• アプリケーションノート

MaxPeak HPS テクノロジーによる抗ウイルス性化合物の分析におけるクロマトグラフィー性能の改善

MaxPeak HPS テクノロジーによる抗ウイルス性化合物の分析におけるクロマトグラフィー性能の改善

  • Catharine E. Layton
  • Paul D. Rainville
  • Waters Corporation

要約

抗ウイルス医薬品化合物は現在、軽度、中等度、および新型コロナウイルス感染症のような重度の重症疾患の治療における役割について調査が行われています1。 これらの医薬品化合物の分析のために開発されたルーチンのクロマトグラフィー分析法は、低濃度の不純物や分解生成物が警告レベルや措置を講じるレベルに達する前に、それらを十分に区別できることが重要です。そのためには、保持、ピーク形状、感度などのクロマトグラフィーパラメーターが非常に重要です。

MaxPeak High Performance Surfaces(HPS)は、クロマトグラフィー装置およびカラム内に存在する金属イオンに対する分析種の非特異的結合によるサンプルの損失を低減する、新しい有機/無機ハイブリッド表面テクノロジーです2,3。このアプリケーションノートでは、抗ウイルス性化合物のパネルを逆相 HPLC で分離しました。MaxPeak HPS テクノロジーを採用した XBridge Premier カラムのクロマトグラフィー性能を、従来のステンレス製カラムと比較しました。

アプリケーションのメリット

XBridge Premier カラムで抗ウイルス治療用化合物を分離すると、ピーク高さレスポンスが向上し、シグナル対ノイズ比(S/N)が改善し、クロマトグラフィーピークがよりシャープになるため、強いイオン対試薬やキレート剤、時間のかかる不動態化プロトコルが不要になります。

はじめに

製薬ラボでは、高速で高感度、頑健なクロマトグラフィー分析法の開発を日常的に行っています。品質と安定性をモニターするために用いられる分析法としては、一般に高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)が用いられています。これは、定量精度と定性精度の両方が高いためです。

HPLC カラム表面および装置コンポーネントは、可用性と機械的強度が良好な材料であるステンレスで構成されています。一方、ステンレスは、クロマトグラフィーで一般的に使用される移動相に含まれる酸やハロゲン化化合物などの刺激の強い液体にさらされると腐食しやすいという性質を有します。腐食によって生じた金属イオンがカラム固定相に結合し、複合体化、酸化、エピマー化などの反応によって分析種と相互作用する可能性があり、これによって、ピーク形状が悪くなったり、特に低濃度のターゲット分析種が完全に失われたりする場合があります2

イオン対試薬(トリフルオロ酢酸(TFA)など)やキレート剤(メドロン酸など)などの移動相添加剤が、装置やカラム内での分析種と金属の結合を低減するために一般的に使用されています。これらの試薬を使用することで一応成功は得られますが、装置の汚染、カラムケミストリーの不可逆的な変化、LC-MS アプリケーションでのイオン化抑制につながる可能性があります2。 また、分析種を用いて装置とカラムを「コンディショニング」するために一連の分析種注入を行う不動態化も一般的に使用されますが、この手法では日常の精度に対する全体的な信頼度が高まりません3

チタンやニッケルコバルト合金などの代替金属で構築したカラムも、その耐腐食性のために一部のアプリケーションで使用されていますが、これらの金属は一部の条件下で劣化する可能性があります。更に、遷移金属の代わりにポリエーテルエーテルケトン(PEEK)製のカラムも選択肢の 1 つですが、溶媒適合性や圧力に制限があります2

このアプリケーションノートでは、12 種類の代表的な抗ウイルス医薬品化合物の分離における XBridge Premier BEH C18 カラムのクロマトグラフィー性能を、従来の XBridge BEH C18 ステンレス製カラムの性能と比較しています。これらの化合物をさまざまな重症疾患の治療に利用するための開発および調査が急速に行われています4

実験方法

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Arc、クオータナリーソルベントマネージャ(rQSM)、サンプルマネージャ(rFTN)、カラムマネージャ(rCM)、Empower 3 クロマトグラフィーデータソフトウェアを搭載

検出:

ACQUITY フォトダイオードアレイ検出器(PDA)、UV 245 nm

カラム:

XBridge Premier BEH C18、2.5 µm カラム、4.6 × 150 mm、製品番号:186009849

XBridge BEH C18 XP、2.5 µm カラム、4.6 ×150 mm、製品番号:186006711

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

20 ℃

注入量:

1 μL

流速:

1.5 mL/分

移動相 A:

10 mM ギ酸アンモニウム(pH 4.0)

移動相 B:

アセトニトリル

グラジエント:

2% 移動相 B で 4 分間保持、95% B まで 15 分間で直線的にランプ、続いて 1 分間保持後、2% B の開始条件に戻る

結果および考察

水性溶媒に可溶性の抗ウイルス性化合物(テノホビル、ファビピラビル、エムトリシタビン、リバビリン、アバカビル、およびオセルタミビル)の混合液を調製するために、約 0.5 mg の各化合物を 10 mL の水に溶解しました。有機溶媒に可溶性の抗ウイルス性化合物(マシチニブ、ダルナビル、レムデシビル、アタザナビル、リトナビル、およびロピナビル)の混合液を調製するために、約 0.5 mg の各化合物を 10 mL のメタノールに溶解しました(図 1)。注入の前に、それぞれの溶媒に適合する 0.2 μm シリンジフィルター(Waters 製品番号 WAT200806 または Waters 製品番号 WAT200822)を使用して、各混合物をろ過しました。LC 装置は 100% IPA、水、および移動相で順次フラッシュ洗浄しました。在庫にあった過去に注入を行っていない新品のカラムを使用しました。分析種での装置の不動態化により生じる潜在的なバイアスを最小限に抑えるため、カラムマネージャの切り替えバルブでカラムを交互させて、それぞれの抗ウイルス混合液を各カラムに計 5 回の連続注入を行いました。

図 1. 逆相で分離する抗ウイルス性化合物のパネル

このクロマトグラフィーメソッドにより、12 種の抗ウイルス性化合物すべてが分離されました。水溶性の化合物の保持は 9 分未満であった一方、メタノールに溶解した化合物は 9 分以上保持されました(図 2)。 

図 2. 逆相による抗ウイルス性化合物の分離

XBridge Premier カラムでは、パネル中の各抗ウイルス性化合物のピーク高さのレスポンスが高く、その結果、S/N 値が高くなりました。更に、ハイブリッド表面テクノロジーにより分析種と金属イオンとの相互作用が最小限に抑えられたため、パネル中の複数の化合物のピーク形状が改善しました(対称性が増し、テーリングが低減)(図 3)。均一性と分析種-カラム間相互作用の厳密な尺度である 5 σ でのピーク幅は、ピークの非対称性の影響を大きく受けます6。 MaxPeak HPS テクノロジーを使用した場合、12 種の化合物すべてにおいて、5σ でのピーク幅の大幅な減少が見られ、より優れたカラム性能が示されました(表 1)。 

図 3. A)水性溶媒および B)有機溶媒に溶解する抗ウイルス性化合物について、XBridge Premier カラム(赤)および従来のカラム(黒)で得られたクロマトグラムの重ね描き
表 1. XBridge Premier カラムで見られた、抗ウイルス性化合物の分離におけるピーク高さレスポンスおよび S/N の大幅の増加、および 5σ でのピーク幅の減少

結論

この研究では、低濃度の抗ウイルス性化合物を逆相で分析した場合、MaxPeak High Performance Surface テクノロジーを採用した LC カラム(XBridge Premier カラム)は従来のカラムよりも高い性能を示すことが分かりました。XBridge Premier カラムにおいて、イオン対試薬/キレート剤などの移動相添加剤やカラムの不動態化注入なしで、ピーク高さレスポンスとシグナル対ノイズ比(S/N)が向上し、ピーク形状(5σ でのピーク幅)が改善しました。

参考文献

  1. Antiviral Therapies, NIH COVID Treatment Guidelines, www.nih.gov, accessed 9/20/21.
  2. Mathew DeLano, Thomas H. Walter, Matthew A. Lauber, Martin Gilar, Moon Chul Jung, Jennifer M. Nguyen, Cheryl Boissel, Amit V. Patel, Andrew Bates-Harrison, Kevin D. Wyndham.Analytical Chemistry, Vol 93 (14), 2021.
  3. Plumb R. and Wilson I., “Metal-Analyte Interactions – An Unwanted Distraction”, The Column.Vol 17 (8), 2021.
  4. Shamaila Kausar, Fahad Said Khan, Muhammad Ishaq Mujeeb Ur Rehman, Muhammad Akram, Muhammad Riaz, Ghulam Rasool, Abdul Hamid Khan, Iqra Saleem, Saba Shamim, Arif Malik.”A review: Mechanism of Action of Antiviral Drugs”, International Journal of Immunopathology and Pharmacology, Volume 35: 1–12, 2021.
  5. 2D Structure Database, www.ChemSpider.com, accessed 9/20/21. 
  6. Joseph C. Arsenault and Patrick McDonald.“Beginners Guide to Liquid Chromatography”, Waters Corporation Primer.715001531, 2007.

720007398JA、2021 年 10 月

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