• アプリケーションノート

液体クロマトグラフィー-タンデム四重極型質量分析計を用いたダイレクト注入による飲料水中のオキシアニオンの測定

液体クロマトグラフィー-タンデム四重極型質量分析計を用いたダイレクト注入による飲料水中のオキシアニオンの測定

  • Janitha De-Alwis
  • Stuart Adams
  • Waters Corporation

要約

本研究の目的は、新たな EU 飲料水指令 2020 の規制値を下回る飲料水中の塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、および亜塩素酸塩のためのダイレクト注入法を実証することです。この分析法の性能試験は、陰イオン性極性農薬カラムを使用し、Xevo TQ-XS と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムで実施しました。分析法の性能は、試験した水の種類ごとに 2 ロットに分けて、3 種のスパイクレベル(塩素酸塩および過塩素酸塩は 20、50、100 μg/L、臭素酸塩は 2、5、および 10 μg/L、亜塩素酸塩は 100、250、500 μg/L)を用いて評価し、各レベルについて 22 回繰り返し測定しました。試験した水の種類は、ミネラルウォーター、軟水および硬水の飲料水でした。標準品を添加して定量したところ、塩素酸塩の残留物が軟水で 54.3 μg/L、硬水で 12.0 μg/L 検出されました。これらの値は、EU 飲料水指令に記載されているパラメトリック値よりも遥かに低い値です。すべての水の種類およびスパイクレベルにわたる平均の真度についての分析法の性能は、過塩素酸塩で 96.2 ~ 100.3%、塩素酸塩で 98.1 ~ 100.5%(ミネラルウォーターのみ)、臭素酸塩で 92.2 ~ 102.1%、および亜塩素酸塩で 84.1 ~ 114.1% でした。RSD は、一部の種類の水に対して高い RSD が認められた亜塩素酸塩を除き、10% 未満とかなり低い値でした。すべての分析法性能ロットと追加の再現性試験に対して、保持時間の再現性を記録しました。この試験では、550 回を超える注入で、RSD がすべての分析種にわたって 1% 未満でした。

アプリケーションのメリット

  • 頑健で再現性のある分析法で、ラボのワークフローを簡素化でき、規制要件を超える分析法の性能を実現
  • 3 種類の水(ミネラルウォーター、軟水、硬水の飲料水)の 6 種類すべての分析法評価ロットにわたって一貫した分析法の性能
  • 測定段階の前の簡単なサンプル処理

はじめに

臭素酸塩、亜塩素酸塩、および塩素酸塩は、上水処理の間に生じる消毒薬の副生成物です。塩素酸塩と亜塩素酸塩は、過塩素酸塩を使用する消毒プロセスの間に生じ、臭素酸塩は水のオゾン処理の副生成物として生じます。過塩素酸塩は、水中に存在する可能性があり、天然肥料が使用されている土地からの流出など、天然または人工の発生源に由来します。過塩素酸塩は、水の消毒の際の次亜塩素酸塩ナトリウムの分解や、さまざまな産業プロセスの副産物として発生する場合もあります1。 過塩素酸塩、塩素酸塩、および亜塩素酸塩は人体に有害であることが知られており、臭素酸塩はヒト発がん性物質に分類されています1。 水中に含まれるこれらの化合物をモニターすることは、公衆衛生上不可欠です。

飲料水中の化学的汚染物質に関連するリスクを認識し、管理していくためには、飲料水中のオキシアニオンを迅速かつ効率的に定量する方法が重要になります。世界保健機関(WHO)は、2017 年に飲料水ガイドラインを更新しました2。EU では、更新した EU 飲料水指令に、化学物質汚染についての新たな基準を設定していくこととなりました3。新たな指令には、亜塩素酸塩(新たなパラメトリック値 250 μg/L)が追加され、その一方で、塩素酸塩(パラメトリック値 250 μg/L は変更なし)と臭素酸塩(パラメトリック値 10 μg/L は変更なし)のモニタリング要件はそのまま維持されています。WHO には過塩素酸塩についての追加のガイドライン(レベル 70 μg/L)があり、塩素酸塩および亜塩素酸塩の濃度については、より高い 700 μg/L が設定されています。米国の EPA には、第 1 種飲料水規制に臭素酸塩(MCL 0.01 mg/L)および亜塩素酸塩(MCL 1 mg/L)が含まれています4

オキシアニオン分析の一般的な方法では、サプレッサー付電気伝導率検出を用いたイオンクロマトグラフィーによる分離が必要です。多くの場合、必要な検出限界を達成するために、一部の臭素酸塩の場合、UV 検出を用いたポストカラム誘導体化(PCD)5 が必要になります。当社は、陰イオン性極性農薬カラムを用いた低注入量の迅速ダイレクト注入法を開発しました。この方法により、前述した化合物の分析に広く使用されるツールとなりつつあるタンデム四重極質量分析計で、4 種のオキシアニオンを 5 分以内で迅速に分析することができます。このテクノロジーの利点は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)を用いて、これらの分析種を確実に定量できることであり、PCD や特殊なクロマトグラフィー装置を使用せずに、飲料水中の 4 種のオキシアニオンをすべて検出することができます。

実験方法

サンプルの説明

軟水(英国、Wilmslow)および硬水(英国、York)地域からの水道水サンプル 1 L をいくつか収集し、アプリケーションラボ(Wilmslow、英国)に搬送しました。1 リットルの一般的なミネラルウォーターのサンプルをいくつか購入して、マトリックスブランクとして使用しました。

分析条件

飲料水サンプルがラボに届いたら、プラスチックのファルコンチューブ中に 50mL のアリコートに小分けしました。サンプルは、分析するまで冷蔵庫に 4 ℃ で保管しました。

分析の直前にサンプルを LC バイアルに移し、オキシアニオンの定量のために、同位体標識内部標準試料を添加しました(サンプル中で Cl18O3 および Cl18O2は 100 µg/L、Br18O3 は 10 µg/L)。亜塩素酸塩のみ、適当な内部標準試料が特定できなかったため、内部キャリブレーションを行いませんでした。

分析法開発段階の後、ミネラルウォーター、軟水、硬水用の分析法の性能試験を行いました。それぞれの種類の水について 33 のスパイクした水サンプルを含む 2 ロットで構成され、その内訳は指定された低濃度、中濃度、高濃度での 11 スパイクで、臭素酸塩は 2、5、10 µg/L、塩素酸塩および過塩素酸塩は 20、50、100 µg/L、亜塩素酸塩は 100、250、500 µg/L でした。表 1 に記載した MRM は、このアプリケーションにおけるオキシアニオンの定量および確認に使用した最適化したトランジションを示します。

表 1.  オートデュエル機能により自動的に設定された最適デュエルタイムでの MRM トランジション(太字は定量的トランジション)

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class PLUSシステム(FL)

検出:

タンデム四重極 MS

バイアル:

Waters TruView LCMS 認定透明ガラス 12 × 32 mm、スクリューネックバイアル(186005666CV)

カラム:

Waters Anion Polar Pesticide Column(陰イオン性極性農薬カラム、5 µm、2.1 × 50 mm)(186009286)

カラム温度:

50 ℃

サンプル温度:

10 ℃

注入量:

5 μL

流速:

0.5 mL/分

移動相 A:

0.9% ギ酸および 50 mM ギ酸アンモニウム含有水溶液(LC-MS グレード)

移動相 B:

0.9% ギ酸含有アセトニトリル(LC-MS グレード)

グラジエント:

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-XS

イオン化モード:

ESI-

取り込み範囲:

MRM

キャピラリー電圧:

0.5 kV

コーンガス流量:

150 L/時間

脱溶媒温度:

400 ℃

脱溶媒ガス流量:

800 L/時間

ソース温度:

150 ℃

データ管理

インフォマティクス:

MassLynx v4.2

結果および考察

このプロジェクトの分析法開発段階で、注入希釈剤について調査しました。HILIC カラムのピーク形状が許容可能であることを確認するためにアセトニトリルを添加する必要性について調査しました。図 1 に示す結果から、未希釈の水を注入した場合のピークの完全性が、50% アセトニトリルで構成されている標準品と比較して、著しく損なわれてはいないことが確認されます。必要に応じて感度を上げるために、注入量を調査しました。図 2 に示す結果から、1 µL を注入した場合のピークの完全性が、5 µL の未希釈の水サンプルと比較して、著しく損なわれてはいないことが確認されます。これらの初期調査について、陰イオン性極性農薬カラムに 5 µL の希釈水を注入しても、ピーク完全性は大幅に損なわれないと結論し、このフォーマットを分析法性能試験に用いて定量限界を改善しました。

図 1.  50/50 水/アセトニトリル中の塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、および亜塩素酸塩のキャリブレーション標準品のピーク形状(100% 水溶液での 5 μL 注入との比較)
図 2.  キャリブレーション標準品の注入量の評価

収集した飲料水およびミネラルウォーターのサンプルは、分析法の性能試験を開始する前に、オキシアニオンの存在についてスクリーニングしました。ミネラルウォーターではオキシアニオンは検出されませんでしたが、硬水と軟水の両方で、法定限度を大幅に下回るレベルではありましたが、分析法の性能試験に干渉する濃度の塩素酸塩が検出されました。塩素酸塩の残留濃度を標準品添加によって計算しました(n=6)。結果は表 2 に示す分析法の性能データに含めていますが、パラメトリック限界よりも大幅に低い値でした。

表 2.  分析法の性能試験データ – 硬水と軟水の両方に塩素酸塩の残留物が存在します。過塩素酸塩、塩素酸塩、臭素酸塩の内部標準化した結果。

分析法の性能は、水の種類ごとに 2 つの分析ロットで評価しました。各ロットは計 33 のスパイクで、各オキシアニオンについてそれぞれ指定された低、中、および高レベルのスパイク 11 ずつで構成しました。塩素酸塩の結果では、サンプル中に塩素酸塩の残留物が存在していたため、軟水と硬水の両方の種類について除外しました。塩素酸塩についての分析法の性能評価には、ミネラルウォーターを使用しました。すべての分析法の性能試験ロットで、マトリックス添加キャリブレーション標準品を使用しました。キャリブレーション溶液は、過塩素酸塩および塩素酸塩については 10 ~ 200 μg/L、臭素酸塩については 1 ~ 20 μg/L、亜塩素酸塩については 100 ~ 1000 μg/L の範囲で調製しました。図 3 に、このアプローチで予想される検量線のグラフを示します。決定係数は、塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩で 0.995 以上、亜塩素酸塩で 0.99 以上でした。残留物は、過塩素酸塩および塩素酸塩の場合はすべて 10% 未満、臭素酸塩はすべて 12% 未満、亜塩素酸塩は 10% 以下でした。  

図 3.  塩素酸塩、過塩素酸塩、臭素酸塩、および亜塩素酸塩についてのミネラルウォーターのキャリブレーション

この分析法のクロマトグラフィー性能は、分析法の性能試験全体にわたって一貫していました。図 4 に、軟質、硬水、およびミネラルウォーターの一連のキャリブレーションから、最低濃度のキャリブレーション標準品で得られたクロマトグラフィーの例を示します。調査した異なる 3 種類の水にわたって、ピーク形状に大きな変化はありませんでした。6 つの分析法の性能ロットのスパイクの定量結果を表 2 に示します。6 ロットすべての過塩素酸塩および臭素酸塩、およびミネラルウォーターロットの塩素酸塩について、一貫した分析法の性能が確認されました。硬水では、亜塩素酸塩の結果についてより多くのばらつきが観察されました。

図 4.  軟水、硬水、およびミネラルウォーターの飲料水の定量的トランジションのための、最低濃度のキャリブレーション標準品のクロマトグラム

保持時間の安定性は、分析法の性能試験で調べる必要がある重要な要素です。そのため、軟水、硬水、ミネラルウォーターの標準品を交互に 300 回注入する再現性試験を実施しました。6 つの分析法の性能ロットおよび保持時間安定性試験すべてにわたる保持時間のプロットを、図 5 に示します。分析法の性能試験および再現性試験全体にわたって記録された保持時間に大幅な変化はなく、4 種のオキシアニオンすべてについて RSD が 1% 未満でした。

図 5.  6 つの分析法評価ロットすべておよび保持時間安定性試験にわたって 550 回を超える注入を行ったオキシアニオン分析の保持時間の安定性 

結論

分析法の性能試験のデータにより、Xevo TQ-XS と組み合わせた ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに取り付けた陰イオン性極性農薬カラムに水サンプルをダイレクト注入することにより、オキシアニオンを測定するための頑健な分析法が実証されました。このアプリケーションは、2020 年後半に発効する EU 飲料水指令(EU DWD)3、現行の WHO の飲料水ガイドライン2、および米国 EPA 第 1 種飲料水規制の新たな要件を十分に満たしています4。塩素酸塩および過塩素酸塩の定量限界は 20 µg/L、臭素酸塩は 2 µg/L、亜塩素酸塩は 100 µg/L です。これらは、提案されている新たな EU DWD の下限値と比べて、塩素酸塩については 12.5 倍、臭素酸塩については 5 倍、亜塩素酸塩については 2.5 倍低い値です。過塩素酸塩は WHO の推奨レベルの 2.5 倍低いレベルです。保持時間の安定性が試験全体にわたって証明され、6 つの分析法の性能ロットすべておよび保持時間の安定性試験で、4 種のオキシアニオンすべてについて RSD が 1% 未満でした。サンプルのダイレクト注入による 5 分という短い分析時間により、高いサンプル数のスループットが得られます。

 

科学者は各自のラボの分析法を検証し、その性能が目的に適合しており、また関連の分析コントロール保証システムのニーズを満たしていることを証明しなければなりません。

参考文献

  1. Constantinou.P, Louca-Christodoulou D, Agapiou A. LC-ESI-MS/MS Determination of Oxyhalides (Chlorate, Perchlorate, and Bromate) in Food and Water Samples, and Chlorate on Household Water Treatment Devices along with Perchlorate in Plants.Chemosphere 2019, 235: 757–766.
  2. WHO Guidelines for Drinking-Water Quality Incorporating the 1st Addendum, 2017 (accessed September 2020) https://www.who.int/water_sanitation_health/water-quality/guidelines/en/.
  3. Directive of the European Parliament and of the Council on the Quality of Water Intended for Human Consumption, Inter-institutional File 2017/03329(COD), 5 Feb 2020, 5813/20.
  4. US EPA National Drinking Primary Drinking Water Regulations, (accessed October 2020) https://www.epa.gov/ground-water-and-drinking-water/national-primary-drinking-water-regulations#six.
  5. Cordeior F, Schmitz F, Verbist I, Emteborg H, Charoud-Got J, Lpoex MC, Robouch P, Taylor P, de la Calle MB, JRC Scientific and Technical Reports, IMEP-25a: Determination of Bromate in Drinking Water.

720007112JA、2021 年 1 月

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