長く浅いグラジエントを用いるペプチドマッピング分析への ACQUITY™ Premier バイナリーシステムの適用性の実証
要約
逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)は、ペプチドマッピング分析での主要な分析ツールです。複雑なペプチドマッピングでは、複数の消化産物やプロダクトバリアントペプチドを十分に分離するために、長く浅いグラジエントが必要な場合があります。MaxPeak™ HPS テクノロジーを搭載した ACQUITY Premier バイナリーシステムは、高いグラジエント忠実性を考慮すると、このタスクに最適です。ACQUITY Premier システムは、5 日間の試験にわたって他社製の生体適合性 UHPLC システムと比較したところ、優れた保持時間再現性が実証されました。
アプリケーションのメリット
- 紫外線(UV)ベースおよび質量分析(MS)ベースの検出で、意味のある流速での浅いグラジエントの高い忠実度に基づく優れた保持時間の再現性
- ピークアライメントアルゴリズムが不要な簡素化されたペプチドマップの適合性
はじめに
RPLC は、ペプチドマッピング分析で広く使用されているクロマトグラフィーメソッドです。モノクローナル抗体(mAb)などの複雑な生体分子の詳細像を得るために、さまざまな消化酵素を使用してタンパク質をさまざまなポイントで開裂し、その結果得られる小ペプチドの混合物を分析することで、分子をより深く理解できます。逆相超高速液体クロマトグラフィー(RP-UHPLC)は、バイオ医薬品タンパク質のペプチドマップの最新の分析でほとんどの場合に使用されるクロマトグラフィーメソッドです1。
バイナリーポンプ溶媒送液モジュールを搭載したウォーターズの ACQUITY Premier システム(図 1)は、この種類の分析に最適です。高圧混合バイナリーポンプは、ペプチドマッピングアプリケーションに最適で、特に再現性のあるピーク保持時間を得るために正確な組成再現性が必要な、浅いグラジエントを使用するアプリケーションに最適です。このアプリケーションノートでは、ACQUITY Premier システムおよび他社製の生体適合性システムで、一般的なカラムとサンプルを使用してエノラーゼ消化を 5 日間にわたって分析しました。グラジエントプロファイル全体に広がってペプチドの保持時間をモニターすることで、結果をシステム間で比較しました。全体として、いずれのシステムも良好に機能しましたが、ACQUITY Premier システムは、他社製のシステムと比較して良好な保持時間再現性を示しました。
実験方法
LC 条件
LC システム: |
ACQUITY APC™ リザーバーキャップキット(製品番号:205001152)を装備した ACQUITY Premier バイナリーシステム、標準的なリザーバーキャップを使用する X 社製の生体適合性 UHPLC バイナリーシステム |
検出: |
フォトダイオードアレイ検出器(PDA)(ACQUITY Premier システム)、ダイオードアレイ検出器(DAD)(X 社)、214 nm @ 10 Hz |
バイアル: |
トータルリカバリー(製品番号:186002805) |
カラム: |
ACQUITY UPLC™ Peptide CSH™ C18、130 Å、1.7 µm、2.1 × 150 mm(製品番号:186006938) |
カラム温度: |
65 ℃ |
サンプル温度: |
6 ℃ |
注入量: |
10 µL |
移動相 A: |
0.1% TFA 水溶液 |
移動相 B: |
0.1% TFA 含有アセトニトリル |
ニードル洗浄/パージ溶媒: |
25:75 移動相 A:移動相 B |
シール洗浄溶媒: |
水/メタノール 80:20 |
グラジエントテーブル
データ管理
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower™ 3.6.1 |
結果および考察
生体分子の酵素消化によって生成したペプチドが含まれている溶液には、多くの場合複雑で、生物物理学的特性が大きく異なる何十から何百のペプチドピークが含まれます。一般に、ペプチドの疎水性は、ペプチドの長さ、またはペプチドフラグメント内のアルキルアミノ酸残基と芳香族アミノ酸残基の増加によって強くなります2。 生じた混合物は複雑なクロマトグラム(ペプチドマップ)を示し、分子を理解するためには、これらのクロマトグラムを慎重に分析して、どのピークがペプチドに対応するかを理解する必要があります。これらのマップ中の多数のピークを分離するために、移動相中の有機溶媒の比率が徐々に増加する、長く浅い逆相グラジエントが多くの場合採用されます3。 長いグラジエントにわたって有機含量が少しづつ変化することで、類似の疎水性のペプチドの分離が可能になります。有機組成の小さい変化を精密に実現して送液するクロマトグラフィーシステムのポンプの機能が、結果の再現性にとって非常に重要です。グラジエントプロファイル全体にわたって有機組成にどのような小さな変化があっても、ピークの保持時間がシフトし、データの解釈と比較が困難になります。
ACQUITY Premier バイナリーシステムは、高圧混合バイナリーポンプによって優れた溶媒送液精度が得られるため、ペプチドマッピングでの分離に最適です。このアプリケーションノートでは、保持時間の再現性をポンプ性能の尺度として使用し、ACQUITY Premier バイナリーシステムを首位の他社製生体適合性 UHPLC バイナリーシステム(X 社)と比較しています。
システムの再現性を評価するため、以前の研究から適用した方法を使用して、ACQUITY Premier と他社製システムでの 5 日間の試験を 2 週間にわたって実施しました4。移動相とサンプルを毎日調製し、システムごとに試験開始時に提供された新しいカラムを使用して、複数のシステムを同時に実行しました。長いサンプルセット時間と移動相成分の揮発性を考慮して、低蒸発ボトルキャップを使用して溶媒の安定性を確保しました。サンプルセットには、Waters エノラーゼ消化標準試料の 6 回の繰り返し注入が含まれ、ブランク移動相の注入がその間に挟み込まれました。システムには、試験の前に性能の適格性評価を行いました。各サンプルセットを開始する前にダイナミックリークテストを実施して、ポンプが正常に動作していること、およびグラジエントの送液精度に影響を与える可能性のあるリークがシステムにないことを確認しました。
図 2 に、両システムでのエノラーゼ消化標準試料の代表的なクロマトグラムが示されています。この分析では、消化物に含まれる早く溶出する高極性ペプチドを十分に分離するために、移動相の有機溶媒比率は非常に低い値(1%)で開始します。ほとんどの分析種の分離を達成するとともに、バイナリーポンプの溶媒送液精度を試験するために、85 分にわたって移動相の有機溶媒比率が 0.58%/分で変化する長く浅いグラジエントを採用しました。他社製システムでの絶対保持時間は、カラムコンパートメント内のカラム切り替えバルブおよびグラジエントディレイボリュームが異なることによる、システムボリュームの増加のため、ACQUITY Premier システムよりわずかに長くなっています。さらに 2 つのシステム間の選択性の小さい変化が明らかであり、図では括弧で強調表示されています。前述したように、サンプルの複雑な性質により、構造的に類似した多くのペプチドが生じ、それらをクロマトグラフィー分離することが困難な場合があります。このため、グラジエント送液、カラム温度制御、溶媒混合、および/またはグラジエントディレイボリュームのわずかな変化が、選択性の検出可能な変化につながる可能性があります。これは、確立されている分析法をシステム間で移管することが困難であることの証であり、システムと分析種の間の相互作用を制限するように具体的に設計された分析法でも同様です。
各システムの性能を評価するために、21 のペプチドのピークを、サンプルセット内および 5 日間の試験にわたる保持時間の再現性についてモニターしました。共溶出するピーク、およびシステム間で選択性に変化があったピークを除外するように注意しました。図 3 に、両方のシステムでの 21 のピークすべてについて、日ごとの保持時間の標準偏差の平均値が示されています。1 つのシステムセット内での異なる日にわたる識別できる傾向は、認められませんでした。図 4 に、5 日間の試験にわたる合計標準偏差の平均が示されています。移動相調製、サンプル前処理、室温、カラム温度、オートサンプラー温度での相違のすべてが、絶対保持時間のわずかな変動につながることがありますが、これらはポンプの性能を示すものではありません。複数の日にわたる平均標準偏差は、変動の外的要因を排除するために、日内標準偏差の平均を取って計算しました。いずれの場合も、ACQUITY Premier システムでは保持時間の標準偏差が 13%(ピーク 1) ~ 146%(ピーク 17)と小さく、他社製システムと比べて向上していました。このことは、ACQUITY Premier システムのバイナリーポンプが、数回の注入および複数日にわたって、再現性のある、繰り返し可能なグラジエントを送液できたことを示しています。全体として、両方のシステムでバイナリーポンプは仕様どおりに動作し、ACQUITY Premier システムではすべてのピークにわたる平均標準偏差が 0.017 分で、他社製システムではこの値が 0.030 分であり、すべての標準偏差の平均値が 0.045 分を下回っていました(図 4)。
結論
逆相ペプチドマッピング分析は、バイオ医薬品の特性解析および特性ベースの分析に使用される重要なツールです。バイナリーポンプを搭載したクロマトグラフィーシステムは、クオータナリーポンプシステムと比較してより正確なグラジエントを送液できるため、このような分離に最適です。本研究では、ACQUITY Premier バイナリーシステムを、ペプチドマッピング試験で通常使用される長く浅いグラジエントを送液する性能について、X 社製の UHPLC バイナリーシステムと比較しました。全体として、いずれのシステムも良好な性能を発揮し、エノラーゼ消化標準試料のペプチドマップを通してモニターした 21 のピークすべてで、5 日間の平均標準偏差は 0.045 分以内でした。ただし、21 のピークすべてで ACQUITY Premier システムが X 社製システムより性能が優れており、平均標準偏差は 13% ~ 146% と向上していました。この試験では、ペプチドマッピング試験、特にポンプによる再現性のある送液が困難な課題になることがある長く浅いグラジエントを使用する試験に、ACQUITY Premier バイナリーシステムを適用できることが実証されています。
参考文献
- Zhu, R.; Zacharias, L.; Wooding, K. M.; Peng, W.; Mechref, Y. Chapter Twenty-One - Glycoprotein Enrichment Analytical Techniques: Advantages and Disadvantages.In Proteomics in Biology, Part A; Shukla, A. K., Ed.; Methods in Enzymology; Academic Press, 2017; Vol.585, pp 397–429.https://doi.org/10.1016/bs.mie.2016.11.009.
- Mitulovic, G.; Mechtler, K. HPLC Techniques for Proteomics Analysis - a Short Overview of Latest Developments.Briefings in Functional Genomics 2006, 5 (4), 249–260.https://doi.org/10.1093.
- Gruber, K. A.; Stein, S.; Brink, L.; Radhakrishnan, A.; Udenfriend, S. Fluorometric Assay of Vasopressin and Oxytocin: A General Approach to the Assay of Peptides in Tissues.Proceedings of the National Academy of Sciences 1976, 73 (4), 1314–1318.
- Simeone, J.; Hong, P.; McConville, P. R. Performance of the ACQUITY UPLC I-Class PLUS System for Methods Which Employ Long, Shallow Gradients.Waters Application Note, 720006290, 2018.
720007631JA、2022 年 6 月