ステンレススチールなどの金属表面を使用すると、リン酸化ペプチドの吸着による損失が発生することが知られています。酸性基と金属表面の間の相互作用を最小限に抑えるために PEEK 被覆カラムなどの不活性ハードウェアが用いられていますが、圧力に対する安定性がより高く、広範に適用できるテクノロジーが存在します。MaxPeak Premier カラムでは、新しい種類の表面テクノロジーが採用されており、分析種の金属表面への結合が大幅に低減ないし解消されます。この研究では、MaxPeak Premier カラムを使用して達成できるシングル四重極型 MS 検出器を使用したリン酸化ペプチドの MS 感度の向上を実証します。
金属表面は、ルイス酸-塩基相互作用によって酸性化合物と反応し、金属表面への化合物の吸着につながる可能性があります。ほとんどのシステムおよび充塡済みカラムは金属製ハードウェアで構成されているため、このことが LC および LC-MS によるこれらの酸性化合物の分析を妨げることがあります。この非特異的吸着による有害な影響には、ピークのテーリングや分析種の低回収率などがあります。不動態化剤や PEEK などの不活性ハードウェアの使用など、これらの相互作用を緩和する戦略は存在しますが、これらの方法では、動作圧力の低下や MS 干渉など、これら自体による問題がもたらされます。
MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーは、特に動作圧力を犠牲にすることなく金属-分析種間相互作用の問題に対処するために導入されました。MaxPeak Premier カラムには、リン酸化プローブなどの酸性分析種とクロマトグラフィーの金属表面の間の相互作用を緩和する有機/無機バリアが備わっています。このメリットは、低分子、オリゴ、ペプチドの分離について報告されています1。 さらに、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)ハードウェアには特殊な不動態化溶媒は必要ではなく、幅広い移動相に適合し、分析法の開発および最適化が可能です。
LC-MS 分析での MaxPeak Premier カラムのメリットを実証するため、MS 検出用の ACQUITY QDa 質量検出器と組み合わせた ACQUITY UPLC H-Class システムを使用して、MassPREP リン酸化ペプチド標準試料であるエノラーゼを 3 種のカラムで分析しました。XSelect Peptide CSH C18 カラムおよび他社製のペプチド分析用カラムを、MaxPeak HPS テクノロジーを採用した XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムと比較しました。リン酸化ペプチドは、一般的に非リン酸化ペプチドよりも存在量が少なく、金属に吸着されることが知られているため、リン酸化ペプチド標準試料を選択しました。さらに、これらのペプチドの正確な分析は、多くのワークフローにとって重要です。3 種のカラムすべての比較は、ピーク面積およびピーク高さを介して分析種の回収率に基づいて行いました。XSelect Premier カラムは、すべてのリン酸化ペプチドに対して最高の感度と回収率を提供し、注入間の再現性が向上しました。
MassPREP リン酸化ペプチド-エノラーゼ標準試料(製品番号: 186003285)には、4 種の合成エノラーゼリン酸ペプチド(T18 (1P、チロシン)、T19 (1P、セリン)、T43 (1P、スレオニン)、T43 (2P、セリン)がそれぞれ 1 nmol 含まれています。バイアルの内容物を 50 μL の Milli-Q 水で再溶解して 20 pmol/μL 溶液にし、10 秒間ボルテックス混合してから注入しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class システム |
検出: |
ESI+ フルスキャン |
バイアル: |
TruView LCMS 認定透明ガラスバイアルトータルリカバリー(製品番号: 186005669CV) |
カラム: |
XSelect Peptide CSH C18 XP カラム、2.1 × 50 mm、2.5 μm(製品番号: 186006941) XSelect Premier Peptide CSH C18 カラム、2.1 × 50 mm、2.5 μm(製品番号: 186009904) 他社製ペプチドカラム、2.1 × 50 mm、2.7 μm |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
室温 |
注入量: |
1 μL |
流速: |
0.45 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸含有アセトニトリル |
グラジエント: |
表を参照 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 4 |
MS ソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 4 |
インフォマティクス: |
Empower 3 Feature Release 4 |
MaxPeak Premier LC カラムの利点を実証するために、従来の XSelect ペプチド CSH C18 カラム、他社製ペプチド分析用カラム、XSelect Premier ペプチド CSH C18 カラムを使用して、リン酸化ペプチド標準試料の分離と回収率を評価しました。図 1 に、各カラムの最初の注入の抽出イオンクロマトグラムが示されています。MS 検出は、ACQUITY QDa 質量検出器を使用して、表 1 に示されている(M+2H)+2 質量で行いました。
XSelect ペプチド CSH C18 カラムでは、すべてのペプチドについて最も低いシグナル強度が生成され、T43 2p ピークは、バックグラウンドノイズからほとんど検出できず、一リン酸化ペプチドと比較して検出強度がかなり低いです。二リン酸化ペプチドは、その余分な酸性リン酸基のために回収が困難であり、他社製ペプチドカラムを使用した場合シグナル強度の増加が示されています。ただし、T43 2p について最高のシグナル強度が得られたのは、XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムを使用した場合でした。実際に、XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムを使用したすべてのプローブのシグナル強度は、試験した他のカラムより強いです。一リン酸化ペプチドでは、二リン酸化 T43 2p に比べて酸性度は低いですが、従来の XSelect ペプチド CSH C18 および他社製ペプチド分析用カラムについては、シグナル強度とピーク面積が低いことで示されているように、吸着による損失が示されています(表 2)。シグナル強度の相違は別として、XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムでは、特に T43p および T43 2p ピークについて、XSelect Peptide CSH C18 カラムと同様の選択性が示されます。他社製ペプチドプラスカラムでは、これら 2 つのプローブのより良好な分離が得られましたが、MaxPeak HPS ハードウェアの有無にかかわらず、XSelect CSH C18 ケミストリーよりも全体的に保持が低くなっています。XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムと XSelect Peptide CSH C18 カラムとでは保持にわずかな差異が見られ、標準ハードウェアカラムの方が、おそらくプローブと金属表面の間のイオン性相互作用により、保持がわずかに高くなっています。選択性の大きな違いなしに、標準カラムから MaxPeak Premier カラムに切り替えることができることにより、重要な分析法に MaxPeak HPS テクノロジーをより迅速に導入できます。
ピーク面積を考慮した場合の最も印象的な相違も、初回注入時の T43 2p ペプチド(表 2)を MaxPeak Premier カラムと比較した場合であり、T43 2p ペプチドのピーク面積は、他社製ペプチド分析用カラムで約 50%、XSelect Peptide CSH C18 カラムで約 99% 低かったです。ただし、連続注入を行うと、従来の XSelect ペプチド CSH C18 および他社製ペプチド分析用カラムのいずれを使用した場合も、すべてのリン酸化ペプチドのピーク面積が図 2 に示すように増加し始めます。
図 2 では、XSelect Premier Peptide CSH C18 カラムにより、他の 2 つのカラムとは対照的に、最初の注入から再現性のあるピーク面積が得られます。XSelect ペプチド CSH C18 カラムでは、5 回の注入にわたってピーク面積が非常にゆっくりと増加しており、他社製ペプチド分析用カラムではより大幅に改善されますが、時間とともに直線的に増加することはありません。いずれの場合も、5 回の注入にわたって、どのリン酸化ペプチドについても、どのカラムも MaxPeak Premier カラムの性能に及びませんでした。このことは、カラムのコンディショニングがさらに必要であるか、MaxPeak Premier カラムで得られる性能レベルを達成できないことを示唆しています。MaxPeak Premier カラムでの回収率の向上は、リン酸化ペプチド分析での不活性クロマトグラフィー表面の重要性と有用性を実証しています。
MaxPeak Premier カラムにより、リン酸化ペプチドなどの酸性分析種とクロマトグラフィー表面の間の金属との相互作用が大幅に低減されました。このアプリケーションノートで実証されているように、MaxPeak Premier LC カラムを使用することにより、選択性や分析種の保持に大きな変化なしに、シングル四重極型質量分析計を使用する検出でのリン酸化ペプチドの回収率を向上させることができます。XSelect Premier CSH C18 カラムの使用による感度の向上により、より低いレベルのペプチドを検出することができ、ペプチドマッピングによる生物系やタンパク質消化物の特性解析が改善されます。MaxPeak Premier カラムは、多くの場合分析前に濃縮が必要な低存在量のリン酸化ペプチドなどの、低濃度分析に非常に有用な場合があります。
720007292JA、2021 年 6 月