実践的アプローチ ペプチド単離

はじめに

ペプチドは、新しい医薬品候補の開発において独自の役割を果たしており、従来の低分子医薬品と高分子のバイオ医薬品との間で特殊な地位を占めています。ペプチドは、低分子と比べるとヒトにおける有効性、安全性、および許容性が高く、タンパク質ベースのバイオ医薬品よりも製造の複雑さとコストが低いため、数多くの医学的状態をターゲットとする潜在的な医薬品候補1としてますます魅力的なものとなっています1,2。合成ペプチドは細胞基質間の構造活性相関を調べるのに使用されたり、それ自体が医薬品として有効性を持っていたりします。ペプチドが固相合成3 や液相合成により段階的に作製されているか、天然物から単離されているかにかかわらず、ほぼすべての粗ペプチド混合物は複雑で、精製が必要です。合成反応を綿密に制御しても、不純物の生成は不可避であり、そのような不純物としては欠損型、切断型、または開裂付加体や処理中に形成されたその他の副産物を含む化学修飾配列などが挙げられます。

分析法におけるここ数年の技術的進歩は、診断法や新しい治療法としてのペプチドの普及にも影響を与えました2。最新の装置で実施される分析法では、より短い時間で向上した感度とさらに高い分離能が確認されており、この両方が製造中に重要な時間の節約へとつながります。

合成ペプチドには、単離法の開発において独自の課題があります。将来の研究にとって、純度と目的のペプチドの収率は実験結果に影響を与える重要な因子です。上記のように、合成ペプチドの合成、切断および脱保護から発生する不純物の数は非常に多くなる場合もあります。ペプチド産物の単離は、多くの場合、分析HPLCで使用されている分析法開発の原則を適用することで改善できます。より大きな分取スケールで精製法を作成するのに使用される分離メカニズムは、小スケールで使用される原理と同じです。カラムの選択、移動相モディファイヤーの選択、温度およびグラジエントの最適化は、あらゆる分離法の開発において必ず検討しなければならない選択肢です。ペプチド単離の系統的な分析法開発により、ペプチド産物の純度および収率を大幅に向上することができます。従来のペプチド単離は通常、UV検出を組み合わせたクロマトグラフィーを使用して実施されましたが、質量検出を組み合わせた単離を慎重な分析法開発と併用することで精製プロセスがシンプルになり、目的のペプチドと合成や切断の間に形成された夾雑物とを十分に区別できるようになります。



ペプチド精製プロセス要件

すべての単離計画の目標は、可能な限り短い時間の中で可能な限り多くのサンプルを、後に続く実験を実施するのに必要な純度で精製することです。多種多様なペプチドを合成する一般的なラボの場合、必要に応じて最適化が容易にでき、ほとんどのサンプルで使用できる標準精製プロトコールを確立することが役に立ちます。分析間の性能を一定に保ちながら移動相組成、モディファイヤー、またはカラム温度を変化させることで、単離のために複数のカラムセットを準備する必要がなくなります。このような収率と純度を向上するための経済的なオプションは、シンプルであり、容易に実施できます。また、最適なペプチド精製プロセスでは、幅広い分析スケールおよび分取スケールにおいて単離を実施することのできる堅牢な装置が利用されます。幅広い流量範囲に対応した汎用性のある装置において単離に適したサイズのカラム径に変更するだけで、精製が効率的になります。これらのすべての因子を総合的に考慮することで、ペプチド精製に関連する全体的なコストを削減できます。



ペプチド単離ワークフロー

標準的なペプチド単離プロトコール(図1)は、次の実験を実施するのに必要な高純度ペプチドの量を決定することから始まります。粗ペプチド分析ではサンプル純度の適正な推定値が得られ、得られた値を後の研究で必要な高純度ペプチドの規定量と組み合わせて推定負荷量を算出できます。質量負荷量により分取カラムサイズが決定し、次に選択したLC装置で必要な流量が決定します。


図1. ペプチド単離ワークフロー



粗ペプチド分析後には、単離のために同じケミストリーを持つ大きなカラムへの幾何学的スケーリングを実施します。図2のスケールアップ式には、分離を別のカラムサイズへと移行するためのカラム径、カラム長、重量負荷量、および流量の関係が示されています。グラジエントの傾きを単位時間あたりの変化(%)ではなくカラム容量あたりの変化(%)として表すことは、各グラジエント法ステップの初期条件から最終条件まで同じカラム容量を維持して分離能を確実に保つのに役立ちます。分取法には、小スケール分離で確認されるシステムディレイ(同じくカラム容量で表される)を模倣するために、開始条件での最初のホールドが必ず含まれていなければなりません。

分取クロマトグラフィーが完了したら、回収フラクションを分析します。高純度ペプチドはその後、ユーザーガイドラインで定義されるように処理されます。


図2. スケールアップ式



ポンプ、インジェクター、UV検出器、およびフラクションコレクターで構成される最もシンプルな液体クロマトグラフィーシステムは、ペプチド分離に最適です(図3)。ペプチド分離では必須ではありませんが、質量検出では目的のペプチドが同定され、単離後の分析が必要な回収フラクションの数を減らせます。イオン化しない化合物やイオン化が不十分な化合物は低波長UVで検出されることが多くなります。逆に、UV吸光係数が非常に低いペプチドは通常、質量分析計で簡単に検出されます。


図3. 基本的な液体クロマトグラフィーシステムの模式図



精製プロセスに関する考察

分離モード

各ペプチドの性質は非常に多様であるため、クロマトグラフィー分離モードにもさまざまなものがあります。逆相クロマトグラフィーはペプチド精製で圧倒的によく使用されるモードですが、イオン交換やサイズ排除などの別の選択性を用いてより効率的に単離されるペプチドもあります。このような代替法は逆相と組み合わせることもできるため、難しいサンプルでは2段階プロセスを実施できます。



逆相

その再現性と幅広い適用性のため、逆相クロマトグラフィーはペプチドを含めた多種多様な化合物の分離で広く使用されています。最もよく使用される逆相カラム充塡剤の1つであるC18結合シリカは非極性です。逆相移動相は通常、水とアセトニトリルやメタノールのような混和可能な極性有機溶媒で構成され、C18カラムから化合物をその極性に基づいて溶出させます。したがって、ペプチドの疎水性が高いほど、C18カラムに強く保持されます。C18は最もよく使用されている逆相充塡剤ですが、化合物の分離を最適化するために他のリガンド(C4、C8、RP18、フェニルなど)を担体に結合させて別の選択性を得ることも可能です。シリカは逆相充塡剤で初めて使用された基材の1つですが、シリカベースの充塡剤には分離速度、分離能、pH、温度およびカラム負荷量に関して限界があります。新しいカラム基材の開発で使用された特許取得済み*ハイブリッドパーティクルテクノロジーにより、選択性、分離能、再現性およびカラム寿命を向上しながら、より速いスピード、より高い温度およびより高いpHで使用できる充塡剤が得られます。

*U.S.Patent No. 6,686,035 B2



イオン交換

イオン交換クロマトグラフィーは、タンパク質やその他の生物学的製剤の単離で長年にわたり用いられています。ペプチドのアミノ酸は正または負の電荷を持つため、イオン交換クロマトグラフィーを使ってペプチドを単離できます。アガロースなどの機能性天然ポリマー樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)などの合成ポリマーおよびポリスチレンジビニルベンゼンは、大スケールのバイオプロセスにおいてプロセスサイクル間とバッチ間で必ず生じる厳しい洗浄要件に耐えることができるため、高分子の分離で広く使用される担体です4,5。これらのプロセスで利用される水酸化ナトリウム溶液は、低分子ペプチド分離や小スケールペプチド分離で広く使用されるシリカベースの材料に悪影響を及ぼします。

イオン交換体には、弱陰イオン交換体、弱陽イオン交換体、強陽イオン交換体および強陰イオン交換体の4種類があります6。陽イオン交換は負電荷を持つ表面における正電荷を持つイオンの保持および分離に使用され、陰イオン交換は正電荷を持つ表面における負電荷を持つイオンの保持および分離に使用されます7。強陰イオン交換カラムおよび強陽イオン交換カラムは幅広いpH範囲(2~12)にわたり完全に荷電しており、弱イオン交換カラムは狭いpH範囲(9.5~5.5)内で荷電します6

陽イオン交換を用いるペプチド単離は陰イオン交換よりも広く使用されていますが、どのモードが適しているかは実際のところペプチドのアミノ酸配列により決定されます。pH3未満で実施されるペプチド分離の場合、アミノ酸側鎖カルボキシル基の負電荷は中和され、N末端基はプロトン化されるため、ペプチドは正電荷を持ち、陽イオン交換カラムの負電荷部位に引き寄せられます(図4)。逆に、pH6~10での分離に適しているペプチドの場合、陰イオン交換を使用することができます。より高いpHでの陰イオン交換では、ペプチドのカルボキシル基は負電荷を持ち、陰イオン交換カラムの正電荷部位に引き寄せられます(図5)6,8,9


図4. 陽イオン交換カラム充塡剤と ペプチドの相互作用

 


図5. 陰イオン交換カラム充塡剤と ペプチドの相互作用



イオン交換を用いるペプチド単離のためのカラム選択および分析法開発には、いくつかの一般的なアドバイスがあります。陰イオン交換または陽イオン交換のいずれかを使用できます。一般的な出発点として、酸性ペプチドは陰イオン交換で分離され、塩基性ペプチドは陽イオン交換で分離されます。この選択を、一部のペプチド、特に大きなペプチドの場合で役立つように逆にすることもできますが、正味電荷が充塡剤の逆となるようにpHを必ず調整しなければなりません。

いずれの極性であっても、ペプチドクロマトグラフィーでは強イオン交換体の方が適しています。ペプチドの電荷は、配列および電荷を持つ側鎖周辺の微小環境により変化します。移動相pHをわずかに調整することにより、特定のペプチド配列に基づいて分離選択性を調整することができます。このように選択性をわずかに調整しても、強イオン交換体の結合能には影響を与えません。

移動相および分析条件の選択は、イオン交換分離が2段階精製の第1段階として予定されているのか、実験材料を得るための単一の単離ステップとなるのかにより左右されます。イオン交換で回収された材料が逆相でさらに精製される予定の場合、バッファーおよび溶出条件はタンパク質イオン交換の通常の手段に従って選択することができ、例えばリン酸バッファーまたはTrisバッファーを用いて、塩化ナトリウムのグラジエントで溶出させます。後に続くステップではペプチド産物から塩が除去されます。

イオン交換が単一のステップで利用可能なペプチドを得るために選択されている場合、凍結乾燥で除去可能な揮発性バッファーを選択することが賢明です。ギ酸アンモニウムはアンモニウムとギ酸のpKに相当する2つの緩衝領域を持つため、最初の選択肢として適しています。塩基性ペプチドの陽イオン交換クロマトグラフィーではpH3~4で使用でき、酸性ペプチドの陰イオン交換クロマトグラフィーではpH9.25~10.25で使用できます。pHを一定に保ちギ酸アンモニウム濃度を上昇させるイオン強度グラジエントで溶出を実施できます。別の方法として、pHグラジエントによる溶出では、高イオン強度のバッファーの凍結乾燥にかかる時間が短縮されます。この場合も、ギ酸アンモニウムバッファーが有用な出発点となります。陰イオン交換体上の酸性ペプチドでは高pHから低pHへ、陽イオン交換体上の塩基性ペプチドでは低pHから高pHへと溶出が進みます。



サイズ排除

現在サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)と呼ばれているサイズに基づく分子のクロマトグラフィー分離は1950年代に開発されました7,10,11,12。また、電荷や極性などの化学的性質ではなくサイズに基づく分子の分離は、従来からゲルろ過クロマトグラフィーやゲル透過クロマトグラフィー(GPC)として知られています7。規定のポアサイズ分布を持つ固定相パーティクルがカラムベッドの空洞よりも大きなサンプル分子を排除して非常に迅速に溶出されるようにする一方で、低分子はポアに入り込むためより入り組んだ時間のかかる溶出経路を進むことになります。したがって、大きな分子は最初に溶出し、小さな分子は溶液中のサイズの大きなものから小さなものの順に溶出します(図6)。SECは、アイソクラティック法を利用する低分離能分析法であり、分析間で平衡化が不要です。カラム負荷量はサンプルの容量および濃度に左右され、この2つは共に分離能に影響を与えます13


図6. サイズ排除クロマトグラフィーのサンプル溶出



SECは切断型配列、脱保護が不完全なペプチドおよびその他の不純物を除去するための最初のクリーンアップステップとして使用されることがあります。合成ペプチドが長くなると、このような夾雑物の数は非常に多くなります。逆相による単離前にシンプルな最初の精製ステップを実施することで、クロマトグラフィーの複雑性が低下します。SECはバッファー交換にも使用できます。バッファー交換では、ペプチドが溶解しているバッファーを後の実験や精製ステップにより適した別のバッファーや溶液に変更します。



まとめ

ペプチドは、逆相、イオン交換およびサイズ排除などの多種多様なクロマトグラフィー法を用いて分析し、単離することができます。セミ分取スケール(数ミリグラムから数百ミリグラムの単離)で使用される方法は通常、逆相です。ペプチド単離に関する考察の残りの部分では、逆相クロマトグラフィーを用いたペプチドの分析と精製を最適化するために使用できる因子および方法を取り上げていきます。

 

 
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