• アプリケーションノート

臨床研究のための血漿中三環系抗うつ薬の分析

臨床研究のための血漿中三環系抗うつ薬の分析

  • Vallerie Muckoya
  • Stephen Balloch
  • Gareth Hammond
  • Lisa J. Calton
  • Waters Corporation

研究目的のみに使用してください。診断用には使用できません。

要約

クロマトグラフィーと質量検出器により分析の選択性が得られ、これによって、広範囲の極性にわたる 15 種類の TCA の定量が可能になります。さらに、この分析法のサンプル前処理は迅速でコスト効率が良く、少量のサンプルしか使用しません。

アプリケーションのメリット

  • クロマトグラフィーおよび質量検出器によって分析の選択性を実現
  • 幅広い極性にわたる 15 種類の TCA の定量
  • 少量のサンプルを使用する迅速かつ低コストなサンプル前処理

はじめに

血漿中の三環系抗うつ薬の定量分析は、薬物動態研究を行い、治療薬を効率的にモニターするために重要です1

今回、血漿からの 15 種類の三環系抗うつ薬の抽出に除タンパクを使用した臨床研究分析法について説明します。クロマトグラフィー分離は、ACQUITY UPLC I-Class FL システム、XSelect™ Premier HSS C18 カラム(2.1 × 100 mm、2.5 µm)を使用して行いました。検出器は、ポジティブエレクトロスプレーイオン化モードで動作する Xevo™ TQ-S micro 質量分析計を用いました(図 1)。

図 1.ACQUITY UPLC I-Class FL システムおよび Xevo TQ S-micro 質量分析計

実験方法

サンプル前処理

血漿キャリブレーターと品質管理物質は、BioIVT(英国、ウェストサセックス)から供給されたプールしたヒト血漿を使用して社内で調製しました。濃縮ストック溶液は、Cambridge Bioscience(英国、ケンブリッジシャー)、Sigma-Aldrich(英国、ドーセット)、Toronto Research Chemicals(カナダ、オンタリオ)から供給された認証済み粉末および溶液から調製しました。安定標識内部標準は、ALSACHIM(フランス、イルキルシュ=グラフェンスタデン)、Sigma-Aldrich(英国、ドーセット)、Toronto Research Chemicals(カナダ、オンタリオ)から提供を受けました。分析種のキャリブレーション範囲と社内品質管理濃度は、表 1 に示しています。

表 1. キャリブレーションおよび社内 QC の濃度範囲

サンプル抽出

サンプル 50 µL が入っているマイクロ遠心分離チューブに、内部標準含有アセトニトリル 150 µL を添加しました。内部標準の濃度の詳細は表 2 に記載しています。

表 2. 内部標準の濃度

マルチチューブボルテックスミキサーにチューブを配置し、1,500 rpm で 3 分間ボルテックス混合してから、16,100 g で 2 分間遠心分離しました。上清 25 µL を 1 mL の 96 ウェルプレートに移し、水を 475 µL 加えました。プレートに蓋をして、1,500 rpm で 2 分間ボルテックス混合してから分析しました。

UPLC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class FL システム

ニードル:

30 µL

カラム:

XSelect Premier HSS T3 カラム、2.5 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186009831)

移動相 A:

水 + 5 mM ギ酸アンモニウム + 0.1% ギ酸

移動相 B:

メタノール + 5 mM ギ酸アンモニウム + 0.1% ギ酸

ニードル洗浄溶媒:

80% メタノール水溶液 + 0.1% ギ酸

パージ溶媒:

水:メタノール(40:60、v/v)

シール洗浄溶媒:

20% メタノール水溶液

カラム温度:

45 ℃(プレカラムヒーターアクティブ)

注入量:

20 µL

グラジエントテーブル

表 3. クロマトグラフィー溶出のタイムテーブル

実行時間:4.0 分(注入間時間 4.5 分)

MS 条件

システム:

Xevo TQ-S micro

分離:

MS1(0.7 FWHM)、MS2(0.7 FWHM)

取り込みモード:

マルチプルリアクションモニタリング(MRM)(詳細は表 3 を参照)

極性:

ESI+ イオン化

キャピラリー電圧:

0.5 kV

イオン源温度:

150 ℃

脱溶媒温度:

600 ℃

コーンガス:

150 L/時間

脱溶媒ガス流量:

1,000 L/時間

スキャン間遅延:

自動

極性/モード切り替えのスキャン間遅延:

0.020 秒

チャンネル間遅延:

自動

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア:

MassLynx™ v4.2(TargetLynx™ アプリケーションマネージャー搭載)

表 4. この試験で使用した分析種および内部標準のガイドライン MRM パラメーター

結果および考察

同重体化合物(ノルトリプチリンとプロトリプチリン)、およびイミプラミンとノルトリミプラミンに干渉する定性イオンのトランジション(281.2>86.1)についてクロマトグラフィー分離が得られました。これにより、これらの分析種の選択的定量ができました。プールした血漿の中程度濃度のキャリブレーションサンプルのクロマトグラム例を図 2 に示します。

図 2. XSelect Premier HSS T3 カラムでの三環系抗うつ薬の分析を示す血漿サンプルのクロマトグラム

高濃度血漿サンプルから後続のブランク注入に、顕著なキャリーオーバーは見られませんでした。この高濃度サンプルには、500 ng/mL のアミトリプチリン、クロミプラミン、デシプラミン、ドキセピン、イミプラミン、マプロチリン、ノルクロミプラミン、ノルドキセピン、ノルトリミプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、1000 ng/mL のノルマプロチリン、トリミプラミン、2500 ng/mL のクロザピン、ノルクロザピンが含まれていました。高濃度サンプルの 1:5 希釈を行ったところ、すべての分析種の平均 % バイアスが 10% 未満になりました。

TCA を低濃度および高濃度でスパイクした内因性化合物(アルブミン、ビリルビン、コレステロール、クレアチニン、トリグリセリド、尿酸)とともに分析しても、有意な干渉は見られませんでした。これについては、低濃度(QC1)および高濃度(QC3)でプールした血漿サンプルからの回収率(n = 3)を決定することで評価しました。低濃度および高濃度のプールにおける回収率は 15% 以内でした。ただし、アミトリプチリン、クロミプラミン、クロザピン、イミプラミン、ノルクロミプラミン、ノルトリプチリン、プロトリプチリン、トリミプラミンは、低濃度サンプルでトリグリセリドからの干渉(17%)を多少受けていました。

5 日間にわたって血漿中に調製した 4 濃度の低濃度サンプルを 10 回繰り返し抽出・定量することで、分析感度試験を行いました(n = 40)。得られた結果から、この分析法では、下の表 5 に示す濃度で正確な定量(≤ 20% CV、≤15% バイアス)が可能であることが実証されました。

表 5. 分析感度のサマリー(LLMI は測定間隔の下限です)

合計精度は、連続しない 5 日間にわたって 3 濃度レベルの血漿プールを 5 回繰り返しで抽出・定量することによって決定しました(n = 25)。各レベルの QC 試料を 5 回繰り返し分析することによって併行精度を評価しました。図 3 に示した結果には、すべての分析種について 3 濃度レベル(25、75、400 ng/mL)で評価した合計精度と併行精度が示されており、50、150、800 ng/mL のノルマプロチリンとトリミプラミン、および 125、375、2,000 ng/mL で評価したクロザピン、ノルクロザピンを除き、≤8.0% CV でした。

図 3. 合計精度と併行精度のサマリー

マトリックス効果の調査を、低(QC1)濃度および高(QC3)濃度のドナーからのヒト血漿サンプル(n = 6)を使用して行い、同等の濃度になるようにスパイクした抽出溶媒サンプルの割合として評価しました。表 6 に示すように、分析種:内部標準レスポンス比を使用したマトリックス係数の計算により、生じているシグナルの増強または抑制はすべて内部標準によって補正されていることが実証されました。

表 6. ピーク面積および分析種:内部標準レスポンス比に基づく定量的マトリックス係数の平均値(範囲)

下の表 7 に示すように、この分析法ではすべての分析種について良好な直線性が見られました。分析種の低濃度および高濃度のプールをさまざまな比率で組み合わせて分析することで、この点を評価しました。さらに、検量線では、すべての分析種について、決定係数(r2)0.995 超でした。

表 7. TCA の直線性範囲のサマリー

正確性は、スキームに含まれていなかったプロトリプチリンを除くすべての分析種について、LGC(英国、大ロンドン)から提供された外部品質保証(EQA)血清サンプルを使用して評価しました。得られた結果を、サンプルの LC-MS 分析法での平均と比較しました。ブランド-アルトマン分析での一致性(図 4)により、分析法の平均バイアスが 14.75% 未満であり、ノルクロミプラミンを除く評価した分析種について、EQA LC-MS での平均値と非常に良く一致することが実証されました。結果のサマリーを表 8 に示します。

表 8. 正確性のサマリー
図 4. a)ノルドキセピン、b)ノルトリミプラミン、c)デシプラミン、d)クロミプラミンにブランド-アルトマン近似を使用した場合の、ウォーターズの LC-MS/MS 分析法と EQA スキーム MS 分析法の平均との比較

結論

  • 極性の異なる 15 種類の三環系抗うつ薬を、選択的で頑健な UHPLC-MS/MS 臨床研究分析法を使用して分析し、XSelect Premier HSS テクノロジーを利用して同重体化合物を分離することができました
  • サンプル前処理および分析はシンプルで低コストであり、必要な血漿はわずか 50 µL で、注入あたりにかかる時間は 4.5 分未満
  • この分析法は、優れた精度を示し、顕著なキャリーオーバーやマトリックス効果がなく、EQA サンプルの分析によって正確であることが確認されました

参考文献

  1. Gillman PK, Tricyclic antidepressant pharmacology and therapeutic drug interactions updated, British Journal of Pharmacology (2007) 151, 737–748.

720008285JA、2024 年 3 月

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