フォトダイオードアレイおよび質量検出機能搭載の HPLC を使用した市販 CMP サンプル中の添加剤の定量
要約
半導体業界では、化学機械研磨(CMP)や平坦化スラリーを使用して、各種電子機器構造中のシリコンウェハー上に特別な表面を作成しています1。 スラリーの品質を維持するため、多くの化学添加剤が使用されています。
CMP スラリー中の添加剤のルーチン分析は、配合や品質管理に役立ちます。15 分間の分離法を使用し、フォトダイオードアレイ(PDA)および ACQUITY™ QDa™ 質量検出(MS)を搭載した Waters Arc™ 高速液体クロマトグラフィー(HPLC)システムを使用して、CMP スラリーの分析や、PDA で簡単に検出できる添加剤の定量分析、および質量検出を必要とするより困難な添加剤の定性分析において、個々の添加剤または添加剤混合物の分析を行うことができます。シングル四重極型質量分析計により、各分子に固有の質量電荷比(m/z)が得られます。これにより検出における第 2 の層が追加され、アッセイ結果の信頼性が高まります。
アプリケーションのメリット
- 15 分間のルーチン分離メソッドを使用できる Arc HPLC システムにより、再バリデーションなしでシステム内メソッドを UHPLC に更新可能に
- カラムベッドを損なうことなく、低圧および高圧のアプリケーションに対応できる頑健な XBridge™ BEH™ カラム
- ACQUITY QDa 質量検出により、アッセイ結果に対する信頼性が高まる
- PDA、QDa、およびすべての Waters Arc HPLC 適合検出器のデータ分析に使用できる Empower™ 3 クロマトグラフィーデータシステム(CDS)
はじめに
CMP スラリーは、化学物質に機械的研磨粒子を混合したもので、完成品の性能を妨げることなく、特定の表面品質が得られるように配合されています。研磨工程における CMP スラリーの品質を維持するために、摩擦、熱、酸化、分解によるスラリーの劣化を防止する化学添加剤を絶妙なバランスで添加しています。一般的な CMP 添加剤の例として、ポリマー、複雑な有機分子、有機酸、鉱酸が挙げられます2。
分散安定剤としてポリマーを使用します。腐食防止剤および殺生物剤として複雑な有機分子を使用します。キレート剤および pH 調整剤として酸を使用します3。
CMP スラリーの品質を確保するには分析法が必要になりますが、ほとんどの分析法では、結果を得るために複雑なサンプル前処理と、ガスクロマトグラフィー質量分析法(GC/MS)、凍結乾燥、核磁気共鳴分光法(NMR)、フーリエ変換赤外線(FTIR)などの複数の手法を用いる必要があります3。 PDA および ACQUITY QDa 検出器を搭載した Arc HPLC は、シンプルなルーチン分析のオプションです。このアプリケーションノートでは、最小限のサンプル前処理で既知の CMP スラリー添加剤を分析するための 15 分間で行えるルーチン分析法(添加剤の希釈と注入、および CMP スラリーの遠心、希釈、注入)を紹介しています。QDa シングル四重極質量検出では、PDA での検出の有無に関らず、添加剤を定性的に確認することができます。また、PDA 検出により、低濃度の紫外線(UV)活性分析種の定量が可能になります。
実験方法
サンプルの説明
市販のサンプルおよびスタンダードを購入しました(Merck、ドイツ)。これらは表 1 に示します。これらの化学物質は、CMP 分析作業前の調査に基づいて選択したものです。CMP スラリーのサンプル情報および技術データシートは、Chempoint ウェブサイトに掲載されています4。 東レリサーチセンターが報告した論文では、一般的な CMP スラリー添加剤として、ベンゾトリアゾール、ポリエチレングリコール(PEG)、クエン酸、リン酸が挙げられています3。 CMP スラリー以外のすべての化学物質は、10 mM ギ酸アンモニウム中に 1 mg/mL の濃度になるように溶解しました。CMP スラリーは、温度 4 ℃、2,200 rpm で 20 分間遠心分離し、上層の上清 4 mL を 20 mL のシンチレーションバイアルに移しました。上清は、10 mM ギ酸アンモニウムで濃度 6.5 mg/mL になるように希釈しました。サンプルは、装置への注入に最適な濃度にしました。
表 2 に記載したさまざまな濃度の個々のスタンダードを、個別の検量線用に連続希釈しました。次にこれらを 1 対 1 で組み合わせて CMP 添加剤混合物(混合物 A)を作成し、これを検量線用に連続希釈しました。最後に、混合物 A を Ludox® 上清で希釈し、Ludox 上清マトリックス中にスパイクした添加剤の回収率を計算するための混合物 B 希釈系列を作成しました。CMP 標準混合物 A と添加済み Ludox CMP 上清混合物 B の PDA クロマトグラムを図 1 で比較しています。
添加剤濃度(表 2)
添加剤 |
濃度(mg/mL) |
クエン酸: |
1 |
ベンゾトリアゾール: |
0.01 |
PEG: |
1 |
リン酸: |
0.01 |
分析条件
CMP スラリー法は、同じ Arc HPLC システム内の粒子径の小さなカラムにスケーリングするオプションを使用して設計されています。したがって、この分析には 2 本の XBridge BEH 5 µm(4.6 × 150 mm)を使用しました。
LC 条件
クロマトグラフィーシステム: |
Arc HPLC |
ポンプ: |
クオータナリーソルベントマネージャー |
サンプル温度: |
20 ℃ |
カラム温度: |
50 ℃ |
PDA(波長): |
254 nm |
カラムセット: |
XBridge BEH 5 µm(2)、(4.6 × 150 mm) |
移動相 A: |
10 mM ギ酸アンモニウム水溶液 |
溶媒 B: |
アセトニトリル |
洗浄溶媒: |
80:20 水/アセトニトリル |
シール洗浄溶媒: |
50:50 水/メタノール |
流速: |
0.600 mL/分 |
注入量: |
20 µL |
グラジエントテーブル
MS 条件
MS システム: |
Waters ACQUITY QDa 質量検出器 |
イオン化モード: |
ESI+/- |
取り込み範囲: |
30 ~ 1200 Da |
コーン電圧: |
15 V |
データ: |
セントロイド |
データ管理
装置制御(PDA および QDa 質量検出器)並びにデータ取り込みと解析は、Empower 3 クロマトグラフィーデータシステム(FR5)によって行いました。
結果および考察
Ludox 上清から、PDA でピークが 1 つ検出されたのに対して、QDa スキャンでは複数のピークが検出されました。これらのピークの一部は、CMP スラリー上清中の m/z 値によって、リン酸、クエン酸、ポリエチレングリコール(PEG)、L-プロリンなどの一般的なスラリー添加剤として同定されました(図 2)。
QDa データでは、CMP 混合物 A 添加剤であるリン酸(m/z 97)およびベンゾトリアゾール(m/z 119)がポジティブイオン化モードで、クエン酸(m/z 192)および PEG(m/z 44)添加剤がネガティブイオン化モードでそれぞれ抽出されました。リン酸と PEG は、バックグラウンドシグナルのノイズが少ない低強度で検出されました(図 3)。
添加剤混合物 A の 10 回連続注入の PDA データを Empower 3 で解析し(図 4)、得られたピーク保持時間とピーク面積のデータテーブルを示します(表 6a および 6b)。ピーク保持時間は %RSD < 0.1% と優れていました。ピーク面積の %RSD 値は、ベンゾトリアゾールの値を除き、予想される典型的な値でした。面積 %RSD の値が高いのは、化学的相互作用に起因する可能性があります。
混合物中の PEG 濃度を最適化して、低レベルの UV 可視性と QDa における低強度のレスポンスを克服しました。添加剤混合物中のリン酸により PEG の UV 活性が高まりました5。 ベンゾトリアゾールは、その環状構造のために、添加剤中で最も UV 活性の高い化学物質でした。
表 6a
表 6b
表 6a および 6b. CMP 添加剤混合物 A の Empower 3 によるシステム適合性のピーク保持時間およびピーク面積の PDA データの分析
直線性および回収率
化合物に対する直線性を評価するため、濃度範囲が 0.01 mg/mL ~ 1 mg/mL のキャリブレーションスタンダードを溶媒スタンダード中および CMP スラリーマトリックス中に調製し、各ターゲット化合物について分析しました。内部標準は使用していません。
各スタンダードおよび CMP 混合物 A のキャリブレーションレスポンスを、以下の図 5a と 5b で比較しています。全般的に、決定係数 R2 は 0.995 を超えており、優れた直線的レスポンスであることが示されました。添加剤混合物中の PEG の曲線には低い R2 値(0.98)が見られます。この違いは混合物 A サンプル中の PEG の相互作用に起因する可能性があります。
PDA のピーク面積に基づく、Ludox 上清にスパイクした CMP 混合物の各スタンダードの回収率は、この分析法の濃度検出の限界を示しています。ベンゾトリアゾールは 99 ~ 101% と回収率が高く、クエン酸の回収率は 78 ~ 83% で、これはマトリックス効果の影響と考えられます。PEG の回収率は 81 ~ 111% でした(図 6)。
Ludox 上清を希釈剤として使用した連続希釈液中の CMP 混合物 A の回収率から、マトリックス効果が大きいと考えられます。ベンゾトリアゾールは、すべての希釈レベルで PDA での定量に使用するのに十分な有意なレベルで検出された唯一の添加剤スタンダードでした。混合物 B 中のクエン酸と PEG の方に強いマトリックス効果が見られましたが、クエン酸では定量データ、および定性データについての QDa 質量検出器からのピークが得られました。
結論
実験の結果から、PDA およびシングル四重極型質量分析計と Arc HPLC を組み合わせて使用して、CMP スラリー中の添加剤の分析を行うシンプルなルーチン分析アプローチが実証されました。すべてのターゲット分析種において、Waters XBridge BEH 5 µm カラムでは 15 分以内にベースライン分離されました。クエン酸、ベンゾトリアゾール、および PEG のピーク面積の %RSD を計算することにより(% RSD 値が 0.3 ~ 10%(n = 10 の連続注入))、優れた再現性の結果が得られたことが示されました。保持時間の安定性は %RSD < 0.1% で、スタンダードの検量線の直線性では 0.995 超の R2 値が得られました。
全体として、Arc HPLC、PDA、QDa 質量検出の組み合わせは、CMP スラリー添加剤の頑健で確実な定量においてルーチンに使用できます。Empower 3 CDS により、PDA および QDa 質量検出で取り込んだデータの解析およびレポート作成を 1 つのソフトウェアプラットホームで実行することができます。
参考文献
- Raghavan S, Keswani M, Jia R, Particulate Science and Technology in the Engineering of Slurries for Chemical Mechanical Planarization, Kona Powder and Particle Journal 2008;26:94–105.
- Nagendra Prasad Y, Ramanathan S, Role of Amino-Acid Adsorption on Silica and Silicon Nitride Surfaces during STI CMP, Electrochemical and Solid-State Letters 2006;9(12):G337.
- Analysis of Organic Additives in CMP Slurry, Toray Research Center, Inc., https://www.toray-research.co.jp/en/technicaldata/pdf/TechData_S00194E.pdf.
- Ludox® TM-50 Colloidal Silica Technical Data Sheet, https://www.chempoint.com/products/grace/ludox-monodispersed-colloidal-silica/ludox-colloidal-silica/ludox-tm-50.
- Rodrigues PCA, Beyer U, Schumacher P, Roth T, Fiebig HH, Unger C, Messori L, Orioli PL, Paper DH, Mülhaupt R, Kratz F, Acid-Sensitive Polyethylene Glycol Conjugates of Doxorubicin: Preparation, in vitro Efficacy and Intracellular Distribution, Bioorganic & Medicinal Chemistry 1999;7(11): 2517–2524.
謝辞
Nobutake Sato, Jinchuan Yang, Paula Hong, Catherine Layton, Margaret Maziarz, Dimple Shaw.
ソリューション提供製品
720007596JA、2022 年 4 月