• アプリケーションノート

非ステロイド系抗炎症薬の分析に MaxPeak™ HPS テクノロジーを使用する利点

非ステロイド系抗炎症薬の分析に MaxPeak™ HPS テクノロジーを使用する利点

  • Catharine E. Layton
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

製薬ラボでは、化学物質の製造、製剤、安定性をモニターするための迅速で感度が高い頑健な分析法の開発が日常的に求められています。クロマトグラフィーシステムへの注入時の医薬品化合物の物理化学的特性により、サンプルの損失、ばらつき、あるいは非対称なピーク形状が生じることがあります。このような場合、信頼できるクロマトグラフィー分析メソッドを開発して、表面での相互作用を最小限に抑えることが重要になります。

このアプリケーションでは、NSAIDs を候補分子として使用して MaxPeak HPS テクノロジーを使用することのメリットを示しました。この実証に NSAIDs を選択したのは、この分子がフリーラジカル捕捉剤として挙動するためです。この反応性により、分析種がクロマトグラフィーシステムおよびカラムに存在する合金由来の成分にさらされると、金属イオンと複合体を形成する傾向を示します。強いイオン対添加剤や時間のかかるシステム不動態化シーケンスを使用しない場合、この複合体化によりクロマトグラフィー回収率が低下します。MaxPeak HPS テクノロジーにより、移動相添加剤や不動態化処理を必要とせずに、クロマトグラフィーレスポンスを改善するという課題が克服できます。

アプリケーションのメリット

  • 非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)の分析で、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを使用することで、従来のクロマトグラフィーシステムおよびカラムを使用した分析と比較してより大きなピーク高さと面積のレスポンスが実現
  • MaxPeak HPS テクノロジーにより、強い移動相添加剤、キレート剤、時間のかかる不動態化処理プロトコルを必要とせず、NSAIDs 分析におけるクロマトグラフィー感度が改善

はじめに

NSAIDs は、最も一般的に使用されている医薬品の一種です。これらの化合物には、鎮痛、抗炎症、および解熱の効果がある他に、がんや心臓発作などを含む多様な重大疾患から保護する効果があります。NSAIDs は構造および機能において多様ですが、ほとんどは弱有機酸であり、酸性部分(カルボン酸、エノール)と芳香族官能基で構成されています(図 1)1

プロピオン酸および酢酸誘導体の構造
図 1.  この試験で使用したプロピオン酸および酢酸誘導体 NSAIDs の構造(4)

反応性が高いという性質は NSAIDs の抗炎症効果に貢献すると考えられている主要メカニズムですが、これらのフリーラジカル捕捉剤は正確に分析することが困難である場合があります。システムおよびカラムの表面に合金が含まれる場合、NSAID/非特異的金属イオン複合体の形成により、クロマトグラフィー感度が大幅に低下することがあります。移動相のイオン対試薬や 0.1% トリフルオロ酢酸(TFA)などのキレート剤が、クロマトグラフィーのピーク形状を改善するために添加されることがありますが、これらの試薬を使用すると、システム汚染、カラム選択性の不可逆的な変化、高いバックグラウンド干渉、紫外線(UV)アプリケーションおよび液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)アプリケーションでの感度低下が発生する場合があります2,3

MaxPeak HPSテクノロジーは、金属イオンに吸着しやすいフリーラジカル捕捉化合物における、分析種/表面間相互作用を最小限に抑えることにより、優れたクロマトグラフィー性能を提供できるように設計されています。今回示す実験の目的は、プロピオン酸および酢酸誘導体である NSAIDs の分析における、MaxPeak HPS テクノロジーのクロマトグラフィー性能を従来のクロマトグラフィーシステムと比較することです。

実験方法

試料および分析法

LC システム 1:

ACQUITY™ Arc™ システム(クオータナリーソルベントマネージャー(rQSM)、サンプルマネージャー(rFTN)、ACQUITY Arc カラムマネージャー(rCM)、Empower™ 3 クロマトグラフィーデータソフトウェアを搭載)

LC システム 2:

Arc Premier システム(クオータナリーソルベントマネージャー(rQSM)、Arc Premier サンプルマネージャー(rFTN)、Empower 3 クロマトグラフィーソフトウェアを搭載)

検出:

ACQUITY アレイ検出器(PDA)を用い、イブプロフェンおよびケトプロフェンを 215 nm で検出、その他の化合物はすべて 265 nm で観察

カラム:

XBridge™ XP、BEH™ C18、2.5 µm カラム、4.6 × 150 mm、製品番号:186006711

XBridge Premier、BEH C18、2.5 µm カラム、4.6 × 150 mm、製品番号:186009849

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

20 ℃

注入量:

0.5 μL

流速:

1.3 mL/分

希釈溶媒:

メタノール

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 4.0)

移動相 B:

アセトニトリル

条件:

(50:50)移動相 A/移動相 B、アイソクラティック

結果および考察

イブプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、フルルビプロフェン、インドメタシン(Sigma-Aldrich、米国ミズーリ州セントルイス)の個々の NSAID ストック溶液をサンプル希釈溶媒で約 0.4 mg/mL に調製しました。移動相による不動態化の影響を避けるため、新しいカラムを使用しました。システム全体を 100% イソプロピルアルコールで十分にフラッシュ洗浄した後、HPLC グレードの水でフラッシュ洗浄しました。連続性を確保するために、各システムセットアップで同一の UV 検出器を使用しました。データ分析では、MaxPeak HPS テクノロジーを使用した場合に Empower 3 ソフトウェアで記録された UV レスポンスを、従来のシステムおよびカラムのセットアップで得られたレスポンスと比較しました

MaxPeak HPS テクノロジーを使用することで、すべての NSAIDs についてクロマトグラフィーのピーク高さと面積の感度が向上しました(図 2、図 3、表 1、表 2)。XBridge Premier カラムでは、高さレスポンスは最大 1.6 倍(38%)、面積レスポンスは最大 1.7 倍(41%)増加しました。Arc Premier システムを XBridge Premier カラムと組み合わせて使用した場合、高さレスポンスは最大 4.7 倍(79%)、面積レスポンスは最大 4.0 倍(75%)増加しました。

 MaxPeak HPS テクノロジーによるクロマトグラフィーピーク面積の増加
図 2.  MaxPeak HPS テクノロジーによるクロマトグラフィーピーク面積の増加
MaxPeak HPS テクノロジーによるクロマトグラフィーピーク高さの増加

図 3.  MaxPeak HPS テクノロジーによるクロマトグラフィーピーク高さの増加

 

 従来の ACQUITY Arc システム/XBridge XP カラムと比較して、MaxPeak HPS テクノロジーを使用した場合のピーク高さの増加倍率
表 1.  従来の ACQUITY Arc システム/XBridge XP カラムと比較して、MaxPeak HPS テクノロジーを使用した場合のピーク高さの増加倍率
従来の ACQUITY Arc システム/XBridge XP カラムと比較して、MaxPeak HPS テクノロジーを使用した場合のピーク面積の増加倍率
表 2.  従来の ACQUITY Arc システム/XBridge XP カラムと比較して、MaxPeak HPS テクノロジーを使用した場合のピーク面積の増加倍率

結論

NSAIDs は、鎮痛、解熱、および抗炎症効果がある医薬品として有効な化合物です。MaxPeak HPS テクノロジーにより、NSAID 化合物のクロマトグラフィー分析時のピーク高さと面積レスポンスを大幅に高められることが示されました。さらに、MaxPeak HPS テクノロジーによって得られる感度の向上により、従来のクロマトグラフィーシステムおよびカラムによる分析と比較して、NSAID 化合物の検出限界の改善が実現します。

参考文献

  1. Bindu S, Mazumder S, Bandyopadhyay U. Non-steroidal Anti-inflammatory Drugs (NSAIDs) And Organ Damage: A Current Perspective.Biochemical Pharmacology.2020. Oct;180:114147.
  2. Pekoe G, Van Dyke K, Peden D, Mengoli H, English D. Antioxidation Theory of Non-steroidal Anti-inflammatory Drugs Based Upon the Inhibition of Luminol-Enhanced Chemiluminescence From the Myeloperoxidase Reaction.Agents Actions.1982 Jul;12(3):371–6.
  3. Plumb R. and Wilson I., “Metal-Analyte Interactions – An Unwanted Distraction”, The Column.Vol 17 (8), 2021.
  4. NSAID structures.https://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov.Accessed 01/10/21.

720007531JA、2022 年 6 月改訂

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