マイクロ波支援抽出および迅速 5 分間アイソクラティック HPLC メソッドを用いたエルゴステロールの定量
要約
機能性キノコ製品がここ数年で人気を得ており、サプリメント、飲料、食品、その他の製品の形で店頭販売されるようになりました。すべてのキノコに存在する化合物エルゴステロールには、UV 光に晒されるとビタミン D2 に変換されるなどの、いくつかの健康上のメリットがあると標榜されています。通常、エルゴステロールの測定には、鹸化と非常に時間のかかる手順を使用する抽出が必要です。このアプリケーションノートでは、迅速で簡単なマイクロ波支援抽出を使用することで、鹸化を回避しました。エルゴステロールの定量では、Arc™ Premier システムを用い、ACQUITY™ 2998 フォトダイオードアレイ(PDA)検出器を備えた XBridge™ Premier BEH™ C18 カラムでの 5 分間の高速アイソクラティック溶出を行いました。機能性キノコの混合物を含むサンプルを、今回開発したメソッドを使用して分析しました。Empower™ ソフトウェアの Peak Purity(ピーク純度)ツールにより、エルゴステロールと共溶出するピークはないことが確認されました。
アプリケーションのメリット
- CEM Discovery 2.0 マイクロ波合成装置により、鹸化を回避できる迅速で簡単なサンプル前処理が実現
- 迅速な 5 分間アイソクラティックメソッドにより、溶媒消費量が低減し、全体としてより環境に優しくなる
- 最終的なメソッドで、Empower ソフトウェアの Peak Purity(ピーク純度)ツールを利用して、すべてのピークが十分に分離されていることを確認
はじめに
機能性キノコは人気のある栄養補助食品であり、異なる糸状菌の種ごとにさまざまなメリットが標榜されています。さまざまな種に多数の化合物が含まれており、サプリメント市場にガイドラインがないことも相まって、質の高い分析法の開発が課題となっています。エルゴステロールは、すべての糸状菌に共通の化合物であり、疼痛を伴う炎症の低減、心疾患発生率の低減、抗酸化作用、抗菌作用、抗腫瘍作用が報告されています1-5。 さらに、エルゴステロールは、品質指標の役割を果たし、UV 光に晒されるとビタミン D2 サプリメントとして使用できます6。 米国 FDA によって、シリアルなどの特定の食品に、ビタミン D2 サプリメントとしての使用が承認されています7。
現在、キノコのエルゴステロールの抽出・定量には幅広いメソッドがあります。さまざまなサンプル前処理メソッドでエルゴステロールが正常に抽出されており、その中にはソックスレー抽出、超音波支援抽出、マイクロ波支援抽出、超臨界流体抽出などがあります。これらのメソッドのほとんどでは、抽出前に長い時間と手間がかかる鹸化のステップが必要となりますが、マイクロ波支援抽出などの一部のメソッドでは、鹸化の手順を使用せずに良好な結果を得られます8。
今回説明する研究により、さまざまな機能性キノコからエルゴステロールを分離・定量できる迅速なアイソクラティックメソッドが作成されました。最適化したマイクロ波支援抽出メソッドを使用して、キノコのサンプルからエルゴステロールを抽出しました。ACQUITY 2998 PDA 検出器を使用して、キノコサンプル中のエルゴステロールを同定・定量しました。3D PDA データを Empower ソフトウェアの Peak Purity(ピーク純度)ツールと組み合わせて使用し、エルゴステロールのスペクトルの均一性を評価しました。直線性の範囲を確立し、これを用いて機能性キノコ抽出物中のエルゴステロールの濃度を決定しました。
実験方法
サンプル前処理
CEM Discovery 2.0 マイクロ波合成装置を使用して最適化したマイクロ波消化の後に、抽出を行いました9。キノコの粉末は、最寄りの GNC 健康補助食品店から入手しました。乾燥キノコ粉末には、ヤマブシタケ、カワラタケ、霊芝、冬虫夏草、マイタケ、チャガの混合物が含まれていました。サンプル 40 mg を秤量し、小さい撹拌棒を入れた discovery 2.0 の反応容器中の HPLC グレード変性エタノール 25 ml に添加しました。マイクロ波メソッドを、マイクロ波消化条件の表に示したパラメーターに設定しました。メソッドの最大圧力は 300 psi に設定しましたが、ほとんどの抽出では圧力は約 100 psi でした。抽出物を 0.2 µm のナイロンフィルターでろ過しました。次に、溶液を窒素流下で乾燥させました。次に、乾燥した黄褐色のオイル状の抽出物を、10% ジメチルスルホキシド(DMSO)を含む HPLC グレード変性エタノールに 2 mg/mL になるように溶媒和しました。
サンプルの説明
エルゴステロールは Sigma Aldrich(ドイツ、ダルムシュタット)から入手しました。エルゴステロールのストック溶液は、10% DMSO を含むメタノール中に調製し、標準試料用に濃度 0.001 ~ 0.1 mg/mL に希釈しました。
マイクロ波消化条件
装置: |
CEM Discover 2.0 マイクロ波合成装置、CEM Corporation(米国ノースカロライナ州) |
温度: |
132 ℃ |
時間: |
20 分 |
圧力: |
300 psi |
電源: |
300 W |
撹拌: |
中 |
LC 条件
LC システム: |
Arc Premier QSM-r |
検出: |
ACQUITY PDA 2998(280 nm) |
バイアル: |
1 mL トータルリカバリーバイアル、製品番号:186000385DV |
カラム: |
XBridge Premier BEH C18 2.5 µm 4.6 × 50 mm 製品番号:186009847 |
カラム温度: |
60 ℃ |
注入量: |
10 µL |
流量: |
1 mL/分 |
移動相: |
0.1 % ギ酸含有 12:88 水:アセトニトリル |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3.8.0 |
結果および考察
XBridge Premier BEH C18 2.5 µm × 4.6 × 50 mm カラムと XSelect Premier CSH™ C18 2.5 µm × 4.6 × 50 mm カラムの両方のスクリーニングに、グラジエントメソッドを用いる Arc Premier システムを使用しました。XBridge BEH C18 カラムの方が良好な分離が得られ、これをさらなるメソッド開発に使用しました。カラムのスクリーニングは、20 分にわたる 5 ~ 99%B のグラジエントで実施しました。初期のスクリーニング条件で、必要なメソッドの分離度およびテーリングの要件を満たす良好な分離が得られました。さらなるメソッドの最適化として、実行時間、ピークテーリング、ピーク高さの改善が望まれました。
分析種が 1 つで、近接して溶出する化合物がないため、アイソクラティック溶出メソッドをテストしました。スクリーニング分析に基づいて、88%B、89%B、90%B の 3 種類のアイソクラティックメソッドをスクリーニングしました。88%B アイソクラティック溶出では、エルゴステロールが十分に長く保持され、カラムフロントからのベースラインの乱れの外側に溶出しました。最終的な溶出を図 1 に示します。このメソッドでは、ピークテーリング係数 1.0 で 2.5 を超える分離度が得られています。

対象のクロマトグラフィーピークに共溶出する分析種が含まれていないことの確認は、メソッド開発時に検討すべき重要な側面となります。一般に、ピーク純度の決定は、質量分析または PDA 検出を使用して行います。エルゴステロールなどのステロール化合物はエレクトロスプレー条件下で簡単にはイオン化しないため、PDA を使用してピーク純度を決定しました。図 2 のピーク純度分析の結果では、ピーク純度アングルが Empower ソフトウェアによって計算された自動しきい値より小さいことがわかります。このことから、エルゴステロールのピークがスペクトル的に均一であることがわかり、エルゴステロールのピークと共溶出する分析種がないことが示唆されます。

キノコ抽出物中のエルゴステロールの濃度を決定するため、検量線を作成しました。このメソッドでは 0.001 ~ 0.1 mg/mL の直線性範囲が得られました。以前に発表したデータにあるエルゴステロールの予想範囲である乾燥キノコ 100 g あたり約 298 ~ 1245 mg(このサンプル前処理メソッドを使用して約 0.006 ~ 0.024 mg/mL と計算)はこの範囲内に収まります10。 この試験の抽出物には、乾燥キノコ粉末 100 g あたり約 305 mg のエルゴステロールが含まれていることが判明しました。この計算に使用した直線を図 3 に示します。

結論
PDA 検出を備えた Arc Premier UHPLC システムを利用して、キノコ中のエルゴステロールを分離し、含有量を決定するための迅速メソッドを開発しました。CEM Discovery 2.0 マイクロ波合成装置を使用して、抽出を迅速化するとともに、長時間かかる鹸化のステップを回避しました。Empower ソフトウェアの Peak Purity(ピーク純度)ツールを、収集した 3D PDA スペクトルと併用して、エルゴステロールがスペクトル的に純粋であることを確認できました。エルゴステロールに直線性があることから、この抽出でキノコから得られると予想される範囲内で定量が可能になります。
参考文献
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720008652JA、2024 年 12 月