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AMGS 指標による評価においてより環境に配慮した HPLC 分析法の作成:USP モノグラフ分析法の改善のケーススタディ

AMGS 指標による評価においてより環境に配慮した HPLC 分析法の作成:USP モノグラフ分析法の改善のケーススタディ

  • Kenneth D. Berthelette
  • Thomas H. Walter
  • Maureen DeLoffi
  • Jamie Kalwood
  • Kim Haynes
  • Waters Corporation

要約

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、さまざまな化合物を分析するための、一般的で十分に立証済みの簡単に使用できる分析法です。HPLC が主要な役割を果たしている分野の 1 つとして、医薬品業界があります。ジェネリック製薬企業および多くの品質管理団体が HPLC のシステムおよび分析を使用しています。その理由は、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC™)のような新しいテクノロジーよりも利用しやすいことが多いためです。ここ数年、HPLC などの分析化学的手法をより持続可能なものにすることが求められています。これらの「環境への配慮」の取り組みでは、有毒な試薬の使用を減らし、廃液とエネルギーの消費を削減しつつ目的の科学的結果を得ることに焦点を当てています。

このアプリケーションノートでは、リバーロキサバンおよび関連不純物の分析に関する USP モノグラフの手順について調査します。環境への配慮の原則を考慮して、新規分析法を社内で作成しました。すべての分析法が、Analytical Method Greenness Score(分析法環境配慮スコア、AMGS)メソッドを使用して評価および評点され、そのスコアがリストされています。社内で作成した新規分析法は、USP モノグラフ条件よりも環境に配慮していると評点されました。

アプリケーションのメリット

  • USP モノグラフに概説されている、リバーロキサバンおよび不純物用の環境に配慮した新規 HPLC 分析法の開発
  • 分析法の持続可能性を評価する AMGS 指標の導入
  • 2 つの分析法の AMGS スコアの比較

はじめに

高速液体クロマトグラフィー(HPLC)の使用は十分に立証済みであり、一部の科学者の間では非常によく知られています。複数の業界が、医薬品製剤のリリース、患者の健康状態のモニタリング、新しい包装材の開発などの目標を達成するために、液体クロマトグラフィー(LC)に大きく依存しています。HPLC は、医薬品、食品、環境、材料科学、アカデミア、バイオアナリシスのワークフローにおいて、程度の差こそあるものの広く普及しています。この実績のあるテクノロジーを特に品質管理に利用している最大の業界の 1 つとして、医薬品業界が挙げられます。このテクノロジーは利用しやすく、長年の経験を積んでいるため、この業界に非常に適しています。一方、HPLC の使用によって大きな効果が得られてはいるものの、UPLC などの新しいテクノロジーと比較すると、全体的なスループットが低いこと、かなりの量の廃液が生じることなど、いくつかの欠点があります。「環境への配慮」の取り組みが世界中で勢いを増すにつれて、後者の問題に最近特に関心が寄せられています。HPLC 分析法をより持続可能にすることで、環境や人の健康に対する悪影響を低減できるだけでなく、コストも削減することができます。

HPLC などの分析手法は、複数のスコア指標を使用して、「環境への配慮」について評価することができます。そのような方法の 1 つとして、Analytical Method Greenness Score(AMGS)と呼ばれる、2019 年に複数の製薬企業の科学者によって提案された指標が挙げられます1。 この方法では、装置のエネルギー使用率、実行時間、注入回数を考慮して、まず装置エネルギースコアを算出します。次に、総溶媒量、溶媒密度、溶媒エネルギーの需要貢献度を考慮して、溶媒エネルギースコアを算出します。このスコアは、溶媒の製造および廃棄に使用されるエネルギーの尺度です。最後に、溶媒 EHS(環境、健康、安全性)スコアを溶媒量、溶媒密度などにより計算します。EHS 平均値は非公表の計算方法で決定されます。次に、これら 3 つのスコアを組み合わせて環境配慮スコアを作成しますが、この数値が低いほど、その分析法は環境に配慮していることになります。さらに、AMGS メソッドでは、個々のスコアの環境配慮スコアへの寄与率が示されるため、操作に必要なエネルギーがより少ない分析システムへの移行など、分析法の個々の側面をさらに改善することができます。このカリキュレーターは、ACS グリーンケミストリー研究機構の Web サイトで、無料のオンラインツールとして使用できます2

このアプリケーションノートでは、リバーロキサバンおよびその不純物に関する USP モノグラフ分析法の改善に焦点を当てています。リバーロキサバンは商品名イグザレルトとして販売されており、血栓(具体的には深部静脈血栓と肺塞栓)の治療および予防に使用されています。膝や股関節の手術などの大手術後の血栓防止にも使用されています。この化合物には、リン酸カリウムとヘキサンスルホン酸ナトリウムの両方を使用するアッセイおよび不純物分析のバリデーション済み USP モノグラフ分析法があります。いずれの添加剤も移動相に使用されるため、これらは分析の廃棄物と見なされます。さらに、イオン対試薬として作用するヘキサンスルホン酸ナトリウムを除去するにはシステムをフラッシュ洗浄して脱不動態化する必要があり、適切に行わないと非常に長時間かかるため、HPLC システムにおいて特に問題になる可能性があります。リバーロキサバンおよびその USP モノグラフにリストされている 4 種類の不純物を分離するための新しい分析法が開発されました。USP モノグラフの条件と新規開発分析法の条件の両方に AMGS の方法を適用し、オンラインツールを使用してスコアを生成しました2

実験方法

分析条件

分析条件

サンプルの説明

リバーロキサバンおよびその類縁物質のストック溶液は、40:60(v/v)水:アセトニトリルを希釈溶媒として使用して、それぞれ 1 mg/mL になるように調製しました。ストック溶液は、0.5 mg/mL(リバーロキサバン)および 10 µg/mL ずつ(類縁物質 B、D、G、J)に希釈しました。 

LC 条件

LC システム:

2489 UV/Vis 検出器搭載 Alliance™ e2695 HPLC システム

検出:

UV @ 250 nm

カラム:

XSelect™ Premier HSS T3、4.6 × 100 mm、3.5 µm カラム(製品番号:186010935)

カラム温度:

30 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

3.0 μL

流速:

1.0 mL/分

移動相 A:

Milli-Q 水

移動相 B:

エタノール

グラジエント条件:

初期条件は 5% B。16.43 分間で 5 ~ 95% B の直線グラジエント。95% B で 2.76 分間ホールド。5% B に戻して 5.5 分間ホールド。合計サイクル時間:25 分。

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

Empower™ 3 Feature Release 4

結果および考察

リバーロキサバンおよび不純物の分析法開発

リバーロキサバンおよび不純物に関する USP モノグラフ分析法では、移動相中に、リン酸カリウムとヘキサンスルホン酸ナトリウム、および強溶媒であるメタノールおよびアセトニトリルの両方を使用することが指定されています3。この分析法は、有効成分であるリバーロキサバンおよびその合成不純物の分析に適している可能性がありますが、記載されている移動相組成は適切であるとは言えません。このメソッドでは、移動相を作成するのに複数のステップからなるプロセスが必要であるだけでなく、ヘキサンスルホン酸ナトリウムはイオン対試薬であるため、新しいシステムでは長時間のコンディショニングが必要になります。さらに、イオン対試薬は金属表面の不動態化によりシステムを汚染する場合があるため、添加剤の除去が課題になる可能性があります。移動相システム間の切り替えは困難であるため、原則としてこのアッセイ専用のシステムが必要です。上記の問題に加えて、USP モノグラフ分析法は、流速が大きく、注入あたりの分析時間が長いため、持続可能性は低くなります。より簡単に作成できる移動相を用いた持続可能な分析法を使用できれば、環境への影響が低減するだけでなく、移動相作成に失敗する可能性も低くなります。そのため、リバーロキサバンと USP モノグラフで指定されている 4 種類の不純物を分離するための新規分析法を開発しました。

5 種類の分析種を分離するのに必要な条件をまずスカウティングするため、シンプルなスクリーニンググラジエント(5 ~ 95% 有機溶媒)を選択しました。エタノールは分析法の明らかな第一選択肢ではありませんが、エタノールを強溶媒として選択しました。エタノールは、石油化学加工ではなく植物由来の物質の発酵で生成できるため、再生可能な溶媒と考えられており、より持続可能な溶媒の選択となります。XSelect Premier HSS T3 カラムを選択しました。その理由は、MaxPeak™ Premier ハードウェアには、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーが採用されており、これによって、LC システムおよびカラムにおける分析種と金属コンポーネントの間の非特異的吸着が低減するためです4。 分析種がこの非特異的吸着の影響を受ける場合は、MaxPeak Premier カラムを使用することでその相互作用を排除でき、より正確で再現性のある結果が得られます。新規分析法の開発時のリスク低減は、回答をより早く発見し、将来の問題を避けるために不可欠です。図 1 に、XSelect Premier HSS T3 カラムで、カラム容量あたり 3% エタノールの傾きの 5 ~ 95% エタノールのリニアグラジエントを使用して、リバーロキサバンおよび不純物サンプルを 3 回繰り返し注入して得られた積み重ねプロットを示します。この分析法では、移動相添加剤を使用していません。

図 1.  XSelect Premier HSS T3 4.6 × 100 mm 3.5 µm カラムで 5 ~ 95% のエタノールグラジエントを使用して分析した、リバーロキサバンと不純物の 3 回繰り返し注入で得られたクロマトグラムの積み重ねプロット。1)類縁物質 B、2)類縁物質D、3)類縁物質 G、4)リバーロキサバン、5)類縁物質 J。250 nm で UV 検出。

この分析法は、試験しなかった感度以外のすべてのアッセイ基準を満たしています。さらに、分析時間の面でもより迅速です。USP モノグラフ分析法には、37 分間のグラジエント(再平衡化の時間は含まない)が必要です。新規開発した分析法のサイクル時間は 25 分であり、全体的にスループットが向上しています。このことは、生産性の向上に直接つながると同時に、分析のコストも削減でき、移動相の使用量も減少します。さらに、新しい移動相システムでは水とエタノールのみを使用するため、移動相の調製にかかる時間が大幅に短縮し、プロセスをフォローしやすくなります。この新規分析法により、スループットが向上し、溶媒の使用量が公定分析法と比較して約 63% 減少します。

環境配慮スコアを、この新規分析法と元の USP モノグラフの条件について計算することができます。ただし、これらの計算では、分析法の使用目的のために適用されるいくつかの仮定を考慮する必要があります。この分析法は理論上 USP モノグラフ分析法に置き換えることができるため、いくつかの追加の要因を考慮する必要があります。例えば、特定の USP 基準を満たすには、サンプルを繰り返し注入する必要があります。具体的には、USP モノグラフでは、リバーロキサバンのピーク面積の %RSD を 5% 以下としています。USP General Chapter <621> によると、この要件を満たすには、計 6 回の繰り返しが必要です。さらに、モノグラフ分析法には、標準溶液と感度溶液を含む計 3 サンプルが必要です。そのため、このアッセイを完了するには、3 種類のサンプルを調製し、計 8 回注入を行うことが必要になります。この数は、適切な移動相およびグラジエント条件とともに、すべての環境配慮スコアの計算に適宜適用されます。

AMGS 指標を使用した環境配慮スコア

AMGS オンラインカリキュレーターを使用する場合、最初に入力するパラメーターは手法です。提供されている選択肢は非常に幅広く、分取 LC、SFC、LC-MS、NPLC などの通常の分析手法がカバーされています。USP モノグラフと新規開発分析法のいずれも、HPLC 手法を使用します。カリキュレーターは、適切なエネルギー消費率を適用して、装置のエネルギースコアを算出します。次に、対象分析種の数と分析全体の注入数を入力します。これらの値は、USP モノグラフ条件と新規開発分析法とで同じです。5 種類の対象分析種にはリバーロキサバンと 4 種の不純物が含まれており、モノグラフの要件を満たすために必要な総注入数は 8 回です。

カリキュレーターの次の部分では、溶媒組成、実行時間、流速、グラジエント条件などの装置条件を扱います。2 つの分析法はここで大きく異なります。先に説明した違いをカリキュレーターに入力しました。さらに、USP モノグラフ条件には 37 分の分析法が記載されていますが、これにはカラムの再平衡化の時間は含まれていません。この計算では、注入間の再平衡化を考慮して、実行時間を 40 分と入力しました。このカリキュレーターの欠点の 1 つは、溶媒エネルギースコアと溶媒 EHS スコアのいずれにも移動相添加剤が考慮されていないことです。USP モノグラフ分析法では、ヘキサンスルホン酸ナトリウムが必要ですが、これには例えばギ酸とは異なる安全性に関わる注意事項があります。一方、移動相組成を有機溶媒の割合で指定する必要があります。

次に、カリキュレーターにサンプルおよびストック溶液に関する情報を入力する必要があります。通常、USP モノグラフは生サンプルの分析用ですが、この場合に必要なのはストック溶液のみです。したがって、生サンプルの値は重要ではありません。ただし、それでもカリキュレーターには、生サンプルのサンプル希釈溶媒、サンプル容量、サンプル調製物数を入力する必要があります。このアプリケーションノートでは、生サンプルは試験していないため、両方に値 0 を入力し、溶媒組成は 100% 水と入力しました。カリキュレーターは、サンプル調製物の容量とストック溶液の数と使用する希釈溶媒(水とアセトニトリルの混合物)を尋ねます。このアプリケーションノートでは、ストック標準溶液の量を 5 mL とし、計 5 つのストック溶液(リバーロキサバンおよびその不純物ごとに 1 つ)を作成しました。アセトニトリル:水(40:60)を希釈溶媒として使用しました。

次に、作業用標準試料の値が必要です。このアプリケーションノートでは調べていませんが、USP モノグラフでは分析するサンプルが必要です。サンプルを繰り返し注入する必要はなく、1 回のみ注入するため、容量 1 mL、調製物は 1 とカリキュレーターに入力し、希釈溶媒は 40:60 アセトニトリル:水としました。これで、作業用標準試料の調製に必要な情報はすべてです。システム適合性サンプルを次に記録します。必要なサンプル調製物は 1 つのみで、十分な繰り返し注入を行うのに必要なサンプル調製物の容量は 1 mL です。ここでも、40:60 アセトニトリル:水を希釈溶媒として使用しました。必要な最後の情報は、感度溶液の調製です。この論文では示していませんが、感度サンプルが必要になります。必要な注入は 1 回のみなので、調製物の数は 1、容量 1 mL と入力しました。上記の標準サンプル希釈溶媒を、この標準試料にも使用しました。すべての情報を入力したら、合計スコアを算出することができます。表 1 に、USP モノグラフ条件と新規開発分析法の両方の AMGS スコアを示します。 

表 1.  オンラインカリキュレーターを使用した USP モノグラフ条件および新規開発分析法の AMGS スコア2

スコアから明確にわかるように、新規開発分析法は USP モノグラフ条件よりも持続可能性において優れています。USP モノグラフ条件と比較して、環境配慮スコアが約 50% 低くなっているだけでなく、個々のスコアに顕著な違いが見られます。最も注目されるのは溶媒エネルギースコアで、新しい分析法では、USP モノグラフ条件と比較してかなり低くなっています。これは、USP モノグラフ条件では「バイオベース」とは見なされない複数の有機溶媒を使用しているのに対して、新しい分析法ではエタノールのみを使用しているためであると考えられます。同じ数の分析種とサンプルが必要であり、同じ装置を使用しているため、2 つの条件の間の装置エネルギースコアの差は実行時間に直接関連していることに注意してください。

AMGS スコアは、分析法の環境配慮度を評価するのに適した方法ですが、分析法で目的の科学的結果を達成した後の決定要因としてのみ使用すべきです。AMGS スコアは、目的の科学的結果を達成している、適合性が同等の 2 つの分析法から選ぶための優れた決定要因です。したがって、USP モノグラフに記載されている不純物が分離されると同時に、元の USP モノグラフ条件よりも AMGS 値が低い、新規に開発した分析法の方が望ましくなります。 

結論

合成化学および分析化学を含むがこれらに限定されない多くのワークフローで、持続可能性を実現するための取り組みがますます重要視されるようになっています。分析法の「環境配慮度」を向上させるには、バイオベースの溶媒の使用、廃液発生量の低減、消費電力の低い装置の使用など、さまざまな方法があります。もちろん、分析法の持続可能性と、目的に合った質の高いデータを生成する能力の間のバランスを取る必要があります。多くの古い HPLC 分析法では、持続可能性が高いとは言えない移動相添加剤を使用しています。さらに、これらの分析法では多くの場合、大量の廃液が生じる古いカラムテクノロジーおよび装置を使用しており、「環境配慮度」がさらに低くなっています。環境配慮の原則を考慮しながらも分析のニーズを満たす新しい分析法を開発することで、より持続可能な分析法を作成することができます。このアプリケーションノートでは、USP モノグラフに記載されているリバーロキサバンとその不純物を分離するための新しい分析法の開発に焦点を当てます。新しい分析法と USP モノグラフ条件の間で、分析法の持続可能性の尺度である AMGS スコアを比較しました。環境配慮の原則を考慮することで、より持続可能な分析法を開発できます。これにより、ラボの運用コストを削減できるだけでなく、環境への影響も低減することができます。 

参考文献

  1. Hicks M, Farrell W, Aurigemma C, Lehmann L, Weisel L, Nadeau K, Lee H, Moraff C, Wong M, Huang Y, Ferguson P. Making the Move Towards Modernized Greener Separations: Introduction of the Analytical Method Greenness Score (AMGS) calculator.Green Chem.21 (2019) 1816
  2. ACS Green Chemistry Institute Pharmaceutical Roundtable Website.Accessed 14-Feb-2024.
  3. USP Monograph Rivaroxaban.https://online.uspnf.com/uspnf/document/1_GUID-80A96549-FD91-4801-8878-23D22A9616D5_2_en-US?source=Search%20Results&highlight=Rivaroxaban Accessed 8-Feb-2024.
  4. Lauber M, Walter TH, Gilar M, DeLano M, Boissel C, Smith K, Birdsall R, Rainville P, Belanger J, and Wyndham K. Waters Corp. White Paper 720006930, 2020. 

720008281JA、2024 年 3 月

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