医薬品の研究、創薬、製造でのステロイド医薬品の LC-MS/MS 定量では、正確な定量を行うために、高感度で頑健な分析法が必要です。この試験では、金属の影響を受けやすいステロイドリン酸エステル分析種である、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンリン酸エステルトリエチルアミンについての分析において、Arc Premier システムおよび XSelect Premier HSS T3 カラムによるクロマトグラフィー性能の向上に焦点を合わせます。
ステロイドリン酸エステルの LC-MS 分析法開発での多くの課題の中でも、豊富な電子に起因する、よく知られていた LC 流路の金属への吸着性が、多くの場合最大の問題です。この金属との相互作用はクロマトグラフィー性能に悪影響を及ぼし、不完全なピーク形状や、分析種の回収率と再現性の問題のために、最終的に分析法の全体的な性能が制限されることがよくあります。吸着部位をブロックするために、高濃度の分析種を使用する LC システムおよびカラムのコンディショニングまたは不動態化処理がよく実施されます。この不動態化は、効果的ではありますが、永続的なものではありません。代替策として、移動相中に EDTA などのキレート試薬がよく使用されます。キレート化添加剤の使用も効果的ではありますが、LC-MS 分析に悪影響を及ぼし、MS シグナルが抑制されて感度が制限されることがよくあります。
今回紹介する試験では、Arc Premier システムおよび XSelect Premier HSS T3 カラムを使用することで、分析 LC-MS の定量性能が向上することが実証されています。MaxPeak High テクノロジーで強化されたこのクロマトグラフィーシステムおよびカラムは、金属の影響を受けやすい分析種のイオン性相互作用による非特異的吸着を防ぐように特別に設計されており、システムやカラムの不動態化処理を必要とせずに、ピーク形状、回収率、および分析法の全体的な再現性が大幅に向上します。
デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステル、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンリン酸エステルトリエチルアミンのクロマトグラフィー性能を、標準 ACQUITY Arc システムおよび標準ステンレススチール製 XSelect HSS T3 カラムを使用して評価し、Arc Premier システムおよび XSelect Premier HSS T3 カラムと比較しました。MS による検出および定量は、Xevo TQ-S micro トリプル四重極型質量分析計を用いて行いました。
Arc Premier システムおよび XSelect Premier HSS T3 カラムで、ステロイド(10 ng/mL)5 µL の注入(シーケンスキューの 3 回目の注入)においてすべての分析種が簡単に検出されました。これは図 1A に示されています。ただし、同じサンプルを同じ日にサンプルセットのキューで、標準 ACQUITY Arc システムおよび標準ステンレススチール製 XSelect HSS T3 カラムで分析した場合、非リン酸エステルステロイドは検出されませんでしたが、デキサメタゾンおよびデキサメタゾン酢酸エステルは簡単に検出され、ピークレスポンスは Arc Premier システムおよび XSelect Premier HSS T3 カラムと同等でした。結果は図 1B に示されています。
図 2 に、ベタメタゾンリン酸エステル(4.37 分)およびデキサメタゾンリン酸エステル(4.54 分)の低 ng/mL ステロイド分析での、準備せずに Arc Premier システムと XSelect Premier HSS T3 カラム(A)、および標準 ACQUITY Arc システムと標準 XSelect HSS T3 カラム(B)を使用して得られたクロマトグラフィー性能の比較が示されています。この図では、溶媒標準ブランク試料を 2 回注入した後、ステロイドカクテル混合物 5 µL の注入(10 ng/mL)を 6 回繰り返しました。最初のステロイド注入で、分析種の回収率、ピーク形状、分離度、再現性のある MS レスポンスにより、優れたクロマトグラフィー性能が確認されました。これらのリン酸ステロイドについての性能は、標準 ACQUITY Arc システムおよびステンレススチール製カラム(2B)では大きく異なり、ステロイド分析種のレスポンスがはるかに低く、レスポンスは注入回数に応じて増加しました。また、ベタメタゾンとデキサメタゾンリン酸エステルでは、より顕著なテーリングがあり、分離度が劣っています。
低分子分析法開発ガイダンス1,2 によると、開発した分析法は、直線性(相関係数 (R2) 0.98 以上)、正確度(±15%)、精度(±15%)を実証できる必要があります。これらの基準は、XSelect Premier HSS T3 カラム(2.5 μm、2.1 × 100 mm)および Xevo TQ-S micro を組み合わせた Arc Premier システムを使用して、簡単に達成されました。5 種のステロイドすべてに対する定量性能が表 1 に示されています。すべてのステロイドの直線性(R2)は、1/x2 の重み付けを使用して 0.99 を超えており、ダイナミックレンジは 1 ~ 250 ng/mL(デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステル、デキサメタゾンリン酸エステル、ベタメタゾンリン酸エステル)および 1 ~ 1,000 ng/mL(ヒドロコルチゾンリン酸エステル)でした。評価したすべてのステロイドについて、定量下限(LLOQ)1 ng/mL が簡単に達成され、すべてのステロイドについて、シグナル対ノイズ比(S/N)は 13 ~ 278 でした。デキサメタゾンリン酸エステルナトリウム、ベタメタゾンリン酸エステルナトリウム、ヒドロコルチゾンリン酸エステルの LLOQ のキャリブレーションポイントに対するクロマトグラフィー性能は、図 3 に示されています。
Arc Premier システムと XSelect Premier HSS T3 カラムを使用することで、ステロイド医薬品の高感度定量 MRM 分析法の開発が可能になり、LLOQ 1 ng/mL が達成されました。MaxPeak HPS テクノロジーによる Arc Premier システムおよび XSelect Premier カラムにより、リン酸エステル型ステロイド、ベタサメタゾン、デキサメタゾン、およびヒドロコルチゾンの回収率が大幅に向上し、非リン酸エステル型ステロイド、デキサメタゾン、デキサメタゾン酢酸エステルに対して同等の性能が実証されました。この概念実証分析法は、創薬、研究、製造をサポートするステロイドの正確な定量に、非常に有望であることが示されています。
720007269JA、2021 年 6 月