システム圧への対応
ここまで、充塡剤の微細化とシステム(装置およびカラム)起因のバンド拡散抑制のメリットについて実証しました。UPLCは、システムのバンド拡散が抑制され、短時間で高分離のデータが得られるため、質の高い結果が確保できます。ただし、バンド拡散だけが粒子径の小さい(2μm以下)粒子による性能を決定づけるものではありません。装置の耐圧も大きな役割を果たしています。
圧力は移動相が配管を通る時に発生し、ポンプからインジェクターへ、インジェクターからカラムへ、カラム自身、カラムの後の検出器のセルへ、その全ての流路部で発生します。つまり、システムにかかる圧力は、これら全ての圧力を合算した値になります。流速を上げた場合、単位時間あたりに流れる移動相が多くなるため、より大きい圧力が生じます。また、配管の内径や長さも流速と同様に圧力に影響を及ぼします。装置にかかる圧力をシステム全体(装置+カラム)の圧力から差し引けば、二つのカラム間の背圧差を理論上の予測と照らしあわせて比較することが可能です。
粒子径が小さくなると、粒子径の二乗に反比例する速度で背圧が増加します。また最適な線速度も大きくなります。すなわち、粒子径における最適な線速度での圧力が、粒子径の三乗に反比例する速度で増加するのです(図44)。
図44:カラム長を一定にした場合の最適圧力(ΔPopt)と粒子径(dp)の関係
粒子径を3分の1にすると、圧力は27倍増加。
これは一般的なHPLC装置で微細粒子径のカラムを利用して分離向上や分離を維持したまま分析時間を短縮する場合に大きな制約になります。一般的なHPLC装置の耐圧は350~400bar (5000~6000psi)です。従って、これらの装置で2μm以下の粒子を利用すると殆どの場合最適でないカラム長や線速度で使用しなければならない状況になります。
カラム長を一定にした場合、理論上、粒子径が5.0μmから1.7μmまで小さくなると(粒子径を3分の1に縮小)、カラムにかかる背圧が27倍に増加すると予想されます。理論上の予測とほぼ合致するように、5.0μmカラムから同じ長さの1.7μmカラムに移行させるとシステムの圧力が22倍まで高くなりました。この結果からもわかるように、1.7μmカラムは一般的なHPLC装置の圧力限界より高圧状況下でその性能を発揮します(図45)。
粒子径を小さくすることによって起こる背圧の急激な上昇は、ACQUITY UPLCシステムが登場するまで2μm以下の粒子径カラムが商業的に成功しなかった要因の一つです。
図45:理論値と実測値の比較
粒子径の違いによるカラム背圧への影響。カラムサイズは2.1×50mmで一定、流速:0.2mL/分(5μm)、0.6mL/分(1.7μm)。
分離の目標が、L /dp比を一定にした分離維持での分析時間の短縮であれば、カラム長を一定に維持したまま粒子径の縮小を試みるよりもはるかに圧力の上昇率は小さくなります。圧力の変化はカラム長に比例して下がり、粒子径の二乗に反比例するのです。
図46:異なるカラム長 (L)における最適圧力 (ΔPopt)と粒子径 (dp)の関係
粒子径とカラム長が1/3に減少すると、圧力は9倍に増加。
例えば、理論上ではカラム長と粒子径の両方を1/3にした場合(図46)、背圧が9倍になると予想されます。実際に得られた値は理論上の予測とほぼ一致しており、L/dpを一定に維持(=カラム長150mm/粒子径5.0μmカラムから、カラム長50mm/粒子径1.7μmカラムに移行)すると、背圧が11倍になっているのがわかります(図47)
図47:粒子径、カラム長、最適流速が(総システム圧から差し引いた)カラム背圧に及ぼす影響:L/dp比は一定。UPLC分離では分析時間が約1/8に短縮。
最適流速で測定を行った場合、微細粒子径が生み出す圧力は一般的なHPLCシステムの耐圧上限を超えてしてしまいます。ACQUITY UPLCシステム(圧力上限1030bar、15,000psi)はこれらの圧力に対応できるように設計されており、最適な流速で粒子径2μm以下の粒子を最適条件下で利用することが可能です。
高温分析への適用
粒子径の小さい(2μm以下)粒子によって引き起こされる圧力上昇を回避するための一つの方法として、カラムの温度を上げることがあります。カラム温度が上昇すると、移動相の粘性が低下し、背圧を低下させることができます(流速一定の場合)。ただし、分析種の分子が固定相の細孔に出入りする速度も大きくなるため、さらに流速を上げて性能を維持しなければなりません。
カラム温度を30℃から90℃に上げる場合、流速を上げて効率を維持する必要があります(図48)。クロマトグラフィーの理論において、カラム温度を上げることによって理論段数が向上することはありません。
図48:カラム温度がカラム効率に及ぼす影響
温度により最適流速は変化。サンプル:アミルベンゼン、カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 2.1×100mm、1.7μm、アイソクラティック分析。
理論段数をシステムの圧力に対して作図すると、より興味深い比較を行なうことができます(図49)。この図からカラムの効率はカラム温度に関係なく、ほぼ同じシステム圧の時に最大になることが明確にわかります。これは、粒子径の小さい(2μm以下)粒子を利用する場合、温度を上げて圧力を下げるだけではカラム効率を最大限に引き出せないことを意味しています。言い換えれば、一般的に使われるHPLC装置は極めて小さな粒子径を効果的に使用するには向いていないということです。
図49:システム圧とカラム効率の関係
カラム温度は無関係にほぼ同じ圧力で最高カラム効率が得られた。サンプル:アミルベンゼン、カラム:ACQUITY UPLC BEH C18 2.1×100mm、1.7μm、アイソクラティック分析。
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