• アプリケーションノート

HPLC オートサンプラーの性能 II:Alliance™ iS HPLC System を使用した USP 分析法の注入精度の向上

HPLC オートサンプラーの性能 II:Alliance™ iS HPLC System を使用した USP 分析法の注入精度の向上

  • Norris Wong
  • Corey Reed
  • Amanda B. Dlugasch
  • Paula Hong
  • Waters Corporation

要約

分析法条件や装置の特性が、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムのオートサンプラーの性能に影響を及ぼすことがあります。低注入量や高有機サンプル希釈液などの難しい分析法条件では、厳しい適合性要件を満たすのに高い精度が必要です。サンプル吸引メカニズムやインジェクターの吸引速度などの装置特性は、ベンダー間で異なる場合が多く、これらがオートサンプラーの精度性能に影響する場合があります。異なるベンダーの複数の HPLC システムにわたって、精度適合性基準の厳しい分析法の使用を必要としている分析ラボでは、この点が課題となる可能性があります。この試験では、精度基準が厳しく、分析法条件が難しい米国薬局方(USP)の 4 種類の薬局方収載 HPLC 分析法を使用して、Alliance iS HPLC System および類似の HPLC システムの注入精度の性能を比較しました。ピーク面積の再現性を、各システムのオートサンプラー性能の目安として評価しました。

アプリケーションのメリット

  • Alliance iS HPLC System では、さまざまなサンプル希釈液および注入量で高精度を達成
  • Alliance iS HPLC System では、難しい USP 分析法においても、厳しい注入精度基準に適合可能
  • Alliance iS HPLC System では、類似の HPLC システムよりも、高有機サンプル希釈液における精度改善を実証

はじめに

米国薬局方(USP)の多くの規制対象の分析法において、注入精度は一般的なシステム適合性基準となっています。注入精度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムのオートサンプラーの性能の尺度です。オートサンプラーは、サンプルの正確なアリコートを HPLC システムの流路に送液する役割を担っています1。 この性能は、分析法条件および装置の特性の影響を受けることがあります2,3,4。 取り込んだデータが正確で、分析法の適合性要件を確実に満たすには、オートサンプラーに高い性能が要求されます。

サンプル吸引メカニズムやインジェクター吸引速度などの装置特性は、システム設計の違いによってベンダー間で異なります。サンプル吸引は通常、計量デバイスやサンプリングシリンジによって制御されます1。 インジェクター吸引速度は通常、既定の速度に設定されていますが、吸引速度は装置ベンダーごとにしばしば異なります4。 これらの異なる特性により、異なるベンダーのシステムにわたる分析法の実施が複雑になることがあります。ある HPLC システムでは良好に機能するルーチンの分析法が、別の HPLC システムではシステム適合性基準を満たさないことがあります。したがって、オートサンプラーの性能が装置特性によってどのように影響されるかを考慮することが重要です。

この試験では、4 種類の USP アッセイモノグラフを使用して、Alliance iS HPLC System および同等の HPLC システムの注入精度に装置特性が及ぼす影響を調べました。HPLC システムには、サンプリングシリンジや計量デバイスという吸引メカニズムが含まれており、異なるインジェクター吸引速度が使用されます。USP 分析法には、サンプル希釈液中の有機含量がさまざまである(20% ~ 100% 有機)、注入量が少ない(6.6 µL ~ 20 µL)、注入精度基準の幅が狭い(0.73% ~ 2.0%)など、難しい分析法条件が含まれます。

実験方法

アスタリスク(*)の付いた分析法のパラメーターは、Chapter <621> Chromatography に従って、最新のカラムおよびサイズに対応するために元のモノグラフを調整していることを示します5,6。 ロサルタンカリウムおよびフェノフィブラートのモノグラフは 4.0 × 250 mm カラムを指定しています。これらは、流量と注入量を調整して、最新のカラム径 4.6 × 250 mm にスケーリングされています5,6。 ケトコナゾールのモノグラフは、粒子径 3 µm のカラムを指定しています。これは、流量とグラジエントのセグメントを調整して、粒子径 3.5 µm にスケーリングされています5,6。 変更は、USP <621> に準拠しており、Waters™ カラムカリキュレーターを使用して行いました7

          USP <621> によると、RSD 要件が 2.0% 以下のモノグラフでは 5 回繰り返し注入が必要であり、2.0% 以上では 6 回繰り返し注入が必要です5。 フェノフィブラートのモノグラフでは、6 回繰り返し注入で RSD 要件が 1.0% 以下であることが必要です8。 すべてのモノグラフにわたって一貫性を確保するために、6 回繰り返し注入を全体にわたって使用しました。

フルコナゾールの USP モノグラフ、アッセイ

サンプルの説明

USP フルコナゾール RS(製品番号:1271700)の標準溶液は、USP モノグラフに従って、20/80 アセトニトリル/水中に 0.5 mg/mL になるように調製しました。

分析条件

LC システム:

Alliance iS HPLC System

システム X(HPLC システム)

システム Y(HPLC システム)

Alliance e2695 システム

Arc™ HPLC システム

分離モード:

アイソクラティック

検出:

すべてのシステムで UV(260 nm、10 ポイント/秒)

バイアル:

TruView™ pH Control LCMS 品質保証透明ガラス、23 × 32 mm、スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 2 mL、100 個入り(製品番号:186005666CV)

カラム:

Atlantis™ dC18、4.6 × 150 mm、3 µm(製品番号:186001342)

カラム温度:

40 ℃

サンプル温度:

15 ℃

注入量:

20 µL

流量:

0.5 mL/分

移動相:

アセトニトリル/水(20/80)

ロサルタンカリウムの USP モノグラフ、アッセイ

サンプルの説明

USP ロサルタンカリウム RS(製品番号:1370462)の標準溶液は、40/60 メタノール/水中に 0.25 mg/mL になるように調製しました。

分析条件

元のモノグラフでは、4.0 × 250 mm、5 µm のカラムが指定されています。分析法は 4.6 × 250 mm、5 µm にスケーリングされ、注入量と流量が調整されています。

LC システム:

Alliance iS HPLC System

システム X(HPLC システム)

システム Y(HPLC システム)

Alliance e2695 システム

Arc HPLC システム

分離モード:

アイソクラティック

検出:

すべてのシステムで UV(254 nm、10 ポイント/秒)

バイアル:

TruView pH Control LCMS 品質保証透明ガラス、23 × 32 mm、スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 2 mL、100 個入り(製品番号:186005666CV)

カラム*:

XSelect™ CSH™ C18 4.6 × 250 mm、5 μm(製品番号:186005291)

カラム温度:

35 ℃

サンプル温度:

15 ℃

注入量*:

13.2 μL

流量*:

1.32 mL/分

移動相:

アセトニトリル/0.1% リン酸水溶液(40/60)

注:ロサルタンカリウムアッセイは、2021 年 8 月に USP によって更新され、サンプル希釈液が 100% メタノールから 40/60 メタノール/水に変更されました1,8

フェノフィブラートの USP モノグラフ、アッセイ

サンプルの説明

USP フェノフィブラート RS(製品番号:1269447)の標準溶液を、リン酸で pH 2.5 に酸性化した 70/30 のアセトニトリル/水中に 1 mg/mL になるように調製しました。

分析条件

元のモノグラフでは、4.0 × 250 mm、5 µm のカラムが指定されています。分析法は 4.6 × 250 mm、5 µm カラムにスケーリングされ、注入量と流量が調整されています。

LC システム:

Alliance iS HPLC System

システム X(HPLC システム)

システム Y(HPLC システム)

Alliance e2695 システム

Arc HPLC システム

分離モード:

アイソクラティック

検出:

すべてのシステムで UV(286 nm、10 ポイント/秒)

バイアル:

TruView pH Control LCMS 品質保証透明ガラス、23 × 32 mm、スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 2 mL、100 個入り(製品番号:186005666CV)

カラム*:

XSelect™ CSH™ C18 4.6 × 250 mm、5 μm(製品番号:186005291)

カラム温度:

25 ℃

サンプル温度:

15 ℃

注入量*:

6.6 µL

流量*:

1.32 mL/分

移動相:

リン酸で pH 2.5 に酸性化したアセトニトリル/水(70/30)

ケトコナゾールの USP モノグラフ、アッセイ

サンプルの説明

USP ケトコナゾール RS(製品番号:1356508)の標準溶液は、100% メタノール中に 0.1 mg/mL になるように調製しました。

分析条件

元のモノグラフでは、4.6 × 100 mm、3 µm のカラムが指定されています。分析法は 4.6 × 100 mm、3.5 µm カラムにスケーリングされ、示されている流量とグラジエントに調整されています。

LC システム:

Alliance iS HPLC System

システム X(HPLC システム)

システム Y(HPLC システム)

Alliance e2695 システム

Arc HPLC システム

分離モード:

グラジエント

検出:

すべてのシステムで UV(225 nm、10 ポイント/秒)

バイアル:

TruView pH Control LCMS 品質保証透明ガラス、23 × 32 mm、スクリューネックバイアル(キャップ付きおよびスリット入り PTFE/シリコーンセプタム付き)、容量 2 mL、100 個入り(製品番号:186005666CV)

カラム*:

XBridge™ Shield RP18 4.6 × 100 mm、3.5 µm(製品番号:186003044)

カラム温度:

25 ℃

サンプル温度:

15 ℃

注入量:

10 µL

流量*:

1.71 mL/分

移動相 A:

アセトニトリル/3.4 mg/mL テトラブチル水酸化アンモニウム硫酸塩水溶液(5/95)

移動相 B:

アセトニトリル/3.4 mg/mL テトラブチル水酸化アンモニウム硫酸塩水溶液(50/50)

グラジエントテーブル

グラジエントテーブル

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3.7

結果および考察

Alliance iS HPLC System および同等の HPLC システムの性能

Alliance iS HPLC System および同等の HPLC システムの性能を評価するために、4 種類の USP 分析法を実行し、標準溶液のピーク面積の %RSD を比較しました。各分析法を 3 日間継続して実行し、ハイスループット環境でのシステムの安定性をシミュレーションしました。1 日目に分析を開始する前に、HPLC システムをプライムおよびパージしました。HPLC オートサンプラーの特性と既定の設定を表 1 に示します。

標準溶液を分注し、使用するまで冷蔵保存しました。サンプル希釈液の蒸発による影響を最小限に抑えるために、穿刺していないバイアルの標準溶液を毎日使用しました。毎日 3 つのサンプルセットを N=6 で繰り返し注入(計 N=18 の注入)しました。HPLC システムの稼働が中断されないように、必要に応じて希釈液のブランクを追加しました。各サンプルセットについてピーク面積の相対標準偏差(RSD)を評価し、プロットしました。各 HPLC システムの注入精度の性能を比較して、システムが厳しい精度要件を一貫して満たせるかどうかを調べました。

インジェクターの吸引速度に関する HPLC のシステム特性
表 1:インジェクターの吸引速度と吸引メカニズムに関する HPLC のシステム特性。インジェクターの吸引速度は µL/分に変換しました。

規制対象の分析法では、オートサンプラーのインジェクター吸引速度は通常、規定のパラメーターではありません。そのため、多くのユーザーはしばしば、この分析法パラメーターを装置の既定値のままで使用しています。ただし、この設定は、分析のニーズに応じて最適化することができます。例えば、ハイスループット環境では、分析時間を短縮するために、吸引速度を高めることが有益である場合があります。吸引速度を高めるとサイクル時間は短縮できますが、粘性の高いサンプルの場合と同様、ピークの再現性に悪影響が出る可能性があります4。 この試験では、各システムで装置の既定の吸引速度を維持しました(表 1)。

この試験の HPLC システムでは、サンプル吸引に異なるメカニズム(サンプリングシリンジと計量デバイス)を使用します(表 1)。メカニズム間の違いを説明するために、吸引/注入ステージを図 1 に図示しています。Arc HPLC システムで使用しているサンプリングシリンジ設計では、低圧シリンジによってサンプルが吸引されます(図 1A)。サンプルを注入すると(図 1B)、シリンジが高圧流路から隔離され、分析の過程全体にわたって空気が蓄積することがあります。

潜在的な空気の蓄積は、サンプリングシリンジの短所です。気体が蓄積すると、オートサンプラーの正確度と精度に影響が出て、送液されるサンプルの量が不正確になり一貫性がなくなります。そのため、分析前にシリンジをパージすることが重要です。この問題を軽減するため、一部の HPLC システムでは、システム起動時にシリンジをより効果的に洗浄するための脱気済みパージ溶媒が別途含まれています2

サンプリングシリンジの短所になり得る別の点として、シリンジ吸引モーターの精度が挙げられます。古い HPLC システムでは、シリンジ吸引モーターが十分に微調整されていないことがあります。これが、低注入量における正確度および精度に影響を及ぼす可能性があります。この問題は、サンプルループとシリンジサイズに別の組み合わせを使用することで軽減できますが、異なるアッセイごとにこれらを交換するのは複雑になり、時間がかかる場合があります。

Alliance iS HPLC System の計量デバイスの設計では、これらの短所の一部に対処しています。高圧流路とインラインの計量デバイスでは、空気の蓄積が軽減されます(図 1C)。サンプルが注入されると、計量デバイスはそのまま流路の一部となり、移動相によって常にフラッシュ洗浄されます(図 1D)。これによって、計量デバイスへの空気のトラップが防止できます。計量デバイスを制御するモーターメカニズムがより微調整され、注入の正確度と精度が改善しています。

サンプリングシリンジと計量デバイスの吸引メカニズム
図 1:サンプリングシリンジと計量デバイスの吸引メカニズム。(A)Arc HPLC システムの吸引ステージ、(B)Arc HPLC システムの注入ステージ、(C)Alliance iS HPLC System の吸引ステージ、(D)Alliance iS HPLC System の注入ステージ。 赤色の矢印は送液の方向を示します。

USP フルコナゾールモノグラフ(20/80 有機/水系)

フルコナゾールアッセイでは、主に 20% アセトニトリル/80% 水の水系サンプル希釈液を使用します。アッセイはすべてのシステムにわたって高い再現性を示し、サンプルセットのピーク面積の RSD は 0.02% ~ 0.37% でした(図 2)。これは、2.0% というピーク面積の RSD の要件の範囲内です。計量デバイスを搭載した HPLC システム(Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y)は、サンプリングシリンジを搭載したシステム(Alliance e2695 システムおよび Arc HPLC システム)と比較して、精度性能がより良好で、ピーク面積の RSD が 0.2% を超えるサンプルセットはありませんでした。Alliance iS HPLC System では、3 日間にわたるピーク面積の %RSD 値が 0.02% ~ 0.05% であり、全体として最高の個別性能が示されました。

フルコナゾールのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました
図 2:フルコナゾールのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました。N=3 でサンプルセットを毎日分析しました。サンプルセットのピーク面積の %RSD の最小値(灰色)と最大値(黒色)を示しています。Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y では計量デバイスを使用し、Alliance e2695 システムおよび Arc HPLC システムではサンプリングシリンジを使用しています。

USP ロサルタンカリウムのモノグラフ(40/60 有機/水系)

ロサルタンカリウムアッセイでは、主に 40% アセトニトリル/60% 水の水系サンプル希釈液を使用します。フルコナゾールと同様に、このアッセイはシステム間で高い再現性を示し、サンプルセットのピーク面積 %RSD 値は 0.01% ~ 0.25% でした(図 3)。吸引メカニズムの間に大きな性能の差はなく、すべてのシステムが厳密に 0.5% というピーク面積の RSD の要件を満たしていました。この分析法の前のバージョンは P. Hong (2020) の試験により困難であることが判明していますが、USP による新しい改訂バージョンでは、サンプル希釈液が 100% 有機から 40/60 有機/水系混合液に変更されています2。 揮発性有機成分の低減により、HPLC システムがこの厳しい要件をより簡単に満たせるようになった可能性があります。

ロサルタンカリウムのサンプルセットのピーク面積の %RSD
図 3:ロサルタンカリウムのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました。N=3 でサンプルセットを毎日分析しました。サンプルセットのピーク面積の %RSD の最小値(灰色)と最大値(黒色)を示しています。Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y では計量デバイスを使用し、Alliance e2695 システムおよび Arc HPLC システムではサンプリングシリンジを使用しています。

USP フェノフィブラートのモノグラフ(70/30 有機/水系)

フェノフィブラートアッセイでは主に有機溶媒を用い、サンプル希釈液は 70% アセトニトリルと 30% 酸性化水です。希釈液中の有機成分が多いと、揮発性によりサンプルの併行精度が悪くなることが予想されましたが、このアッセイはシステム間で再現性があり、サンプルセットのピーク面積の RSD は 0.04% ~ 0.43% でした(図 4)。すべてのシステムがピーク面積の RSD 1.0% という要件の範囲内に収まっていました。Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y、Arc HPLC システムはすべて同様の性能を示しました(ピーク面積の RSD が 0.04% ~ 0.23%)。

Alliance e2695 システムではこのアッセイはより困難で、他のシステムと比較してピーク面積の %RSD 値がより大きく(0.10% ~ 0.43%)なりました。これは、アッセイの注入量が少ない(6.6 µL)ことに起因する可能性があります。既定の設定において、Alliance e2695 システムでは 250 µL のサンプリングシリンジを使用します。サンプリングシリンジのボリュームが大きいことと注入量が少ないことが組み合わさって、精度が低下し、ピーク面積の %RSD が大きくなったと考えられます。

フェノフィブラートのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました
図 4:フェノフィブラートのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました。N=3 でサンプルセットを毎日分析しました。サンプルセットのピーク面積の %RSD の最小値(灰色)と最大値(黒色)を示しています。Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y では計量デバイスを使用し、Alliance e2695 システムおよび Arc HPLC システムではサンプリングシリンジを使用しています。

USP ケトコナゾールのモノグラフ(100% 有機)

ケトコナゾールアッセイでは、サンプル希釈液として 100% メタノールを使用しており、完全に有機系です。ピーク面積の RSD が 0.73% という厳しい精度要件があるため、この分析法は、これらの HPLC システムにわたって困難であることが判明しました。テストした HPLC システムのうち、Alliance iS HPLC System のみが 3 日間にわたって基準(ピーク面積の RSD 値が 0.03% ~ 0.18%)を満たしました。残りの 4 台の HPLC システムでは、一貫して基準を満たすことができませんでした(図 5)。システム X および Arc HPLC システムでは、サンプルセット間で大きなばらつきが見られました。ピーク面積の %RSD は、システム X では 0.06% ~ 1.26%、Arc HPLC システムでは 0.12% ~ 1.19% でした。システム Y では、0.51% ~ 1.18% と一貫して大きいピーク面積の %RSD になりました。Alliance e2695 システムのピーク面積の RSD 値は 0.17% ~ 0.36% で、1 つのサンプルセットで 1.15% という高い RSD になりました。

ケトコナゾールのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました
図 5:ケトコナゾールのサンプルセットのピーク面積の %RSD。5 台の同等のシステムで 3 日間にわたって注入精度を評価しました。N=3 でサンプルセットを毎日分析しました。サンプルセットのピーク面積の %RSD の最小値(灰色)と最大値(黒色)を示しています。Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y では計量デバイスを使用し、Alliance e2695 システムおよび Arc HPLC システムではサンプリングシリンジを使用しています。

ケトコナゾールのデータからは、サンプル吸引メカニズムに関連する明確な傾向は確認できませんでした。計量デバイスの方がサンプリングシリンジよりも注入精度に関する性能が優れていると予想されましたが、これについて今回の結果では決定的ではありませんでした。Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y では、精度性能に一貫した傾向は見られず、システム X とシステム Y は、サンプルセットの大半について精度基準を満たしていませんでした。

計量デバイスを使用するシステムから収集したデータを評価して、オートサンプラーの性能に影響する可能性のあるその他の要因(サンプル希釈液やインジェクター吸引速度など)を確認しました。ケトコナゾールアッセイでは、サンプル希釈液として非常に揮発性が高い 100% メタノールを使用しています。試験全体にわたり、サンプルの蒸発を最小限に抑えるために、サンプルコンパートメントの温度を 15 ℃ に制御しました。穿刺していないバイアルの標準溶液を毎日使用しました(同じバイアルから計 N=18 回の注入)。標準試料後ブランク注入で、すべての HPLC システムにわたってキャリーオーバーのピークが見られなかったため、ピーク面積の増加の原因としてキャリーオーバーは除外されました(図 6)。希釈液の蒸発がピーク面積のばらつきに影響する主な要因である場合、希釈液が蒸発してサンプル溶液が濃縮されると、ケトコナゾールの絶対ピーク面積が時間の経過とともに増加すると考えられます。

ケトコナゾール標準溶液のクロマトグラムの重ね描き
図 6:5 台の HPLC システムでのケトコナゾール標準溶液(赤/緑)と標準試料後ブランク(黒/青)のクロマトグラムの重ね描き。各注入セットについて、標準溶液注入 #5 および #6 を、その直後の標準試料後ブランク注入に重ね描きしたところ、キャリーオーバーがないことが確認されました。ここに示す注入は、5 台のシステム((A)Alliance iS HPLC System、(B)システム X、(C)システム Y、(D)Alliance e2695 システム、(E)Arc HPLC システム)すべてにおける 3 日目の 3 つのサンプルセットのうちサンプルセット 3 からのものです。

Alliance iS HPLC System、システム X、システム Y での N=18 の個別の注入におけるケトコナゾールの絶対ピーク面積を、図 7 に視覚的に示します。全体として、Alliance iS HPLC System では注入間のピーク面積のばらつきが最も少ないことがわかりました。Alliance iS HPLC System ではサンプルのピーク面積が増加する傾向にあります(図 7 の黄線)。これはサンプルの一部が蒸発していることを示していますが、性能には影響が見られず、ピーク面積の RSD は低い値(0.3% ~ 0.18%)でした。システム X およびシステム Y(それぞれ図 7 のオレンジ線および青線)では、蒸発の傾向は見られません。サンプルのピーク面積は増加していませんが、ピーク面積の値が低い値と高い値の間でばらつく傾向が見られ、これによってピーク面積の RSD が高くなっています。これらのピーク面積のばらつきはテスト全体にわたって断続的に発生するため、サンプルの蒸発がこれらのシステムでのピーク面積のばらつきの主な原因ではないことを示しています。

3 日間にわたる 3 台の HPLC システムのケトコナゾールの絶対ピーク面積
図 7.3 日間にわたる 3 台の HPLC システムのケトコナゾールの絶対ピーク面積。N=18 回の注入を毎日 1 つのバイアルから行いました。Alliance iS HPLC(黄色)、システム X(オレンジ色)、システム Y(青色)では、計量デバイスを使用しています。

考慮すべき別の要因として、インジェクター吸引速度が挙げられます。サンプル希釈液に合わせた吸引速度の最適化が必要になる場合があります。表 1 に示すように、HPLC システム間で吸引速度の既定値が異なる場合があります。Alliance iS HPLC System とシステム Y の吸引速度は 100 µL/分、システム X の吸引速度は 300 µL/分です。システム X は、3 台のシステムの内で吸引速度が最も速く、最も大きなばらつきが見られます。吸引速度が希釈液に対して最適化されていない場合、これによって注入間でピーク面積の不一致が生じることがあります。一方、Alliance iS HPLC System とシステム Y はいずれも吸引速度が 100 µL/分ですが、精度性能は大きく異なっていました。インジェクターの吸引速度およびピーク面積が再現性に及ぼす影響については、さらなる調査が必要と考えられます。

結論

HPLC システムで一貫して再現性のあるデータが取り込める能力は非常に重要です。そのためにもオートサンプラーに高い性能が求められます。この試験では、サンプル吸引メカニズムやインジェクターの吸引速度などの装置特性が、精度要件を満たす上で HPLC の性能に及ぼす影響を調査しました。オートサンプラーの性能は複雑であり、分析法とシステムごとに異なることがわかりました。計量デバイスは、より微調整されたシリンジ吸引モーターを使用し、高圧流路とインラインに配置されるため、サンプリングシリンジよりも精密な性能が得られるというメリットがあります。

フルコナゾールおよびケトコナゾールの USP アッセイで、Alliance iS HPLC System が、ピーク面積の %RSD が最小であり、全体的に優れていることが示されました。ケトコナゾールアッセイでは分析法条件が特に困難であり、HPLC システム間で結果が大きく異なっていました。Alliance iS HPLC System では、3 日間にわたって一貫した再現性のある結果が得られ、0.73% という厳しいピーク面積の RSD の要件を満たしていました。

ケトコナゾールアッセイでは、計量デバイスを使用する HPLC システム間で異なる結果が得られました。これは予想外の結果でした。各システムについてケトコナゾールの絶対ピーク面積を追跡したところ、蒸発とキャリーオーバーはピークのばらつきの原因から除外されました。さらに、2 台の HPLC システムでインジェクターの吸引速度は同じであるにもかかわらず、性能が大きくばらつきました。吸引メカニズムとインジェクター吸引速度は重要な要因ではありますが、オートサンプラーの性能に見られるばらつきをこれらによって完全に説明することはできません。

参考文献

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  11.  Monograph: USP.Ketoconazole.In: USP-NF.Rockville, MD: USP; 01 May 2020.DOI: https://doi.org/10.31003/USPNF_M43990_04_01

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