• アプリケーションノート

3465 電気化学検出器を用いた医薬品中のアミカシンおよびカナマイシンの分析

3465 電気化学検出器を用いた医薬品中のアミカシンおよびカナマイシンの分析

  • Jinchuan Yang
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

アミカシン(AMI)およびカナマイシン(KAN)は、米国薬局方(USP)モノグラフにしたがって、HPAEC-PAD により分析されました。装置セットアップには ACQUITY™ Arc™ システムおよび 3465 電気化学検出器(ECD)を含めました。装置の制御およびデータ取り込みは Empower™ 3 クロマトグラフィーデータソフトウェア(CDS)により処理しました。その分析性能は、両方の分析種について、分離度、テーリング係数、再現性に関して、USP システム適合性要件を満たしていました。3465 ECD は、AMI および KAN のアッセイに十分な濃度範囲において、優れた直線性のレスポンスを示しました。アミカシン注入サンプルをこのセットアップを使用して分析したところ、満足の行く結果が得られ、医薬品中のアミカシンおよびカナマイシンのアッセイに ACQUITY Arc システムおよび 3465 ECD 検出器が適していることが実証されました。

アプリケーションのメリット

  • 3465 ECD を搭載した ACQUITY Arc により、アミカシンとカナマイシンの USP 性能要件を満たす信頼性の高い分析が実現
  • 3465 ECD は、アミカシンおよびカナマイシンのアッセイに十分な濃度範囲において、優れた直線性のレスポンスを示しました。

はじめに

アミカシンおよびカナマイシンは、互いに密接に関連するアミノグリコシド系抗生物質であり、細菌感染および結核の治療にしばしば用いられます。KAN は細菌 Streptomyces kanamyceticus から分離されます。AMI は、KAN のアミノ基のアシル化による KAN の誘導体です。図 1 に AMI および KAN の構造を示します。USP は AMI および KAN のモノグラフを公開しており、アッセイにはパルスアンペロメトリック検出(PAD)を用いた高性能陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC)を使用しています1-5。 このアプリケーションノートでは、3465 ECD を搭載した ACQUITY Arc システムでの AMI および KAN の HPAEC-PAD アッセイについて説明し、医薬品中の AMI および KAN の分析におけるその性能および適合性を実証しています。

図 1.  アミカシンおよびカナマイシンの構造

実験方法

標準品と試薬

カナマイシン硫酸塩およびアミカシン(CRM)は Sigma-Aldrich, Inc (米国ミズーリ州セントルイス)から購入しました。アミカシン注入剤(250 mg/mL)は最寄りの販売店から入手しました。低炭酸水酸化ナトリウム(NaOH)溶液(50% w/w、品質保証、Fisher Chemical™、炭酸 0.10% 以下)は Fisher Scientific Co.(米国ペンシルバニア州ピッツバーグ)から購入しました。メタノール(HPLC 用)は Honeywell Research Chemicals(米国ノースカロライナ州シャーロット)から購入しました。脱イオン水(18.2 Mohm∙cm 超)は社内で生成しました。 

調製

KAN および AMI の標準ストック溶液は、標準品を脱イオン水に 10 mg/mL になるように溶解して調製しました。KAN および AMI の標準混合液は、このストック溶液からそれぞれ 0.008 mg/mL および 0.020 mg/mL になるように調製しました。

注入するサンプル溶液はすべて脱イオン水に 0.020 mg/mL AMI(表示濃度に基づく)になるように溶解して調製しました。

115 mM および 134 mM NaOH の移動相は、一定量の低炭酸 50% w/w NaOH 溶液を脱イオン水と混合し、1 L の NaOH 溶液になるように調製しました。脱イオン水は、移動相調製に使用する前に脱気しました。移動相は毎日新しく調製しました。

HPAEC-PAD 条件

システム:

ACQUITY Arc システム(QSM-R および SM FTN-R)、3465 ECD 搭載

ソフトウェア:

Empower 3(3.6.1)クロマトグラフィーデータソフトウェア

カラム:

Hamilton® RCX-10 分析カラム 250 × 4.6 mm 内径 7 µm (PEEK)、RCX-10 ガードカラム付き

バイアル:

PP バイアル容量 700 µL(キャップおよびスリット入りセプタム付き)(製品番号:186005221)

温度:

カラムおよび検出フローセルで 30 ℃

フローセル:

FlexCell™ 作用金電極、HyREF 参照電極、ステンレス補助電極、50 µm スペーサー(製品番号:700013068)。

移動相:

115 または 134 mM の NaOH 溶液(溶媒安定化キット(製品番号:205001099)を使用し、N2 ガス下で保護)

SM パージ/洗浄溶媒:

脱イオン水

シール洗浄溶媒:

水:メタノール 8:2(v/v)

流速:

0.5 mL/分

分析時間:

30 分

注入量:

10 µL

インジェクターループオフライン:

0.5 分

検出:

PAD

電位波形:

表 1 参照

ADF:

0.02 Hz

表 1.  パルスアンペロメトリック検出の電位波形

高 pH 移動相の使用

これらの移動相の使用には追加の予防策を取りました(最高 pH 13.1)。予防策として、a)PEEK チューブ(内径 0.004 インチ)を使用して、インジェクターバルブをカラムに接続し、さらに検出器フローセルに接続する、b)注入後(0.5 分で)インジェクターループをオフラインにする、c)脱イオン水を使用して、毎日の使用後にシステムおよびカラムをフラッシュ洗浄する、などを行いました。試験では(標準試料およびサンプルの約 500 回の注入で)漏れやキャリーオーバーは見られませんでした。

結果および考察

検出器フローセル

この分析では、金の作用電極、水素参照電極(HyREF)、ステンレスの補助電極で構成される検出器フローセルを使用しました。USP モノグラフでは、金の作用電極と銀-塩化銀参照電極のフローセルを推奨しています。銀-塩化銀参照電極は定期的なメンテナンスが必要ですが、HyREF はメンテナンスが不要です。補助電極により、検出のダイナミックレンジが改善します。これらの考慮事項に基づき、FlexCell では金の作用電極、HyREF 参照電極、ステンレスの補助電極を使用しました。 

システム適合性試験

AMI および KAN の USP モノグラフでは、一連のアッセイの性能基準を指定しています1-5。 両方の分析種に用いたアッセイ条件は、移動相以外は同一です。KAN には 115 mM の NaOH 溶液の移動相が推奨され、AMI には 134 mM の NaOH 溶液が推奨されています。図 2 に、USP 基準、および指定された移動相条件で 0.008 mg/mL の KAN 硫酸塩および 0.020 mg/mL の AMI の標準混合液を使用した場合の測定結果を示します。図 2 は、USP で指定された移動相の標準混合液を用いて得られたクロマトグラムの重ね描きを示しています。これらの結果はすべて USP システム適合性要件を満たしています(表 2)。 

図 2.  USP で指定されている移動相を使用して得られた 0.008 mg/mL のカナマイシン硫酸塩および 0.020 mg/mL のアミカシンのクロマトグラムの重ね描き(n = 4)
表 2.  USP システム適合性基準および試験結果

直線性

AMI および KAN の USP モノグラフでは、1 点(濃度)キャリブレーションを指定しており、これには検出器のレスポンスと濃度の間に直線的な関係(原点を通る直線)があることが必要です。検出器のレスポンスの直線性を調査しました。表 3 に USP で指定されている移動相の目標濃度の最大 140% の濃度範囲における AMI および KAN のキャリブレーション結果を示します。6 濃度レベルのデータポイントを、最小二乗回帰で原点を通過する直線に近似しました。両方の分析種で相関係数の値は 0.997 であり、ピーク面積と分析種濃度の間に優れた直線関係があることが示されました。この試験では、注入量 10 µL を使用しました。 

表 3.  カナマイシン硫酸塩およびアミカシンのキャリブレーション結果

サンプル分析

表 4 に、AMI サンプルの 2 回の注入の AMI アッセイ結果を示します。測定された濃度の結果は、AMI についての USP の許容基準の範囲内(90.0% ~ 120.0%)でした。図 3 に、このサンプルの 3 回繰り返し注入のクロマトグラムを示します。 

図 3.  アミカシン注入溶液(n = 3)の分析で得られたクロマトグラムの重ね描き
表 4.  アミカシン注入溶液の分析結果

結論

この実験では、Empower 3 CDS で制御される 3465 電気化学検出器を搭載した ACQUITY Arc システムを使用して、医薬品中の AMI および KAN について、信頼性の高い正確なアッセイを行えることが実証されました。その分析性能は、AMI および KAN について、ピーク分離度、テーリング、再現性に関する USP 性能要件を満たしていました。

参考文献

  1. United States Pharmacopeia (2022), USP Monographs.Kanamycin Injection, USP43-NF38 – 2501.Rockville, MD: United States Pharmacopeia.
  2. United States Pharmacopeia (2022), USP Monographs.Kanamycin Sulfate, USP43-NF38 – 2502.Rockville, MD: United States Pharmacopeia.
  3. United States Pharmacopeia (2022), USP Monographs.Amikacin, USP43-NF38 – 219.Rockville, MD: United States Pharmacopeia.
  4. United States Pharmacopeia (2022), USP Monographs.Amikacin Sulfate, USP43-NF38 – 220.Rockville, MD: United States Pharmacopeia.
  5. United States Pharmacopeia (2022), USP Monographs.Amikacin Sulfate Injection, USP43-NF38 – 221.Rockville, MD: United States Pharmacopeia.

720007647JA、2022 年 5 月

トップに戻る トップに戻る