, Jordi Labs. 

720007849JA、2023 年 1 月

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