• アプリケーションノート

多重反射飛行時間型 MS:詳細な mAb のサブユニット特性解析のための新規技術

多重反射飛行時間型 MS:詳細な mAb のサブユニット特性解析のための新規技術

  • Jonathan Fox
  • Ying Qing Yu
  • Scott J. Berger
  • Nick Pittman
  • Waters Corporation

Application Brief

This is an Application Brief and does not contain a detailed Experimental section.

要約

このテクノロジーブリーフでは、NIST レファレンス mAb 標準試料に由来する mAb のサブユニットの分析に、Xevo™ 多重反射型飛行時間(MRT)質量分析計と組み合わせた ACQUITY™ Premier UPLC システムを使用するメリットについて説明します。waters_connect™ ソフトウェアプラットフォーム内の Waters INTACT Mass™ アプリを使用してデータを解析し、各サブユニットに局在するプロダクトバリアントに関する包括的な情報が得られました。得られた結果により、Xevo MRT MS プラットフォームの高い感度、高い質量分解能、一貫した ppm 以下の質量精度、並びに waters_connect インフォマティクスプラットフォームの INTACT Mass アプリケーションを使用した統合されたデータの取り込み、解析、レビューの機能が浮き彫りになっています。

アプリケーションのメリット

  • 高レベルの感度およびダイナミックレンジと、低 ppm から ppm 以下の範囲の質量精度でサブユニットのデータを生成する機能により、詳細な mAb サブユニットの特性解析、およびわずかな差や修飾の検出が可能に
  • 優れたデータの再現性により、統計的比較が容易になり、製品およびプロセスのばらつきの確実な解釈と、製品の互換性の評価が可能に
  • コンプライアンス対応のアプリベースの統合されたワークフローにより、サブユニットデータの取り込み、解析、レビューが合理化し、組織内のより多くの人がサブユニットベースの LC-MS 分析に成功できるようになり、熟練するのに必要なトレーニングが最小限に
  • 自動ピーク検出、デコンボリューション、質量確認、純度分析の計算を組み合わせた効率的なデータ分析ワークフローにより、データレビューに費やす時間が低減し、データの転記や手動計算のミスによる問題が減って、よりハイスループットな分析が可能に

はじめに

モノクローナル抗体のサブユニットベースの分析が、特性解析および製品のばらつきのモニタリングに用いる分析ツールとして注目されています。サブユニットは通常、ペプチドマッピングと比較して、LC-MS 分析の前に必要なサンプル前処理がはるかにシンプルであり、150 kD の mAb をほぼ 25 kD のサブユニットに分割することで、インタクト mAb 分析と比較してより低いレベルの製品のばらつきを明らかにすることができます。

Xevo MRT 質量分析計システムは、その新規の検出器形状と装置設計により、mAb のサブユニット分析において優れた感度、ダイナミックレンジ、質量分解能、質量精度を実現します。この Q-Tof システムには、新規の多重反射飛行時間型設計が組み込まれており、イオンの飛行経路を効果的に拡張することができるため、広い m/z 取り込み領域にわたって、スキャンレートに関係なく最大 100K の質量分解能が一貫して得られます。デュアルゲイン ADC 検出システムにより、生体分子の分析において、高い感度と広いダイナミックレンジが得られると同時に、ppm 以下から低 ppm の質量精度が得られます。この高い分解能、感度、質量精度の組み合わせにより、バイオ医薬品の構造と機能の理解に不可欠な詳細なタンパク質特性解析の分析が可能になります。Xevo MRT 質量分析計システムは、さまざまな N 末端プロセシング、グリコシル化、酸化から生じるような、複雑で低強度のタンパク質バリアントを検出し、特性解析することができます。これらのバリアントは、バイオ医薬品の有効性、安定性、安全性に大きな影響を及ぼす可能性があります。

この試験では、収集したデータを waters_connect INTACT Mass アプリケーションを使用して解析し、これにより、個々の mAb サブユニットのプロダクトのアイデンティティーとプロファイルのばらつきを確認することができました。Xevo MRT 質量分析計システムは、初期の特性解析試験においてバイオ医薬品の分子組成に関する詳細な情報を提供することで、後期開発段階において同じアプローチを使用して最終製品の一貫性と安定性を確保し、バイオ医薬品の商品化に向けてその品質と一貫性を確保するのに役立ちます1,2

ACQUITY Premier UPLC および Xevo MRT 質量分析計システム
図 1.ACQUITY Premier UPLC および Xevo MRT 質量分析計システム。生物製剤やバイオ医薬品の高性能分析用に設計されたマルチリフレクトロン MS。

実験方法

サンプル

Waters mAb(NIST mAb)サブユニットスタンダード(バイアル中 25 µg、ウォーターズ製品番号:186008927)は、100 µL Milli-Q 水を加えて濃度 250 ng/µL に調製しました。

Waters mAb サブユニットスタンダード 250 ng の 10 回繰り返し注入を、waters_connect INTACT Mass アプリを使用して取り込み、解析しました。自動クロマトグラフィーピーク選択およびスペクトルデコンボリューションを使用することで、質量確認、不純物プロファイリング、純度評価を効率的に行えました。

サブユニット分子種の理論上の質量を以下に示します。

理論上の質量テーブル

720008755en-1

分析条件

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Premier UPLC システム(バイナリー)

検出:

UV 280 nm

バイアル:

TruView LCMS 品質保証 12 × 32 mm スクリューネックバイアル、トータルリカバリー、キャップおよびスリット入り PTFE/シリコンセプタム付き(製品番号:186005663CV)

カラム:

ACQUITY Premier Protein BEH C4、300 Å、1.7 µm 2.1 mm × 50 mm(製品番号:186010326)

カラム温度:

60.0 ℃

サンプル温度:

6.0 ℃

注入量:

1 µL

流量:

0.400 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸含有アセトニトリル

グラジエントテーブル

グラジエントテーブル

MS 条件

MS システム:

Xevo MRT 質量分析計

モード:

MS

質量範囲:

m/z 400 ~ 4000

極性:

ポジティブ

スキャンレート:

1 Hz

コーン電圧:

40 V

コーンガス:

0 L/時間

イオン源温度:

120 ℃

脱溶媒温度:

500 ℃

脱溶媒ガス:

800 L/時間

キャピラリー電圧:

3.00 kV

結果および考察

モノクローナル抗体(mAb)分析において、mAb サブユニット分析には、ペプチドマッピングに比べていくつかの利点があります。このアプリケーションでは、サンプル前処理のステップが少ないより迅速で簡単なワークフローを用いることで、分析するサンプルにおける一貫性が得られます。また、ドメインレベルで複数の特性を同時に特性解析できるため、抗体の特性解析および製品品質モニタリング用の重要なツールになっています。この試験では、NIST mAb レファレンス標準試料に由来する Waters サブユニットスタンダードに関するデータを ACQUITY Premier UPLC-Xevo MRT 質量分析計システムで取り込み、ワークフロー全体のパフォーマンスを評価し、質量精度、質量分解能、感度に関する特定の装置機能を報告しています。図 2 ~ 5 に、IdeS 消化サブユニットのクロマトグラフィー分離(図 2)、および生データ(図 3 と 4)と解析済みデータ(図 5)を示します。これらから、システムのパフォーマンス、およびこのルーチン mAb 特性解析アプローチの利点の概要がわかります。

還元サブユニットの RP LC-MS クロマトグラフィー分離
図 2.詳細な分析および分離された各サブユニットのプロダクトバリアントの割り当てができた、還元 IdeS NIST mAb サブユニットの RP LC-MS クロマトグラフィー分離。
各 IdeS 消化 NIST の合計生 m/z スペクトル
図 3.各ピークが連続する荷電状態に対応する荷電状態エンベロープが見られる各 IdeS 消化 NIST mAb サブユニットの合計生 m/z スペクトル。mAb HC の一群のグリコフォームが scFc フラグメントに位置特定され、各荷電状態が視覚的にわかります。
高分解能 MS データにより、同位体分解されたスペクトルが観察されます
図 4.高分解能 MS データにより、各 25 kD サブユニットの荷電状態の同位体分解されたスペクトルが得られ、荷電状態 26+ と 12+ が見らます。25 kD サブユニットの少数のモノアイソトピックピークは、生データではあまりよく見られませんが、電荷デコンボリューションアルゴリズムによって、それぞれの特定の荷電状態の同位体ピークの体系的な間隔が認識され、サブユニットの実測モノアイソトピック質量や平均質量が返されています。
各 mAb IdeS の BayesSpray デコンボリューションスペクトル
図 5.waters_connect INTACT Mass アプリ内の Auto Deconvolution(自動デコンボリューション)設定を使用して生成された、各 mAb IdeS 消化サブユニットの BayesSpray デコンボリューションスペクトル。グリコシル化 Fc/2 分子種を含むすべてのサブユニット分子種で、デコンボリューション済み平均質量誤差が +/- 2 ppm 未満(多くは ppm 以下)でした。

waters_connect INTACT Mass アプリを使用すると、さまざまな種類の生体分子の質量確認および純度評価のプロセスを自動化することができます。

IdeS 消化 NIST mAb サブユニットの自動 INTACT Mass アプリ LC-MS 分析の出力は、BayesSpray デコンボリューションアルゴリズムを使用して作成されたものです。解析済みデータは、INTACT Mass アプリのデータレビュー画面に図 6 のように表示されます。Xevo MRT 質量分析計ベースの分析によって、間隔が狭い糖鎖ピークを区別できるようになり、感度の向上により、すべての糖鎖バリアントにわたって一貫した質量誤差で、低存在量の糖鎖バリアントの検出が可能になります。

INTACT Mass でデコンボリューションされた IdeS 消化
図 6.単一の NIST mAb IdeS サブユニットサンプルの分析で得られた、INTACT Mass でデコンボリューションされた IdeS 消化サブユニットの結果。

サブユニットの 10 回繰り返し注入で得られたクロマトグラフィー TIC レスポンスクロマトグラム(図 7)により、繰り返し注入全体にわたって一貫した UPLC クロマトグラフィーと一貫した LC-MS 検出レスポンスが重なり合っていることがわかります。このことは、個々のサンプルの確実な評価だけでなく、アッセイのパフォーマンスの期待値の設定、複数のバッチや製造プロセスの同等性試験の支援においても重要です。

この一貫性は、25 kDa Fd' サブユニットのデコンボリューションした質量スペクトル結果のデータの分析でも明らかで、今回は最適化されたデコンボリューションパラメーター(元素組成を最適化)を使用して、測定されたサブユニット質量をさらに調整しています。結果は、平均質量誤差が約 220 ppb、平均二乗平方根(RMS)誤差が 320 ppb であることを示しています(図 8)。これらの結果は、これらのシンプルなアッセイ条件において、このタンパク質サブユニットの質量分析測定の精度と再現性が高いことを裏付けています。

最後に、消化済み Fc サブユニットの低強度の 2 つのグリコフォームのデコンボリューション質量スペクトルのレスポンスデータ(図 9)も同様に、10 回繰り返し注入にわたってグリコフォームの相対定量が一貫していることを示しています。

10 回繰り返した NIST mAb の TIC クロマトグラムの重ね描き
図 7.10 回繰り返した NIST mAb IdeS 消化サブユニット LC-MS 分析の TIC クロマトグラムの重ね描き。LC での保持と MS 検出器のレスポンスが一貫していることを示します。
25 kD Fd' サブユニットのデコンボリューション質量を測定しました
図 8.IdeS 消化 NIST レファレンス mAb サンプルの 10 回繰り返し注入から、25 kD Fd' サブユニットのデコンボリューション質量を、最適化されたデコンボリューション設定(元素組成を指定)を使用して測定したところ、平均質量誤差は約 220 ppb(RMS 誤差 320 ppb)で、相対存在量は約 77%、10 回繰り返し分析にわたるデコンボリューションした成分強度の標準偏差は 1% になりました。
Fc の 2 つの低存在量の相対存在量(%)
図 9.10 回繰り返し注入にわたる Fc の 2 つの低存在量グリコフォームの相対存在量(%)。

結論

サブユニットベースの分析により、初期の特性解析ならびに製品開発・プロセス開発をサポートする継続分析の両方において、モノクローナル抗体の製品のばらつきに関する重要な情報が得られます。サブユニットベースの分析における Xevo MRT 質量分析計の機能には、サブユニットバリアントの荷電状態の幅広い m/z 範囲にわたり、何桁にも広がる MS レスポンスにおいて、一貫した性能(分解能、質量精度)を維持する機能が含まれます。このシステムの高い感度と ppm 以下から低 ppm の質量精度により、低存在量の修飾の確実な割り当てが可能になり、その測定の一貫性により、分析法の性能の統計的バリデーションが可能になるとともに、複数バッチの品質とプロセス開発の QbD 試験が容易に行えます。

この卓越した MS 検出性能は、waters_connect INTACT Mass アプリ内での合理化されたコンプライアンス対応の自動ワークフローにより補完され、これによって、個々のサンプルから取り込まれたサブユニットデータの取り込み、解析、レビュー、レポート作成が統合されて、より大きなサンプルセットにわたってまとめられました。

全体として、Xevo MRT 質量分析計システムでの mAb サブユニットベースの分析は、スプレッドシートや他のサードパーティ製ソフトウェアツールを使用した手動でのデータ解析/レポートに伴う複雑さを避けつつ、バイオ医薬品の分析者が、バイオ医薬品の開発と販売に関して確実な意思決定を行える、頑健で効率的なプラットフォームであることが実証されました。

参考文献

  1. Xevo MRT | Multi Reflecting Time of Flight Mass Spectrometer | Waters.
  2. Lisa Reid, Matthew E. Daly, Lee A. Gethings, Jayne Kirk. Metabolomics Workflow using a Xevo™ MRT Mass Spectrometer. Waters Application Note, 720008552, October 2024.
  3. https://www.waters.com/nextgen/global/applications/biopharma-and-pharma/protein-therapies/intact-and-subunit-protein-analysis-solutions.html.
  4. Henry Shion, Patrick Boyce, Scott J. Berger, Ying Qing Yu. INTACT Mass™ - a Versatile waters_connect™ Application for Rapid Mass Confirmation and Purity Assessment of Biotherapeutics. Waters Application Note, 720007547, February 2022.

720008755JA、2025 年 3 月

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