20 ボトルアプローチを用いた Oasis HLB µElution のための自動バイオアナリシス SPE メソッドの開発および最適化
要約
固相抽出(SPE)は、バイオアナリシス/DMPK ラボにおいてルーチン使用されるサンプル前処理手法であり、バイオマトリックス成分を除去すると同時に、分析種やターゲット薬物を選択的にキャプチャーすることで、分析メソッドの感度、選択性、頑健性が向上します。SPE は多くの場合、複雑で手間がかかり、分析種の高い回収率を得るには時間のかかるメソッドの最適化が必要と認識されています。今回、高速逆相 SPE メソッドの最適化に広く適用できる、洗練されたシンプルかつ完全に自動化されたアプローチに焦点を当てています。このアプローチでは、Extraction+ を装備した Andrew+ ピペッティングロボットおよび SPE メソッドの最適化が大幅にシンプルになる 96 ウェルフォーマットの Oasis™ HLB 逆相吸着剤を利用しています。
アプリケーションのメリット
- 洗練された高速かつシンプルなアプローチによる Oasis HLB SPE プロトコルの最適化
- 再現性に優れた、>75% の高い分析種回収率
- Andrew+ ピペッティングロボットおよび Extraction+ を使用した自動 SPE メソッドの開発
- SPE の最適化に使用する OneLab ライブラリーメソッドを簡単にワンクリックでダウンロード
はじめに
バイオアナリシス(生体液中の薬物およびその代謝物の分析)は、医薬品の探索、開発、研究の支援に使用されます。さまざまなマトリックス中のターゲット分析種に用いる分析法を最適化する際には、1)マトリックスからの分析種の抽出、2)目的の分析種の他のマトリックス成分からの分離、3)検出の 3 つの主な側面に焦点を合わせる必要があります。バイオアナリシスのための一般的なサンプル前処理手法には、希釈、除タンパク(PPT)、液-液抽出(LLE)、固相抽出(SPE)などがあります。SPE は、抽出の回収率が改善し、より清浄なサンプルを取得できるとともに、(サンプルの損失を引き起こす可能性がある)蒸発乾固を必要とせずにサンプルを濃縮できるため、バイオアナリシス/DMPK ラボにおけるサンプル前処理手法としてよく使用されています。これにより通常、分析法の感度、選択性、頑健性が向上します。
いずれのサンプル前処理手法も、複雑で時間がかかる可能性があります。また、抽出プロトコルのすべてのステップを開発し、最適化する必要があるため、しばしば分析ワークフローの「ボトルネック」と認識されています。SPE において最適化できるワークフローの重要なステップとして、洗浄溶媒および溶出溶媒などがあります。Oasis HLB の維持管理マニュアル(715000109)には、さまざまな分析種について妥当な回収率が得られる、出発点となるプロトコルが記載されています。さらに、このマニュアルには、1 回の実験で洗浄溶媒と溶出溶媒の組成を最適化できる洗練された SPE の実験計画(図 1)も記載されており、これによって Oasis HLB メソッドの最適化がシンプルになります。
バイオアナリシスラボでのアッセイにおいて重要なもう 1 つの重要な側面は再現性です。日内および日間での精度および正確性は、アッセイが使用目的に適合していることを確認するための分析法のバリデーションで使用される重要な指標です。アッセイの再現性を改善するとともに、研究者がより困難な科学的問題に専念できるようにするために、ラボにおける自動化およびリキッドハンドリングロボットの導入がますます進んでいます。Extraction+ を搭載した Andrew+ ピペッティングロボットは、OneLab™ インフォマティクスプラットホームとともに、ラボのリキッドハンドリング/自動化のニーズに対応する、シンプルで柔軟かつ容易に導入できるソリューションになります。
この試験では、1 回の実験で固相抽出(SPE)の 2 つの最も重要なステップ(洗浄と溶出)を微調整できる 20 ボトルメソッドの最適化アプローチについて実証します。今回、Extraction+ コネクテッドデバイスを装備した Andrew+ ピペッティングロボットを使用し、OneLab ライブラリーメソッドを作成して、維持管理マニュアルの記載に従って 96 ウェル µElution プレート型式の Oasis HLB SPE を使用して 20 ボトル SPE メソッドを最適化しました。この OneLab メソッドは、OneLab ライブラリーからダウンロードして、変更を加えることなく使用することができます。これによって、自動で高速、かつシンプルで効率的に SPE メソッドを最適化することができます。
実験方法
ケミカル、試薬、材料、溶媒:
さまざまな物理化学的特性を有する 6 種類の低分子医薬品のパネル(表 1)を使用して、Oasis HLB SPE のための 20 ボトルメソッドの最適化アプローチを実証しています。すべての分析種は Sigma Aldrich(米国、ミズーリ州セントルイス)から入手しました。LC-MS グレードのメタノール、水、アセトニトリル、イソプロパノール、リン酸、水酸化アンモニウム、ギ酸も Sigma Aldrich(米国、ミズーリ州セントルイス)から購入しました。K2 EDTA ラット血漿は BioIVT(米国、ニューヨーク州ウェストベリー)から入手しました。Oasis HLB µElution プレートはウォーターズ(米国、マサチューセッツ州ミルフォード)から入手しました。
ストック溶液、検量線、QC サンプル
各分析種の 1 mg/mL ストック溶液は、約 1 mg の分析種を正確に秤量し、適量の 100% メタノールに溶解することで調製しました。100 µg/mL、10 µg/mL、1 µg/mL の作業用ストック溶液は、95:5%(v/v)水:メタノールに 1:10 希釈して調製しました。Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、K2 EDTA ラット血漿に 10 µg/mL のストック溶液をスパイクして、マトリックス中スパイク濃度 1000 ng/mL、500 ng/mL、250 ng/mL の検量線(1 ~ 1000 ng/mL)を作成しました。Andrew+ ピペッティングロボットおよび単純連続希釈調製 OneLab ライブラリープロトコルを使用して、これらの高レベルの検量線ポイントを連続希釈(1:10)しました。QC サンプルについては、10 µg/mL のストック溶液をラット血漿にスパイクして、HQC レベル(750 ng/mL)を作製しました。同じ単純連続希釈プロトコルを使用して 1:10 希釈を行い、MQC レベル(75 ng/mL)および LQC レベル(7.5 ng/mL)を作製しました。
LC 条件
LC システム: |
FTN を搭載した ACQUITY I-Class Plus UPLC |
カラム: |
ACQUITY Premier HSS T3、2.1 × 50 mm(製品番号:186003538) |
カラム温度: |
60 ℃ |
カラム温度: |
5 ℃ |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
パージ溶媒: |
25:25:25:25 水:アセトニトリル:メタノール:イソプロパノール |
注入量: |
2 µL |
LC グラジエント
MS 条件
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
ESI+ |
取り込みモード: |
MRM |
キャピラリー電圧: |
3.1 kV |
脱溶媒温度: |
500 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1,000 L/時間 |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
コリジョンガス流量: |
0.15 L/時間 |
ネブライザー: |
7 Bar |
データ管理
装置コントロールソフトウェア: |
MassLynx™(v4.2) |
定量ソフトウェア: |
TargetLynx™(v4.2) |
MRM トランジション
自動化プラットホーム
クラウドベースの OneLab ソフトウェアによって制御される自動リキッドハンドリングデバイスである Andrew Alliance Andrew+ ピペッティングロボットを使用して、サンプル前処理および抽出のプロトコルを設計し、実行しました。
SPE 抽出
逆相(RP)SPE 抽出は、Oasis HLB 96 ウェルマイクロ溶出プレート(吸着剤 2 mg/ウェル)を使用して行いました。この試験の出発点として使用した SPE プロトコルを図 2 に示します。簡単に説明すると、100 µL のサンプルを 100 µL の 4% リン酸で前処理しました。Oasis HLB µelution プレートを 200 µL のメタノールでコンディショニングし、200 µL の水で平衡化しました。次に、酸で前処理したサンプルを SPE プレートにロードしました。このプレートを 200 µL の 5% メタノール水溶液で洗浄しました。図 2 に記載しているように、20 種類の溶液を用い、50 µL ずつの 2 ステップで分析種を溶出しました。次に、SPE サンプル溶離液を 100 µL の水で希釈し、LC-MS/MS システムに注入して分析を行いました。この実験で使用した Extraction+ を装備した Andrew+ ピペッティングロボットのデッキレイアウトおよび OneLab プロトコルの視覚的表示の例を、それぞれ図 3 および図 4 に示します。
結果および考察
頑健で高感度かつ再現性のあるアッセイは、バイオアナリシスラボの生命線です。これらのアッセイを時間対効果および費用対効果の高い方法で開発およびバリデーションすることは、人員やリソースを最適に活用するために重要になります。そのため、これらのラボの研究者は、最も簡単な方法で最終的なメソッドに到達できるように尽力しています。SPE の場合は通常、Oasis HLB の維持管理マニュアルに記載されている汎用プロトコルから出発してニート溶液で実験を行い、サンプル前処理メソッドの最適化をまったく行わないで得られる回収率(%)および感度のレベルを把握します。多くの分析種において、出発点とする Oasis HLB プロトコルによって、目的に適合するアッセイに十分な回収率(%)および感度が得られます。目的のレベルの感度に達しない場合は、次のステップとして、Oasis HLB の維持管理マニュアルの記載に従い、20 ボトルアプローチを使用して出発点としたプロトコルを最適化します。
この 20 ボトル SPE メソッド最適化アプローチには、溶出溶媒の pH および有機成分含有量を変化させて、目的の化合物を吸着剤ベッドから溶出できる可能性が最も高い条件を決定する、洗練された実験計画が記載されています。溶出溶媒の組成は 0 ~ 100% 有機成分(通常はメタノール)とさまざまで、2% 水酸化アンモニウムまたは 2% ギ酸が含まれています。溶出溶媒の酸性または塩基性の性質は pH を変えるのに役立ち、有機成分は、吸着剤ベッドから分析種を解離させて溶解度を高めるのに役立ちます。さらに、この実験アプローチでは、さまざまな濃度の有機溶媒を使用した場合の分析種の溶出プロファイルが得られます。そのため、同じデータを使用して、分析種を失うことなく SPE の吸着剤から望ましくないマトリックス成分を除去できる洗浄溶媒として使用できる最大の有機溶媒の割合を決定することもできます。これによってメソッドの選択性がさらに向上します。SPE メソッド開発の最後の実験では通常、最適化した洗浄溶媒および溶出溶媒を試験し、対象のマトリックスにスパイクした分析種を抽出して回収率およびマトリックス効果を判定します。
今回、6 種類の分析種のパネルを使用して、20 ボトルメソッドの最適化アプローチに焦点を当てました。この試験の目的は、パネル内のすべての分析種について高い回収率が得られる最適な洗浄溶媒および溶出溶媒の組成を決定することでした。Oasis HLB のメソッド最適化をさらに簡素化するために、OneLab ソフトウェアでメソッドを作成し、Extraction+ を装備した Andrew+ ピペッティングロボットを用いて、メソッドで使用する 20 種類の溶出溶媒の作成から、Oasis HLB µElution プレートを使用した SPE の実行までの実験全体を自動化しました。
パネル内の各分析種について、各溶出溶媒条件(x 軸)で得られた回収率(%)(y 軸)をプロットして、溶出プロファイルを作成しました。ノルトリプチリンの代表的な溶出プロファイルを図 5 に示します。オレンジ色のトレースは、酸性(2% ギ酸)の溶出溶媒を使用した場合の溶出プロファイル、青色のトレースは塩基性(2% 水酸化アンモニウム)の溶出溶媒を使用した場合の溶出プロファイルです。ノルトリプチリンの場合、70% 酸性メタノールおよび 90% 塩基性メタノールから >80% の回収率が認められ始めます。この分析種に最適な溶出条件は、これらの有機溶媒濃度です。ノルトリプチリンは、50% 酸性メタノールおよび 60% 塩基性メタノールまで SPE 吸着剤から溶出しません。有機溶媒濃度がこの濃度を下回る洗浄溶媒が最適な洗浄溶媒になります。
表 2a および 2b に、それぞれ塩基性および酸性の溶出溶媒を使用した場合の、パネル内のすべての分析種について見られた回収率のヒートマップを示します。酸性または塩基性の溶出溶媒条件において、各分析種の回収率(%)は、赤色のボックスから緑色のボックスへの増加が観察されています。最適な溶出溶媒の選択とは、SPE 吸着剤から望ましくない成分を溶出させることなく、目的の分析種について高い回収率が得られるバランスの取れた有機溶媒濃度です。パネルに含まれるほとんどの分析種について、2% ギ酸含有 80% メタノールで許容可能な回収率が認められました。これを、このパネルに対する最終的な溶出溶媒として選択しました。同様に、最適な洗浄溶媒とは、目的の分析種を溶出させることなく望ましくないマトリックス成分をほとんど除去できる最大の有機成分濃度です。実測データに基づいて、30% メタノールをこの分析種のパネルに用いる洗浄溶媒として選択しました。
後続の実験では、最初の実験の洗浄条件および溶出条件を使用して、ラット血漿に 1 µg/mL になるようにスパイクした分析種パネルの SPE を行いました。最終的な洗浄/溶出溶媒条件を使用した場合の回収率を、分析種をニート溶液(5% メタノール)にスパイクした場合とラット血漿にスパイクした場合とで比較しました。図 6 から、最終的に最適化された洗浄条件および溶出条件を使用した場合に、すべての分析種について >80% という同等の回収率が得られることがわかります。パネル内の各分析種についてマトリックス効果も計算しました。図 7 に示すように、最終の SPE 条件を使用した場合、アミトリプチリン以外のすべての分析種において、マトリックス効果は 15% を下回っていました。これは必須ではありませんが、異なる洗浄/溶出条件の選択、異なる MRM トランジションの評価、あるいは SPE の前の酸性/塩基性前処理の評価を行うことで、アミトリプチリンのマトリックス効果をさらに最適化できる可能性があります。
最適化された最終的な SPE プロトコルを使用した場合の、ニート溶液(5% メタノール)およびラット血漿にそれぞれスパイクした分析種パネルの回収率(%)の比較
洗浄ステップに 30% メタノール、溶出ステップに 2% ギ酸含有 80% メタノールを使用する最適化された最終的な SPE プロトコルを、一般的なバイオアナリシスバッチを代表するサンプルセットに適用しました。このアッセイのモデル分析種としてノルトリプチリンを使用しました。
Andrew+ ピペッティングロボットで使用する OneLab の「単純連続希釈」メソッドを使用して、K2 EDTA ラット血漿にノルトリプチリンをスパイクしました。10 µg/mL のストック溶液を使用して、検量線(1 ~ 1000 ng/mL)および QC ポイント(7.5 ng/mL、75 ng/mL、750 ng/mL)を 2 回繰り返しで作成しました。OneLab ライブラリーからダウンロードした「バイオアナリシス SPE メソッド」を使用して、ラット血漿からノルトリプチリンを抽出しました。この抽出に使用した最終的な SPE プロトコルを図 6 に示します。抽出したサンプルは、実験方法のセクションに記載した LC-MS 分析法を使用して分析しました。
ノルトリプチリンについて観測された検量線および QC の統計データ(N = 2)を表 3 に示します。ノルトリプチリンは、線形 1/x 重み付けで 1 ~ 1000 ng/mL の範囲で直線性を示し、r2 は 0.9943 でした。ノルトリプチリンの検量線の平均正確性(%)は 104.8%、平均偏差は -8.73% でした。ノルトリプチリンの QC レベルはすべて、正確性(%)および偏差率(+/-15%)というバイオアナリシスメソッドのバリデーション基準に合格していました。QC レベルの平均正確性は 96 ~ 110% の範囲で、平均偏差率は -11.9 ~ 5.4% の範囲内でした。ノルトリプチリンの代表的な QC クロマトグラムでは、分析種濃度の増加に応じて、MS の面積カウントが直線的に増加していることがわかります(図 8)。
結論
Andrew+ ピペッティングロボットおよび Extraction+ コネクテッドデバイスを使用して、6 種類の分析種のパネルに 20 ボトルメソッド最適化を適用しました。その結果、このパネルに最適な洗浄溶媒は 30% メタノール、溶出溶媒は 2% ギ酸含有 80% メタノールでした。これらの最適化済み条件を使用して、代表的なバイオアナリシスを実行し、ラット血漿からのノルトリプチリンを定量しました。ラット血漿から抽出されたノルトリプチリンは 1 ~ 1000 ng/mL で直線性を示しました。すべての検量線および QC ポイントが、バイオアナリシスメソッドのバリデーションのガイドライン基準である +/-15% を満たしていました。
固相抽出(SPE)は、バイオアナリシス/DMPK ラボにおいて、高い選択性、高い回収率、低いマトリックス効果が必要な場合に最適なメソッドです。一方、SPE メソッド開発は、複数のステップを最適化する必要があるため、困難であると認識されています。今回、20 ボトルアプローチを使用した逆相 Oasis HLB µElution のためのメソッド最適化に対する簡単で洗練されたアプローチに焦点を当てました。この 1 回の実験で、洗浄溶媒および溶出溶媒を最適化することができます。ワンクリックで簡単にダウンロードして使用できる OneLab メソッドを作成し、Andrew+ ピペッティングロボットおよび Extraction+ コネクテッドデバイスで使用することで、メソッド開発がさらに合理化されて容易になります。そのため時間が節約できて、ユーザーエクスペリエンスのレベルの高低を問わず一貫性を保つことができます。
参考文献
- Oasis HLB Cartridges and 96-Well Plates, Waters Care and Use Manual, 715000109.
720008001JA、2023 年 10 月