アイソクラティック分離やフォーカスグラジエントでは目的化合物を十分に分離できない場合、溶媒、pH、固定相、温度を変更して分離条件を修正することができます。このような修正は分離に大きな影響を与えることがあるため、以上のような変更のいずれかを行った場合にはスカウティンググラジエントの後に分析法最適化を実施する必要があります。
HPLC移動相は、弱溶媒、強溶媒および添加剤という3つの成分で構成されます。溶媒は高純度で、検出器と適合性があり、サンプルとの反応性がなく、システム背圧を低く保つために粘性が低くなければなりません。
逆相クロマトグラフィーでは、弱溶媒はほとんどの場合で水であり、アセトニトリルやメタノールは粘性が低く、UVの低波長領域で有利にはたらくため強溶媒として一般的に使用されています。また、アセトニトリルとメタノールは、良好なピーク形状を提供し、分離後簡単に揮発させることができ、ほとんどのサンプルと反応しない傾向にあります。
クロマトグラフィー分離で使用されるあらゆる溶媒と同じく、サンプル分析中は検出波長が溶媒のUVカットオフ波長を上回っていることが重要です。この波長を下回ると、検出器は溶媒組成の変化をベースラインドリフトまたはその他のクロマトグラフィーの乱れとして記録します。
移動相: |
UVカットオフ波長 |
水 |
200 nm |
アセトニトリル |
190 nm |
メタノール |
205 nm |
エタノール |
210 nm |
1-プロパノール |
210 nm |
2-プロパノール |
205 nm |
表2. 一般的なクロマトグラフィー溶媒およびUVカットオフ波長
分離で使用される強溶媒により、分離とピーク順序が変化することがあります。目的化合物で最高の分離能を達成する溶媒を予測するのは難しいため、多くの場合、強溶媒の選択は試行錯誤して決定されます。オプションとして、目的の溶出順序や分離能を達成するため、50:50のアセトニトリル/メタノールなど複数の強溶媒を混合することができます。
移動相pHは、逆相分離の保持を制御する上で非常に重要な変数です。化合物には多くの場合、1つまたは複数の酸性または塩基性の官能基が含まれているため、ほとんどの逆相移動相ではpHの調整が必要です。
酸は、そのpKaよりもpH値を2以上、あるいは2以下の場合、99%以上がそれぞれ解離または非解離することになります。一方で、塩基はそれぞれのpKa未満で解離し、それぞれのpKaを超えると非解離となります。分子型は極性が低くなり(疎水性の上昇)、そのため逆相システムにより強力に保持されます。その結果、酸はpHが低いとよく保持され、塩基はpHが高いとよく保持されます4。
図10. 分析種保持に対する移動相pHの影響。ほとんどの頑健な分離では、保持マップのプラトー領域に相当する移動相pHを選びます。酸および塩基の分子型が最も高く保持され、中性分析種の保持はpHによる影響を受けません。
移動相pHが目的化合物のpKaに近い場合、pHの小さな変化が保持に大きな変化をもたらし、分離の頑健性に直接影響を与えます。移動相のpHはバッファーの添加により調整します。バッファーは、少量の酸や塩基が添加された際にpHを保ちます。それぞれのpKaのpH値±1以内で使用する場合に最も効果的ですが、pKaからpH値±2で十分な緩衝作用が得られます。
図11. 化合物選択性とpHの比較。溶出順序は酸化合物および塩基化合物の解離に基づいて劇的に変化しますが、中性化合物は影響を受けません。
分析で使用するpHを選択する際には、カラムの安定性も考慮に入れる必要があります。シリカベースのカラムはpH2~8の範囲で最適に機能します。結合相はpHが低いと加水分解の影響を受けやすく、pHが高いとシリカ骨格の溶解性が高まります。pHが8を超えると、シリカ以外をベースとするパーティクル、つまり高pHでの安定性のために特別に化学修飾された固定相を持つパーティクルが必要になります。pH限界値および一般的な取り扱い上の注意はカラムの取扱説明書または各カラムメーカーのウェブサイトで確認してください。
図12. ウォーターズのCharged Surface Hybrid(CSH)パーティクルをベースとした化学修飾型固定相の例および推奨pH範囲
クロマトグラフィー法が分取目的で使用される場合、分取後の除去を容易にするため、pH調製に使用されるバッファー添加剤は十分な揮発性がなければなりません。また、揮発性添加物を使用する場合には、MSソースの汚染や析出を回避するために注意しなければなりません。ギ酸、酢酸、酢酸アンモニウムなどの一般的な添加剤は、移動相に溶解させた場合、0.05~0.1%の濃度で良好な性能を発揮します。液体クロマトグラフィー分離で最もよく使用されている添加剤であるリン酸は、分取やMSアプリケーションでは推奨されません。
バッファー濃度は5~10mMの範囲が推奨されます。バッファーを使用している時には、調製後にバッファーをろ過し、使用していない時にはポンプラインを洗浄してライン内の析出を予防し、微生物の増殖の蓄積を予防するために定期的に溶液を交換することが重要です。
図13. 移動相バッファー選択ガイドおよびMS適合性
カラム固定相は分離に非常に大きな影響を与えます。逆相の固定相はC18からC8の範囲にあるか、選択性と分離能力を高めるために化学修飾型固定相が用いられることがあります。多くのラボでは手持ちのカラムが限られているため、溶媒とpHで十分な分離能が得られない場合には、最終手段として固定相の交換がよく行われます。ウォーターズの逆相カラム選択性チャート(www.waters.com/selectivitychart)では、さまざまなカラムメーカーのカラム選択性を比較できます。このツールは、初期の分析法開発においてカラム選択性を比較するのに非常に有用です。
図14. www.waters.com/selectivitychartのウェブツールボックスで利用可能な
Waters逆相カラム選択性チャート
カラム長は、分離性能における1つの因子です。カラムは25mm、50mm、100mm、150mm、250mmなどさまざまな長さがあります。短いカラムは理論段数が低いものの迅速な分離に適しており、長いカラムは理論段数が高い一方、保持時間が長くなります。カラムが長くなると、背圧、実行時間、溶媒消費量、およびコストが比例して増加するため、十分な分離能が得られる最も短いカラムが最適な選択肢です。
図15. カラム長の違いによる分離能の比較。100mmのカラムではメインのピークとその直前の不純物ピークとの分離が改善されていることを確認できます。カラム長が長くなると、稼動時間も長くなります³。
サンプルが充塡ベッドを通過する際のサンプルバンドの拡散や広がりに対抗するカラムの能力は「効率」と呼ばれます。粒子径が小さいと、パーティクル内でのピーク拡散が小さくなるため、効率が高くなります。高い効率は狭いピーク幅と高い分離能力をもたらします。
分取カラムの粒子径は通常、5~10µmの範囲で、分析スケールの超高圧分離では1.7~3.5µmの粒子径が使用されます。非常に小さな粒子径では高い効率が得られますが、その代償としてカラムの費用とシステム背圧が高くなります。これらの理由から、クルードサンプルを高流量で送液する大きなスケール向けとして非常に小さな粒子径を充塡した分取カラムはほとんど提供されていません。
温度の変化は選択性に影響を与えるため、温度調節は特定サンプルの分離を最適化するための便利なツールです。移動相の粘性およびシステム圧は温度の上昇により低下し、その結果、システム、フィッティング、およびカラムへの負担が軽減し、最終的には操作の堅牢性が向上します。また、温度は保持時間と分離の選択性を変化させます。温度変化がピーク分離能を向上させるか低下させるかを予測するのは難しいため、温度の有用性は特定の分離ごとに異なります。
温度調節は小スケールのクロマトグラフィーでは日常的に実施されていますが、分取クロマトグラフィーではほとんど利用されていません。まず、直径の大きなカラムは外部から均一に加温することが難しくなります。次に、大スケールで使用される高流量分離は使用する移動相溶媒の温度下で実行される傾向にあります。電気ブランケットおよびカラムオーブンは、小スケールの分離には十分であるものの、大きなカラムを直径にわたり均一に加温することはできません。その結果、カラム直径にわたり温度差が生じ、クロマトグラフィーに悪影響を与えます。
サンプル溶解度を維持するために温度管理が必要な場合、カラムヘッド部に1本の長いチューブを接続した状態で分取カラムを加温した恒温槽に置くことで温度差を解消することができます。このチューブは移動相溶媒を目的の温度で平衡化するプレヒーターの役割があります5。将来的なスケールアップを目的とするクロマトグラフィーは、周囲条件下で開発するのが最適であり、温度調節は最終手段として用います。
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