このアプリケーションブリーフでは、ハーブ抽出物のような複雑なサンプルの定性分析にかかる時間の効率と生産性を向上できることを実証しています。
現在は、複雑なサンプルの研究を促進するための有効で選択性の高い分析法の開発が緊急に必要とされています。通常、複雑なサンプルには多様な成分の混合物が含まれており、同定および特性解析のための分離が非常に困難です。質量分析法は、未知化合物の同定、既知化合物の定量、および分子の構造的・化学的特性解析のためのパワフルな分析手法です。
ハーブ抽出物のような複雑なサンプルのタンデム四重極装置を用いる通常の定性分析には、複数回の注入が必要です。MS スキャンモードでサンプル分析を行ってから、プロダクトイオンモードで更に注入を行います。複雑なサンプルでは、プロダクトイオンの分析法の作成は手間のかかる作業です。プリカーサーイオンをそれぞれマニュアルで同定し、プリカーサーごとに個別のプロダクトスキャンを作成する必要があります。サーベイスキャンを使用することで、2 回目の取り込みが不要になります。サーベイスキャンでは、様々なユーザー定義トリガーにより、あるスキャンから別のスキャンに自動切替ができます。MS および DS モードで ScanWave を活用して、より感度の高いサーベイスキャンを行うこともできます。
システム: |
Xevo TQ-XS および ACQUITY UPLC I-Class/SM-FTN |
カラム: |
ACQUITY UPLC HSS T3、2.1×150 mm、1.8 μm |
検出器: |
ACQUITY UPLC PDA 検出器 |
流速: |
0.4 mL/分 |
移動相 A: |
0.05% 酢酸水溶液 |
移動相 B: |
0.05% 酢酸メタノール溶液 |
カラム温度: |
40 ˚C |
サンプル注入量: |
5 µL |
サンプル濃度: |
1 mg/mL |
洗浄溶媒およびパージ溶媒: |
1:1(水:アセトニトリル) |
サンプリングレート: |
10 ポイント/秒 |
波長: |
210 - 400 nm |
Trigger Activation Delay (Min)(トリガー有効化遅延(分)):装置でスキャン間の切り替えが行われるまでの遅延(分単位)を定義します。
Trigger Sensitivity(トリガー感度):プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンを検出するために、切り替え先機能をトリガーするピーク高さを設定します。高、中、低を選択するか、またはカスタムを選択して、スレッシュホールド値を入力します。
Trigger Threshold(トリガースレッシュホールド):プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンのレスポンスを検出するために、切り替え先機能をトリガーするカスタムスレッシュホールドを指定します。スレッシュホールドには 1 ~ 10 を設定できます。ここでは、1 = 3.3e4、2 = 6.6e4、3 = 1.0e5、4 = 3.3e5、5 = 6.6e5、6 = 1.0e6、7 = 3.3e6、8 = 6.6e6、9 = 1.0e7、10 = 3.3e7 です。
Max.Masses of interest per survey scan(サーベイスキャンごとの最大目的質量):切り替え前スキャンから検出する目的のピーク(プリカーサーおよびプロダクト)の最大数(最大 8)を選択します。このパラメーターの設定により、切り替えごとに装置で調査する質量の数を定義します。例えば、3 つの質量の強度がスレッシュホールドを超える場合、2 と設定すると、最も強度が高い 2 つの質量のみが装置をトリガーします。
Total Time in Switched Scan Mode(s)(切り替えスキャンモードの合計時間):切り替え先のスキャンモードで費やす最小の合計時間を定義します。指定した時間の経過後、切り替え先機能は、再び切り替え前機能に戻ります。
Re-include after Time(s)(時間(秒)後の再包含):質量の切り替え後に、ソフトウェアが質量を除外する時間(秒単位)を定義します。この時間の経過後、質量が再び含まれます。
Exclusion Window +/- (Da)(除外ウィンドウ +/- (Da)):質量が切り替えられる前に特定の質量の周辺でトリガーを除外するスパン(Da 単位)を定義します。
Isotope Cluster Range (Da)(同位体クラスター範囲(Da)):最後にトリガーされる質量の同位体でのトリガーを防ぐために、除外スパンが質量スケールを拡張する度合いを定義します。
Xevo TQ-XS によるハーブ抽出物の定性分析により、分析時間が短縮されて、従来の MS スキャンおよびプロダクトスキャンと比較して生産性が向上し、サーベイスキャンツールの有用性が実証されました。サーベイスキャンモードでは、複数回の分析で取り込まれた LC-MS および LC-MS/MS データと比較して、分析時間が大幅に短縮されています。
ハーブのサンプル分析で得られた ScanWave MS(MS フルスキャン)のクロマトグラムを図 2 に示します。このように、ScanWave MS クロマトグラムで 30 分の分析時間内に多数のピークが検出され、ScanWave プロダクトスキャン分析用に自動的に選択されました。
Xevo TQ-XS 質量分析計の MS とプロダクトスキャンの間を素早く切り替えられる機能により、シャープな UPLC ピークが正しく定義できました。このアプローチでは、MS とプロダクトスキャンのデータが偏りなく収集され、ハーブサンプルの定性分析が可能になります。
ScanWave MS(MS フルスキャン)のスペクトルおよび ScanWave DS(MS/MS)スペクトルのピーク(RT 14.77 分)を図 3 に示します。ここで、トリガーされる感度基準に基づいてプリカーサーイオン m/z 592.86 が自動選択され、フラグメントイオン m/z 352.65、m/z 382.73、m/z 472.69、m/z 502.89 がプロダクトイオンのスキャンスペクトルに表示されます。m/z 592.86 は特徴的なフラグメントに基づき、ビセニンと同定されました。
プリカーサー化合物ビセニン m/z 592.86 についての抽出イオンクロマトグラムが図 4 に示されており、ScanWave MS クロマトグラムの RT 14.77 分で溶出しています。
図 5 には、m/z 592.86 のフラグメントイオン m/z 502.89、m/z 472.69、m/z 382.72、m/z 352.64 のプロダクトスキャンスペクトルから抽出されたイオンクロマトグラムを示しています。
ビセニン(m/z 592.86)のフラグメントイオンと思われるものを図 6 に示します。
表 2 では、ハーブのサンプルの定性分析にサーベイスキャンを用いた例を説明しています。シナピルアルデヒド、ビセニン、トランス-3'-イソペンタジエニル-3,5,4'-トリヒドロキシスチルベン(IPD)の異性体である 2,3,4-O-ジカフェオイルキナ酸、およびトランス-アラキジン-3 の分子が、プリカーサーイオンおよびプロダクトイオンに基づいて同定されました。これらの既知化合物を確認するために、プロダクトイオンの文献調査を行ったところ、表 2 に示すように、得られたスペクトルと一致しました。
720006932JA、2020 年 5 月