Atlantis™ Premier BEH™ C18 AX カラムを搭載した Arc™ Premier システムを用いた亜硝酸塩および硝酸塩の信頼性の高い LC /UV 分析
要約
亜硝酸塩および硝酸塩は、発がん性化合物であるニトロソアミン不純物を形成する潜在的な前駆体であると考えられています。今回、UV 検出器および Atlantis Premier BEH C18 AX カラムを搭載した Arc Premier システムを使用した、亜硝酸塩および硝酸塩の分析用に開発された逆相分析法を紹介します。この分析法は直接注入に基づいており、分析の前の誘導体化ステップが不要です。亜硝酸塩および硝酸塩の定量限界(LOQ)は、それぞれ 0.025 µg/mL および 0.075 µg/mL であることがわかりました。この分析法は、優れた併行精度、精度、直線性を示し、ポリビニルピロリドン(PVP)賦形剤中の亜硝酸塩および硝酸塩の測定に適しており、回収率 91 ~ 100% の正確な定量性能を示しました。
アプリケーションのメリット
- Atlantis Premier BEH C18 AX カラムを使用した逆相条件で亜硝酸イオンおよび硝酸イオンが正常に保持される
- 直接注入による迅速かつ簡単なスクリーニング分析法により、分析前の複雑なサンプル誘導体化ステップが不要になる
はじめに
亜硝酸塩および硝酸塩は、土壌、水、空気、植物中に天然に存在する窒素化合物です1。 食品の保存、一部の医薬品、爆発物の製造にも使用されています1。 最近の文献において、亜硝酸塩および硝酸塩は、人体に悪影響を及ぼす可能性のある N-ニトロソアミン化合物生成の前駆体またはニトロソ化剤と考えられることが示されています2-6。 ニトロソアミンは通常、医薬品の製造プロセスにおいて、医薬品有効成分(API)に含まれる第 2 級アミンまたは第 3 級アミンと残留亜硝酸塩の反応により生成します。硝酸塩は、特定の条件下で亜硝酸塩に還元され得るため、ニトロソ化剤としても認識されています4。 賦形剤などの製剤の成分には、ニトロソ化前駆体が含まれている可能性があり、これが医薬品のニトロソアミン汚染の原因になる場合があります4。
硝酸塩および亜硝酸塩の測定で最も広く使用されている分析法は、電気伝導度検出を用いるイオンクロマトグラフィー(IC)、UV 検出を用いる液体クロマトグラフィー(LC)、グリーステストです4-6。 これらの分析法は有効ではあるものの、測定できるのは 1 つの分析種(亜硝酸塩または硝酸塩)で、多くの場合、さまざまなサンプル前処理手順が必要です。グリーステストは亜硝酸塩特異的であり、硝酸塩含有量の測定には使用できません4。 還元時に硝酸塩が亜硝酸塩に変換される可能性があることを考慮すると、両方の化合物を測定する必要があります。
今回、UV 検出を使用する単一の液体クロマトグラフィー(LC)分析法を、直接注入に基づく亜硝酸塩と硝酸塩の両者の分析について説明します。この逆相分析法により、ポリビニルピロリドン賦形剤中の亜硝酸塩および硝酸塩の簡単で迅速なスクリーニングが可能になります。
実験方法
LC/MS グレードの高純度アセトニトリル、ギ酸アンモニウム、ギ酸は Fisher Chemicals から購入しました。分析グレードの硝酸ナトリウム(NaNO3)および亜硝酸ナトリウム(NaNO2)は Sigma から購入しました。ポリビニルピロリドン(PVP)K 15 は Sigma から入手しました。
標準溶液
亜硝酸塩および硝酸塩のストック溶液は、亜硝酸ナトリウムと硝酸ナトリウム塩をそれぞれ 5.0 mg/mL になるように水に溶解して調製しました。ストック溶液を水で希釈して、濃度 0.1 mg/mL の亜硝酸塩および硝酸塩を含む混合標準溶液を調製しました。キャリブレーションスタンダードは、混合標準溶液を水で希釈して調製しました。
ポリビニルピロリドン(PVP)サンプル溶液
被験サンプル溶液は、1 mg/mL 水溶液として調製し、20 分間超音波処理して溶解しました。抽出後、サンプル溶液を 3000 rpm で 10 分間遠心分離し、PVDF 0.2 µm シリンジフィルター(製品番号:WAT200806)でろ過してから分析を行いました。
分析条件
LC システム: |
Arc Premier システム(アクティブプレヒーター付きカラムマネージャ、PDA 検出器搭載) |
バイアル: |
LC/MS マキシマムリカバリー、容量 2 mL(製品番号:600000670CV) |
検出: |
UV @ 210 nm |
カラム: |
Atlantis Premier BEH C18 AX、2.1 × 100 mm、2.5 µm(製品番号:186009392) |
カラム温度: |
30 ℃ |
サンプル温度: |
15 ℃ |
注入量: |
40.0 µL |
流速: |
0.5 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸含有 5 mM ギ酸アンモニウム水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
分離: |
70:30 移動相 A:移動相 B でのイソクラティック分離 |
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3 Feature Release 5Service Release 5(FR5 SR5) |
データ取り込みおよび分析は Empower ソフトウェアを使用して行いました。レポートテンプレートを使用して生成したサマリーレポートは、Empower プロジェクトで使用できます。
結果および考察
分析法開発では、亜硝酸イオンおよび硝酸イオンのクロマトグラフィー保持および分離を確実に行えるように、さまざまなカラムケミストリー、有機溶媒、移動相添加剤、pH を検討しました。Atlantis Premier BEH C18 AX カラムにより、逆相条件下で亜硝酸塩および硝酸塩が正常に保持され、分離されました(図 1A)。0.1 µg/mL の標準試料の繰り返し注入により、亜硝酸塩および硝酸塩のピーク面積の相対標準偏差(RSD)がそれぞれ 0.94 および 3.06% で、これらの分析種の分析における Arc Premier システムの併行精度が優れていることが実証されました(図 1B)。
検出下限および定量下限(LOD および LOQ)
UV 分析法を使用して亜硝酸塩および硝酸塩を確実に検出および定量できる最低濃度レベルは、それぞれシグナル対ノイズ比(S/N)の基準 3:1 および 10:1 を用いて決定しました。S/N 比の計算は、Empower ソフトウェアを使用して、標準溶液中の亜硝酸塩および硝酸塩のシグナルの実測値をブランク溶液と比較して行いました。標準溶液を 10 回繰り返し注入して得たデータを使用して、LOD レベルおよび LOQ レベルでの分析法性能を確立し、評価しました。
亜硝酸塩および硝酸塩の LOD 溶液および LOQ 溶液の分析を示す代表的なクロマトグラムを図 2 に示します。LOD レベルおよび LOQ レベルでの分析法性能を図 3 に示します。亜硝酸塩の LOD および LOQ はそれぞれ 0.01 µg/mL および 0.025 µg/mL であることがわかりました。硝酸塩 の LOD および LOQ はそれぞれ 0.05 µg/mL および 0.075 µg/mL であることがわかりました。LOQ レベルでの 10 回繰り返し注入で得られたデータでは、ピーク面積の RSD が亜硝酸塩では 4.30%、硝酸塩では 5.52% であり、分析法の併行精度が優れていることが実証されました(図 3)。
直線性および濃度範囲
亜硝酸塩および硝酸塩の検量線プロットはそれぞれ 0.025 ~ 5 µg/mL および 0.05 ~ 5 µg/mL の範囲で作成しました。濃度に対するピーク面積の検量線は、相関係数(R2) ≥0.999 で直線的な関係を示しました(図 4)。
ポリビニルピロリドンの分析
ポリビニルピロリドン(ポビドンまたは PVP とも呼ばれる)は、医薬品業界で、錠剤およびカプセル製造における結合剤、点眼液のフィルム形成剤、香味液およびチュアブル錠剤の補助剤、経皮システムの接着剤として使用される合成ポリマーです7。
1 mg/mL の水溶液として調製した PVP の被験サンプルを、開発した分析法を使用して分析しました。PVP サンプル、および亜硝酸塩および硝酸塩をスパイクした PVP サンプルの代表的なクロマトグラムを図 5 に示します。この分析法により、高度に濃縮された PVP のピークが亜硝酸塩および硝酸塩から効果的に分離されました。PVP の被験サンプルでは、亜硝酸塩が検出されず、残留レベル(0.04 µg/mL)の硝酸塩が検出されました。
分析法の正確性。
分析法の正確性は、PVP サンプルに 0.05、0.1、0.5 µg/mL の 3 レベルでスパイクした亜硝酸塩および硝酸塩の回収率を決定することで評価しました。硝酸塩の回収率では、サンプル中にすでに存在する量について計算を補正しました。亜硝酸塩および硝酸塩(各レベルあたり n = 6)の回収率は、それぞれ 93 ~ 100% および 91 ~ 100% の範囲で(図 6)、合否基準 90 ~ 110% の範囲内でした。
結論
Arc Premier システムおよび Atlantis Premier BEH C18 AX カラムを利用して、直接注入を使用する単一の LC/UV 分析法を、亜硝酸塩と硝酸塩の一斉分析用に開発しました。この分析法は、亜硝酸塩および硝酸塩についてそれぞれ 0.025 µg/mL および 0.075 µg/mL の LOQ レベルで、優れた性能を示しました。この分析法は、亜硝酸塩および硝酸塩の回収率が 91 ~ 100% と、ポリビニルピロリドン賦形剤の分析に適していることが実証されました。この LC-UV 分析法は、PVP K15 賦形剤または原材料中の亜硝酸塩をスクリーニングするための迅速で簡単な解決策になります。
参考文献
- https://wwwn.cdc.gov/TSP/ToxFAQs/ToxFAQsDetails.aspx?faqid=1186&toxid=258.
- European Medicine Agency, Procedure under Article 5(3) of Regulation EC (No) 726/2004.Nitrosamines impurities in human medicinal products EMA/369136/2020.
- FDA Guidance document, Control of nitrosamine impurities in human drugs, guidance for industry.
- Boetzel R, Schlingemann J, Hickert S, Korn C, Kocks G, Luck B, Blom G, Harrison M, Francois M, Allain L, Wu Yongmei, Bousraf Y. A nitrite excipient database: A useful tool to support N-nitrosamine risk assessments for drug products.Journal of Pharmaceutical Sciences, (2022) 1–10.
- Holzgrabe U. Nitrosated Active Pharmaceutical Ingredients – Lessons Learned.Journal of Pharmaceutical Sciences, 000 (2023) 1–6.
- Jires J, Dousa M. Nitrites as precursors of N-nitrosation in pharmaceutical samples – A trace level analysis.Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis, 213 (2022) 114677.
- https://www.drugs.com/inactive/polyvinylpyrrolidone-271.html.
ソリューション提供製品
720008083JA、2023 年 10 月