反応モニタリングは、新薬候補の合成における極めて重要なステップです。さまざまな溶媒や触媒など、多様な異なる条件下での化学反応の進行を評価するには、複数の分析が必要な場合があります。反応モニタリングのためのサンプル分析の迅速な処理により、迅速な意思決定とラボの効率向上が可能になります。この一連の研究で、ACQUITY PDA および ACQUITY QDa 質量検出器と組み合わせた ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーシステムを用いて、アテノロール、その中間体である 4-ヒドロキシフェニルアセトアミド(4-HPA)、および反応副生成物の 4-ヒドロキシフェニル酢酸を分離できることを実証しました。情報が豊富な質量スペクトルおよび UV データを提供すると同時に、合計分析時間 1.2 分でこれらの重要な分離を実現できることで、分析経験の多少に関わらず、医薬品化学者が簡単で信頼性の高い反応モニタリングにアクセスできるようになります。
医薬品設計の創薬化学ワークフロでの SAR(構造活性相関)研究で、医薬品化学者は、既知の生物活性分子にさまざまな官能基を導入することにより、ターゲット化合物の特性を最適化します。これらの実験の目的は、最適な生物活性を持つ最適な薬剤候補を得ることです。
有効な化合物が見つかって検証されると、化合物の目的の特性の最適化が行われます。このステップでは、新しい化合物の合成と反応性測定の反復プロセスが行われ、この医薬品候補をさらにリードフェーズに進めます1。
これらの反応には長時間かかることがあるため、化学者は、合成が望みどおりに進行しているかをできるだけ早く確認する必要があります。これは、必要なサンプル前処理が最小限で、所定の低い検出限界で迅速なレスポンスが得られる測定機能を利用することを意味します。この選択した分析技術の別の有利な特性は、複数のパラメーター(例えば、不純物生成および最適な最終生成物の収率)を同時に測定する機能でしょう2。
このアプリケーションノートの目的は、高速液体クロマトグラフィー分析のために、短いバリスティックグラジエントを実行する ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーシステムの機能の有用性を実証することです。フォトダイオードアレイと質量検出の直交検出技術に組み合わせることで、ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーシステムは、反応モニタリングワークフローにおいて、反応の進行状況、可能性のある副生成物、および起こることがあるその他のあらゆる問題に関する情報を入手できる、簡単でアクセス可能なソリューションを提供します。
クロマトグラフィー分離は、ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーシステムで実施しました。PDA 検出器と ACQUITY QDa 質量検出器を使用して収集したデータを用いて、0.7 分のグラジエント(合計分析時間 1.2 分)でサンプルを溶出しました。
アテノロール(最終生成物)、4-ヒドロキシフェニルアセトアミド(4-HPA)(反応中間体)、4-ヒドロキシフェニル酢酸(4-HPAA)(反応副生成物)を調製して、アテノロール合成の進行をシミュレートしました。すべての標準品は、Sigma Aldrich chemicals(Poole、Dorset、英国)から調達しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーシステム |
検出: |
ACQUITY フォトダイオードアレイ(PDA) |
バイアル: |
ウォーターズトータルリカバリーバイアル |
カラム: |
ACQUITY BEH C18(30 mm × 2.1 mm、1.7 µm) |
カラム温度: |
45 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
0.5 µL |
流速: |
0.8 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% (v/v) ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% (v/v) ギ酸アセトニトリル溶液 |
グラジエント: |
5 ~ 95% B/0.7 分 |
MS システム: |
ACQUITY QDa 質量検出器 |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込み範囲: |
100-800 Da |
キャピラリー電圧: |
1.5 kV |
コリジョンエネルギー: |
N/A |
コーン電圧: |
20 V |
MS ソフトウェア: |
MassLynx v4.1 |
創薬ワークフローのターゲット化合物最適化の段階で、創薬化学者が意思決定を加速し、最適な親和性と選択性で化合物を迅速に同定するためには、迅速なスクリーニングが不可欠です。あらゆる場合に、最大の収率を得るために反応を抑えるには、正しい生成物が合成されているか、および反応がそのエンドポイントに到達しているかを、化学者が迅速に評価できるようにする必要があります。
この段階には多くの時間と労力を費やす場合があるため、実験の進行状況をモニターするための迅速で信頼性の高い手段が望まれます。このワークフローを実証するために、アテノロールの合成(図 1)を反応モデルとして使用しました。
アテノロール形成の増加と、中間体 4-ヒドロキシフェニルアセトアミドの減少がモニターされました(図 2)。反応副生成物である 4-ヒドロキシフェニル酢酸も認められました。
PDA と ACQUITY QDa 検出器の組み合わせにより、さまざまな物理化学的特性の化合物をモニターするための簡単な直交検出システムが得られます。副生成物 4-HPAA は、UV で強い反応を示し、アテノロールと 4-HPA は比較的弱い UV 反応を示します。ACQUITY QDa 検出(ESI+ モード)では、アテノロール/4-HPA のレスポンスは極めて良好です(図3)。
組み込まれた ACQUITY QDa 質量検出器により、質量確認へのアクセスがしやすくなります。これによって化学者が、反応が成功したと確信を持って言えるという大きな利点があります。生成されたデータのマススペクトルの解析により、m/z 値が予測化合物に対応していることが分かります(図 4)。
PDA/ACQUITY QDa 検出を搭載した ACQUITY UPLC H-Class PLUS バイナリーシステムを使用することにより、このワークフローでは、目的の反応生成物、反応中間体、副生成物の化合物の分離を、1.2 分の UPLC のサイクル時間で達成できました。
質量検出により、すべての化合物を PDA を使用して簡単に質量確認することができ、同じ注入で追加の UV スペクトル情報が得られます。
このプラットホームを使用すると、専門家でない質量分析ユーザーでも反応モニタリングの進行中に重要な質量スペクトル情報にアクセスすることができ、創薬のプロセスが加速されます。
720007074JA、2020 年 10 月