GPC の概要
ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC) は、ポリマーの性質を理解し予測するために使用される最も強力で汎用性が高い分析技術の 1 つです。また、GPCはポリマーの分子量分布の測定における最も便利な技術です。
1963年、ウォーターズは初めてGPC を商業的に開発しました。それ以降、ウォーターズは新しい GPC アプリケーションの開発と研究、そして GPC をより強力な技術として利用できる装置の改良に取り組み続けています。
GPC の重要性
GPC では、複数の重要なパラメーターを測定することができます。測定可能なパラメーターには、数平均分子量、重量平均分子量、Z 平均分子量、およびポリマーの最も基本的な特性である分子量分布などがあります。
これらは、ポリマーに特有の多くの物理的性質に影響するため重要な値です。これらの測定値がロット間でわずかに異なるだけでも、ポリマーの最終用途における特性に大きな違いをもたらすことがあります。影響を受ける可能性のある特性には、以下のようなものがあります。
引っ張り強度 | 接着強度 | |
エラストマー緩和時間 | 硬化時間 | |
脆性 | 弾性率 | |
屈曲寿命 | 溶融粘度 | |
衝撃強度 | 硬度 | |
靱性 | 軟化温度 | |
引き抜き性 | 引裂強度 | |
初期接着性 | 耐応力亀裂性 | |
摩擦係数 |
材料特性評価
同じ目的で使用される樹脂の種類は豊富にありますが、専用の樹脂や化合物は高価であり、製造段階でポリマーに付加価値が生まれることから、ポリマーの組成を理解することは重要です。たとえば、プリント基板で使用される樹脂は非常に低価格ですが、完成した基盤は非常に高価です。低品質の樹脂を使用すると、完成した基盤の品質が不合格になる可能性があります。
ポリマーの最終用途アプリケーションで厳密な性能が必要とされる場合や、過酷な条件下での耐性が必要とされる場合には、ポリマー特性の評価が特に重要になります。GPC は、他のどの技術よりもこれらのニーズを満たすことができるため、ポリマー工業において非常に役に立つ材料特性評価手段となっています。
Good(規格内品)と Bad(規格外品)の判別
同じポリマー樹脂でできた 2 つのサンプルの引っ張り強度と溶融粘度が全く同じ場合でも、耐久性のある製品に加工する場合に性能が大きく異なることもあります。このような性能の違いは、これら 2 つの樹脂サンプルの分子量分布にわずかながらも重大な差があるためと考えられます。このような差を検出できない場合、製品に重大な欠陥が生じるおそれがあります。
左に示す分子量分布のようなわずかな違いでも、ポリマーの性能に著しい変化をもたらすことがあります。
加えてGPC では分子量分布が得られるだけではなく、複雑な高分子化合物をポリマー、オリゴマー、モノマー、添加剤といった成分に分けることもできます。
GPC の原理
GPC は、溶液中の分子を「溶液中の有効サイズ」で分離します。GPC 分析用にサンプルを調製する場合、樹脂をまず適切な溶媒に溶解します。
溶解した樹脂は、ゲル浸透クロマトグラフィー装置内で、連続的に流れる溶媒 (移動相) の中にインジェクションされます。移動相は、カラム中に密に充塡された無数の高多孔性硬質粒子 (固定相) の間を流れていきます。これらの粒子のポアサイズは調整されており、さまざまなポアサイズの粒子をご利用いただけます。
多孔性粒子の横断面
各ピークの幅は、特定の樹脂およびその構成成分の分子サイズ分布を表しています。この分布曲線は分子量分布 (MWD) 曲線と呼ばれます。すべてのピークをまとめたものがサンプルの MWD です。MWD の幅が広いほどピーク幅が広く、ピーク幅が広いほど MWD の幅が広いことになります。平均分子量が高いほど曲線は分子量軸に沿って高分子側にシフトし、曲線が高分子側にシフトしているほど平均分子量が高いことを示します。
したがって、2 つの樹脂の MWD プロファイルを簡単に比較できることがわかります。新しい樹脂の MWD プロファイルがコントロール樹脂 (良好に加工できることが判明している樹脂) と十分に一致しない場合、この新しい樹脂を改変したり加工条件を変更したりして樹脂を適切に加工します。コントロール樹脂と新しい樹脂の差があまりにも大きい場合は、不合格品として新しい樹脂を供給業者に返品することもできます。
サイズ分離のメカニズム
さまざまなサイズの分子は、カラムから異なる速度で溶出します。高分子量の物質 (大きな黒の点) よりも低分子量物質 (小さな黒の点) の方がカラムに長時間保持されます。特定のフラクションが溶出するのにかかる時間は、「保持時間」と呼ばれます。
GPC システム
GPC 装置を設計する際には、さまざまな要件を満たさなければなりません。インジェクターは、ポリマー溶液を流動系へと導入するのに必要です。ポンプは、サンプルと溶媒をカラムおよびシステムへと送り出します。検出器は、分離をモニターし記録します。データ取得システムは、自動的に試験を制御し、結果を記録し、平均分子量を算出します。ゲル浸透クロマトグラフィー装置には、最低限の労力で最高のシステム性能を引き出すために連携するさまざまな部品が含まれています。
基本的なゲル浸透クロマトグラフィー装置の概略図
この図では、サンプルの移動相へのインジェクションおよびサンプルが検出器に到達する経路を示しています。
1. ポンプ
溶液中のポリマーをシステム内に送液します。
ポリマーが異なれば溶液の粘度も異なります。分析間でデータを比較するには、ポンプは粘度の違いに左右されず同じ流速で送液を行わなければなりません。また、溶媒流速の精度に非常に影響を受けやすい検出器もあります。このように流速を一定に保つ性能は、装置の重要な特徴であることに間違いありません。
2. インジェクター
ポリマー溶液を移動相に導入します。
インジェクターは、低容量インジェクション (分子量決定用) および高容量インジェクション (分取を行う場合) を行えるものでなければなりません。インジェクターで、移動相の連続的な流れが妨げられてはいけません。また、サンプル容量が多い場合には自動的に複数のサンプルインジェクションを行えるものでなければなりません。
3. カラムセット
サンプル成分を効率的に分離します。
高効率のカラムでは、最高レベルの分離能が実現され、迅速な分析を行うことができます。すべてのカラムは、分析目的でも分取目的でも長期にわたり再現性のある情報が得られるものでなければなりません。
4. 検出器
分離をモニターし、成分がカラムから溶出すると応答します。
溶出成分をその後の分析のために回収する場合、検出器は溶出成分を破壊するものであってはなりません。
また、必要に応じて微量分析にも多量分析にも対応するためには、感度が高く、線形範囲が広いものでなければなりません。
すべての成分は光を屈折させるため、示差屈折計 (RI) は「ユニバーサル」検出器と呼ばれています。このためRI検出器は、分子量分布の測定に、最も広く使用されています。ポリマーの屈折率は、分子量が約 1000 以上では一定です。したがって、検出器のレスポンスは濃度と正比例します。
RI 検出器で得られる平均分子量および分布に関する情報に加えて、UV 吸光度検出器を使用すると組成に関する情報を、光散乱検出器および粘度計を使用すると、ポリマーの構造に関する情報を得ることができます。
5. 自動データ処理機器
Mz、Mw、Mv、Mn、および MWD の数値を自動計算、記録し、レポートを作成します。
多数のサンプルを無人で分析し、生データを自動で処理できるように、データシステムからGPC システムを完全に制御することができます。現在提供されている GPC ソフトウェアでは、たとえば多重検出処理、バンド広がりの補正、特殊な較正ルーチン、およびポリマー分岐測定などの特殊な計算の実行が要求されます。