法中毒学目的のみに使用してください。
このアプリケーションノートでは、ヒト尿中の低レベルの β 遮断薬の包括的なスクリーニングが行え、最小限のサンプル前処理で MRPL を達成できる、UNIFI を用いた法中毒学アプリケーションソリューションの感度および選択性について実証します。
プロプラノロールは、臨床的に成功した最初の β 遮断薬です。この薬は、1960 年代初期に JW Black によって合成され1、狭心症の管理に変革をもたらし、さらに多くの β 遮断薬の開発につながりました。β 遮断薬は、β アドレナリン作動薬の作用を、心筋細胞や他の組織にある β 受容体において競合的に遮断します。これらの β 遮断薬は、主に高血圧、狭心症、不整脈の管理のために合法的に処方され、使用されています。しかし、これらの物質は、心拍数を下げる、血圧を下げる、微細運動技能を改善するなどの目的でアスリートによって乱用される可能性があります。その結果、世界アンチ・ドーピング機構(WADA)の 2014 年の禁止リスト2(カテゴリー P2)に β 遮断薬が含められましたが、禁止範囲はアーチェリー、ゴルフ、射撃などのスポーツに限られています。
最近の液体クロマトグラフィーと質量分析の進歩により、尿中の β 遮断薬の有無を判定するのに役立つ可能性が出てきました。
β 遮断薬であるアセブトロール、アルプレノロール、アテノロール、ブノロール、ビソプロロール、カラゾロール、セリプロロール、レボブノロール、メチプラノロール、メトプロロール、ナドロール、ネビボロール、オクスプレノロール、ピンドロール、ソタロール、チモロール(各 50 µg/mL)を含む混合メタノール標準試料を調製しました。ブランクのヒト尿に混合標準試料をスパイクし、最終濃度を 50、100*、250、500 ng/mL にしました。移動相 A による単純な 5 倍希釈を用いて、注入用の各スパイク尿サンプルを調製しました。
* WADA 認定ラボの最小要求性能限界レベル(MRPL)。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class (FTN) |
分析時間: |
15 分 |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS C18 2.1 × 150 mm、1.8 µm |
バイアル: |
Waters マキシマムリカバリーバイアル |
カラム温度: |
50 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
5 mM ギ酸アンモニウム水溶液(pH 3.0 に調整済み) |
移動相 B: |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル |
グラジエント: |
10 分間で 87 ~ 50% A、さらに 5% A、1.5 分間ホールドしてから 87% A に戻す |
MSE 条件 |
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MS システム: |
Xevo G2-S QTof |
イオン化モード: |
ESI+ |
イオン源温度: |
150 ℃ |
脱溶媒温度: |
400 ℃ |
脱溶媒ガス: |
800 L/時間 |
レファレンス質量: |
ロイシンエンケファリン([M+H]+ = 556.2766) |
取り込み範囲: |
m/z 50 ~ 1000 |
スキャン時間: |
0.1 秒 |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV |
コーン電圧: |
25 V |
コリジョンエネルギー: |
ファンクション 1:6 eV ファンクション 2:10 ~ 40 eV のランプ |
希釈したスパイク済み尿サンプルを注入し、標準 MSE ベースの毒性学スクリーニングを用いてデータを取り込みました3,4。続いて、1,000 を超える毒性学的類縁物質を含む UNIFI 法中毒学ライブラリーを使用して、データを解析しました。定性的同定は、質量精度、保持時間(RT)、および予想フラグメントイオンの有無を組み合わせて行いました。同じ解析ステップで、UNIFI 科学情報システムにより定量データも生成され、表示されます。
UNIFI は、シンプルなワークフローアプローチを使用して、サンプル結果に関してユーザーをガイドします。データは、同定の信頼度に応じて自動的にフィルタリングされてユーザーに提示されるため、分析者によるレビューの必要性が少なくなります。ワークフローは完全にカスタマイズ可能です(使用される可能性のある基準の例を図 1 に示します)。
すべての β 遮断薬がこの試験で検討した最低濃度(50 ng/mL)で正常に同定され、薬物検査「陽性」のユーザー定義基準を満たしています。図 1 ~ 4 に、Review(レビュー)ペインから「シングルクリック」で自動的に表示される、またはユーザーが利用可能になるデータの例を図示しています。
Component Summary(成分サマリー)を選択することで、検出された成分の非常にシンプルなグラフ表示を提供するプロット表示とは対照的に、各同定の完全な詳細を表示することができます(図 2)。これは、質量精度、確認フラグメントイオン、同位体情報など、同定されたピークの主要な特性をまとめた使いやすいテーブルです(この例では、「陽性」基準にマッチした成分のみが示されています)。
特定の成分のプリカーサーイオンおよびすべての高コリジョンエネルギーフラグメントイオンの抽出質量クロマトグラムも、Chromatograms(クロマトグラム)画面(図 2 の左下)のように、必要に応じて表示できます。
さらに詳細な情報を得るには、Spectra(スペクトル)画面で成分の低エネルギースペクトルおよび高エネルギースペクトルを表示します。このビューでは、プリカーサーイオンを一番上のトレースに、検出されたフラグメントイオンを一番下のトレースに示しています。UNIFI では、内蔵の ApexTrack アルゴリズムを利用して、3 次元(3D)クロマトグラフィーピーク検出が改善されています。これによって、よりきれいな質量スペクトルが容易に生成でき、より良好なフラグメントイオンのライブラリー検索が行えます。
スペクトルの表示に加えて、確認用フラグメントイオンデータのサマリーの表示が多くの場合に有用です。また、図 2 の Fragments(フラグメント)テーブルには、アセブトロールの予想フラグメント、検出された各フラグメントに関連する質量誤差、検出されたフラグメント強度の詳細が含まれています。
各成分について得られた同位体パターンは、同定の補助にもなります。図 3 に、硫黄含有化合物であるソタロールの低コリジョンエネルギートレースの質量スペクトルを示します。硫黄の最も存在量が多い安定同位体は、32S と 34S の 2 つであり、これらは 95:4 の比で存在します。UNIFI 内のアルゴリズムを使用して、成分の理論的同位体パターンと実測同位体パターンの間のマッチの程度を示すことができます(低スコアはマッチが良好であることを示します)。この Isotope Match Intensity RMS Percent(同位体マッチ強度 RMS パーセント)列は、追加の確認ポイントとして Component Summary(成分サマリー)テーブルに追加することができます。さらに別の UNIFI アルゴリズムを使用して、各同位体ピークの予想 m/z と実測 m/z の間のマッチのレベルが評価され、結果が Isotope Match Mz RMS PPM(同位体マッチ Mz RMS PPM)に表示されます。この場合も低スコアは、図 2 の Component Summary(成分サマリー)画面の右端の列に示されているように、低スコアはマッチが良好であることを示します。
特に、図 4 では各 β 遮断薬について、各濃度(50、100、250、500 ng/mL)での 3 回繰り返し注入で得られたデータがプロットされたセミ定量プロットを示しています。検量線は、モノアイソトピックプリカーサーイオンピークの 3D 波形解析に由来する値である各分析種のレスポンス値から計算されています。この試験では内部標準を使用していないため、このセミ定量データは装置の代表的なダイナミックレンジのみを示しています。
図 5 に、UNIFI ソフトウェアによって生成された完全にカスタマイズ可能なレポートを示します。このレポートは、このサンプルの同定に関する主な詳細を提供する結果に基づいています。このレポートの一部が図 5 に表示されており、それぞれの同定カテゴリーの Component Plot(成分プロット)および Component Summary(成分サマリー)が示されています。
このアプリケーションノートでは、ヒト尿中の低レベルの β 遮断薬の包括的なスクリーニングが行え、最小限のサンプル前処理で MRPL を達成できる、UNIFI を用いた法中毒学アプリケーションソリューションの感度および選択性について実証します。精密質量 MSE データは複雑ですが、UNIFI ソフトウェアは使いやすく、包括的なデータ分析、解釈、レポート作成が可能になります。このシステムの優れたリニアダイナミックレンジは、自動生成された 4 つのシンプルな検量線プロットにより実証されています。
720005188JA、2014 年 9 月