LC 分析では、特にリン酸化ペプチドのような強酸性のプローブやヌクレオチドのような低分子の場合に、金属の吸着が大きな問題になる場合があります。これらのプローブはクロマトグラフィーの金属表面と相互作用し、ピーク形状の不良、ピーク面積の低下、ないし回収率の完全喪失を引き起こす場合があります1。 この問題は、ウォーターズの LC カラムおよび LC システムに採用されている MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)テクノロジーを導入することで軽減できます。しかし、他社製 LC システムにはこのテクノロジーは採用されていません。ここでは、3 種類のウォーターズ以外の LC システムで MaxPeak Premier カラムを用いた、金属の影響を受けやすい分析種であるアデノシン 5’-(α,β-メチレン)二リン酸(AMPcP)の分析について紹介します。このプローブは、金属の影響を強く受けやすく、アデノシン三リン酸やアデノシン二リン酸などの化合物よりも安定しています2。 当社の結果によると、使用する LC システムに関係なく、MaxPeak Premier カラムにより、ステンレススチール製カラムと比較して AMPcP のピーク面積および分析種回収率が向上します。このことは、MaxPeak Premier カラムの利点が、システムに依存せずほとんどすべてのシステム構成に有益であることを示しています。
カラムハードウェアなどの LC システム内の金属表面は、ルイス酸-塩基相互作用によって酸性分析種を引き寄せる可能性があり、ピーク形状の不良や回収率の低下につながることがあります。相互作用は、塩基性化合物や中性化合物でも異なるメカニズムを介して起こりますが、酸性プローブの方がより一般的です。中性 pH および酸性 pH の環境では金属表面は正に帯電するため、高 pH 移動相を使用することで、この影響を最小限に抑えることができます。ただし、高 pH であってもこの効果が問題になることがあります。これに対抗するため、MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)を、ウォーターズが提供する多くのカラムケミストリーおよび ACQUITY Premier システムなどの一部の LC システムに組み込んでいます。ACQUITY Premier システムで MaxPeak Premier カラムを使用することで、金属との相互作用を最小限に抑え、酸性プローブで高い回収率と良好なピーク形状を達成できます1,3–5。 MaxPeak Premier カラムは ACQUITY Premier システムと組み合わせるときに最大のメリットが得られますが、これらのカラムはあらゆる LC システムで使用して酸性プローブの回収率を向上することもできます。
このように、このアプリケーションについて行ったこの研究により、XSelect Premier HSS T3 カラムによって、従来のステンレススチールカラムテクノロジーと比較して、ウォーターズ以外の LC システムで酸性プローブの回収率を増加できることが実証されました。Agilent 1290 Infinity I、Shimadzu Nexera-I LC2040、Thermo Vanquish UHPLC システムを、等モル濃度の AMPcP とアデノシンが含まれている標準試料を使用して評価し、この 3 種の LC システムの金属との相互作用について調査しました。2 つのリン酸基を持つ化合物 AMPcP は、金属表面の影響を受けやすいですが、加水分解を受けず、ヌクレオチドプローブよりも安定しています。アデノシンは、これと構造的に類似した化合物ですがリン酸基がなく、同様の UV レスポンスを示しながらも金属との相互作用の可能性はありません。この試験では、XSelect Premier HSS T3 カラムにより、使用するシステムに関係なく最高の回収率が得られました。特定のケースでは、回収率の増加が試験した従来のカラムよりも 50% を超えました。
ウォーターズの AMPcP とアデノシンの標準試料(製品番号:186009755)を 200 μL の Milli-Q 水に再溶解しました。バイアルは、注入前に 10 秒間ボルテックス混合しました。各システムで分析する前に、同じロットから新鮮なサンプルを調製しました。
LC 条件 |
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LC システム: |
Agilent 1290 Infinity I Thermo Vanquish UHPLC Shimadzu Nexera-I 2040 |
検出: |
UV @ 260 nm |
バイアル: |
N/A |
カラム: |
XSelect HSS T3 XP カラム、2.1 × 50 mm、2.5 µm(製品番号:186006149) XSelect Premier HSS T3 カラム、2.1 × 50 mm、2.5 µm (製品番号:186009830) Zorbax SB-Aq カラム、2.1 × 50 mm、3.5 μm |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
室温 |
注入量: |
1 µL(Shimadzu Nexera-I では 3 μL) |
流速: |
0.36 mL/分(Shimadzu Nexera-I では 0.70 mL/分) |
移動相 A: |
10 mM 酢酸アンモニウム(pH 6.8)含有 99.8:0.2 水:アセトニトリル |
移動相 B: |
8 mM 酢酸アンモニウム(pH 6.8)含有 79.8:20.2 水:アセトニトリル |
グラジエント: |
表を参照 |
クロマトグラフィーソフトウェア: |
Empower 3 Feature Release 5(Agilent および Shimadzu システム)または Chromeleon ソフトウェアバージョン 7.2(Thermo System) |
AMPcP は以前に、MaxPeak HPS ありおよびなしの状態での、金属との相互作用の程度について特性解析するための品質管理標準試料として用いられてきました2。アデノシンのような構造的に類似した反応しない化合物と組み合わせることで、金属の影響を受けやすい AMPcP プローブと金属の影響を受けにくいプローブのピーク面積を比較できます。ここで使用する標準試料には等モル濃度のアデノシンと AMPcP が含まれており、ピーク面積の直接比較およびピーク面積比の計算が可能で、これを使用してシステム内での金属との相互作用を評価できます。そのため、この標準試料を適用して、HPS を採用していない別の LC システムを評価することにより、MaxPeak Premier カラムの性能上の利点はシステムに依存しないことを確認しました。このため、標準試料の文書化された LC 条件を、試験するカラム構成に移管する必要がありました。ACQUITY カラムカリキュレーターを使用してメソッドに変更を加え、新しいカラムに適切な分析条件を適用しました。試験する前に、各カラムを開始条件に 10 分間平衡化し、ブランク注入を行いました。最初に試験したシステムは、クオータナリーポンプおよび DAD 検出器を搭載した Agilent 1290 Infinity I でした。図 1 に、Agilent 1290 システムで得られた AMPcP アデノシン標準試料の最初のクロマトグラムが示されています。
XSelect Premier HSS T3 カラムでは、他の 2 種のカラムと比較して、AMPcP のピークがかなり高くなっています。これは、カラムの MaxPeak HPS ハードウェアに直接起因する可能性があります。なぜなら、XSelect HSS T3 には、同じ固定相が含まれていますが、カラムハードウェアが異なるためです。Zorbax SB-Aq カラムでは、XSelect HSS T3 と比較してピーク高さがやや高くなっていますが、XSelect Premier HSS T3 カラムほど高くはありません。さらに、表 1 に示されているように、AMPcP のピーク面積は XSelect Premier HSS T3 カラムで最大です。
XSelect Premier HSS T3 カラムでは、AMPcP の平均ピーク面積が、試験した他のカラムより 50% 超上回りました。一方、アデノシンのピーク面積は、試験した 3 種のカラムにわたって一貫しています。ステンレススチール製カラムでの AMPcP のピーク面積の減少は、金属との相互作用による分析種の損失に直接起因する可能性があります。ステンレススチール製ハードウェアの 2 種のカラムは同様の性能を示し、ピーク面積比は 0.34 および 0.35 でしたが、XSelect Premier HSS T3 カラムではピーク面積比が 0.54 でした。ピーク面積比がより大きいことは、各カラムに対する金属への吸着のレベルが異なることを示しています。ピーク面積比が大きいほど、より少ない吸着が検出されます。
次に、クオータナリーポンプおよび UV 検出器を搭載した Shimadzu Nexera-I LC2040 について調べました。最初の試験では、アデノシンの保持が予想よりも高く、分析法の調整が必要でした。これは、システムのグラジエント遅延の相違とシステム設定の両方に起因している可能性があります。Shimadzu システムで流速を 0.7 mL/分に増加しました。さらに、このシステムでのアデノシンおよび AMPcP の UV シグナルが低いため、注入量を 3 μL に増加しました。両方のプローブで良好な UV シグナルを得ることが、ピーク面積比を測定し、カラムの金属との相互作用を評価するために不可欠です。図 2 に、Shimadzu Nexera-I で 3 種のカラムを使用して得られたクロマトグラムが示されています。
一見すると、3 種のカラムはピーク高さが同様で、性能が同等ですが、Agilent システムで見られたように、XSelect Premier カラムでわずかに高くなっています。これは、Shimadzu システムでの標準試料の注入量を増やしたことが原因の可能性があります。注入量の増加は、適切なピーク高さを達成するために必要です。質量ロード(カラムに注入する分析種の質量)が異なる場合、吸着効果が異なることが示されています1,3,7。3 種のカラムの違いはクロマトグライーに微妙に基づいていますが、XSelect Premier HSS T3 カラムを使用すると、ピーク面積が増加します。表 2 に、Shimadzu Nexera-I での標準試料の繰り返し注入での平均ピーク面積が示されています。
XSelect Premier HSS T3 カラムでは、他の 2 種のカラムよりも平均ピーク面積が 10% 高く、ピーク面積比はほぼ 0.2 単位高くなりました。このことは、3 種のカラムの間ではクロマトグラフィーは同等であるように見えますが、XSelect Premier HSS T3 カラムにより、分析種の回収率の点でメリットが得られることを示しています。
最後に試験したシステムは、クオータナリーポンプと UV 検出器を装着した Thermo Vanquish でした。Chromeleon 7.2 をソフトウェアのコントロールに使用しました。図 3 に、Thermo Vanquish システムで 3 種のカラムおよび AMPcP アデノシン標準試料を使用して得られたクロマトグラムが示されています。
Thermo Vanquish システムで、XSelect Premier HSS T3 カラムにより、他の 2 種のカラムよりも 20% 大きいピーク面積が得られました。XSelect Premier HSS T3 カラムでは、ピーク面積比もほぼ 0.2 単位高くなっています。
3 種の LC システムを使用し、3 種の異なるカラムを、存在する金属との相互作用の程度について試験しました。金属との相互作用を試験するために、金属の影響を受けやすいプローブである AMPcP を、金属の影響を受けにくいプローブであるアデノシンとともに分析しました。一緒に分析することで、2 種のプローブのピーク面積を比較して、ピーク面積比を得ることができます。この比は、システム内で金属との相互作用がどのように影響するかを示す尺度です。ピーク面積比が大きいほど、金属との相互作用は少なくなっています。
この研究で得られたピーク面積比により、MaxPeak Premier カラムによって、ステンレススチール製カラムと比較して、酸性プローブのピーク回収率を向上できることが、示されています。MaxPeak Premier カラムは、使用する LC システムに関係なく、不動態化試薬や特殊な分離メソッドを必要としない、酸性分析種の検出および定量に役立てることができます。これにより、より正確な定量が可能になり、検出限界が下がる可能性があります。これらはいずれも特定の分析法に不可欠です。
720007316JA、2021 年 7 月