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DESI XS および Xevo™ TQ Absolute XR システムを用いた高性能 DESI MSI:組織切片中の低分子を対象とした高感度・高選択性イメージング

DESI XS および Xevo™ TQ Absolute XR システムを用いた高性能 DESI MSI:組織切片中の低分子を対象とした高感度・高選択性イメージング

Emmanuelle Claude

Waters Corporation(英国 Wilmslow)

公開日:2025年9月23日


要旨

DESI MSI(脱離エレクトロスプレーイオン化質量分析イメージング)は、最小限のサンプル前処理で、特にリン脂質をはじめとする低分子を組織切片から直接イオン化・イメージングできる強力な手法として注目されている。高い空間分解能での MSI 測定では取得時間が比較的長くなるため、システムの安定性および堅牢性が極めて重要となる。

本研究では、極めて安定した溶媒送液を実現する ACQUITY™ µBSM Binary Pump、スプレーの安定性を確保する High Performance Sprayer(HPS)、および Xevo TQ Absolute XR に搭載された DESI XS を組み合わせ、げっ歯類脳組織切片中の脂質および内因性低分子代謝物を対象とした、高感度かつ選択性の高い MRM ベースのイメージングを可能にするシステム構成を示す。

特長

  • ターゲット MS イメージングワークフローを用いた、ラット脳組織中の内因性低分子代謝物および脂質の高感度・高選択性マッピング
  • ACQUITY µBSM Binary Pump による安定した DESI 溶媒供給と、Xevo TQ Absolute XR に搭載された DESI XS イオン源を組み合わせた、堅牢なターゲットDESI MSI
  • サンプル表面から微量分子を直接検出・可視化するターゲット DESI MS イメージングにおける、優れた特異性および高感度
  • 特徴的なプロダクトイオンを活用した MRM 取得により、同重体および異性体の可視化を可能にするターゲット MS イメージングワークフローの有用性を提示

はじめに

過去10年の間に、DESI は、ほぼ前処理を必要とせずに組織切片から低分子化合物を直接イオン化・イメージングできる有力な手法として確立されてきた。リン脂質は、生体膜の構造や流動性を支えるとともに、細胞シグナル伝達や分子輸送といった重要な生体プロセスを制御することから、生物学および医学分野において高い関心を集めている。リン脂質プロファイルの変化は、疾患状態、代謝調節異常、あるいは炎症応答を示唆する指標となり得る。特にリン脂質が豊富に存在する脳組織は、発達、加齢、ならびにアルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患の研究において重要な知見をもたらす。

さらに、DESI MSI により内因性低分子をその場でマッピングすることで、従来のホモジネート分析では捉えることが困難であった、空間的に分解された代謝変化やシグナル変化を明らかにすることが可能となる。組織境界、微小環境の不均一性、ならびに領域特異的な代謝変動をより深く理解するためには、数十 µm レベルの高空間分解能 DESI イメージングの重要性が高まっている。一方で、高い空間分解能の実現は測定時間の長時間化を伴うため、システムの安定性および堅牢性が極めて重要となる。

本ワークフローでは、安定したDESI 溶媒供給を可能にする ACQUITY µBSM Binary Pump、スプレーの安定性を確保する DESI High Performance Sprayer(HPS)、および Xevo TQ Absolute XR 質量分析計に搭載された DESI XS イオン源を組み合わせることで、ターゲット MRM ベース MS イメージングに求められる高い感度および特異性を実現している。

実験方法

試料調製

−80 °C で保存されたスナップフリーズ状態のげっ歯類脳組織から、クライオスタット(Leica)を用いて厚さ 18 µm の連続切片を作製し、標準サイズ(1 × 3インチ)の顕微鏡スライドガラスにマウントした。作製した切片は、解析まで −80 °C で保管した。

質量分析

測定は、Xevo TQ Absolute XR タンデム四重極質量分析計に搭載した DESI XS イオン源を用い、MRM モードで実施した。DESI スプレー条件は、ACQUITY µBSM Binary Pump による溶媒供給のもと、流量 2 µL/min、溶媒組成 MeOH/H₂O = 98:2、ネブライザーガス(N₂)圧 15 psi に設定した。

感度、スプレーの集束安定性、堅牢性および操作再現性を向上させるため、DESI High Performance Sprayer(HPS)を使用した。さらに、Heated Transfer Line(HTL)を Xevo TQ Absolute XR のイオンブロックに直接装着した。HTL は、低分子測定では室温に設定し、ネガティブイオンモードでの異性体リン脂質分析では 450 °C に加熱した。これにより、帯電液滴の脱離および質量分析計へのイオン輸送効率が向上し、分析感度の改善が得られた。

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ Absolute XR

イオン源:

DESI XS

極性:

ポジティブ/ネガティブ

ソース温度:

150°C

MS1 分解能:

ユニット分解能(0.7 Da)

MS2 分解能:

ユニット分解能(0.7 Da)

デュエル時間:

6 ms

データ取り込み:

MRM モード

DESI 設定条件

キャピラリ電圧:

ネガティブ 0.70 kV/ポジティブ 0.75 kV

窒素ガス圧:

15 psi

溶媒供給:

ACQUITY µBSM バイナリポンプ

溶媒組成:

メタノール98%、水2%

溶媒流量:

2 µL/min

ピクセルサイズ:

25 µm、35 µm

データ管理・解析

MS 制御・解析:

MassLynx v4.2(SCN 1050)

イメージング解析:

High Definition Imaging (HDI) 1.8

結果および考察

A)リン脂質

同一のげっ歯類脳組織切片を用いて、ポジティブイオンモードおよびネガティブイオンモードにおけるリン脂質の可視化を目的とした2種類の分析を実施した。これらの分析では、ACQUITY µBSM バイナリーポンプと DESI XS を組み合わせ、Xevo TQ Absolute XR に搭載して使用した。取得速度は 5 scans/sec であり、総取得時間は約 11~12 時間であった。

図 1 および図 2 に示すように、未正規化イオン画像から、ACQUITY µBSM による安定した溶媒供給、DESI HP スプレイヤー、および Xevo TQ Absolute XR 質量分析計から構成されるシステム全体の高い信号安定性と堅牢性が確認された。さらに、ターゲットとした脂質のシグナル対ノイズ比(S/N)は、MRM トランジション情報とともに表 1 および表 2 に示されている。これらの中には、ポジティブイオンモードにおける m/z 772.55 の脂質や、ネガティブイオンモードにおける m/z 788.55 の脂質のように、同重体および/または異性体リン脂質であるものも含まれていた。

げっ歯類脳組織切片から取得した、ポジティブイオンモードにおけるターゲット推定同定リン脂質の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
表1.げっ歯類脳組織切片から取得した、ポジティブイオンモードにおけるターゲット推定同定リン脂質の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
ポジティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 × 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲットリン脂質の MRM イオンイメージ
図1.ポジティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 × 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲットリン脂質の MRM イオンイメージ
げっ歯類脳組織切片から取得した、ネガティブイオンモードにおけるターゲット推定同定リン脂質の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
表2.げっ歯類脳組織切片から取得した、ネガティブイオンモードにおけるターゲット推定同定リン脂質の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
ネガティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲットリン脂質の MRM イオンイメージ
図2.ネガティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲットリン脂質の MRM イオンイメージ
ポジティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 µm で取得したラット脳組織の RGB オーバーレイ MRM イオンイメージ。アイソバリックなホスファチジルコリン(PC)脂質 m/z 772.55(プロトン化PC [35:2]:782.55 > 184 および カリウム付加PC [32:0]:772.55 > 163)を例として、イメージングにおける選択性およびデータ品質を示す。
図3.ポジティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 µm で取得したラット脳組織の RGB オーバーレイ MRM イオンイメージ。アイソバリックなホスファチジルコリン(PC)脂質 m/z 772.55(プロトン化PC [35:2]:782.55 > 184 および カリウム付加PC [32:0]:772.55 > 163)を例として、イメージングにおける選択性およびデータ品質を示す。

B)低分子代謝物

さらに、連続したラット脳組織切片を用い、ポジティブイオンおよびネガティブイオンモードの両条件において内因性低分子代謝物を対象とした追加実験を実施した。

まずネガティブイオンモードでは、アミノ酸、トリカルボン酸(TCA)回路代謝物、アラキドン酸代謝物(オキシリピンまたは脂質メディエーターとも呼ばれる)、および脂肪酸を対象として、3件の実験を実施した。

各実験におけるデータ測定時間は11~13時間であった。

表3、4、5に対応する MRM トランジションおよびシグナル対ノイズ比(S/N)を示す。

表4では、一部の HETE について、Xevo™ TQ Absolute XR で得られた S/N が、従来の DESI MSI システム(Xevo™ TQ Absolute 質量分析計)を用いてラット脳冠状切片を解析した際に報告された値1と同程度であることを示している。

ネガティブイオンモードにおける取得した、アミノ酸およびトリカルボン酸(TCA)回路代謝物を含むターゲット低分子代謝物の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
表3.ネガティブイオンモードにおける取得した、アミノ酸およびトリカルボン酸(TCA)回路代謝物を含むターゲット低分子代謝物の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
ネガティブイオンモードにおけるで取得したターゲットアラキドン酸代謝物(オキシリピン)の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
表4.ネガティブイオンモードにおけるで取得したターゲットアラキドン酸代謝物(オキシリピン)の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
ット脳組織切片を用い、ネガティブイオンモードで取得したターゲット脂肪酸の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
表5.ラット脳組織切片を用い、ネガティブイオンモードで取得したターゲット脂肪酸の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)

図4は、ラット脳組織切片における内因性低分子の代表的な分布例を示す。

ネガティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 25 µm および 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲット推定同定内因性低分子(アミノ酸、トリカルボン酸(TCA)回路代謝物、アラキドン酸代謝物、脂肪酸など)の MRM イオンイメージ
図4.ネガティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 25 µm および 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲット推定同定内因性低分子(アミノ酸、トリカルボン酸(TCA)回路代謝物、アラキドン酸代謝物、脂肪酸など)の MRM イオンイメージ

さらに、ポジティブイオンモードで優先的にイオン化される低分子代謝物(特定のアミノ酸、神経伝達物質、カルニチンなど)に着目した2件の追加実験を実施した。これらの代表的な分布例を図5に示す。

ラット脳組織切片を用い、ポジティブイオンモードで取得した、アミノ酸、神経伝達物質、カルニチンを含むターゲット低分子代謝物の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
表6.ラット脳組織切片を用い、ポジティブイオンモードで取得した、アミノ酸、神経伝達物質、カルニチンを含むターゲット低分子代謝物の MRM トランジション情報およびシグナル対ノイズ比(S/N)
ポジティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲット内因性低分子(アミノ酸、神経伝達物質、カルニチンなど)の MRM イオンイメージ
図5.ポジティブイオンモードにて、ピクセルサイズ 35 µm で取得したラット脳組織中のターゲット内因性低分子(アミノ酸、神経伝達物質、カルニチンなど)の MRM イオンイメージ

結論

ACQUITY µBSM Binary Pump、DESI HPS、および Xevo TQ Absolute XR 質量分析計に搭載された DESI XS イオン源を組み合わせたターゲット MS イメージングワークフローにより、長時間の測定においても安定したシグナルが維持され、高品質なイオンイメージを一貫して取得できることが示された。

Xevo TQ Absolute XR 質量分析計の高い感度により、脳組織切片から微量の低分子を直接検出することが可能であった。さらに、本システムの高い特異性により、リン脂質、オキシリピン、および内因性低分子代謝物などの同重体および異性体の識別が可能であった。

参考文献

  1. Using Targeted MRM MS Imaging With DESI to Visually Localize Isobaric And/or Low Abundance Lipids, Waters アプリケーションノート(720008692)

720009047, September 2025

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