前章で説明したように、CCは分離の観点からはLCとよく似ています。装置の観点からも、システム全体を設定値に加圧するABPRが追加されたことを除き、すべての点で、CCはLCシステム(図9を参照)と類似しています。CO2ベースの移動相のメリットを活かし、最新UPLCのメリットを組み合わせるために、ウォーターズは低拡散で高耐圧性のACQUITYUPLCシステムを改良することで主要なシステムコンポーネントをCO2などの圧縮溶媒に対応できるように改善しました。中でも注目すべきは、CCシステムに液化CO2ポンプが装備されていることです。CO2はまず液化されますが、メタノールやアセトニトリルと比べるとほぼ3倍の圧縮性があります。したがって、再現性のあるコンバージェンスクロマトグラフィーを実現するためにはポンプを改良する必要がありました。
図9. ACQUITY UPC2システムの流路図
歴史的に、分析SFCシステムは信頼性が低いことで知られていました。これまでの分析SFCシステムはすべてLCシステムを流用したものであり、LC用に設計されたポンプ、インジェクター、検出器は、圧縮CO2で使用できるようにはなっていませんでした。
また、シングルステージLCレシプロポンプも、正確かつ確実に、繰り返しCO2を圧縮して送液することができませんでした。CO2ほどの圧縮性を持つ液体に対応するようには設計されていないため、移動相の質量流量および質量組成にばらつきが発生します。その結果、移動相の溶媒和力が変化し、多くの場合、注入間やシステム間の保持時間がばらつきます。
高圧縮性CO2ベースの移動相では、ポンプおよび圧力調整器から発生するノイズによっても分析感度が低下します。また、パーシャルループインジェクションを使った場合には正確さおよび精度の低下という重要な問題があるため、HPLCを流用した装置はフルループインジェクションに限られることが多く、注入量の選択肢が限られます。システムレベルでは、HPLCを流用した装置ではシステム容量の大幅な増加により、不要なバンド拡散が起こり、より効率的な1.7µmパーティクルカラムが使用できなくなります。これらの欠点により、LCを流用したCO2ベースのシステムでは潜在的なスループットと性能が大幅に制限されてしまいます。
では次に、ACQUITY UPC2 システムの各モジュールに使用されているイノベーションを見ていきましょう(図9)。
移動相の流量および組成を正確かつ精密に制御するには、システムの全流路を見る必要があります。前述したように、HPLCポンプは指定量の溶媒の圧縮と正確な送液を同時に行うように設計されていますが、液体CO2ほど圧縮性のある流体を取り扱うことはできません。一部のSFC装置では、流入するCO2は予圧・予冷デバイスを通過します。このデバイスはクロマトグラフィーシステムと並んで設置されます(図10)。CO2の密度は室温に依存して予圧ステップと送液ステップの間で変化するため、このデバイスの設置位置がポンプから離れるほど、CO2質量流量を正確に制御することが難しくなります。さらに、一般的に圧縮性のない液体を送液するために設計されている従来のSFCシステムのポンプアルゴリズム(内部制御ソフトウェア)では、組成の正確さ、精度および保持時間の再現性を維持することが困難です。低濃度(5%未満)の共溶媒を確実に送液しようとする場合にも同じ問題が発生し、さまざまな極性を持つ混合物の分析は難しくなります。
図10. ACQUITY UPC2ソルベントマネージャとSFC向けにリモデリングしたCO2ポンプHPLCポンプの比較
対照的に、ウォーターズのACQUITY UPC2バイナリーソルベントマネージャ(BSM)は、質量流量および質量組成の優れた制御のために統合された予圧デバイスで圧縮流体を制御することに特化して設計されているため、信頼性と再現性の高い保持時間を得られ、ベースラインノイズもごくわずかとなります。前述したように、圧縮性流体システムでは、溶媒密度が移動相の溶媒和力を左右するため、再現性には精密な制御が必須です。圧縮液体コンポーネントと非圧縮液体コンポーネントの独立した制御アルゴリズムにより、低濃度の共溶媒を含めた異なる移動相が正確に混合され(図11)、再現性のあるグラジエントプロファイルが実現します(図12)。
図11. 移動相の正確かつ精密な混合(アイソクラティック)。CO2と共溶媒(メタノール)の正確かつ精密な混合。メタノールは1%から2.5%まで0.5%ずつ増やしました。
図12. 移動相の正確かつ精密な混合(グラジエント)。0.5%異なる溶媒組成からグラジエントプログラムを開始し、10回注入しました。上のクロマトグラムは共溶媒1%から始め、下のクロマトグラムは1.5%から始めました。移動相の正確かつ精度良い供給によって保持時間が極めて規則的に変化している様子がわかります。
図13. ACQUITY UPC2 BSM は、共溶媒の割合が5% 未満であっても正確かつ精密に CO2 と任意に共溶媒混合します。
別々に加圧した共溶媒と CO2 を補正するための独立した制御アルゴリズムおよび圧力変化と屈折率の影響を補正する機能が
これを可能にします
分析SFCシステムで、特にグラジエント分離においてこれほど高度な制御レベルに達したことはありません。ACQUITY UPC2システムは、ポンプ吸入量、圧縮および送液を精密に制御するように設計されており、UltraPerformance LCに期待されている再現性を実現します。
ACQUITY UPC2 BSMで採用されている体積密度制御は、質量流量制御よりも優れており、卓越したクロマトグラフィー精度を発揮します。その結果、溶出時間が十分に制御され、溶媒和力も非常によくコントロールされます。ポンプヘッド自体が独立して冷却されるため、CO2の密度制御が向上し、精密な質量輸送が実現します。ポンプおよび統合型の圧縮アルゴリズムにより移動相は極めて効果的かつ精密に制御されるため、液体と気体のどちらのCO2も移動相として使用可能です。図13はBSMの内部写真です。共溶媒ポンプはUPLCポンプですが、CO2ポンプは黒い絶縁カバーに覆われています。ポンプには加圧・冷却機構が統合されているため、この絶縁カバーによりCO2の密度がより精密に制御されます。
従来の分析SFCシステムは、少量を注入した場合の再現性の低さが課題であるため、ほとんどの場合、フルループインジェクションを使用しています。毎回、フルループインジェクションを使用すると、当然分析に必要なサンプル量が増えることになります。しかし、パーシャルループインジェクションを使用した場合では、移動相を超臨界状態に保つことが難しいため、正確度・精度・直線性が損なわれてしまい、その結果、定量が困難でした。分析あたりのサンプルロスを少なく抑えるためには小さいサンプルループに手作業で交換する必要があるため、システムの柔軟性が損なわれました。
図14. CQUITY UPC2サンプルマネージャとSFC向けにリモデリングしたHPLCインジェクターとの比較
図15. パーシャルループインジェクションの繰り返し精度と再現性を示すクロマトグラム
図16. パーシャルループインジェクションにおけるインジェクターの直線性(1~10µLの範囲で1µL刻みに増加)
これに対しACQUITY UPC2サンプルマネージャではバルブを2個搭載する、デュアルインジェクションバルブ(図14)を実用化しました。この設計では、プライマリーサンプルループは排出口に導かれるため、サンプルを大気圧でループに注入しながら移動相の超臨界状態を維持することができます。また、インジェクション補助バルブを設計に組み込むことで、サンプル注入ごとの圧力変動とキャリーオーバを抑え、繰り返し精度が良く再現性の高いパーシャルループインジェクションを可能にしました(図15)。0.1~50µLの範囲で0.1µL刻みに注入できるだけでなく、二つのニードル洗浄オプションによって、サンプルのキャリーオーバがほぼ解消されます。図16は、パーシャルループ注入を1~10µLの範囲で1µL刻みに増やした場合の注入直線性を表しています。
分析SFCシステムの光学検出にはトラブルが少なくありません。LC用検出器を使用することにより、フローセルの拡散や、ベースラインノイズという問題が生じます。示差屈折率検出器を超臨界流体に使用すると、ポンプシステムによるノイズが増幅され、ベースラインノイズやベースラインの湾曲が大きくなるためです。逆相LCに多用されるメタノールや水などの溶媒の屈折率はほぼ同等(図17)なため、逆相LCでは屈折率の影響はあまり大きくなりません。しかし、CO2はメタノール(最も一般的な共溶媒)のRI値に差があるため、屈折率の範囲がLCよりも広くなります。さらなる課題は密度で、CO2ベースの移動相の屈折率は、グラジエント分析の過程で変化します。
図17. 物質それぞれの屈折率
図18. メトクロプラミドの不純物プロファイリング例。微量不純物分析へのACQUITY UPC2システムの適用可能性が確認できます。
ACQUITY UPC2 PDA検出器は圧縮流体専用に設計されています。サファイアレンズは紫外線波長が低いとエネルギー透過性が損なわれるため、ACQUITY UPC2 PDA検出器では代わりに圧力要件を満たす強化シリカレンズを使用しました。これによって感度が飛躍的に高まり、ベースラインノイズが低減し、CO2と有機溶媒との屈折率の差による影響が補正されました。また、光学ベンチの温度をコントロールすることで、ベースラインの安定性をさらに高め、屈折率の影響を抑えました。さらにステンレス製の低拡散フローセルによって狭いピーク幅に適応し、10mmの光路長によって優れた感度を発揮するとともに最適なスペクトル性能を確保しました。その結果、卓越した感度を実現し、超微量の不純物も定量可能になりました(図18)。
CCの圧縮性移動相に光学検出を適応させるために独自の装置要件が求められるのと同様、CCをMSに接続するには移動相の圧縮率に対応するための改良が必要です。CC-MSインターフェースは、現在使用されている質量分析計のイオン源において移動相が圧縮状態から大気圧へと減圧できるものでなければなりません。移動相の圧縮率を綿密に考慮しなければ、イオン源への分析種の輸送に悪影響が及びます。分析種の輸送が不完全であると、不完全なピーク形状になったり、イオン化が不十分になったりする可能性があります。最悪の場合にはイオン化がされず、目的の分析種が質量分析計で検出されなくなります。
圧縮移動相の減圧は、移動相の流量、移動相の組成、そして自動圧力調整器(ABPR)が設定するポストカラムシステム圧からは独立して制御される必要があります。また、減圧は分析種のイオン源への効率的な輸送を妨げずに行うことが求められます。これらの目的を達成するために、ACQUITY UPC2質量分析計インターフェースは圧縮移動相用に設計されており、メイクアップ溶媒を用いるスプリットフローインターフェースを採用しています。質量分析計インターフェースでは、通常300から500µL/min(圧縮状態)の間の一定流量の移動相をスプリットリストリクターから質量分析計へと導入します。残りの移動相は、移動相の幅広い流量と組成にわたりポストカラムシステム圧を制御するためにABPRへと向けられます。ACQUITY UPC2質量分析計インターフェースの概略図を図19に示します。この図ではスプリットインターフェースとメイクアップ溶媒の添加が示されています。
図19. ACQUITY UPC2スプリットフロー質量分析計インターフェースの概略図
CC-MSインターフェースにおいて、メイクアップ溶媒はさまざまな役割を担っています。まず共溶媒5%未満で、エレクトロスプレーイオン化(ESI)の場合に必要になります。ESIは液相イオン化法であるため、イオン化にはある程度の量の液体が必要です。移動相共溶媒の濃度が非常に低い場合は、移動相に含まれる液体の量ではESIに不十分です。したがって、共溶媒濃度が低いESIではメイクアップ溶媒を用いて液体を添加することが必要になります。次に、メイクアップ溶媒は分析種の輸送に役立ちます。スプリットリストリクターにおいて、CO2は高圧高密度状態から気体となり、溶媒和力を失います。したがって、CO2が気化した後、分析種の溶解とイオン源への輸送に使用できるのは液体である共溶媒のみとなります。分離に使用される共溶媒濃度がゼロまたは極めて低い場合、分析種をイオン化するためにスプリットリストリクターからイオン源へ運ぶための液体がありません。このような条件下で分析種がイオン源へと輸送されるようにするために、メイクアップ溶媒がスプリットリストリクターの上流から添加されます。分析種の輸送が不良な場合と良好な場合を示すピークプロファイルの例としてメイクアップ溶媒による分析種輸送が不良な場合(A)と良好な場合(B)を図20に示します。
図20. 分析種の輸送が不良な場合(A)と良好な場合(B)に現れる典型的なピーク形状
メイクアップ溶媒は、分析種の共溶媒における溶解度が限られている場合の分析種の輸送にも重要な役割を担います。分析種は、共溶媒と圧縮CO2の混合時において溶解度は高くても、共溶媒単独での溶解度が低くなることがあります。このような場合、共溶媒の含有濃度が高い場合であっても、CO2が気化した後にスプリットリストリクターにおいて分析種が析出する場合があります。共溶媒中の分析種の溶解度が不十分である場合、不完全なピーク形状、インターフェースチューブの詰まり、ピーク再現性の低下などが結果として生じます。適切なメイクアップ溶媒を添加することで、共溶媒とメイクアップ溶媒により分析種の溶解度を高め、このような問題を回避するのに役立ちます。例えば、親油性の高い分析種はCO2/メタノール移動相では溶解度が高いですが、メタノール単独では溶解性が低くなる可能性があります。このような場合、非極性メイクアップ溶媒を添加して液体共溶媒とメイクアップ溶媒を混合させることで実質的な極性を低下させることができます。親油性分析種は、低極性溶媒の混合液で溶解度が高くなるため、より簡単にイオン源へと輸送されます。
必要であれば、CC-MSインターフェースのメイクアップ溶媒からイオン化を促進する化合物を質量分析計に導入することもできます。イオン化を促進する化合物は、分離に影響を与えずにカラム後に添加できます。5%の水(体積)や20mMの水酸化アンモニウム、ギ酸、または酢酸アンモニウムなどのイオン化促進化合物は、多くの場合ESIにおけるイオン化効率を向上させます。イオン化促進化合物の濃度および種類は分析種により大きく異なり、最適なレスポンスを得るには各アプリケーションで調整が必要です。
メイクアップ溶媒の組成を選択したら、最適なレスポンスを確保するためにメイクアップ溶媒の流量も調整することができます。MSレスポンスに対して幅広い流量の設定が可能です。流量が低すぎると輸送が不十分になる可能性があり、メイクアップ溶媒の流量が高すぎると多くの場合でMSシグナルが低下します。メイクアップ溶媒の組成と同じく、メイクアップ溶媒の最適な流量も分析種および分析法により異なり、最大シグナルレスポンスが要求される場合には新しいアプリケーションごとに最適化しなければなりません。さらに、例えばESIから大気圧化学イオン化(APCI)への切り替えなどイオン化法を切り替える場合には、メイクアップ溶媒の組成および流量を再度最適化する必要があります。
要約すると、ACQUITY UPC2質量分析計インターフェースは圧縮移動相専用に設計されていると同時に、ESI、APCI、ESCi®マルチモードイオン化、大気圧光イオン化(APPI)およびUniSpray™などの大気圧イオン化法を採用している最新の質量分析計との接続に特化して設計されています。
圧縮性溶媒をベースにしたシステムにとって、正確に圧力をコントロールできることは不可欠な要素の一つです。圧力コントロールは移動相の密度に大きく影響し、従って分析種の溶媒和や保持時間にも深く関与します。従来のSFCシステムは、正確かつ精度良い圧力の制御コントロールに課題がありました。その原因は、圧力調整器(BPR)の圧力モニタリングの不備、フィードバックループの反応の遅さ、ステッピングモーターの分解能の低さ、ポンプの圧力と流量の制御能力の低さ、BPRの部品の経時劣化などです。
ACQUITY UPC2システムでは、アクティブレギュレーター/スタティックレギュレーターの2段階により圧力制御を改善しています(図21)。2つのレギュレーターを組み合わせることにより、スタティックレギュレーターはシステムを必要最小圧力に保ち、アクティブレギュレーターはユーザーが設定した設定値の制御を強化します(図22)。さらに堅牢性を高めるために、スタティックレギュレーターのカートリッジを加温することで減圧による移動相の凍結を防止しています。2段階レギュレーターはACQUITY UPC2システムのコンバージェンスマネージャ(CCM)に搭載されています(図23)。また、このモジュールには、流入するCO2用のインラインフィルター、CO2リークセンサー、ベントバルブ、圧力開放バルブおよびインジェクション補助バルブも備わっています。
図21. ACQUITY UPC2システムのコンバージェンスマネージャにより設定値から+/-5psiの圧力が一貫して保たれるため、卓越した保持時間再現性とベースライン安定性が実現します。
図22. 2段階アクティブ/スタティックレギュレーターにより、一貫した性能が実現し、必要に応じて保持時間を微調整して分析法を調整することが可能になります。
図23. ACQUITY UPC2コンバージェンスマネージャ
ACQUITY UPC2システムはACQUITY UPLCシステムと同様、拡散が小さくなり、内径の細いカラムや充塡剤の粒子径が小さなカラムを使用できるようになりました(図24)。内径の細いカラムによって感度が向上し、溶媒の消費が抑えられ、質量分析に適した流量が実現しました。また、粒子径の小さなカラムにより分離効率と分離能が向上しました。
図24. 同じ流量と同じカラムサイズによる5µmカラムと1.7µmカラムの比較。粒子径を5µmから1.7µmへと小さくすることで、効率は約3倍に、感度と分離能は約2倍に向上しました。