Ostro パススルーサンプル前処理プレートを使用した全血中の乱用薬物の測定
法中毒学目的のみに使用してください。
要約
法医学検査における生体マトリックスとしての全血の使用は、長年一般的に行われています。全血は複雑なマトリックスとみなされ、分析ワークフローには頑健なサンプル前処理メソッドが含まれる必要があります。今回、シンプルなパススルーサンプル前処理メソッドについて説明します。このメソッドは化学クラスの異なる薬物の大規模なパネルに適用されており、幅広い法中毒学検査シナリオに対応できます。
アプリケーションのメリット
- Ostro パススルーサンプル前処理プレートを使用する単一の汎用サンプル前処理プロトコル
- 除タンパク、ろ過、サンプルクリーンアップを 1 台のデバイスで実施
- ACQUITY UPLC I-Class で BEH™ C18 ACQUITY™ UPLC または HSS C18 ACQUITY カラムのいずれかを用いて、複数の薬物クラスを分離
- Xevo™ TQ-S micro 質量分析計の優れた感度により、毒物学的に関連性のある濃度での分析種の検出が可能に
はじめに
法中毒学では、生物学的検体中の薬物や毒性物質の調査を行います。そのため、死後検体および生前検体中のさまざまな毒物を検出できる信頼性の高い分析法がラボに必要になります。
法医学検査における生体マトリックスとして、長年にわたって全血が一般的に使用されてきました。例えば、死因調査においては全血がマトリックスとして選択され、この場合、分析プロトコルでは一般に、数百にもおよぶことのある生体異物のスクリーニング用に設計された、未知物質全般スクリーニング手順(別名「系統的毒性分析」)が用いられます。生体異物の例として、禁止薬物や違法薬物、新規向精神薬、処方薬および市販薬が挙げられます。
血液は、直近の薬物摂取が疑われる場合の確認分析に最もよく用いられる検体です。例えば、薬物の影響下での運転(DUID)の調査において、一部の薬剤の血中濃度が機能障害と相関していることが知られていることから、血中薬物の定量的測定が、薬物が体に及ぼす現在の影響を最も正確に反映すると考えられています。薬物の影響下での運転は、世界的に重大な懸念事項であるため、世界の国のほとんどが、交通安全を改善し、交通事故を減らすための法規制を整備しています。通常、これには特定の薬物の定義済みパネルのモニタリングが含まれます。例えば、イングランドおよびウェールズでは、1988 年道路交通法のセクション 5A の要件に対応するため、17 種の薬物のパネルを対象とする分析法が現在用いられています1。一方、米国国家安全保障会議の薬物・機能障害部門では、薬物の影響下での運転に関連した逮捕案件で頻繁に見つかる、ドライバーのモニタリングに不可欠と考えられる化合物(最上位化合物)のパネルを推奨しています2。ただし、機能障害が発生するリスクのある薬物(あるいは薬物の組み合わせ)が他にも多数存在することが認識されているため、特定の地域で使用/処方されている薬物およびその普及率に応じて、各国で独自の検査プロトコルやドライバーのモニタリング推奨事項の適用を継続して行っており、より包括的な検査を行うための、より幅広い薬物のパネルに関心が集まっています。
法医学に関連する薬物は非常に多様で、アヘン類やアンフェタミン類など極性塩基性化合物から、非ステロイド系抗炎症薬などの非極性酸性化合物まで、さまざまなケミカルのクラスが含まれます。そのため、検査機関では、このような薬物をモニタリングする際に、全血からさまざまなケミカルのクラスすべてを抽出できると同時に、UPLC™-MS/MS などの感度の高い分析手順を用いる前のサンプルクリーンアップに使用することができる、汎用的なサンプル前処理メソッドを用いる必要があります。
以前、Waters Ostro パススルーサンプル前処理プレートに基づいた全血のシンプルなクリーンアッププロトコルについて紹介しました3。Ostro では、タンパク質およびリン脂質の除去とろ過を 1 台のデバイスで組み合わせて行います。イングランドおよびウェールズの 1988 年道路交通法のセクション 5A の特定要件に対応できるように、このメソッドを、UPLC-MS/MS メソッドと組み合わせて、特定の 17 種の薬物のパネルの分析に適用しました。この試験では、より幅広い法医学検査シナリオに対応するため、同じプロトコルをより広範な薬物に適用します。
実験方法
対照のヒト全血(K2 EDTA、プール済み)は Bio-IVT(Burgess Hill、West Sussex、UK)から入手しました。
毒物学関連薬物のレファレンス物質は、Merck(Poole、Dorset、UK)および LGC(Teddington、London、UK)から入手しました。これらは、メタノールまたはアセトニトリルのいずれかに溶解した個別の 1mg/mL 溶液として供給されました。分析種を組み合わせて、メタノール中に複数の混合薬物スパイク溶液を調製しました。
対照の全血に、以下のグループを含む幅広い薬物を次の濃度でスパイクしました:エレクトロスプレーのポジティブモード(ESI+)でイオン化する分析種は 100 ng/mL、エレクトロスプレーのネガティブモード(ESI-)でイオン化する分析種は 200 ng/mL、カンナビノイド類は 10 ng/mL になるようにスパイクしました。前述した方法で血液のアリコートを前処理しました3。簡単に説明すると、Ostro サンプル前処理 96 ウェルプレート(製品番号:186005518)のウェル中で、対照またはスパイク済み血液のアリコート(100 µL)を 100 µL の硫酸亜鉛/酢酸アンモニウム溶液に添加し、短時間混合しました。このウェルに溶出溶媒(600 µL の 0.5% ギ酸アセトニトリル溶液)を添加し、プレートをさらに 3 分間ボルテックス混合にかけました。プレートをバキュームマニホールドに取り付け、溶出溶媒を Waters 2 mL 角型ウェルコレクションプレート(製品番号:186002482)に吸引しました。溶離液の別々の 3 アリコート(3 × 150 µL)を丸型ウェルコレクションプレート(製品番号:186002481)に移し、Ultravap Mistral マイクロプレートエバポレーター(Porvair)を用いて蒸発乾固しました。蒸発乾固したウェルに、特定の UPLC-MS/MS メソッドに適した溶媒を 50 µL 添加して再溶解し、下記のようにサンプルの分析を実施しました。
ESI+ モードでイオン化する薬物は、ACQUITY HSS C18 カラム(2.1 × 150 mm、1.8 µm、製品番号:186003534)と、0.1% ギ酸水溶液および 0.1% ギ酸アセトニトリル溶液を移動相に用いる UPLC-MS/MS メソッドを使用して分析しました。このアッセイに用いた再溶解溶媒は 5% アセトニトリル含有 0.1% ギ酸でした。
ESI- モードでイオン化する薬物も同じ ACQUITY HSS C18 カラムで分析しましたが、移動相には 0.001% ギ酸水溶液および 0.001% ギ酸アセトニトリル溶液を使用しました。このアッセイに用いた再溶解溶媒は 10% アセトニトリル含有 0.001% ギ酸でした。
カンナビノイド類の測定に用いた別の分析法は、ACQUITY BEH C18 カラム(2.1 × 100 mm、1.7 µm、製品番号:186002352)に基づいたもので、移動相には 0.05% ギ酸水溶液(移動相 A)および 0.05% ギ酸アセトニトリル溶液(移動相 B)を使用しました。このアッセイに用いた再溶解溶媒は 0.05% ギ酸アセトニトリル溶液でした。
それぞれの UPLC-MS/MS メソッドにおいて、各分析種に対して 2 つの MRM トランジション(可能な場合)をモニターしました。
結果および考察
開発したサンプル前処理手順を使用して、計 155 種の分析種を調査しました。このうち、110 種の薬物は ESI+ の幅広い MRM スクリーニングメソッド、40 種の薬物は ESI- の幅広い MRM スクリーニングメソッドを用いてそれぞれ分析し、5 種のカンナビノイド類は ESI+/ESI+ を切り替えて、特定の MRM を使用して検出しました。
この試験で調査したすべての薬物が調査した濃度で検出され、それらを表 1 に記載します。
図 1 に、全血中に 20 種の薬物を 10 ng/mL になるように調製した代表的な混合物の例を示します。この混合物は、記載したパススルーサンプル前処理メソッドを用いて調製し、ESI+ の UPLC-MS/MS を使用して分析しました。図 2 に、200 ng/mL になるようにスパイクしたネガティブイオン化化合物の混合物を含む血液の分析を示します。図 3 には、全血中に 10 ng/mL になるようにスパイクしたカンナビノイド類について得られたクロマトグラムを示します。
結論
薬物検査における全血の使用の増加により、化合物のスクリーニングが行える迅速で正確、信頼性が高く頑健な分析法の必要性が注目されるようになりました。このアプリケーションノートでは、全血中の化学的に多様な薬物の大規模パネルに正常に適用できた、シンプルでありながら頑健なサンプル前処理手順について実証します。この汎用的なサンプル前処理メソッドは、幅広いシナリオでの検査に有用である可能性があります。
このパススルーサンプルクリーンアップ手順は、マイクロプレート型式で行えるため、高いサンプルスループットが必要な場合は自動化することも可能です。
参考文献
- Drug Driving (Specified Limits) (England and Wales) Regulations 2014 and the Drug Driving (Specified Limits) (England and Wales) (Amendment) Regulations 2015.
- Recommendations for Toxicological Investigation of Drug-Impaired Driving and Motor Vehicle Fatalities—2021 Update.A.L. D’Orazio et al., J. Anal.Toxicol., 45: 529-536 (2021).
- M. Wood and R. Lee.Analysis of Drugs in Blood to Support the Section 5A Driving Under the Influence of Drugs Act.Application Note, 720007451, 2021.
720007699JA、2022 年 8月