• アプリケーションノート

体系的プロトコルおよび MaxPeak™ High Performance Surface テクノロジーを用いた、GLP-1 合成ペプチドの分離メソッドの開発

体系的プロトコルおよび MaxPeak™ High Performance Surface テクノロジーを用いた、GLP-1 合成ペプチドの分離メソッドの開発

  • Brianna R Clements
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

GLP-1 は、II 型糖尿病および肥満の治療に使用される合成ペプチド医薬品です。最近、セマグルチドなどの GLP-1 の需要が高まっています。現在処方されている GLP-1 のパネル全体を分離および同定できる単一のメソッドは、現時点ではありません。このアプリケーションでは、現在市販されているさまざまな GLP-1 を対象とする、再現性のある HPLC-UV/MS メソッドを開発しました。また、関連する不純物の分離および同定における、このメソッドの機能についても説明します。最後に、合成ペプチドの分析に MaxPeak™ High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用するメリットを従来のステンレススチール製のシステムと比較して実証しました。

アプリケーションのメリット

MaxPeak Premier 逆相カラムスクリーニングキットに概説されているように、合成ペプチド用の優れた分離メソッドを、体系的プロトコルを使用して作成することができます。
 
PDA ピーク純度解析などの Empower ツールや ACQUITY™ QDa™ からの質量スペクトルデータにより、不純物の同定の信頼性が高まります。
 
MaxPeak HPS テクノロジーにより、従来のステンレススチール製システムと比較して、合成ペプチドや不純物のクロマトグラフィーにおけるピークの面積、高さ、テーリングの改善が示されています。 

はじめに

グルカゴン様ペプチド 1 作動薬(GLP-1)は、肥満や II 型糖尿病の治療および管理のために処方される合成ペプチド医薬品のクラスです1。最近では、臨床試験の成功により、体重管理治療薬としてセマグルチドなどの医薬品の人気が急速に高まっています2。GLP-1 の普及を考慮すると、このクラスの医薬品の品質管理を、汎用的で高感度かつ再現性のあるクロマトグラフィーメソッドによってサポートすることが重要です。一部の一般的な GLP-1 についてはクロマトグラフィーメソッドがありますが、知り得る限り、このクラスの合成ペプチドの最新のパネルを分離できる単一のメソッドはありません3-6。さらに最近、米国食品医薬品局(FDA)は、市販の合成ペプチドの一部について、製品別ガイドライン(PSG)を発表しました7。この発表において、FDA は、合成ペプチドの不純物分析の重要性について言及しています。

今回、これらのニーズに対応し、Waters™ MaxPeak HPS と組み合わせたメソッド開発用の体系的なプロトコルを利用して、さまざまな GLP-1 を分析できる単一の HLPC-UV/MS メソッドを開発しました。このテクノロジーは、望ましくない金属とペプチドの相互作用を低減し、クロマトグラフィーのピーク面積カウント、テーリング、保持時間の再現性などのクロマトグラフィー分離パラメーターの改善につながることが以前に示されています8,9

実験方法

ストック標準溶液の調製

デュラグルチド、エキセナチド、グルカゴン、リキシセナチド、チルゼパチドは、Selleck Chem(テキサス州ヒューストン)から購入しました。リラグルチドとセマグルチド(酢酸塩)は、Cayman Chemical(ミシガン州アナーバー)から購入しました。ストック溶液の濃度は、購入した物質の溶解度および量によってさまざまです(表 1)。調製時には、すべての塩要因を考慮しました。超音波処理を使用して、標準試料を溶液に溶解させました。

表 1.ストックケミカル、略語、濃度、希釈液のリスト。 (DI 水は脱イオン水、DMSO はジメチルスルホキシドです)。

ストック溶液は 2 ℃ ~ 8 ℃ で保存しました。DMSO の物理的特性のため、ストック溶液は低温保管庫中で固化しました。標準溶液の調製を行う前に、解凍したストック溶液を周囲温度に平衡化させました。

標準溶液の調製

ストック溶液を、0.1:0.5:99.4 トリフルオロ酢酸:アセトニトリル:脱イオン水(標準希釈液)で希釈しました。ストック溶液を合わせて、すべての分析種が濃度 100 µg/mL になるように調製しました(GLP-1 薬のパネル)。

さらに、フォーカスグラジエントの使用および不純物分離の最適化におけるその使用方法を実証するために、グルカゴンのみを含む別の標準試料を作製しました。この標準試料は、個々のグルカゴンのストック溶液を標準希釈液で濃度 750 μg/mL に希釈することによって作製しました。

LC 条件

GLP-1 パネルのスクリーニンググラジエントのグラジエントテーブル

グルカゴンフォーカスのグラジエントのグラジエントテーブル

データ管理

装置コントロール:

Empower™ 3.7.0

データ解析:

Empower 3.7.0

結果および考察

スクリーニンググラジエントを使用した分離メソッド

メソッド開発のための体系的プロトコルアプローチでは、さまざまなカラムと逆相移動相の組み合わせをスクリーニングして、クロマトグラフィー分離を最適化するのに最も適切な条件を決定することが推奨されています。

MaxPeak Premier 逆相カラムスクリーニングキット(表 2)で定義されている 4 種類のカラムと移動相溶離液の組み合わせを検討しました。

表 2.検討したカラムと移動相の 4 種類の組み合わせ。それぞれの実験結果を指すのに略語を使用しています。

この研究で使用した GLP-1 のパネルに図 1 のさまざまなカラムと移動相の組み合わせを使用した場合の、それぞれの条件セットで得られた代表的なクロマトグラムにより、保持の違いが明確に示されました。

図 1.カラムと移動相の組み合わせそれぞれからの GLP-1 標準混合液の保持と選択性の違いを示す積み重ねクロマトグラム。

スクリーニング実験に基づいて、メソッド条件の組み合わせによって得られた全体的な速度と分離能により、今回のメソッドには XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムとギ酸の移動相を選択しました。さらに、最大化したグルカゴンのクロマトグラフィーピーク高さに基づいて、これらの条件を選択しました(表 3)。 

表 3.それぞれのカラムと溶離液の組み合わせで得られる平均高さを示す表。データは、GLP-1 薬パネル標準試料の 10 回注入によって収集しました。

さらに、図 2 に示すように、XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムにより、グルカゴンの脱アミド不純物について、他のカラムと移動相の組み合わせより良好な分離が得られました。グルカゴンには、一般的な脱アミド不純物が 4 種類含まれており、これらはペプチドのアミノ酸残基の脱アミド化によって生じます4,11

図 2.グルカゴンとその脱アミド不純物の選択性と保持の違いを示す、カラムと移動相のそれぞれの組み合わせで得られたクロマトグラム。

グルカゴンの不純物を分離するためのフォーカスグラジエント

図 2 から、初期スクリーニンググラジエントを使用したグルカゴンの脱アミド不純物は分離が悪いことがわかります。これらの不純物の分離を改善するため、MaxPeak Premier ペプチド逆相カラムスクリーニングキットで説明しているように、XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムおよびギ酸移動相と共に、フォーカスグラジエントを使用しました。このグラジエントの詳細は、上記のメソッド条件セクション内のグラジエントテーブルに示しています。図 3 に、グルカゴンおよび関連する脱アミド不純物について最適化したフォーカスグラジエントの結果を示します。

図 3.フォーカスグラジエント条件を使用してグルカゴンの個々の標準試料(750 ug/mL)と関連する脱アミド不純物を分離した結果を示す代表的なクロマトグラム。

グルカゴンおよび脱アミド不純物のピーク純度は、PDA 検出器および ACQUITY QDa 質量検出器で得られた UV スペクトルおよび質量スペクトルのデータで確認しました(図 4a ~ 4c)。

図 4a.Empower 内のピーク純度ツールを使用した、Des 4 のクロマトグラフィーピークの UV PDA によるピーク純度の例。ここでは、純度のしきい値が自動しきい値を下まわっており、ピークが純粋であることを示しています。

図 4b.Empower のピーク純度ツールを使用した、グルカゴンおよび脱アミド不純物のピーク純度に関わる表形式データ。

図 4c.個々のグルカゴン標準試料の代表的な注入について、ACQUITY QDa 質量検出器で得られた質量スペクトルデータ。ここでは、グルカゴンおよびその脱アミド不純物それぞれの MS スキャンピークの立ち上がり、頂点、立ち下がりの面を示します。明確に異なるイオンがそれぞれのプロットに見られます。イオンは、グルカゴンペプチドのチャージ状態と関連付けられています。質量スペクトルおよび UV スペクトルのデータから、それぞれの脱アミド不純物がグルカゴンに関連していることが示唆されます。

Premier テクノロジーと従来のステンレススチール製の比較

さまざまなカラムと移動相の組み合わせを検討した際に、MaxPeak HPS を採用した Premier カラムおよびシステムが GLP-1 薬のパネルに及ぼした影響について調べました。パネルの一部の分析種の結果を、従来のステンレススチール製カラムおよびシステムを使用して得られた結果と比較しました。

XSelect Peptide CSH C18 カラムでフォーカスグラジエントを使用してグルカゴンとその不純物を分離した場合、MaxPeak HPS によりピークの面積が最大 19%、高さが最大 30% 増大し、テーリングが最大 36% 減少することがわかりました(図 5、表 4 ~ 6)。

図 5.グルカゴンおよび関連脱アミド不純物について、MaxPeak HPS テクノロジーと従来のステンレススチール製システムで得られたメソッドの性能を示す代表的なクロマトグラム。
表 4.グルカゴンおよびその脱アミドの 10 回の注入について、2 つの LC システム間での平均ピーク面積の比較。
表 5.グルカゴンおよびその脱アミドの 10 回の注入について、2 つの LC システム間での平均ピーク高さの比較。
表 6.グルカゴンおよびその脱アミドの 10 回の注入について、2 つの LC システム間での平均ピークテーリングの比較。

トリフルオロ酢酸溶離液を使用し、XBridge Peptide BEH C18 カラムでスクリーニンググラジエントを用いて GLP-1 薬パネル混合液中のセマグルチドを分離した場合、MaxPeak HPS によりピークの面積が 20% 増加し、高さが最大 30% 増加することがわかりました(図 6、表 7 ~ 8)。

図 6.セマグルチドについて、MaxPeak HPS テクノロジーと従来のステンレススチール製システムで得られたメソッドの性能を示す代表的なクロマトグラム。
表 7.セマグルチドの 10 回の注入について、2 つの LC システム間での平均ピーク面積の比較。
表 8.セマグルチドの注入について、2 つの LC システム間での平均ピーク高さの比較。

最後に、トリフルオロ酢酸溶離液を使用し、XSelect Peptide CSH C18 カラムでスクリーニンググラジエントを用いて GLP-1 薬パネル混合液中のリラグルチドを分離した場合、MaxPeak HPS によりピークの面積が 28%、高さが最大 51% 増加し、ピークテーリングが最大 13% 減少することがわかりました(図 7、表 9 ~ 11)。

図 7.リラグルチドについて、MaxPeak HPS テクノロジーと従来のステンレススチール製システムで得られたメソッドの性能を示す代表的なクロマトグラム。
表 9.リラグルチドの 6 回の注入について、2 つの LC システム間での平均ピーク面積の比較。
表 10.リラグルチドの 6 回の注入について、2 つの LC システム間での平均ピーク高さの比較。
表 11.リラグルチドの 6 回の注入において、2 つの LC システム間での平均ピークテーリングの比較。

結論

このアプリケーションノートでは、MaxPeak Premier ペプチド逆相カラムスクリーニングキットに概説されている体系的プロトコルの利用について説明しました。このメソッド開発のアプローチにより、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、グルカゴンおよび関連する脱アミド不純物について、質の高い分離が得られました。グルカゴン不純物および脱アミド不純物は、ベースライン分離され、UV 検出および MS 検出の両方で検出されました。クロマトグラフィーピークの純度を、Empower Peak purity(ピーク純度)解析ツールを使用して決定し、脱アミド不純物のグルカゴンとの関連性に関する情報が得られました。MaxPeak HPS テクノロジーの使用により、試験したさまざまな GLP-1 について、クロマトグラフィーのピーク面積が最大 28% 増加し、ピーク高さが最大 51% 増加し、ピークテーリングが 13% 減少しました。

参考文献

  1. Holz G, Chepurny O. Glucagon-Like Peptide-1 Synthetic Analogs: New Therapeutic Agents for Use in the Treatment of Diabetes Mellitus.Current Medicinal Chemistry.2003 Nov 1;10(22):2471–83.
  2. Magda Sara Wojtara, Mazumder A, Syeda Y, Nikodem Mozgała.Glucagon-Like Peptide-1 Receptor Agonists for Chronic Weight Management.Advances in medicine.2023 Sep 20;2023(Article ID 9946924):1–7.
  3. United States Pharmacopeia.Exenatide Injection USP Monograph.online.uspnf.com.2019.
  4. United States Pharmacopeia.Glucagon USP Monograph.online.uspnf.com.2022.
  5. Kumar Kuna A, Ganapathi S, Radha G. A Novel RP- HPLC Method Development and Forced Degradation Studies for Semaglutide in Active Pharmaceutical Ingredients and Pharmaceutical Dosage Form.International Journal of Research in Pharmaceutical Sciences. 2019 Apr 15;10(2):865–73.
  6. Pedaprolu JN, Bonthu M, Vatchavai B, Kamatham S, Kolli S, Kapuganti AN.A New Stability-Indicating and Validated RP-HPLC Method for the Estimation of Liraglutide in Bulk and Pharmaceutical Dosage Forms.Eurasian Journal of Analytical Chemistry.2016 Dec 8;12(2):31–44.
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  8. Birdsall R, Kellet J, Ippoliti S, Qing Yu Y. Increasing Recovery and Chromatographic Performance of “Acidic” Peptides Using Waters ACQUITY Premier Solution [Internet].www.waters.com.Waters Corporation; 2021.Available from: 720007173.March 2021.
  9. Bigos P, Birdsall R, Walter T. MaxPeak Premier Solutions: Improving Consumer Safety Through Innovative Science [Internet].www.waters.com.Waters Corporation; 2021.Available from: 720008054.
  10. MaxPeak Premier Peptide Reversed-Phase Column and Method Screening Kit: Practical Steps in Developing Robust Peptide Separations Available from 720008131.
  11. Bao Z, Cheng YC, Luo MZ, Zhang JY.Comparison of the Purity and Impurity of Glucagon-for-Injection Products under Various Stability Conditions.Scientia Pharmaceutica [Internet].2022 Jun 1 [cited 2023 Nov 10];90(2):32.Available from: https://www.mdpi.com/2218-0532/90/2/32.

720008267JA、2024 年 3 月

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