このアプリケーションブリーフでは、従来のバリデーション要件に従うことが求められる規制環境下のワークフローにおいて、ペプチドマッピング向けの BioAccord システムが十分な再現性を示すことを実証しています。
BioAccord システムを使用したペプチドマッピングのワークフローのシステム内およびシステム間での比較。
2017 年、FDA は『A Retrospective Evaluation of the Use of Mass Spectrometry in FDA Biologics License Applications』(FDA の生物製剤認可申請おける質量分析の使用の遡及的評価)と題された白書を公表しました。ここでは、タンパク質ベースのバイオ医薬品の特性解析において、質量分析の使用がますます増加していることが強調されています。最近では、液体クロマトグラフィーおよび高分解能質量分析(LC-MS)の使用範囲を、特性解析以外にも広げていくための共同作業が製薬業界において進められており、特に、開発後期および QC 環境内での属性モニタリング分析での使用が挙げられます。高度な技能を備える科学者がこのようなデータを生成および収集するニーズ、並びにプロセス開発および QC ラボで MS ベースのアッセイを開発するための LC-MS プラットホームの頑健性および変動性に対するニーズについては、数々の懸念が存在します。Waters BioAccord システムは、バイオ医薬品分析向けに、頑健でコンプライアンス対応しており、かつ簡単に展開できる高性能 LC-MS システムを求める業界のニーズに対応する目的に特化した初のプラットホームとなります。多数のアプリケーションノートおよびテクニカルノートで紹介されているように 1-9、BioAccord システムは、これらの分野の運用上の要件を満たし、上回っています。この最新の試験では、以前のインタクト質量分析の作業(Waters アプリケーションノート、720006722)を補完する形で、ペプチドマッピングワークフローにおける BioAccord システムの再現性に焦点を当てています。
BioAccord システムは、ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムに、光学検出器(TUV または FLR)と、インラインで ACQUITY RDa 質量検出器(小型の高性能 oa-TOF 質量検出器)を組み合わせて構成されています。このシステムは、waters_connect プラットホーム内で UNIFI 科学情報システムと併用することで、ペプチドマップ、インタクト質量、遊離糖鎖、オリゴヌクレオチドの分析における自動のデータ取り込み、解析、レポート作成用に簡素化されたワークフローが利用できます。このシステムは、バイオ医薬品ルーチン分析の目的に合わせて設計されており、規制環境下および規制対象外のラボのいずれにおいても展開可能です。
ペプチドマッピングは、治療用タンパク質の一次配列の確認、パターンの確立、プロダクトの修飾変異レベルの確認をルーチンで行うために使用します。低含量の変異体についての信頼性の高い分析は、サンプル処理および LC-MS 装置の性能の両方に、非常に敏感に影響されます。そのため、規制環境下でバリデーションされるペプチドマッピングのアッセイ開発においては、頑健で使いやすく、再現性の高い LC-MS システムおよびメソッドが必須となります。
この試験では、すべてのペプチドマッピングの実験に、Waters mAb トリプシン消化標準品(製品番号:186009126)を使用しました。200 μL の水を(40 μg のトリプシン消化 NISTmAb が入っている)サンプルバイアルに添加して、最終濃度が 0.2 μg/μL になるようにしました。そして溶液 5 μL を BioAccord システムに注入して分析しました(オンカラム注入 1 μg)。Waters ACQUITY UPLC BEH C18 130 Å、1.7 μm、2.1 mm × 100 mm カラム(製品番号:186002352)をペプチド分離用に 65 ℃ まで加熱しました。移動相 A および B は、それぞれ 0.1% ギ酸 Milli-Q 水溶液と、0.1% ギ酸アセトニトリル溶液です。60 分間にわたる 99% A ~ 60% A の線形グラジエントを流量 0.2 mL/分で設定しました。合計分析時間は、カラム平衡化を含めて 75 分でした。RDa 検出器は ESI ポジティブフルスキャン、フラグメンテーションモード(2 Hz)で操作し、質量範囲 50~2,000 m/z でデータを取り込みました。コーン電圧は 30 V(フラグメンテーションコーン電圧は 60 V~130 V に上昇)、キャピラリー電圧は 1.5 V に設定し、脱溶媒温度は 500 ℃ に維持しました。インテリジェントデータキャプチャーを有効にして、ペプチド割り当ての質量許容値を 10 ppm に設定し、割り当てミスを最小限にするため、追加のフィルターとしての確認用フラグメントイオンの最小値を >3 としました。UNIFI アプリ内の waters_connect の分析の種類[Tof 2D クロマトグラフィーの定量アッセイ]を使用して、修飾ペプチドの相対量を定量しました。
図 1 は、BioAccord システムで 22 時間の分析時間にわたって行われた 18 のペプチド注入のトータルイオンクロマトグラム(TIC)の重ね書きを示しています。表 1 にも示しているように、18 のペプチドマップのクロマトグラムの重ね書きから、モニタリングを行ったペプチドすべてについて、保持時間の標準偏差が 0.09 分未満と高い再現性が得られていることがわかります。
BioAccord システムの性能により信頼性の高いペプチド修飾レベルの検出ができることを実証するため、天然のペプチドのセットおよびそれらの修飾ペプチドを、分析内相対的定量の対象にしました。
これらのペプチドには、図 1 でラベル付けされているように、糖ペプチド(EEQYNSTYR、G0F、G1F、および G2F、DTLMISR(酸化 M)、および VVSVLTVLHQDWLNGK(脱アミド化 N)が含まれています。
同様の LC-MS 分析を更に 2 台の BioAccord システム(18 注入)で実施したところ、3 台のシステムで同等のペプチド保持時間になりました。モニタリングを行ったペプチドすべてについて、3 台のシステム間での保持時間の標準偏差は 0.09 分(5.4 秒)未満であることが分かりました。
3 台のシステムで生成されたデータを使用して、同じペプチドのセットの相対含有量をプロットすると(図 2)、一部の糖ペプチドの相対含有量について、システム間でわずかなばらつきがあることがわかりました。ただし、モニタリングを行ったペプチドすべての %RSD の計算値は、MS レスポンスが顕著に異なるペプチド間でも 8.12% 未満に収まっていました。
システム内およびシステム間の試験により、システム 3 台のぞれぞれで 18 回ずつ行った注入から得られたデータに基づいて、規制環境下で、BioAccord システムがペプチドマッピング分析の目的に適合していることが示されました。モニタリングを行ったペプチドすべてについて、保持時間の標準偏差は 0.09 分未満であり、モニタリングを行ったペプチド修飾すべての相対含有量は、様々なペプチド強度レベルにわたって平均 %RSD が 8.12% 未満でした。
BioAccord システムで生成されたペプチドマッピングのデータは、当社で以前に行ったシステム内およびシステム間のインタクト質量分析の性能試験 ⁹ と一貫性があり、開発後期および QC 組織において、信頼性の高い MS ベースのアッセイの展開ができることを裏付けています。
720006831JA、2020 年 4 月