USP General Chapter <621> クロマトグラフィーと Arc™ HPLC システムが提供する新しい液体クロマトグラフィーグラジエントメソッド許容範囲による分析法の最新化
要約
薬局方の分析手順を基本的に変更することなく、クロマトグラフィー試験のさまざまなパラメーターを調整できる範囲が、米国薬局方(USP) General Chapter <621> クロマトグラフィーに定義されています。このアプリケーションノートでは、この章に記載されているグラジエントメソッドの調整を Arc HPLC システムと組み合わせて、抗ウイルス薬物のアバカビル硫酸塩の USP モノグラフ分離向けにカラム寸法とシステムの最新化を行います。
アプリケーションのメリット
- Arc HPLC システムでは背圧限界が拡張されているため、さまざまな最新のカラム寸法を使用して高効率の分離が行え、分析時間、注入量、溶媒を削減可能に
- 米国薬局方(USP)General Chapter <621> クロマトグラフィーの、モノグラフのシステム適合性要件を満たすグラジエントメソッド調整により、Arc HPLC システムと組み合わせた場合に質の高いデータが得られる
はじめに
クロマトグラフィー分離は、カラムハードウェアとシステムハードウェアウェアの両方の影響を受けます。これらのパラメーターは分析法の性能にとってきわめて重要であり、モノグラフのバリデーション後、ハードウェアの制約によりハードウェアの柔軟性が妨げられる可能性があります。例えば、最新の HPLC カラムハードウェアは通常、一連の新しい固定相の置換基のために直径 4.6 mm で提供されますが、HPLC の粒子径 5 µm を 3.5 µm 以下にすることで、より短時間で少ない溶媒消費量で同等の分離が得られます。Arc HPLC システム(図 1)などの最新の HPLC システムでは、HPLC が動作する際の背圧限界が拡張されているため、最新のカラムハードウェアの寸法に合わせてモノグラフ分析法を調整すると、信頼できる柔軟性が得られます。
このアプリケーションノートでは、General Chapter <621> クロマトグラフィー(2022 年 12 月 1 日)に記載されているグラジエントメソッドの許容範囲を採用して、アバカビル硫酸塩の USP モノグラフのカラムとシステムの両方を最新化します(表 1)。
この実験では、アバカビル硫酸塩の不純物の分離を選択しました。その理由は、このバリデーション済みグラジエントメソッドでは、クロマトグラフィーシステムの適合性基準の基礎になっている、課題となる部分的に分離したピークのクリティカルペアが生じるためです。USP <621> に規定されているハードウェアに依存するグラジエントメソッドを調整した後、得られたクロマトグラムについて、元のモノグラフのシステム適合性要件を維持する性能について検討しました。
実験方法
試料および分析法
USP モノグラフ: |
アバカビル硫酸塩、有機不純物 |
LC システム: |
Arc HPLC システム、2998 フォトダイオードアレイ検出器(PDA)搭載 |
カラム: |
Symmetry™ C18 カラム、3.9 × 150 mm、5 µm、製品番号:WAT046980 Symmetry C18 カラム、4.6 × 150 mm、5 µm、製品番号:WAT045905 Symmetry C18 カラム、4.6 x 100 mm、3.5 µm、製品番号:WAT066220 Waters XBridge™ C18 カラム、4.6 × 100 mm、3.5 µm、製品番号:186003033 Waters XSelect™ HSS™ T3 カラム、4.6 × 150 mm、3.5 µm、製品番号:186004786 |
ソフトウェア: |
Empower™ 3 クロマトグラフィーデータシステム(CDS) |
サンプル: |
アバカビル硫酸塩システム適合性混合液、USP 製品番号:1000500 |
結果および考察
体系的アプローチを用いてアバカビル硫酸塩の USP モノグラフ分離を最新化しました。まず、モノグラフカラムを粒子径 5 µm の L1 固定相置換基および 3.9 × 150 mm カラムハードウェアとして特定しました。L1 固定相置換基を備えた最新のカラムハードウェア(直径 4.6 mm、長さ(L)100 mm および 150 mm)を選択して、分析法を最新化しました。カラムの固定相置換基の粒子径(dp)は 5 µm または 3.5 µm でした。すべての例で、モノグラフの比は -25% ~ +50% で、USP <621> ガイダンスの L/dp 比の許容範囲を満たしていました。
流速、注入量、グラジエントの開始時間は、USP <621> ガイダンスに記載されている式を用いて、最新のターゲットカラムに対して数学的に調整しました。まず、式 1 により、流速を調整することで、モノグラフ分離の線速度が維持されました。第 2 に、式 2 に従って注入量を調整して、カラム容量に対する分析種の比が維持されました。最後に、計算したターゲットカラムの流速、長さ、粒子径に応じて、式 3、表 2 でグラジエント開始時間を調整しました。開始時間の調整により、モノグラフ分離で報告されているグラジエント勾配とカラム容量の比が維持されました。USP <621> ガイダンスには、モノグラフのバリデーション時に指定された場合にシステムのデュエルボリュームを調整できる式 4 が記載されています。アバカビル硫酸塩のモノグラフでは、システムのデュエルボリュームが報告されておらず、分離に初期のアイソクラティックホールド時間が含まれていません。結果として、分析法の最新化においては、計算されたグラジエントの開始時間に対するデュエルボリュームの調整は行いませんでした。
ウォーターズの分取 OBD カラムカリキュレーターとカラムカリキュレーター 2.0 の両方を使用して、ターゲットカラムのための手動でのグラジエント計算を確認しました(図 2)。オンラインカリキュレーターにより、調整後のグラジエントの最大グラジエント背圧の推定値が得られるため、これは特に重要でした。この推定は、モノグラフで使用される 85% 有機移動相組成ではなく、100% 有機移動相組成について計算されたものですが、調整後の分析法では Arc HPLC システムの背圧限界 9,500 psi を超えないという確信が得られました。
モノグラフのシステム適合性不純物混合液(SST)を、調整後のグラジエントと最新化したクロマトグラフィーハードウェアを使用して分析しました。最新のカラム寸法すべてで、未分離アバカビルのクリティカルペアのモノグラフシステム適合性分離度 1.5 以上という要件が正常に満たされました(図 3)。SST の相対保持時間(RRT)を、初期のモノグラフ分離に利用した固定相で得られた RRT と比較したところ、L1 固定相置換基が同じカラムで RRT が最も類似しており、L1 固定相置換基が異なるカラムでは RRT が異なっていました(図 4)。USP <621> に記載されているように、さまざまな置換基を使用した場合、ピークの欠落や逆転が観察されることがあります。そのため、分析法の調整後、クロマトグラフィーピークのアイデンティティーを、PDA スペクトル分析によって確認しました。
Arc HPLC システムを、最新のカラムハードウェアの寸法と組み合わせることにより、バリデーション済みモノグラフ分離に独自のメリットをもたらすことができました。この LC システムの最新のチューブ径により、従来の HPLC システムの背圧上限がわずか 5,000 psi であったのに対し、最大 9,500 psi の分離時背圧が発生するカラムハードウェアを使用できます。さらに、モノグラフ分析法の粒子径 5 µm を、USP <621> ガイダンスの L/dp 比の要件を維持しつつ、3.5 µm に下げることに成功しました。これらのハードウェアの組み合わせにより、バリデーション済みのモノグラフ分離で、分析時間、注入量、溶媒消費量が大幅に削減できました(表 3)。
結論
USP モノグラフのグラジエント分離は、General Chapter <621> クロマトグラフィー(2022 年 12 月 1 日)に従って、Arc HPLC システムでシステム適合性要件が正常に維持されるように調整できます。Arc HPLC システムを使用することで、バリデーション済みのモノグラフのシステム適合性を損なうことなく、カラムの最新化を行うことができます。このシステムにより、さまざまな最新の HPLC カラムの寸法に対応する動作時背圧上限が提供されます。そのため、分析時間、注入量、溶媒消費量の削減などのクロマトグラフィー上のメリットが実現できました。
参考文献
- USP General Chapter <621> Chromatography, Official Date: 01-Dec-2022, www.USP.org, referenced 1/06/2023.
- Abacavir Sulfate Monograph official 01-May-2020, www.uspnf.com, referenced 1/15/2023.
- Preparative OBD Column Calculator, www.waters.com, accessed 1/15/2023.
- Columns Calculator 2.0, www.waters.com, accessed 1/15/2023.
720007877JA、2023 年 3 月