分析法開発に関する考察

分析法開発に関する考察

カラムの選択

理想的には、通常の状態のペプチド(酸性残基、塩基性残基および非極性残基の混合状態)、塩基性ペプチド、高分子ペプチド(30~40残基)および疎水性ペプチドを含むすべてのサンプルで1つのカラムケミストリーを使用することで、手持ちのカラムが減り、各粗サンプルに関して複数のカラムをスクリーニングする必要性がなくなります。C18は数多くのペプチド分離で一般的に使用されていますが、C18が結合しているベースパーティクルもクロマトグラフィーの保持、分解能およびピーク形状に影響を与える重要な因子です。XBridge Peptide BEHカラムは、シリカ単体ではなくエチレン架橋型ハイブリッドパーティクルがベースになっています。BEH(架橋型エチルシロキサン/シリカハイブリッド)パーティクル(図7)は、ペプチドとの二次相互作用が最小限に抑えられており、分離条件の開発において最大限の柔軟性を達成できるように高pHと低pHの両方で安定です。合成充塡剤は、粒子径3.5、5および10µmでポアサイズ130Åまたは300Åをご利用いただけます。特殊なサンプルや極端な疎水性のペプチドの場合、同じベースパーティクルをC8またはC4でご利用いただけます。


図7. BEH™ テクノロジー充塡剤の合成



さまざまなカラムサイズにおけるペプチド重量負荷量の近似値を表1に記載します。

長さ
(mm)

直径(mm)

2.1

4.6

10*

19*

30**

50

50

0.04-0.11

0.3-0.6

1.5-3.0

4-9

11-22

31-62

100

0.11-0.22

0.5-1.0

2.5-5.0

9-18

22-45

62-125

150

0.15-0.33

0.8-1.6

4.0-8.0

13-27

34-68

93-186

250

0.26-0.55

1.3-2.6

6.0-12.0

22-45

56-112

155-310

 

流量 (mL/min)

0.19-0.39

0.9-1.8

4.5-9.0

16-32

40-80

111-222

注入量 (µL)

4.3

20

100

350

880

2450

 

表1.逆相クロマトグラフィーのペプチド重量負荷量の近似値(全負荷量 (mg))*5µmおよび10µmのOBD™分取カラム、**10µmOBD分取カラム



多くの因子が分取カラムの重量負荷量を左右します。リストに記載されている負荷量は、各サイズの適切な流量と注入量における「平均」推定値を示しています。以下に考慮すべき因子を挙げます:

  1. ペプチドの負荷量は主に特定のサンプルの溶解度に依存します。
  2. より高い分離能が求められる場合、負荷量は小さくなります。
  3. 負荷量は負荷条件に左右されますが、低分子ほど影響が大きくなります。
    1. ペプチドは通常、含水量の多い条件で、多くの場合TFAが添加されてロードされます。このような条件下での負荷量は実質的に制限がありません。負荷量は溶出中の溶解度により制限されます。
    2. 乾燥ペプチドはDMFやDMSOなどの溶媒で湿潤させます。多くの場合、その後、上記のようにTFAを含む水で希釈されます。
    3. ペプチドをDMFやDMSOに溶解し、その溶液中で注入することもあります。図中の注入量ガイドラインはこの条件に当てはまります。
  4. 適切な注入量は、比較的強い溶媒を用いた長さ50mmのカラム直径に基づきます。カラムを長くすればより大きな注入量に対応できますが、この関係は正比例ではありません。溶媒が弱いと注入量が大幅に増加します。
  5. 適切な流量はカラム径に基づきます。カラムが長くなり、粒子径が小さくなると背圧が上昇してシステムが制限されます。低分子より長い時間をかけてペプチドを分析することを好むユーザーは、推奨流量の半分を使用し、グラジエント時間を2倍にします。


標準的なペプチド単離のカラム選択肢としてのXBridge Peptide BEH C18 130Åの適合性は、性質が異なる4種類のペプチドパネルの検査後に得られる結果に基づいて定義されました。ペプチド配列は公開されていませんが、各ペプチドの特記すべき性質を表2に記載します。

ペプチド

長さ

質量(Da)

pI

HPLCインデックス

一般的なペプチド

17-mer

1772.89

6.4

26.5

塩基性ペプチド

15-mer

1809.06

10.3

21.7

疎水性ペプチド

16-mer

1871.96

7.3

113.3

高分子ペプチド

39-mer

約4184

4.7

89.6

 

ペプチドは、弱酸性(カルボン酸)の官能基と弱塩基性(アミノ酸)の官能基の両方を持つため両性化合物です。ペプチドは正電荷と負電荷の両方を持つため双性イオンとも呼ばれます。ペプチドが特定の水素イオン濃度の溶液に溶解している状態で電界にさらされて、移動しない場合、その水素イオン濃度がそのペプチドの等電点(pI)となります13,14,15。つまり、等電点(pI)はペプチドの正味電荷がゼロになるpHです。

Browne、BennetおよびSolomonが報告16したように、HPLCインデックスはTFA:水:アセトニトリルのバッファー系を用いてC18µBondapak®カラムからペプチドを溶出するのに必要なアセトニトリルの割合を予測します。彼らは生体マトリックスからペプチドを単離し、アミノ酸組成に基づいて溶出プロファイルを予測しました。したがって、HPLCインデックス値が高いとC18カラム上での疎水性が高いことが示唆されます。もちろんカラムや移動相が異なる場合にはこの値は変化しますが、この単純な体系からはペプチドの性質に関するある程度の予測的情報が得られます。

非常に一般的な条件下(0.1%ギ酸水溶液および0.1%ギ酸アセトニトリル溶液を用いた50分間で5~50%Bのグラジエント)におけるテストパネルに含まれる4種類のペプチドのクロマトグラフィープロファイルを図8に示します。4種類すべてのモデルペプチドに関して、シャープかつ対称的なピークを持つ全く問題のないクロマトグラムが確認されました。


図8. 標準的条件下におけるテストペプチドの分離



高分子ペプチドや疎水性ペプチドに関しては300Åポアサイズカラムを用いることでクロマトグラフィーが改善するかどうかを検討することが重要です。ペプチドテストパネルに含まれる最大のペプチド(39残基、分子量4,000Da超)では、より大きなポアサイズの充塡剤を使ってもピーク形状にほとんど改善が見られません(図9)。ペプチドの溶出はわずかに早くなり、その差は約1~2%のアセトニトリルに相当します。130Åポアサイズの充塡剤の使用に関しては若干のサイズ制限があります。最も可能性が高いのは約40残基以下です。


図9. 高分子ペプチドの分離に対するポアサイズの影響



HPLCインデックスが113の疎水性ペプチドも130Åと300Åの両方の充塡剤においてシャープかつ対照的なピークとして溶出します(図10)。ペプチド構造(ペプチドが溶液中でどのように折り畳まれているか)も特定の分離に最適なポアサイズの選択に影響を与えます。ペプチド負荷量に明確なルールがないのと同様、個々のペプチドの性質も使用するのに最適なポアサイズの決定に関与します。上記の実験から、C18およびポアサイズ130ÅのXBridge Peptide BEHカラムはペプチド単離の出発点として適切な選択肢となることが示唆されます。


図10. 疎水性ペプチドの分離に対するポアサイズの影響



大スケールでペプチド単離を実施する上での経済的側面と効率の観点からは、粒子径を検討することが重要です。異なる粒子径の3つのカラムで分析した塩基性ペプチドでは分離の一貫性が示されています(図11)。粒子径が大きいとピークが広がり、分離が低下しますが、拡張性のあるBEHカラム充塡剤では粒子径が3.5、5または10µmのいずれであるかにかかわらず化学的選択性が変化しません。大スケール分離では粒子径を大きくすると恩恵が得られ、直径のより大きなカラムにおいて管理可能な圧力限界で流量をさらに上昇させることが可能になります。そしてこれらすべてにより負荷量が改善し、クロマトグラフィー分析回数が減り、時間とリソースが節約されます。


図11. 塩基性ペプチドの分離に対する粒子径の影響



ペプチドには粗混合物からその単離の成功に影響を与える特有の性質がありますが、分取クロマトグラフィーの基本原理17,18を適用できます。ほとんどの場合で逆相カラムにおいて一般的なグラジエント(例えば5~50%Bまたは5~95%B)を用いる標準的なペプチド単離プロトコールを使用できますが、特有の性質を持つペプチドでは純度、負荷量、または収率の要件を満たすために分離法開発が必要になることがあります。分離法は多くの場合、移動相溶媒、モディファイヤー、グラジエントの傾き、温度、pHまたはサンプル導入法を変更することで改善できます。これらの因子はそれぞれ分離、クロマトグラフィーの質、および最終的な単離の成功に影響を与えます。



溶媒の役割

移動相は、弱溶媒、強溶媒およびモディファイヤーという3つの成分で構成されています。逆相クロマトグラフィーでは、弱溶媒はほぼすべての場合で水です。強溶媒の役割を果たすものとしてメタノール、エタノールまたは2-プロパノールを検討することもできますが、一般的にはアセトニトリルがその低い粘性、わずかに高い溶媒強度および低波長UV検出範囲 (185~205nm) における有用性のため溶媒として選択されます19。アセトニトリルでは通常、最良のピーク形状が得られ、簡単に蒸発させることができ、単離や分析の間に進行する可能性のある副反応が少なくなります。良好なUV透過率により、良好なピーク検出のための高いS/N比が得られます。しかしながら、生物学的試験でペプチドを使用したいユーザーはアセトニトリルの使用に反対するかもしれません。エタノールなどのアルコールで置き換えることで、アセトニトリルに伴う可能性のある残留毒性が低下します。生体適合性に関する懸念の他に、プロピルアルコールまたはアセトニトリル:プロピルアルコール混合物は多くの場合、高分子ペプチドや疎水性ペプチドの溶解度を高め、溶液中で形成されることのある凝集体を分散させます。塩基性ペプチドに対する70%2-プロパノール:30%アセトニトリルの影響を図12に示します。メインピークの分離は最も近くで溶出される夾雑物に関して改善され、保持時間はほぼ半分に短縮されています。アルコールを含む移動相に関しては、粘性が高いためカラム温度の上げることが必要になることが一般的です。


図12. 塩基性ペプチドの溶出に対する溶媒の影響



移動相モディファイヤーの役割

ペプチドは正電荷(アミノ末端)および負電荷(カルボキシル末端)の両方を持ち、これらが充塡剤の疎水性表面への親和性を低下させるため、逆相クロマトグラフィーを用いるペプチド単離では移動相に極性モディファイヤーを添加することが必要になります。図13に示すように、側鎖保護基も電荷を持つことがあります。モディファイヤーは弱酸性側鎖や弱塩基性側鎖のイオン化度を変えるためにpHを調節します。モディファイヤーはペプチドとイオン対を形成することもあります。特定のサンプルの分離は、これらのメカニズムを操作することで最適化できる可能性があります。


図13. モディファイヤー無添加の水溶液中における逆相でのペプチドの保持

 


図14. 逆相でのペプチドの保持に対するギ酸の影響



ギ酸は移動相のpHを低下させることによりペプチドの酸性側鎖をプロトン化し、負電荷の一部を除去します(図14)。電荷を持つアミノ酸側鎖の数の減少により、カラムの疎水性表面への相互作用を増大させ、それが分離の向上を促進します。カラム表面に存在するほとんどのシラノールもプロトン化されている可能性がありますが、遊離シラノールは引き続きペプチドと結合できる状態になっています。このようなペプチドとシラノールの相互作用は、クロマトグラムにおけるピークテーリングとして現れます。

最もよく使用されているモディファイヤーであるトリフルオロ酢酸(TFA)では、カラムおよびサンプルとの相互作用のメカニズムが異なります(図15)。pHが低いと酸性ペプチド側鎖がプロトン化され、イオン対形成により塩基性側鎖が中和されて、ピークテーリングの原因となる遊離シラノールへの結合を阻害します。電荷の低減とイオン対形成が組み合わされることで保持が高まり、溶出に高濃度の有機溶媒が必要になります。


図15. 逆相でのペプチドの保持に対するトリフルオロ酢酸の影響

 


図16. ハイブリッドパーティクルカラムを用いる場合の酸性移動相



架橋型エチルハイブリッドパーティクルのカラムを使用することのメリットは、シラノール相互作用を排除できることです(図16)。ベース充塡剤はペプチドとほとんど相互作用しないため、ピークテーリングの低減のためのTFAは不要になります。代わりに良好なピーク形状を維持しながら分離の選択性を変化させるために、ギ酸(FA)またはTFAを使うことができます。図17に示すように、保持の差および溶出順序の変化は精製条件を調整するために使用できます。*印は2回の分離における同じ夾雑物ペプチドを示しており、選択性における多大かつ有用な変化を確認できます。


図17. 塩基性ペプチドに対するモディファイヤーの影響



高pHの役割

ペプチドと架橋型エチルハイブリッドカラム表面との相互作用を変化させるには、pHを上昇させることもできます。重炭酸アンモニウムなどのバッファーを使用することで、高pHにより酸性ペプチド側鎖が脱プロトン化され、イオン化されます(図18)。重炭酸アンモニウムは塩基性ペプチド側鎖の脱プロトン化と中和も行い、それによりペプチドの電荷が低減し、カラムの疎水性表面へのペプチドの相互作用が増大します。塩基性ペプチド側鎖は少数の残留シラノールには結合せず、ピークテーリングが減少します。これらのメリットに加えて、重炭酸アンモニウムは揮発性があり、精製後のペプチド産物からの除去が比較的簡単です。0.1%のアンモニア水も移動相のpHを上げるために使用することができ、回収フラクションから簡単に蒸発させられます。


図18. ペプチドの逆相保持に対するpHの影響



極端なpHは分離の選択性を変化させます(図19および20)。酸性ペプチド(図19)は低pHでは逆相充塡剤での保持が高まりますが、これはすべての負電荷が中和され、カラムの疎水性表面と強力に相互作用するためです。逆に高pHでは、カラム充塡剤への強力な付着を阻害する負電荷が多いため、ペプチドの保持時間が短縮します。この例では、ピーク形状は影響を受けていませんが、溶出順序の変化を分析法開発や、直交性のある戦略を用いたペプチドの特性解析に利用することができます。塩基性ペプチド(図20)では、予測どおり極端なpHにおいて逆の挙動が確認されます。高pHでは、ペプチドの塩基性残基が脱プロトン化され、非イオン化されます。ペプチドがカラムと強力に相互作用するため、ペプチドをカラムから溶出するのに有機溶媒移動相の割合を高めることが必要になります。pH10では分離能の改善を伴って選択性が変化することから、より高い純度のペプチドを単離する最終目標のためには高pHがより魅力的になります。


図19. 酸性ペプチド (pI3.3) に対する移動相pHの影響

 


図20. 塩基性ペプチド (pI10.3) に対する移動相pHの影響



注意:pHが低い移動相も高い移動相もハイブリッドパーティクルテクノロジーカラムに対応していますが、極端なpHにおける分析法条件はシリカベースのカラム充塡剤で使用してはいけません。過度な低pHは結合相を切断します。高pHはシリカパーティクルカラム基材を破壊します。特定のシリカベースカラムについて製造業者の推奨するpH範囲限界を必ず確認してください。



温度の役割

温度管理は、確実で再現性のある分離を実施するためにクロマトグラフィーで最もよく使用されています。単離および精製では、その他の複数の理由から温度管理が重要になります。溶解度の限られた疎水性ペプチドは精製が最も難しいサンプルの1例です。分離温度を上昇させることで疎水性ペプチドの溶解度が高まり、一般的にはペプチドのピーク形状が改善します。これが最終的に純度および分離の回収率を高め、単離がより迅速で効率的になります。温度の変化により選択性が変化するため、カラムの加熱は特定サンプルの分離を最適化するための非常に便利なツールです。さらに、温度が上昇すると移動相の粘性および合計システム圧が低下します。システム圧が低下すると、システム、フィッティングおよびカラムへの負担が軽減し、最終的には操作の堅牢性が向上します。

温度管理は分析クロマトグラフィーでは日常的に実施されていますが、2つの理由から温度は分取スケールのクロマトグラフィーを調整するためのパラメーターとしてはほとんど使用されていません。まず、直径の大きなカラムは外部から均一に加熱できません。次に、高流量分離は実際には流入する溶媒の温度で実施されます。電気ブランケットおよびカラムオーブンは、小スケールの分離には十分であるものの、大きなカラムを均一に加熱することはできません20。カラム長および直径にわたり温度グラジエントが発生し、クロマトグラフィーに悪影響を与えます。

効果的なカラムの加熱は、溶媒プレヒーターループをカラムヘッドに挿入して、ループとカラムを目的の温度に保ったウォーターバスに完全に沈めることで達成できます(図21)。プレヒーターループを連続的に流れる溶媒はカラムを内部から平衡化し、ウォーターバスはカラム外部の環境を安定化させます。溶媒プレヒーターループは内径の狭いチューブで構成されているため、ループが原因のバンド広がりの量は無視できます。流入するサンプルもカラムヘッドへ吸着することで再度集まります。


図21. 大型カラムの温度管理のためのセットアップ



ペプチド分離に温度管理を用いる影響を、テストパネルペプチドの塩基性ペプチド(図22)および酸性ペプチド(図23)の2つについて示します。これらの例(赤色で強調)では、塩基性ペプチドのサンプル成分は60℃の方で良好に分離されていますが、酸性ペプチド粗混合物成分は40℃の方が良好に分離されています。しかしながら、酸性または塩基性のペプチドに最適な温度を予測することはほぼ不可能であり、個々の配列に特有の性質に左右されるため、これらの所見は全くの偶然です。


図22. 塩基性ペプチドに対する温度の影響

 


図23. 酸性ペプチドに対する温度の影響



溶媒、移動相モディファイヤー、pHおよび温度の大幅な変更はペプチド分離に影響を及ぼすため、クロマトグラフィーを最適化するための分析法開発ツールとしてこれらのパラメーターのいずれか1つを単独または他のパラメーターと併せて使用することができます。XBridge Peptide BEHカラムテクノロジーなどの安定なハイブリッドパーティクルが充塡されたカラムを1つ選択することで、ペプチド単離に必要なカラム数を減らし、スクリーニング時間を短縮して精製プロセスを単純化できます。図24の塩基性ペプチドのクロマトグラフィーは、小さな変化が分離に及ぼす影響を示しています。特有の性質を持つこれらのペプチドの場合、分離を最適化するには他のカラムケミストリーが役に立つ可能性があります。


図24. XBridge Peptide BEH C18カラムにおけるさまざまな条件下での塩基性ペプチドの分離



グラジエントのフォーカス

単離および精製のためのクロマトグラフィー分離は、分析分離と同じ物理的原理および化学的原理により決定されます。しかしながら分取実験では、化合物は高い重量負荷量で、多くの場合大きなカラム上で単離されるため、回収産物の純度および回収率を高めるためには高い分離能が必要です。緩いグラジエントの形成は分離を向上するための最初のアプローチとしては適していますが、分離全体でグラジエントの傾きを変更するとピークが広がり、合計実行時間が長くなります。セグメントグラジエントおよびフォーカスグラジエントでは、合計実行時間を延長せずに、高い分解能が必要な分離の一部のみでグラジエントの傾きを減らします(図25および26)。


図25. リニアグラジエント、セグメントグラジエントおよびフォーカスグラジエントのプロファイル

 


図26. リニアグラジエントおよびフォーカスグラジエントでのペプチド溶出



リニアグラジエントは、規定の時間にわたり低い有機溶媒濃度から高い有機溶媒濃度へと進行し(5~50%Bまたは5~95%B)、多くの場合、サンプルスクリーニングで使用されます。サンプル成分間の分離が良好で、実行時間が適度に短い場合には、分取クロマトグラフィーでも採用されることがあります。セグメントグラジエントでは、分析法の傾きが緩くフォーカスされた部分の前後で同じ傾きを維持して、これらの分離部分におけるクロマトグラフィープロファイルを保持します。クロマトグラムの緩くフォーカスされた部分ではグラジエントの傾きが少ないため、近くで溶出される不純物を目的のピークから効果的に離します。フォーカスグラジエントは1つの産物だけをターゲットとすることを目的としています。溶媒強度は、サンプル注入に使用される低濃度から産物ピークの予測溶出点の約5%下まで急激に上昇します。一般的に、クロマトグラムの緩い部分は元の分離の傾きの約5分の1で産物ピークの溶出が予測される濃度の約3%上まで進みます。グラジエントの緩い部分が完了したら、有機移動相の割合を急激に上昇させてカラムから残留夾雑物を洗浄します。ペプチド混合物の複雑性のため、多くの場合、最適な分解能はカラム容量あたり0.25%~0.33%の変化の付近であり、これは低分子や複雑でないペプチドサンプルの場合に使用される元のスクリーニンググラジエント傾きの5分の1という一般的な傾きよりもわずかに緩くなっています。

システム容量はフォーカスグラジエントの設計で使用され21、分析スケールから分取スケールへの基本的なスケーリングでも使用されます。システム容量は、ディレイボリュームやデュエルボリュームとも呼ばれ22、グラジエントが形成される点からカラムヘッドまでの容量と定義され、HPLC流路のすべてのコンポーネント、ポンプヘッド、パルスダンパー、ミキサー、注入ループおよびチューブが含まれます。分析スケールと分取スケールで傾きが保たれる幾何学的スケーリングでは、システム容量によりグラジエント開始前にアイソクラティックホールドが必要になります。このホールドは、小スケールではカラム容量の数倍、大スケールではカラム容量の数分の1になります。最初の条件においてプログラムされたアイソクラティックホールドは分析スケールと分取スケールの間のシステム容量の差を補正するために使用されるため、実際のグラジエントが全く同じ時間に開始するようにできます。

移動相A溶媒は無添加で移動相B溶媒には適切なUV吸収剤(2mL/Lのアセトン)が添加されているステップグラジエント(表3)を用いることで、図27および図28の手順および計算によりシステム容量を容易に算出することができます。

分析

 

分取

Time

流量

%A

%B

 

Time

流量

%A

%B

0.00

1.46

100

0

 

0.00

25

100

0

5.00

1.46

100

0

 

5.00

25

100

0

5.01

1.46

0

100

 

5.01

25

0

100

10.00

1.46

0

100

 

10.00

25

0

100

 

表3. 分析および分取システムの容量決定のためのステップグラジエント


図28. システム容量の算出



システム容量、カラム容量およびペプチドを溶出させる強溶媒の割合を推定し、これらの推定値からセグメントグラジエントまたはフォーカスグラジエントを作成して時間を節約することは可能ですが、実験的にシステム容量を決定し、得られた値を後の実験のために記録しておく価値はあります。システム容量はHPLCの接続に変更が加えられない限り変化せず、分析法の流量はシステム容量を測定するのに使用される流量と同じです。システム容量が実験的に決定されると、システムへの変更(注入ループのサイズ変更など)は容易に算出でき、さらに容量を測定する必要はありません。システム容量が決定したら、フォーカスグラジエント計算で利用できます。



フォーカスグラジエントの設計

フォーカスグラジエントは通常、粗サンプル混合物の分析に基づいて設計されますが、その手順は最初の分取分析ですでに使用したグラジエントの修正と同じです。以下の式を使うことで、フォーカスグラジエントの作成は容易になります。以下のグラジエントに基づいてフォーカスグラジエントが設計されるとします:

 

4.6×100mmカラム、システム容量1.0mL、カラム容量1.097mL*

ピーク保持時間=7.76分

時間
(分)

流量
(mL/min)

溶媒

%A

%B

0.00

1.46

95

5

10.00

1.46

50

50

11.00

1.46

5

95

13.00

1.46

5

95

14.00

1.46

95

5

20.00

1.46

95

5

 

*カラム容量はウェブでご利用いただけるカリキュレーターまたはシリンダーの容量を用いて決定できます:V=πr2h。カラム充塡剤を考慮するために液量を減らすカリキュレーターもあるため、選択する分析法に応じて値はわずかに異なります。すべての計算で同じ分析法が使用されている限り、クロマトグラフィーは影響を受けません。


図29. 粗合成ペプチドのHPLC分析



図29はこのグラジエントで分析された粗合成ペプチドのクロマトグラムです。



グラジエントが形成される点から検出器までの間のオフセットを計算します
オフセット=システム容量+カラム容量
例:
オフセット=1.0mL+1.097mL
オフセット=2.097mL



溶媒が検出器に到達する時間を計算します
検出器までの時間=オフセット(mL)/流量(mL/min)
例:
検出器までの時間=2.097mL/1.46mL/min
検出器までの時間=1.43分



ピーク溶出濃度が形成された時間を計算します
溶出濃度の時間=
ピーク保持時間–検出器までの時間–グラジエントホールド
例:
溶出濃度の時間=7.76分–1.43分–0.00分
溶出濃度の時間=6.33分



ピーク溶出濃度(%)を計算します
溶出濃度(%)=
溶出濃度の時間/長さ(パイロット)×変化(パイロット)/グラジエントセグメント
+最初のパイロットグラジエント(%)/グラジエントセグメント
例:
%溶出濃度=6.33分/10分×45%+5%
%溶出濃度=33.48%
注記:割合に関するすべての計算では、絶対値のみを使用します(例えば0.45×6.33ではなく45×6.33分)。



パイロットグラジエントの傾きをカラム容量あたりの変化(%)で計算します
カラム容積数(CV)=
1CV×流量(mL)×グラジエントセグメント時間×mL min
例:
カラム容積数=1CV×1.46mL×10分/1.097mL min
カラム容積数=13.3CV
例:
パイロットグラジエントの傾き = パイロットグラジエントの変化率(%)
パイロットグラジエントの傾き = 45%/13.3CV = 3.38%/CV



フォーカスグラジエントの傾きをカラム容量あたりの変化(%)で計算します。
パイロットグラジエントの傾きの5分の1を使います。
フォーカスグラジエントの傾き(%/CV)=1/5×パイロットグラジエントの傾き
例:
フォーカスグラジエントの傾き=1×3.38%/5CV
フォーカスグラジエントの傾き=0.67%/CV



フォーカスグラジエントのセグメントを推定溶出割合の5%下から3~5%上までで作成します。ピークはアセトニトリル33.5%で溶出します。
緩いグラジエントではアセトニトリルを28%から36%にする必要があります。フォーカスグラジエントセグメントの時間を計算します。

フォーカスグラジエントの傾き=1×3.38%/5CV
フォーカスグラジエントの傾き=0.67%/CV
例:
フォーカスグラジエントセグメントの時間=
変化率(%)×フォーカスグラジエントの傾き×カラム容量×流量(mL)
例:
フォーカスグラジエントセグメントの時間=
8%×1CV/0.67%×1.097mL/1CV×1min/1.46mL
フォーカスグラジエントセグメントの時間=9.0分



パイロット分析の最初の条件において開始し、ピークの溶出濃度(%)の5%下まで直ちに上昇するフォーカスグラジエントを作成します。

時間
(分)

流量
(mL/min)

溶媒

%A

%B

0.00

1.46

95

5

1.00

1.46

72

28

2.00

1.46

72

28

11.00

1.46

64

36

11.50

1.46

5

95

13.50

1.46

5

95

14.00

1.46

95

5

20.00

1.46

95

5

図30の上のクロマトグラムはフォーカスグラジエントを用いて分析した粗ペプチドを示しています。近くで溶出される不純物は良好に分離されていますが、最初の傾きの約10分の1まで傾きを減らすと(下のクロマトグラム)不純物の最高の分離が得られました。この例では、傾きをカラム容量あたり0.25~0.33%の変化まで減らすことで複雑なペプチド混合物の分離にどのような影響を与えることができるかが明確に示されています。メインペプチドピークの保持時間は約7分、つまり元のスクリーニンググラジエントとほぼ同じ時間に保たれていることに留意してください。したがって、グラジエントのフォーカスにより実行時間を延長することなく分離能が向上しました。グラジエント全体の合計実行時間は長くなりますが、分析の早期終了などのその他の方法を使用して大スケールにおける単離プロセスを高速化することができます。このペプチドは最終的には、緩いフォーカスグラジエントの幾何学的スケーリングにより単離されました23


図30. 粗合成ペプチドプロファイルに対するグラジエントのフォーカスの影響



サンプル導入

ペプチドの組成と配列は溶解度に直接影響を与えるため、合成ペプチドを溶解させるユニバーサルな溶媒や方法はありません。有用な溶媒の選択肢としては、0.1~2%のトリフルオロ酢酸、ギ酸または酢酸を添加した水、ジメチルスルホキシド、ヘキサフルオロイソプロパノール、6~12MグアニジンHCl、ジメチルホルムアミド、0.1%アンモニア水および10mM重炭酸アンモニウムなどがあります。さまざまな種類のペプチドの溶解に関する実践ガイドが製造業者により提供される場合もあります24。ペプチドの溶解では多くの場合、強溶媒にサンプルが比較的大量に得られます。

従来の分取クロマトグラフィーシステム(図31)では、強溶媒で希釈したサンプルを大量に注入することでクロマトグラムにひずみが発生することが多く、単離できる産物の量が減少します。負荷量が増えると、近くで溶出される不純物の分離能が失われます。サンプルのループ側またはカラムヘッド側における水系移動相の存在が原因のサンプルの析出は、システムの堅牢性を低下させ、カラム寿命を短縮させます。


図31. 標準的なグラジエントシステムの接続模式図



従来の分離では、DMSOまたは一部その他の強溶媒中でカラムに導入されたサンプルは直ちにカラムを通過し始め、サンプル分子もそれと共に運ばれていきます(図32)。強溶媒がカラム内で希釈されるまで、サンプルは保持されません。残念なことに、サンプルバンドがカラムに保持されるまでに、カラムバンドはすでに広がっており、カラムベッド上でお互いに入り込んでいます。サンプル成分がカラムから溶出すると、バンドは明確でなくなり、各成分の純度は低くなります。


図32. サンプル溶媒として DMSO を使用した場合の標準的な分取分離



別の注入法、At-ColumnDilution25,26 (ACD)では、大量の強溶媒の注入が可能であり、サンプル溶解度、カラム負荷量および分離能が同時に改善されます。ACDを用いる場合、クロマトグラフィーシステムは強溶媒中のサンプルがカラムヘッドで水系移動相により希釈されるように接続されます(図33)。サンプルは非常に迅速に混合され、カラムに吸着されます。移動速度が非常に速いため、析出は発生しません。強溶媒は、サンプルの溶出が開始する前に、直ちにカラムから流され始めます。グラジエントが開始されると、サンプル成分は幅の狭い少量のシャープに分離されたバンドとして溶出します(図34)。サンプル成分のピーク間の分離が改善することで、サンプル量を増やすことができ、それにより単離に必要な注入回数を少なくすることができます。実際、At-Column-Dilutionでは多くの場合、カラム負荷量を3倍から5倍に増やすことが可能です(図42)。サンプルはループやカラムヘッドではほとんど析出しないため、At-Column-Dilutionによりシステムの堅牢性が改善します。高圧によるシステム停止の発生率が低下し、カラム寿命が延びます。


図33. At-Column Dilutionが可能なシステムの接続模式図

 


図34.サンプル溶媒としてDMSOを使用した場合のAt-Column Dilution分取分離



実践的なペプチド単離例

分取クロマトグラフィーの原理は、ペプチドを含む、あらゆる種類の分子に適用されます。以下の例では、研究環境におけるペプチド単離のための一般的なワークフローが説明されており、上記の分析法最適化のための因子が適用されています。ラボのプロセス要件に応じて手順は修正できます。

この例で使用されたペプチドは、3つの塩基性残基、2つの酸性残基、8つの非極性残基、および4つの極性残基を含む17個のアミノ酸で構成されていました。サンプルはボルテックスと超音波を用いてジメチルスルホキシドに溶解し、0.45µm GHP Acrodiscシリンジフィルターでろ過しました。このペプチドのモノアイソトピック質量は1,772.9Daで、以下の荷電状態となっていました:


図35. TFAおよびギ酸をモディファイヤーとして用いた場合の粗ペプチド分析



粗ペプチドのプロファイル

粗ペプチドサンプルは移動相に2種類のモディファイヤー(0.1%ギ酸および0.1%トリフルオロ酢酸)を添加して分析し、どのモディファイヤーで良好な分離が実現するかを決定しました。移動相の有機成分としてはアセトニトリルが最もよく使用されますが、この例では説明のために2-プロパノールを使用しました。結果を図35に示します。この図では、ギ酸(CおよびD)と比べるとTFAモディファイヤー(AおよびB)において夾雑物が十分に分離された産物のよりシャープなピークが得られました(すべて40℃)。分離は25℃および60℃でも評価されましたが、サンプル成分ピークの最良のピーク形状と分離能が示されたのは40℃でした(図36)。わずかな温度上昇でも、移動相の有機成分である2-プロパノールに起因するシステム背圧が低減されました。


図36. 3つの温度における粗ペプチド分離の評価



グラジエントのフォーカス

粗ペプチドの分析のために移動相モディファイヤーおよび温度を最適化した後、グラジエントのフォーカスを用いて近くに溶出される夾雑物ピークの分離能を改善しました。4.6×50mmのカラムの容量は0.698mLで、システム容量は0.77mLと測定されました。粗ペプチド分析に使用されたHPLC法を以下に示します:

時間
(分)

流量
(mL/min)

溶媒

%A

%B

0.00

1.46

100

0

0.50

1.46

100

0

5.28

1.46

70

30

6.00

1.46

10

90

7.00

1.46

10

90

7.50

1.46

100

0

10.50

1.46

100

0

 

グラジエントが形成される点から検出器までの間のオフセットを計算します
オフセット=システム容量+カラム容量
例:
オフセット=0.77mL+0.698mL
オフセット=1.468mL



溶媒が検出器に到達する時間を計算します
検出器までの距離=オフセット(mL)/流量(mL/min)
例:
検出器までの時間=1.468mL/1.46mL/min
検出器までの時間=1.00min



ピーク溶出濃度が形成された時間を計算します
溶出濃度の時間=ピーク保持時間–検出器までの時間–グラジエントホールド
例:
溶出濃度の時間=3.23分–1.00分–0.50分
溶出濃度の時間=1.73分



ピーク溶出濃度 (%)を計算します
溶出濃度 (%)=
溶出濃度の時間/長さ(パイロット)× 変化(パイロット)/グラジエントセグメント+
最初のパイロットグラジエント(%)/グラジエントセグメント
例:
%溶出濃度=1.73分×30%+0%/4.78分
%溶出濃度=10.85%

注記:割合に関するすべての計算では、絶対値のみを使用します(例えば0.30×1.73ではなく30×1.73分)。



パイロットグラジエントの傾きをカラム容量あたりの変化 (%)で計算します
カラム容量値 (CV)=1CV×流量 (mL)×グラジエントセグメント時間×mLmin
例:
カラム容量=1CV×1.46mL×4.78分/0.698mLmin
カラム容量=9.99CV

パイロットグラジエントの傾き=パイロットグラジエントの変化(%)/カラム容量
例:
パイロットグラジエントの傾き=30%/9.99CV=3.0%/CV



フォーカスグラジエントの傾きをカラム容量あたりの変化 (%)で計算します。パイロットグラジエントの傾きの5分の1を使います。
フォーカスグラジエントの傾き(%/CV)=1/5×パイロットグラジエントの傾き
例:
フォーカスグラジエントの傾き=1×3.0%/5CV
フォーカスグラジエントの傾き=0.6%/CV



フォーカスグラジエントのセグメントを推定溶出割合の5%下から3~5%上までで作成します。ピークはアセトニトリル10.85%で溶出し、したがって、緩いグラジエントは6.37分間で5~13%のアセトニトリルから分析されるようにデザインしました。
フォーカスグラジエントセグメントの時間=
変化率(%)×フォーカスグラジエントの傾き×カラム容量×流量(mL)
例:
フォーカスグラジエントセグメントの時間=
8%/0.6%×0.698mL/1CV×1min/1.46mLフォーカスグラジエントセグメントの時間=6.37分



時間
(分)

流量
(mL/min)

溶媒

%A

%B

0.00

1.46

100

0

0.50

1.46

95

5

6.87

1.46

87

13

7.00

1.46

10

90

8.00

1.46

10

90

8.10

1.46

100

0

11.10

1.46

100

0

 

フォーカスグラジエントを作成した後、粗ペプチドサンプルの分離を評価しました(図37A)。小さな不純物ピークが産物ピークの直前に溶出されましたが、あまりはっきりとは認識できませんでした。負荷量を2倍にすると(図37B、72µg)、この不純物はよりはっきりと確認できるようになりましたが、メインピークは比較的高い純度を保っていました。元の負荷量36µgの4倍では、この不純物がより顕著になり、この負荷量を分取用の大きなカラムへと幾何学的にスケーリングした場合に高純度産物が得られる確率を低下させる可能性が高くなるクロマトグラムが得られました(図37C)。分析カラムへの256µgの負荷量では、この不純物はメインピークと完全に共溶出しました(図37D)。


図37. 分析カラムでフォーカスグラジエントを用いた負荷量試験



分取へのスケールアップ

分析カラムへの負荷量72µgが分取スケールへの幾何学的スケーリングで選択されました。この控えめな負荷量では、最小注入量のスケーリングよりも少ない注入回数で適量の高純度材料が得られる確率が高くなります。
質量負荷量はカラム容量と比例しており、Prepカリキュレーターを使用するか、以下の式でM2を算出して決定します:

M1はカラム1の質量負荷量

M2はカラム2の質量負荷量

L1はカラム1の長さ、d1はカラム1の直径

L2はカラム2の長さ、d2はカラム2の直径

 

M2=M1×L2/L1×d22/d12

M2=72µg×100mm/50mm×19mm2/4.6mm2

M2=72µg×36,100/1058

M2=2456µgまたは2.4mg

 

粗ペプチド44.03mgを5mLのDMSOに溶解し、ろ過しました(濃度8.80mg/mL)。4.6×50mmの分析カラムへの72µgの負荷量の19×100mmの分取カラムへの幾何学的スケーリングでは、上で計算されたように2.4mgの注入が必要でした。粗ペプチドの濃度8.80mg/mLでは、注入量は以下のように算出されました:

 

注入量=2.4mg×1mL/8.80mg/mL
注入量=0.272mLまたは272µL

分析スケールのフォーカスグラジエントを分取スケールにスケーリングし、両スケールでのシステム容量を考慮しました(表4)。このデュエルボリュームは分取システムにしては大きく見えますが、これにはカラム加熱用の5mLプレヒーターループと2mLの注入ループが含まれています。これらのシステム容量への寄与を考慮すると、残りのシステムチューブに起因する2.75mLは非常に妥当でした。生成されたピークは時間に基づいて回収しました(図38)。

分析

 

分取

Time

流量

%A

%B

 

Time

流量

%A

%B

0.00

1.46

100

0

 

0.00

25

100

0

0.50

1.46

95

5

 

0.66

25

100

0

6.87

1.46

87

13

 

1.66

25

95

5

7.00

1.46

10

90

 

14.40

25

87

13

8.00

1.46

10

90

 

14.66

25

10

90

8.10

1.46

100

0

 

16.66

25

10

90

11.10

1.46

100

0

 

16.86

25

100

0

 

 

 

 

 

22.86

25

100

0

カラム:4.6×50mm
システムデュエルボリューム:0.77mL
カラム容量:0.698mL
システムデュエルボリューム(/カラム容量):1.10

 

カラム:19×100mm
システムデュエルボリューム:9.75mL
カラム容量:23.804mL
システムデュエルボリューム(/カラム容量):0.41
グラジエントオフセット:0.66

表4. グラジエントスケーリング

 


図38. 分取スケールにおける時間指定回収



フラクション分析

ペプチド産物ピークは2つのフラクションに回収されました。これらの2つのフラクションは、図39に示すように非常に高純度でした。各フラクション分析とブランクにおいて約2.25分時点で溶出された幅の広いピークは、移動相に含まれるイオン対を形成する低濃度のトリフルオロ酢酸モディファイヤーに起因した可能性が高いと考えられました27。一般に、TFAの疎水性成分はカラム内に蓄積し、グラジエント中に溶出します。カラムなしの別のブランク(図40)ではクロマトグラムにピークが確認されなかったことから、この夾雑物はインジェクターやバルブなどのシステムコンポーネント由来ではありませんでした。


図39. フラクション分析



At-Column-Dilution

ペプチドが高純度で単離されたとしても、注入あたりのサンプル負荷量を増やすことでプロセス効率が高まり、次の実験のために必要な産物量を精製するのに必要なクロマトグラフィー分析の回数が減ります。すでに説明したように、At-ColumnDilutionはシンプルなシステム接続の変更により、より多くのサンプル負荷量を非常に効果的に管理します(図33)。

At-ColumnDilutionを用いたペプチド単離のカラム容量あたりの%Bの変化率は幾何学的にスケーリングした従来の分離で使用される分析法と同じでしたが、プログラムされたグラジエントテーブルをサンプルロード用補助ポンプで導入された有機溶媒の寄与を含めるように修正しました(表5)。


図40. TFA中の疎水性成分



従来の注入法

At-Column Dilution 注入法

Time

流量

%A

%B

Time

流量

%A

%B

0.00

25

100

0

0.00

23.75

100

0

0.66

25

100

0

2.26

23.75

100

0

1.66

25

95

5

3.26

23.75

100

0

14.40

25

87

13

16.00

23.75

92

8

14.66

25

10

90

16.26

23.75

15

85

16.66

25

10

90

18.26

23.75

15

85

16.86

25

100

0

18.46

23.75

100

0

22.86

25

100

0

24.46

23.75

100

0

グラジエント時間:14.40-1.66=12.74分
グラジエント体積:12.74分×25mL/min=318.5mL
カラム容量:318.5mL×1CV/23.804mL=13.38CV
グラジエントの傾き:8%/13.38CV=0.6%/CV

グラジエント時間:16.00-3.26=12.74分
グラジエント体積:12.74分×25mL/min=318.5mL
カラム容量:318.5mL×1CV/23.804mL=13.38CV
グラジエントの傾き:8%/13.38CV=0.6%/CV

グラジエント中のロード用ポンプ流量=1.25mL/min
1.25mL/min=全流量の5%
グラジエント法の全流量=25mL/min

表5. グラジエントの比較:従来法とAt-Column Dilution法

At-Column Dilutionポンプは有機溶媒を直接サンプルループに導入し、合計流量の5%で送液するようにプログラムされます。したがって、クロマトグラフィーポンプの流量は従来の分析法の25mL/minからAt-Column Dilution法の23.75mL/minへと低下します。合計流量は25mL/min(23.75mL/min+1.25mL/min)のままであることに留意してください。At-Column Dilutionポンプはインジェクターに直接接続されているため、サンプルをループからカラムに完全に移動させるのに十分な長さの最初の条件でのホールドステップがグラジエントの開始時に挿入されます。このシステムは2mLのループで構成されており、元のホールドステップは0.66分でした。At-Column Dilution法でのホールドステップの計算は以下のようになります:

2mLループ×(1min/1.25mL)=1.6分

1.60分+0.66分のホールドステップ(元の分取法)=2.26分のホールドステップ(At-Column Dilution法)。

グラジエントのAおよびBの割合もAt-Column Dilutionポンプの寄与を反映するために修正します。フォーカスグラジエントは5%Bで開始し、13%まで進みます。合計流量の5%がAt-Column Dilutionポンプによりイソプロパノールの一定流量1.25mL/minで送液されるため、At-Column Dilution法におけるBの割合はそれぞれ0%および8%Bとプログラムされます。At-ColumnDilution法は少し違う方法でプログラムされますが、実際のグラジエントは従来の分析法と同一です。このペプチドはこのように低いBの割合で溶出するため、5%Bになっている実際の時間はAt-Column Dilution法では長くなり、従来の分取分析法において0%Bから5%Bへと変化するのにかかる時間がAt-Column Dilution法ではホールド時間に組み入れられます。本書をお読みの皆様に明確に示すために、At-Column Dilution法では別々のラインでこれらの2つのステップをプログラムします。At-Column Dilutionポンプで送液される5%Bの相当分としてBの割合を低下させるため、元の従来の注入法と同じグラジエントを保持するにはAの割合を必ず5%増やさなければなりません。クロマトグラフィーシステムの注入シーケンスに洗浄ステップが含まれる場合は、すべての洗浄ラインがプライミングされ、洗浄用強溶媒で満たされていることを確認してください。

幾何学的にスケーリングした大スケールの単離は40℃で実施したため、At-Column Dilutionを用いる注入でもこの温度を保ちました。溶媒プレヒーターループは、水性溶媒流のTeeの直前に挿入しました(図41)。


図41. At-Column Dilutionおよび温度管理を実施する場合のサンプルのロード



次に、溶媒プレヒーターループ、Teeおよびカラムをウォーターバスに沈めました。グラジエント分離を開始する前に、圧力を安定させましたが、これはシステム平衡に達したことを意味します。ペプチド2.4mgが従来の接続構成を用いて注入できたサンプル最大量でしたが、At-Column Dilution構成のシステムではその5倍量である12mg(1.36mL)をカラムに導入しました(図42および43)。フラクションは時間に基づいて回収し、その後、元の0~30%Bのスクリーニング法を用いて分析しました。これらのフラクションでは高い純度が確認され、従来の注入法を用いた分取で回収されたフラクションと同等でした(図44)。


図42. 従来のサンプル負荷量とAt-Column Dilutionのサンプル負荷量の比較

 


図43. At-Column Dilutionを用いた分取

 


図44. At-Column Dilutionを用いた単離からのフラクション分析



疎水性ペプチドのための特別な考察

12の非極性アミノ酸残基および3つの極性無電荷アミノ酸残基で構成される疎水性ペプチドをジメチルスルホキシドに溶解しました。以下の分取用フォーカスグラジエントを、従来の分析用に接続されたクロマトグラフィーシステムにおいて19×100mmカラムでの単離に使用しました。このペプチドは極端な疎水性を持っていたため、流量を減らし28、サンプル負荷量を減らし、温度を60℃にする必要がありました。

時間
(分)

流量
(mL/min)

溶媒

%A

%B

0.00

16.30

100

0

3.10

16.30

100

0

4.10

16.30

51.40

48.6

33.10

16.30

46.40

53.6

33.30

16.30

5

95

35.30

16.30

5

95

35.50

16.30

100

0

41.10

16.30

100

0

このペプチドはAt-Column Dilutionの使用に適した候補ですが、カラムへの質量負荷量を増やすことで析出のリスクが発生します。ペプチドは約50%のアセトニトリルで溶出するため、このサンプルを必要な溶出強度をかなり下回る5%B(前の例と同じ)でロードすると、カラムヘッドで希釈されるためペプチドが析出しやすくなります。ローディングステップにおいてクロマトグラフィーポンプから送られる有機溶媒の割合を高めることで、析出の問題が発生する可能性が低下します。一般的に、極端に疎水性の化合物の場合、化合物溶出が予測される割合の20~25%下である有機溶媒の初期割合をグラジエント法で用いることで、At-Column Dilution法のメリットを活かしながらサンプル析出を予防します。以下の修正したAt-Column Dilutionグラジエントを用いて5倍量のサンプルを19×100mmカラムにロードしました(図45)。



時間
(分)

流量
(mL/min)

溶媒

%A

%B

0.00

15.50

81.40

18.60

9.20

15.50

81.40

18.60

10.20

15.50

56.40

43.60

39.20

15.50

51.40

48.60

39.40

15.50

5

95

41.40

15.50

5

95

41.60

15.50

81.40

18.60

47.20

15.50

81.40

18.60

 

グラジエントは48%B(43.6%B+At-Column Dilutionポンプからの5%B)で開始し、カラム容量あたり0.49%の変化の傾きで29分に53%アセトニトリルで終了しました。これは従来の注入で使用されるグラジエント変化率と同じです。At-Column Dilutionポンプは100%アセトニトリル中のペプチドサンプルを5mLループからTeeに送り、そこで初期条件23.6%B(18.6%B+At-Column Dilutionポンプからの5%B)のクロマトグラフィーポンプの移動相と合流させました。分析法の開始時の9.2分間のホールドにより、サンプルは完全にカラムにロードされました。At-Column Dilutionポンプは一定流量0.8mL/minで送液しました。この流量 は合計流量16.3mL/minの5%でした。


図45. 疎水性ペプチドサンプルの負荷量の比較



カラムの洗浄

低分子の分離に使用されるか高分子の分離に使用されるかにかかわらず、カラムは定期的に、洗浄する必要があります。高い背圧、高いクロマトグラフィーバックグラウンドおよびサンプルが原因ではない外来ピークはすべて、カラムの洗浄が必要であることを示しています。

カラム内での汚染物質の蓄積を予防することがカラムの寿命を延ばす最良の方法です。すべてのサンプルを注入前にろ過することが推奨されます。カラムの前にインラインフィルターやガードカラムを追加すると、微粒子やその他の不要な混合成分を捕捉する役に立ちます。各分離の後にカラム容量の2~3倍量の高濃度の有機溶媒でカラムを洗浄することは、不要な汚染物質を系統的に除去するのに有用です。最後に、At-Column Dilutionはサンプルを溶液中に溶解した状態に保ち、高圧によるシステムの停止を予防し、最終的な行き先がフラクション回収チューブなのか廃液容器なのかにかかわらずサンプル成分を精製システムに効率的に通過させます。

突然発生した高い背圧は、サンプルループ、チューブ、カラムまたは検出器フローセルなどのシステム内のどこかにおけるサンプル析出に起因する可能性があります。クロマトグラフィーシステムの接続では、HPLCフィッティングを廃液ラインから流れと反対にポンプに向かって系統的に緩めていくことで、高圧の原因を明確に特定します。背圧が徐々に上昇するのは、複数回の注入後のカラム内の不純物の蓄積の結果であると考えられ、さまざまな方法で改善することができます。高温で高速グラジエントを繰り返し実行したり、カラムを高濃度の有機溶媒で長時間洗浄したり、DMSOや1~10%のギ酸のような「洗浄用溶媒」を注入したりすることで、カラム内の不要な汚染物質を除去することができます(図46)。


図46. カラムの洗浄



最終製品に混入しアレルギー反応を引き起こす可能性のある内毒素多糖をカラムから除去する脱パイロジェン29では、一般に1Mの水酸化ナトリウムでの1時間以上にわたる強力な洗浄が必要となります。この手順は現在のカラムとは適合性がありません。

 

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