ヒトの尿の分析における SYNAPT XS™ と SELECT SERIES™ Cyclic™ IMS の比較
要約
メタボロミクス研究でノンターゲット分析には、何千もの化合物が含まれている複雑な生物学的マトリックスの分析が含まれます。結局のところ、これらのマトリックスの分析が頼るのは、できるだけ多くの特性を検出して、可能性のあるバイオマーカーを判定する分析装置の機能です。イオンモビリティ(IM)などの補完性のある分離手法が組み込まれている液体クロマトグラフィー(LC)分離、およびハイフネーテッド質量分析計(MS)の進歩が手伝って、検出される特性の数がますます増加しています。
アプリケーションのメリット
IMS 分離、特性検出、スペクトル品質の向上
はじめに
複数の分離手法の結合により、化合物間の分解能が向上し、スペクトル品質が高まって、化合物の注釈および同定が向上します。以前の研究1 により、メタボロミクス研究で IM を LC-MS ワークフローに導入するメリットが実証されています。ピーク性能が改善され、性能(特性検出および同定の信頼性)を犠牲にすることなくハイスループットが達成されます2。SELECT SERIES Cyclic IMS 質量分析計によるイオンモビリティ性能のさらなる進歩により、マルチパス IMS 機能によって分析種の分解能をさらに高めることが可能になっています。このモードでは、イオンはイオンモビリティーデバイスの経路を複数回通過し、分離経路の長さが大幅に増加します。ただし、単一周回の IM 分離を実施する場合でも、SELECT SERIES Cyclic IMS 装置の移動経路は SYNAPT XS イオンモビリティー分離セルのほとんど 2 倍であるため、達成できるイオンモビリティー分解能が大幅に向上します。このアプリケーションブリーフでは、SELECT SERIES Cyclic IMS がヒトの尿の代謝サンプル分析にもたらすメリットを比較および強調して説明しています。
実験方法
すべてのクロマトグラフィー分離は、ACQUITY Premier BEH™ Amide カラムを装備した ACQUITY™ Premier UPLC™ システムで実施しました。移動相およびグラジエント条件は、表 1 に示されています。質量分析計のイオン源条件および飛行時間型(Tof)取り込み設定は、両方の装置(SYNAPT XS および SELECT SERIES Cyclic IMS)で維持され、表 2 にまとめられています。イオンモビリティー分離条件は、各装置それぞれにおいて既定設定のままにしました。
単一のヒトの尿サンプル(20 µL)は、30 µL の LC-MS グレードの水と 350 µL の LC-MS グレードのアセトニトリルを添加して調製しました。次に、サンプルを 10 分間振とうした後、13,000 rpm で遠心分離しました。上清は、分析用に Waters™ トータルリカバリーバイアルに移しました。
表 1.UPLC 分析法のパラメーター
システム: |
ACQUITY Premier |
移動相 A: |
5:95 アセトニトリル:水、0.1% ギ酸水溶液、10 mM ギ酸アンモニウム |
移動相 B: |
95:5 アセトニトリル:水、0.1% ギ酸水溶液、10 mM ギ酸アンモニウム |
シール洗浄溶媒: |
10% イソプロパノール水溶液 |
弱洗浄溶媒: |
80:20(v/v)水/アセトニトリル |
強洗浄溶媒: |
イソプロパノール |
ロックスプレー: |
ロイシンエンケファリン 200 pg/µL(50:50 水:アセトニトリル) |
カラム: |
Waters ACQUITY Premier UPLC BEH Amide、1.7 µm、2.1 × 100 mm |
カラム温度: |
40 ℃ |
注入量: |
2 μL |
オートサンプラー温度: |
8 ℃ |
グラジエントテーブル
表 2. SYNAPT XS および SELECT SERIES Cyclic IMS の MS パラメーター
キャピラリー電圧: |
2.0 kv |
ESI 極性: |
ポジティブ |
サンプルコーン電圧: |
30 V |
イオン源オフセット: |
80 V |
イオン源温度: |
120 ℃ |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
コーンガス流量: |
50 L/時間 |
脱溶媒流量: |
800 L/時間 |
四重極プロファイル: |
自動 |
ロックスプレー流量: |
10 µL/分 |
測定モード: |
分解能 |
Tof 質量範囲: |
50 ~ 1200 Da |
スキャン時間: |
0.3 秒 |
データ形式: |
コンティナム |
取り込みモード: |
HDMSE™ |
コリジョンエネルギー: |
トランスファーセルランプ:20 ~ 40 eV |
結果および考察
特性検出
SYNAPT XS および SELECT SERIES Cyclic IMS の両方から収集された MS データはすべて、別々に ProgenesisTM QI にインポートされ、抽出した尿の繰り返し注入(n = 3)は整理して並べられ、同じアルゴリズムを使用してピークピッキングを行いました。生データを Progenesis QI にインポートすると、それぞれのインポートされた注入で検出された低エネルギーイオンの数が、ソフトウェアによって判定されました。図 1 では、同じサンプルを SYNAPT XS を使用して分析した場合と比較して、SELECT SERIES Cyclic IMS では平均で 3.5 倍を超える低エネルギーイオンを検出できたことが示されています。Progenesis QI で実施されたピークピッキングにより、インポートしたサンプル分析すべてで検出されたすべてのピークに対する特性のリスト(m/z と保持時間のペア)が生成されました。さらに、以下の棒グラフ(図 1)から、SELECT SERIES Cyclic IMS により Progenesis QI で、SYNAPT XS を使用して生成されたデータファイルで検出されたものより約 50% 多くの特性を検出できたことがわかります。
モビリティー分離
プリカーサーイオンの最良の分離を達成し、フラグメントイオン情報を生成するために、すべてのデータは HDMSE 取り込みモードを使用して、イオンモビリティーが有効な状態で取り込みました。このモビリティー分離の追加により、分析による全体的なピーク性能が向上できます。この場合、以前は共溶出していた LC 特性を、モビリティーセルで相互に分離できます。図 2 で、この改善が強調されています。同一の m/z および保持時間を持ち、ドリフト時間により分離される 2 つの特性は、分離すると、異なるスペクトルを生成できることが示されています。これ以外の方法では、フラグメントイオンを分離してプリカーサーに正確に割り当てることは困難でしょう。
データベースの注釈
数の増加およびドリフト時間による特性分離のメリットを調べるため、プリカーサー質量および理論的フラグメント化(いずれも許容範囲を +/- 10 ppm に設定)を用いて、HMDB データベースで検索しました。SYNAPT XS で得られた尿の分析データについて、検出された 2363 件の特性のうち 1450 件の特性について、データベースクエリーから可能性のある注釈が返されました。それと比較して、SELECT SERIES Cyclic IMS 分析の結果では、同じデータベースと検索基準を使用して、SYNAPT XS の注釈よりも 944 件多い可能性のある注釈が生成されました(図 3)。
結論
長いイオンモビリティーセル付き SELECT SERIES Cyclic IMS では、モビリティー分解能が高いため、イオン分離が向上し、ピーク性能が向上します。その結果、イオンの数およびピークピッキングされた特性の数が SYNAPT XS と比べてほぼ 2 倍になりました。特性検出およびドリフト時間分離の増加により、特性フラグメントイオンのスペクトル品質が向上し、最終的に可能なデータベース注釈の合計数が増えました。これにより、最終的なバイオマーカー同定の信頼性と正確性が向上します。
参考文献
- Rainville, P.D., et al., Ion Mobility Spectrometry Combined With Ultra Performance Liquid Chromatography/Mass Spectrometry for Metabolic Phenotyping of Urine: Effects of Column Length, Gradient Duration and Ion Mobility Spectrometry on Metabolite Detection. Anal Chim Acta, 2017.982: p. 1-8.
- King, A.M., et al., Rapid Profiling Method for the Analysis of Lipids in Human Plasma Using Ion Mobility-enabled Reversed- phase Ultra-high Performance Liquid Chromatography/Mass Spectrometry. J Chromatogr A, 2020.1611: p. 460597.
720007537JA、2022 年 2 月