表面チャージハイブリッドパーティクルテクノロジーを用いた配合製剤のピーク形状の改善
要約
固定用量配合(FDC)製剤は、市販薬および処方薬として幅広く入手できます。最も一般的な FDC は、4 種類もの医薬品有効成分(API)が含まれる風邪・咳止め薬です。これらの医薬品には、開発および分析において、製剤中の API の濃度が異なるために、1 つの分析ピークがオーバーロードされたりシグナルが高くなったりする一方で、低用量の分子はほとんど検出されない、などのいくつかの課題があります。このため、ピークのオーバーロードの問題がなく、すべての成分を正確に分析するには、複数の LC メソッドが必要になります。高用量分析種のオーバーロードを緩和し、ピーク形状を改善できれば、すべての API を検出する単一のメソッドを開発できて、時間とコストを節約することができます。高濃度分析種のピーク形状の改善は、さまざまな方法で行えます。
このアプリケーションノートでは、異なる用量のナルトレキソンとブプロピオンを組み合わせた処方薬である Contrave 中の API について、単一の分析法を開発しました。Contrave は慢性肥満症治療薬で、2014 年以降米国およびその他の国で使用が承認されているFDC です。高濃度の API であるブプロピオンのピーク形状を改善するための 2 種類のアプローチが示されており、これには別の移動相添加剤や別の固定相を使用するなどが含まれています。
アプリケーションのメリット
- FDC 製剤である Contrave 用の単一の分析法の開発
- 表面チャージハイブリッド(CSH™)粒子を使用した高用量ブプロピオンのピーク形状の改善
- 開発したメソッドを使用して、両方の API について良好な直線性を達成
はじめに
さまざまな医薬品が、固定用量配合(FDC)製剤として市販されています。FDC の例には、咳止めシロップ、特定のアレルギー薬、マルチビタミンなどがあります。FDC は、複数の有効成分を消費者に提供して、特定の目的に向けたメリットを組み合わせるために作られたものです。咳止めシロップの場合、ある成分が鼻詰まりの薬として作用し、別の成分が熱を下げ、さらに別の成分が去痰薬として作用します。消費者の観点からすると、FDC は、1 カプセルまたは 1 用量のみ服用すればよいという点で有用です。しかし、分析科学の観点からすると、FDC には分析上大きな課題があります。FDC では、1 種類以上の API が、存在する他の API と比較して非常に高濃度であることが珍しくありません。これは、各 API の相対「力価」と目的の薬効を得るために必要なそれぞれの用量が原因です。1 回の分析にさまざまな分析種濃度を使用する場合、低濃度のピークを分析しようとすると、高用量の API がオーバーロードになって、そのために定量が困難になることがあります。一方、高用量の API を特定の条件で分析すると、低用量の API が LC-UV 分析で検出できなくなることがあります。
この問題に直面している製品の 1 つが Contrave という医薬品で、アルコールおよびオピオイド使用の管理に用いる薬物ナルトレキソンと、非定型抗うつ薬であるブプロピオンを組み合わせたものです。どちらの薬物も個別に入手できますが、これらを組み合わせることで、食欲を抑えられることがわかっており、ダイエットおよびエクササイズと組み合わせると、減量に役立つことが示されています1-3。 ナルトレキソン徐放製剤とブプロピオン徐放製剤の合剤が2014 年に米国で承認され、その後 2015 年と 2018 年にそれぞれ欧州連合とカナダで承認されました。Contrave の用量は、徐放性錠剤 1 錠あたり 8 mg ナルトレキソンと 90 mg ブプロピオンと記載されています。この 2 種類の API の濃度差は 82 mg で、ナルトレキソンの濃度の 10 倍であり、2 種類の分析種の LC-UV シグナルが大きく異なってしまう可能性があります。この製剤は、特にどちらの化合物にも塩基性部分が含まれることを考慮すると、分析が非常に困難になる可能性があります。このアプリケーションノートでは、この徐放性錠剤に含まれている比率と同じ比率のナルトレキソン/ブプロピオンを含む純標準試料のアッセイを検討し、分析用の錠剤の希釈をシミュレートします。ブプロピオンのピーク形状の改善を検討し、直線性試験を含む最終的なメソッドを示します。ACQUITY UPLC™ H-Class Plus システムで ACQUITY™ Premier CSH Phenyl-Hexyl カラムを使用して、この製剤用の単一のメソッドを開発し、両方の API について良好な直線性と許容可能なピーク形状が得られました。
実験方法
サンプルの説明
いずれも 1 mg/mL のナルトレキソンとブプロピオンの 2 種類のストック水溶液。次にストック溶液を合わせ、水をサンプル希釈液として使用して、80 µg/mL ナルトレキソンおよび 900 µg/mL ブプロピオンを含む最終的な作業用サンプルを調製しました。これにより、徐放性錠剤の濃度比と一致するブプロピオン:ナルトレキソン比 11.25:1 が得られました。
LC 条件
LC システム: |
オプションの溶媒選択バルブ付きのクオータナリーソルベントマネージャー(QSM)、サンプルマネージャーフロースルーニードル(SM-FTN)、カラムマネージャー、2 カラムマネージャー Aux、QDa™ 質量検出器を搭載した ACQUITY UPLC H-Class Plus システム |
検出: |
254 nm の UV |
カラム: |
ACQUITY Premier BEH™ C18、2.1 × 50 mm、1.7 μm (製品番号:186009452) ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl、2.1 × 50 mm、1.7 µm (製品番号:186009474) ACQUITY Premier CSH C 18、2.1 × 50 mm、1.7 µm (製品番号:186009460) CORTECS™ UPLC C18、2.1 × 50 mm、1.7 μm (製品番号:186007114) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
1.0 µL |
流量: |
0.50 mL/分 |
移動相 A: |
Milli-Q 水 |
移動相 B: |
アセトニトリル |
移動相 C: |
メタノール |
移動相 D1: |
2% ギ酸水溶液 |
グラジエント条件のスクリーニング: |
グラジエント全体にわたって一定の 5% Dx に維持。6.86 分間で 5 ~ 95% B/C のリニアグラジエントの後、1.14 分間ホールド。5% B/C に戻し、2.3 分間ホールド。合計実行時間:10.30 分最適化されたグラジエント条件を図のキャプションで説明しています |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 Feature Release 4 |
結果および考察
固定用量配合(FDC)製剤を分析するとき、ある医薬品有効成分(API)が、他の API よりもはるかに高濃度であることは一般的です。これは、目的の薬効を得るために必要な用量が API によって異なることに起因します。両方の化合物を 1 回の分析で定量しようとする分析科学者にとっては、この濃度差により、高用量の化合物が過飽和になったり、低用量の化合物が検出できなかったりする可能性があります。肥満症治療薬 Contrave の場合、図 1 に示す 2 種類の API が含まれています。ブプロピオン含量は 90 mg であるのに対し、ナルトレキソンはわずか 8 mg です。このため、ブプロピオン:ナルトレキソンの濃度比は 11.25:1 になります。いずれも塩基性官能基を含む 2 種類の API のこの濃度差により、塩基性官能基とベースパーティクルの間の二次相互作用によるピークテーリングという形で、分析上の問題が生じることがあります。これは特に、ギ酸のような低塩濃度の移動相を使用する低 pH の場合に当てはまります。
シリカベースの固定相を使用して塩基性化合物を低 pH で分析する場合、荷電した塩基性官能基が粒子表面の残留シラノールと相互作用し、ピーク形状に歪みが生じることがあります。高濃度では、カラムでピークが質量オーバーロードになり、このような歪みが増大してピーク形状が悪化します4-6。 図 2 に、ACQUITY Premier BEH C18 カラムを使用し、ギ酸修飾移動相を用いて低 pH で分析したブプロピオンとナルトレキソンのクロマトグラムを示します。
ブプロピオンのピーク(2)は、質量オーバーロードを示しているだけでなく、API の塩基性官能基とベースパーティクルのシラノールの間の二次相互作用を示す「サメのヒレ」のある不良なピーク形状が見られます。ナルトレキソンのピーク形状(1)も、わずかなピークの非対称性を示していますが、この場合はオーバーロードになっていないため、分析種とベースパーティクルの間の二次相互作用によって発生したと考えられます。いずれにしても、これらの分析種の間で良好な分離が得られていますが、両方のピーク形状が良好であれば、波形解析の質が改善し、したがって定量結果が改善します。
ピーク形状の問題に対処する 1 つの方法は、オンカラムロード量を減らすことです。これにより、発生する質量ロードが減少し、ピーク形状が改善されるはずです。ただし FDC では、質量ロードを減らすと、低用量 API にも影響が出て、ピークを検出できなくなる可能性があります。そのため、FDC の場合、質量ロードの低減が必ずしも可能とは限りません。検討すべき別の方法は、ACQUITY Premier BEH C18 カラム(図 3)のようなハイブリッドパーティクルカラムを使用した高 pH 移動相の使用です。
高 pH では、分析種の塩基性の官能基が中性になり、ベースパーティクルとの二次相互作用の可能性がなくなって、固定相へのローダビリティが改善します。この例では、高 pH でのブプロピオンのピークは、低 pH での結果よりもはるかに対称性が良い結果になっています。pH を変えると問題が緩和する可能性がありますが、使用するメソッドや化合物の安定性によっては、必ずしもそれが適切ではない場合があります。
ブプロピオンのピーク形状を改善する別の方法として、わずかな表面電荷によって分析種とシラノールの間の二次相互作用を低減するように特別に設計された、荷電ベースパーティクルの使用が挙げられます。これにより、荷電した塩基性分析種がベースパーティクルから反発し、よりシャープで対称性の良いピークが得られます7-8。 CORTECS C18+ カラムと CSH カラム製品全体はすべて、荷電ベースパーティクルを設計に採用しており、低 pH での塩基性分析種のピークの形状不良に関する懸念に対処しています。CORTECS C18+ カラムは、全多孔性粒子と比較してカラム効率がより高い、ソリッドコアシリカ粒子です9-11。 この粒子は、製造プロセスにおいてわずかに正電荷を帯びた状態で作製してから、フルカバレッジの C18 リガンドと結合させます。CSH C18 カラム、CSH Phenyl-Hexyl カラム、CSH PFP カラムを含む CSH ファミリーのカラムはすべてハイブリッドパーティクルテクノロジーに基づいており、低 pH で塩基性化合物のピーク形状が改善されるだけでなく、メソッド開発に必要な高 pH 安定性も得られます7–8、12–14。 図 4 に、4 種類の異なるカラムでのナルトレキソンとブプロピオンの分析を示します。
ACQUITY Premier BEH C18 カラムでピーク形状が最も不良ですが、これは最初の結果から予想されたことでした。いずれの CSH 粒子のカラムでもブプロピオンのピーク形状が良く改善されており、CSH Phenyl-Hexyl カラムの方が CSH C18 カラムと比較して対称性がさらに良好です。CORTECS C18+ カラムでは BEH C18 カラムと比較してピーク形状がわずかに改善しましたが、まだ対称ではありません。CORTECS C18+ カラムでのピーク形状の不良は、全多孔性相と比較して、ソリッドコア粒子のロードキャパシティーが減少していることが原因である可能性があります15。 CSH C18 カラムと CSH Phenyl-Hexyl カラムで得られるピーク形状の違いは、表面に結合したリガンドによって説明できます。Phenyl-Hexyl リガンドでは、ベースパーティクル間の相互作用が促進され、分析種がカラムを通る際に反発を受けることで、ピーク形状がさらに改善します。ナルトレキソンとブプロピオンの最終的なメソッド条件は、ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl カラムで開発しました。これは、このカラムが、この分析では高 pH よりも好ましい低 pH で全体として最良のピーク形状を示したためです。
サイクル時間の短縮と分析のスピードアップを含むメソッドの最適化の後、この 2 種類の化合物についての直線性を可能な限り広いダイナミックレンジで試験しました。ダイナミックレンジは、実験方法セクションに示した純標準試料の連続希釈によって決定しました。検量線は、ナルトレキソンを確実に検出できるようにするためには低レベル標準試料を選択して作成し、検出器でのブプロピオンピークのオーバーロードを防ぐためには高レベル標準試料を選択して作成しました。図 5 に、ナルトレキソンとブプロピオンの検量線用標準試料の重ね描きを示します。
ナルトレキソンは、4 ~ 80 µg/mL の範囲にわたって検出・定量することができ、1.6 µg/mL と 0.8 µg/mL は、シグナル/ノイズ比 3 超という通常の検出限界を下回っていました。高レベル標準試料は検出器飽和の兆候が見られなかったため、ブプロピオンは 9 ~ 900 µg/mL の範囲にわたってキャリブレーションできました。図 6 にプロットした検量線を示し、これには示しているダイナミックレンジにわたる 2 種類の API の R2 値も示しています。
最終メソッド条件を使用して、R2 値が 0.999 超と定義される良好な直線性が、両方の分析種について得られました。ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl カラムを使用してブプロピオンのピーク形状を改善したこのメソッドは、バッチリリース試験やその他のワークフローに使用できるようになりました。ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl カラムを使用しないと、高用量の塩基性分析種であるブプロピオンのピーク形状が不良になるため、サンプルの分析に特殊な移動相を使用する必要があった、あるいはさらに悪ければ 2 つの別々の分析条件を使用する必要があった可能性があります。荷電ベースパーティクルを利用して、低 pH での塩基性化合物のピーク形状を改善することで、単一のメソッドを作成して、1 回の実行で両方の化合物を分析することができました。
結論
固定用量配合(FDC)薬は、錠剤やシロップ剤などのさまざまな剤型で入手できる一般的な医薬品です。これらの製品は、医薬品有効成分(API)濃度の違いにより、分析ワークフローが困難であることが分かっており、多くの場合、一方の API はオーバーロードになり、他方の API はほとんど検出されません。オーバーロードになったピークには、再現性よく波形解析および定量することが困難であるという独自の課題があります。オーバーロードになったピークのピーク形状は、高 pH 移動相の使用、使用する固定相の変更など、さまざまな方法で改善できます。特に、ナルトレキソンとブプロピオンの両方を含む FDC 薬である Contrave に含まれているような塩基性分析種にこれが当てはまる場合があります。この医薬品の場合、フェニルヘキシルリガンドが含まれる荷電ベースパーティクルを使用することで、高 pH 移動相を使用する必要なく、最良のピーク形状が得られました。ACQUITY Premier CSH Phenyl-Hexyl カラムにより、試験した他の 3 種類のカラムと比較して、ブプロピオンに関して最高のピーク形状が得られました。次に、このカラムを使用して、ナルトレキソンとブプロピオンの両方についてメソッドの直線性を試験しました。その結果、良好な直線性が得られ、このメソッドがバッチリリース試験などの他のワークフローに使用できることが示されました。
参考文献
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