• アプリケーションノート

COVID-19 から学んだもの:リン酸クロロキンを分析するための MS 適合条件を用いた HPLC/UV 分析法の性能検証

COVID-19 から学んだもの:リン酸クロロキンを分析するための MS 適合条件を用いた HPLC/UV 分析法の性能検証

  • Margaret Maziarz
  • Waters Corporation
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要約

有効な抗マラリア薬であるリン酸クロロキン(図 1)は、多くの低分子薬物と同様、新型コロナウイルスの治療薬候補として調査が行われています。現在の臨床的証拠からは、SARS-CoV-2 に感染した入院患者に対してヒドロキシクロロキンやクロロキンを使用した場合の効果は立証されていませんが、ウォーターズでは、COVID-19 パンデミックの初期段階に、改良した分析法の検証を始めました。このアプリケーションブリーフでは、リン酸クロロキンの分析のための MS 適合条件を用いた迅速な HPLC/UV 分析法を提供しています。質量分析法(MS)により、製造プロセスまたはルーチン検査で生じる新しい成分や未知の成分を正確に同定することができます。リン酸クロロキン錠の現在の USP モノグラフ分析法(USP42-NF37)と比較すると、新しい分析法では分離能が高く、テーリングが少なく、分析時間が短縮されています。COVID-19 の状況下でのクロロキンの最終的な臨床結果の如何にかかわらず、これらの分析の進歩は、一般的なクロロキン分析にも適用できます。更に、この研究は、部分的にその他の低分子治療法にも移管できます。

アプリケーションのメリット

  • ACQUITY Arc システムを使用した、高速で信頼性の高い MS 適合条件を用いた HPLC-UV 分析法
  • USP 分析法と比較した、クロロキンおよびアモジアキンのピーク分離の向上およびピークテーリングの減少
  • ACQUITY QDa 検出器のマススペクトルデータを使用した、迅速で正確なピーク同定

はじめに

クロロキン(CQ)およびその誘導体であるヒドロキシクロロキンは、長年にわたってマラリアの化学的予防法として処方されており、最近では慢性自己免疫疾患の治療の補助として処方されています1。 初期の in vitro 研究では、この医薬品の有効成分が SARS-CoV-2 の感染を阻害する可能性が示されていました2。 一方、臨床のコンセンサスとして、臨床研究の主な対象となる患者集団である COVID-19 入院患者において、クロロキンおよびヒドロキシクロロキンの効果は立証されていません3。 いずれにしても、SARS-CoV-2 感染初期に、または暴露前予防投与の形で、同薬物を使用することについては疑問が残っています4,5。COVID-19 パンデミックの初期段階に、政府および製薬会社が積極的に臨床研究を行っている間、当社では、医薬品の開発および製造における、高速で高性能な MS 適合の分析法の潜在的ニーズを支援するための新たな分析法を検証しました。

このアプリケーションブリーフでは、USP システム適合性の要件を満たしつつ、MS 適合バッファーを使用したリン酸クロロキンの高速で信頼性の高い HPLC/UV 分析法を紹介します6

COVID-19 の状況下で、クロロキンが使用されるかどうかにかかわらず、この新しい分析法はクロロキン分析において一般的な利用価値があり、同様の低分子治療法にも部分的に移管できる可能性があります。

図 1. リン酸クロロキン

結果および考察

リン酸クロロキンの新しい HPLC 分析法の性能は、現在の USP モノグラフに記載されているリン酸クロロキン錠のシステム適合性要件6に従って評価されました。システム適合性溶液は、ACQUITY Arc システムを用い、MS および HPLC-UV 適合の分析条件と USP の分析条件を用いて分析しました(表 1)。ACQUITY QDa 質量検出器は、新しい MS 適合メソッドでのみ使用し、分析種のマススペクトルデータ情報を収集しました。新しい分析法を使用してシステム適合性溶液を分析した結果、現在の USP 分析法と比較して、クロロキンとアモジアキンのピークがよりよく分離することがわかりました(図 2)。更に、USP 分析法(7 分)と比較して、新しい分析法では分析時間が短縮されました(3 分)。ACQUITY QDa 検出器からのマススペクトルデータにより、質量検出による迅速で正確なピーク同定が可能になりました(図 3)。

表 1. リン酸クロロキンにおける新しい HPLC および USP 分析法の条件
図 2. 新しい HPLC および USP 分析法を使用したシステム適合性標準溶液の分析(224 nm の UV)
図 3. ピーク同定を確認する Empower 3 ソフトウェアの質量分析画面

新しい HPLC-MS 適合条件で実施した分析法のシステム適合性の結果は、USP 基準を正しく満たしていました(表 2)。新しい条件で分析すると、USP 分析法と比較して、クロロキンとアモジアキンの間の分離が大幅に向上しました。システム適合性溶液の 5 回の繰り返し注入におけるピーク面積および保持時間の相対標準偏差は、0.4% 以下でした。更に、新しい MS 適合の分析法では、クロロキンについて USP テーリングのわずかな改善が見られ、アモジアキンについては同様の USP テーリングが得られました。

表 2. リン酸クロロキン錠についての、新しい MS 適合 HPLC 分析法および USP 分析法によるシステム適合性の結果

結論

このアプリケーションブリーフでは、リン酸クロロキン錠の MS 適合分析法を紹介しました。この分析法では、MS 分析を可能にすることで、クロロキンの特性解析および開発に使用できる分析ツールキットが拡張されます。MS 分析により、個別の標準試料を用いずに、化合物の定性的同定が可能になります。更に、現在の USP モノグラフ分析法と比較して、この新しい分析法により分析時間が短縮され、分離が改善することが分かりました。COVID-19 の治療薬候補としてクロロキンが役立つかどうかにかかわらず、一刻を争う医薬品製造過程において、時間の短縮は重要になると考えられます。更に、非常に重要な品質管理環境において、頑健な分析性能により信頼性を向上させることができます。

参考文献

  1. Al-Bari, MA.Targeting Endosomal Acidification by Chloroquine Analogs as a Promising Strategy for the Treatment of Emerging Viral Diseases.Pharmacol Res Perspect.5(1):e00293 (2017).
  2. Zhong, Jixin et al.The Immunology of COVID-19:is Immune Modulation and Option for Treatment? Lancet Rheumatol.2020 May 20. https://doi.org/10.1016/ S2665-9913(20)30120-X
  3. Kupferschmidt, K. Big Studies Dim Hopes for Hydroxychloroquine.Science.368, 1166-1167 (2020).DOI: 10.1126/science.368.6496.1166.
  4. Dryden, Jim.Global Study to Test Malaria Drug to Protect Health Workers from COVID-19: COVID-19 Therapeutics Accelerator to Fund International Trial of Chloroquine 2020 May [cited 21 May 20].Available from: https://medicine.wustl.edu/news/global-study-to-test-malaria-drug-to-protect-health-workers-from-covid-19/
  5. Tropmedres.ac [Internet].Thailand: Mahidol University; c2020 [cited 09 Jul 2020].Available from: https://www.tropmedres.ac/covid-19/copcov.
  6. USP Monograph, Chloroquine Phosphate Tablets, USP42-NF37, The United States Pharmacopeia Convention, official.

720006918JA、2020 年 7 月 改訂

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