ウォーターズは、技術的スキルによって成功するかどうかが左右されていた手動作業の多い分析プロセスを、自動化された統合システムソリューションに置き換えました。このシステムが持つ、ナノスケールからマイクロスケールのUPLC分離能と高分解能 MSE 質量分析の力を十分に活かして、タンパク質医薬品のダイナミクス、コンフォメーション、相互作用に関する、次のような重要な疑問を解明できます。
- エピトープマッピング
- タンパク質と薬剤の結合
- タンパク質-タンパク質相互作用
- 凝集
- タンパク質のコンフォメーションとダイナミクスに対する変異の影響
- 製剤化および安定性試験の結果として生じるコンフォメーション変化の局所化
ウォーターズのみが、HDX MS研究向けの完全なシステムを提供しています。このシステムには、HDXテクノロジーを搭載したACQUITY UPLC M-Class、Xevo G2-XS QTof をはじめとするウォーターズの質量分析計、HDX アプリケーション専用ソフトウェアである DynamX が含まれます。
システム
この前例のないシステムレベルの設計により、タンパク質の構造研究を、正確かつ再現性高く、さらに容易に行うための手順がすべて統合されます。ウォーターズのHDX MSシステムによって、高分解能 LC と MS を使用してタンパク質のコンフォメーション変化をルーチン的に研究する際の障壁がなくなり、HDXがラボの主要な装置となります。
HDXテクノロジー搭載ACQUITY UPLC® M-Class
システムの中心となるのは HDX マネージャ です。サンプルを0℃で管理し、重水素化での回収率で妥協しないため、高圧条件で目的に適うよう管理された状態でサンプル分離を行います。改良されたクロマトグラフィー分離技術が、Xevo G2-S QTof システム、 SYNAPT G2-Si HDMS システムのような最新の質量分析計に組み合わされています。また、トラップ機能を備えたオンラインのタンパク質消化機能と、ペプシン消化物が複雑に存在する混合液を最大限にカバーする MSE テクノロジー も統合されています。
Enzymate™ オンライン消化カラム
機械強度の強いBEH 粒子にペプシンを固定したカラムである Enzymate BEH Pepsin Column (2.1 x 30 mm, 5 µm) は、15,000 psiで使用可能で、低圧の場合も高圧の場合も消化効率が向上しています。
HDX Phosphorylase B 確認用スタンダード
消化および試験系の分離確認のために用います。
質量分析計
UPLC/MS HDX のワークフローでは、クロマトグラフィーおよび質量による分離に加えて、イオンモビリティー分離(IMS)を用いることもできます。重なり合うイオンをIMSによって分離、DynamX HDX ソフトウェアで表示できます。
DynamX データ解析用ソフトウェア v 3.0
HDX研究では、データが複数の時点、複数の種類、そして繰り返し測定されます。大量のデータを手作業で扱うことは時間の浪費であり、専門的な解釈をする能力も必要とされます。データの解釈は、スペクトルの数値化を伴う繰り返し作業となります。
DynamXソフトウェアは、事前に定義された条件で体系的にスペクトルを抽出し、重水素化による質量のシフトを測定するように設計されています。ソフトウェアによる解析の自動化は、UPLCを用いることで得られるシャープなピークと良好な分離を確保すること、さらにMSE 検出による網羅性によって、大幅に単純化されています。データのソートと表示が可能になったことに加え、この自動化が重要な進化と言えます。
DynamXでは、重水素交換のモニタリングの一貫性を確証するために、繰り返し測定によって再現性良く検出された全てのペプチドをトラックします。ソフトウェアでは、重水素化した量の数値化と結果の比較がしやすいように、取り込み曲線、バタフライチャート、差分チャートの表示まで行います。手作業で何カ月もかかっていたデータ解析が、自動化することで数時間へと大幅に短縮されます。
DynamX ソフトウェアは、タンパク質のコンフォメーションの変化を迅速に評価するのを助けます。すなわち、以下のようなタスクを行うことで、水素-重水素交換の解釈をシンプルに行います:
- 実験中の疑問に対してペプチドのリストを作成するための、ProteinLynx Global SERVER™ (PLGS)による検索結果のまとめ
- 各ペプチドにイオンを帰属するための質量分析計で得られたデータの解析
- 重水素取り込みの自動解析
- 繰り返し分析のデータおよび実験状況のまとめ
- 解釈を容易にするためのデータの視覚化
- 容易なデータ取り扱いおよび必要に応じた結果の編集
HDXの原理
水素-重水素交換 (HDX) MSは、低分子医薬品のターゲットタンパク質への結合を理解するほか、エピトープマッピングを行うなど、多くのアプリケーションに活用できます。 この技術では、溶液中の重水素が生体分子の中心となっているアミド水素と置換した時の質量の変化を検出します。その結果、タンパク質の構造情報を明らかにすることができます。
水素重水素交換の基本原理
溶液中での生体分子の中心となっているアミド水素の重水素溶液中での置換の一部は、立体構造によって、その速度が異なります。この変化は質量分析計によって測定することができ、サイトごとに変化の度合いが異なることが推測されています。この部位は、一次配列に対して同定およびマッピングされることで、視覚的に分かりやすくなっています。構造の折りたたみとダイナミクスの相関は、部位による取り込み速度の違いによって判断できます。
詳細は、BioPharm Internationalの "Performing Hydrogen/Deuterium Exchange with Mass Spectrometry" をご確認ください。
UPLC/MSE による、より良好なカバレッジ
MSE によるデータ取り込みを行うことは、網羅的なデータセットが得られることを意味します。全てのペプチドが、シグナル強度によるバイアスを受けずに測定されるということです。これは、強度の低いペプチドから重要な情報が得られることのあるHDX 研究において重要な機能です。
質量分析計を用いて、タンパク質同士の構造の違い、あるいはタンパク質内の位置と重水素取り込みの相関に関する情報を提供することで、HDXが生体分子のダイナミクス研究への新たな扉を開きます。近年の質量分析計と統合されたHDX の開発により、 バイオ医薬品の高次構造(higher order structure、HOS)のダイナミクス研究が行い易くなりました。
業界および法規制の動向としては、明らかに、生体分子の立体構造や生体分子同士の関係性が重視される方向にあります。このことからも、HDXはバイオ医薬品分析に急速に浸透し、主要なツールとなるに違いありません。