化合物の同定および定量

( 図H:) では、3つの染料が、クロマトグラム上分離された3つのピークとして表されています。各成分は、注入の瞬間(時間ゼロ)とピーク最大の溶出が起きた時点の時間との間で測定される特定の保持時間に溶出しています。同じクロマトグラフィーシステム(同じ移動相と固定相を用いる)において、各ピークの保持時間(tR)を、注入された参考基準のピークと比較することによって、クロマトグラファーは、それぞれの化合物を同定することが可能です。

 

図Ⅰ-1:同定

 

図Ⅰ-1に示したクロマトグラムでは、あるLCシステム条件において、分析対象物であるアクリルアミドはカラムから2.85分(保持時間)で分離、溶出することになります。アクリルアミドを含んだ新しいサンプルが、同じ条件下でLCシステムに注入された場合はいつでもピークは2.85分(図Ⅰ-2のBを参照してください)に出現することになります。このことは分析者(クロムマトグラファー)にとって知るところです。

(なぜ化合物によって移動速度が異なり、保持時間に差が生じるのか、より理解を深めるには、HPLC分離モードのセクションの28ページを参照してください。)

ひとたび同定されると、次に重要となる情報は、それぞれの化合物がサンプルの中に、どれだけの量が存在するかということです。検出器から得られるクロマトグラムと関連するデータは、それぞれの化合物の濃度を計算するのに役立ちます。検出器は基本的に、化合物がフローセルを通り抜ける、化合物の濃度に反応します。濃度が大きくなるほど、シグナルは強くなります。このことは、ベースライン上に、より大きなピークの高さとして現れます。

 

図Ⅰ-2:同定と定量

 

図Ⅰ-2では、サンプルAとBのクロマトグラムを、同じタイムスケールで重ねたものです。同じ量のサンプルが、AとBの双方で注入されています。どちらのクロマトグラムも2.85分の保持時間(tR)にピークが出現しており、各々のサンプルがアクリルアミドを含んでいることを示しています。しかし、サンプルAに表示されたアクリルアミドのピークは、Bよりはるかに大きいことがわかります。ピークの面積は、測定された化合物の濃度を表します。この面積値は積分され、データ処理システムによって、自動計算されます。今回の例では、サンプルAのアクリルアミドのピーク面積値は、サンプルBのピーク面積値の10倍に相当します。標準品を用いて、サンプルAには10ピコグラムのアクリルアミドが含まれると定量することが可能です。そして、その量は、サンプルB(1ピコグラム)の10倍です。また、両方のサンプルで、1.8分に表示されているもう1つのピーク(同定されない)があることに注意してください。両方のサンプルに見られる、このピークの面積値がほぼ同じであることから、この未知の化合物の濃度は同じであることが想像できます。

アイソクラティックおよびグラジエントLCシステムの操作
LCでは、基本となる2つのモードが用いられます。1つはアイソクラティック溶出と呼ばれます。このモードでは、移動相(単一溶媒もしくは混合溶媒)は、送液が行われている間中、組成は変化せず、同じままです。一般的なシステムを図J-1に概説しました。

 

図 J-1: アイソクラティック LC システム

 

もうひとつはグラジエント溶出と呼ばれます。そこで、この名前が意味するように、移動相の組成は、分離の間に変化します。このモードは、分離において極性が広範囲にわたる化合物を含むサンプルに有効です(HPLC分離モードのセクションを参照してください)。分離が進むにつれ、より強く保持されているサンプルの成分を溶出させるため、移動相の溶出力が上げられます。

 

Figure J-2: 高圧グラジエントシステム

 

図J-2に示したのは、2つの溶媒ボトルと2台のポンプを備えた、最もシンプルなシステムのケースです。それぞれのポンプの流速は、成分が分離される間、グラジエントコントローラによって管理されます。2台のポンプから供給される流れは、時間の経過とともに、カラムに送液される実際の移動相組成を作成するため、ミキサーで混合されます。始めに、移動相には、より溶出力の弱い溶媒(溶媒A)が高い比率で含まれます。時間が経つにつれ、プログラムされたタイムテーブルに従って、より溶出力の強い溶媒(溶媒B)の比率が増加します。なお、図J-2にあるように、ミキサーはポンプの後についているため、グラジエントは高圧条件下で作成されることを確認してください。一方、他のLCシステムは、低圧の条件下で、1台のポンプの前で溶媒の複数の流れを混合するように設計されています。時間の経過とともに、グラジエントプロポーショニングバルブは、4つの溶媒ボトルから溶媒を選択し、溶媒の溶出力の強さを変化させていきます(図J-3を参照してください)。

 


Figure J-3: 低圧グラジエントシステム

 

LCのスケール (分析、分取、およびプロセス )

私たちはこれまでにHPLCがどのように、サンプルの中に存在する化合物を同定し、定量するのに使用できる分析データを提供するのかということについて述べてきました。しかしながら、HPLCはまた、検出器のフローセルの後に設置したフラクションコレクタを使用して、それぞれの化合物について、必要な量を精製して収集することも可能です。このプロセスは分取クロマトグラフィーと呼ばれます(図Kを参照してください)。

分取クロマトグラフィーでは、研究者は、個々の成分がカラムから溶出した際、それらを収集することが可能です。(この例では、黄色、赤、青)。

 

Figure K: 精製を行うHPLC システム : 分取クロマトグラフィー

指定された時間の間、フラクションコレクタは、その時点で精製された成分を含む溶媒を選択的に収集します。それぞれが、ただ1つの成分ピークを集めるよう、各試験管に移動します。

研究者は、純度のレベルと量について、目標を決定します。サンプルの複雑さと性質に関する情報と、目的とする成分の濃度に関する情報が、マトリクス構成成分の特性と結びつき、続いて、処理する必要があるサンプルの量と、LCシステムが必要とするスケールを決定します。一般的に、サンプル量が大きくなるに伴い、HPLCカラムのサイズは大きくなります。また、それによって、高流速での送液に対応するポンプが必要になります。LCシステムの規模を決定することが必要となります。表Aには、さまざまなHPLCのスケールと、それらのクロマトグラフの目的を記載しました。


表A : クロマトグラフィーのスケール

 

HPLCの固定相と移動相の組み合わせにより選択性を最大化することでスケールアップの必要条件を満たします(HPLCの分離モードに関する議論のセクションを参照してください)。容量は注入量に併せたカラムボリューム(Vc)へのスケーリングおよび適切な粒子径の選択が問題となります(背圧とカラム効率をを決定します。分離能に関するセクションを参照してください)。カラム容量(ベッドの長さ(L)と内径(i.d.)の関数)は、充てん可能な充てん剤の量(パーティクル)を決定します(図Lを参照してください)。

 

Figure L: HPLC Column Dimensions

 

一般的なカラムのサイズは、長さ(L)20mmから500mm、また、内径(i.d.)は1mmから100mmです。クロマトグラフィーのスケールがアップするのに伴って、カラムのサイズ、特に断面積は大きくなります。スループットを最適化するには、移動相の流量は断面積に比例して増加させなくてはなりません。分離能を上げるためにより小さい粒子径が望ましいのであれば、高背圧条件下で移動相を高流速で送液することに耐えられるようにポンプが設計されていなくてはなりません。表Bでは、クロマトグラフィーのスケールごとに、推奨するカラムの内径(i.d.)と粒子径の範囲を選択する際の簡単なガイドラインを記載しています。

例えば、セミ分取スケールアプリケーション(赤のx)では、5~15ミクロンの粒子径、内径10~40mmのカラムの使用を推奨しています。カラムの長さは、各分析あたりどのくらいの量の化合物が精製される必要があるのか、またどの程度の分離能が必要なのかに基づいて決定します。

 

表B:クロマトグラフィーのスケールvs.カラムのサイズおよび粒子径

 

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