• アプリケーションノート

LiveID を使用した DART-QDa による粗悪スパイス中の Curcuma longaCurcuma xanthorrhiza の迅速な識別

LiveID を使用した DART-QDa による粗悪スパイス中の Curcuma longaCurcuma xanthorrhiza の迅速な識別

  • Klemens Losso
  • Stefan Stuppner
  • Matthias Rainer
  • Thomas Jakschitz
  • Günther Bonn
  • オーストリアドラッグスクリーニング研究所(ADSI)
  • 分析化学・放射化学研究所(インスブルック大学)
Turmeric powder and roots on wooden table

要約

このアプリケーションノートでは、Waters DART QDa with LiveID システムを使用して、サンプル中の高価値の抗酸化・抗炎症の化学的予防効果を有する有効成分の様々なレベルに基づいて、一見したところ同じように見えるターメリック(ウコン)スパイスのサンプルの識別を成功させる方法について説明します。このアプリケーションは、食品の偽装と真正性の研究に関心のある食品の安全管理担当者、および化粧品の配合を検査する品質管理担当者にとって役立ちます。

アプリケーションのメリット

  • わずかなサンプル前処理で、クロマトグラフィー分離が不要な、C. longa および C. xanthorrhiza のリアルタイムでの同定
  • 数秒以内に食品偽装を検出し、化粧品成分を識別できる可能性
  • 専門知識の少ないユーザーでも使用しやすい直感的なソフトウェアで、真正性、インテグリティー、および品質管理のさまざまな課題に対応する頑健なモデルを開発し、バリデーションを実施

はじめに

Curcuma longaC. longa)と Curcuma xanthorrhizaC. xanthorrhiza)はショウガ科(Zingiberaceae)に属し、南アジアの熱帯地域に自生する植物であり、世界中の熱帯地域で広く栽培されています。これらの植物の乾燥させた根茎は、ターメリック(ウコン)と呼ばれ、特にアーユルヴェーダや漢方薬において、昔からスパイス、染料、薬品として使われてきました1。 現在では、ターメリックの成分に関する研究で多くの薬理学的特性(抗酸化、抗炎症、抗変異原性作用など)があると主張されているため2、注目を集めていますが、これらの成分の一部は最近 PAIN(パンアッセイ干渉化合物)と認定されました3C. longa および C. xanthorrhizaの抽出物は、抗酸化、抗炎症、化学的予防の効果を有し、化粧品中の着色料として機能する石油化学由来成分に対する天然の代替品として、化粧品配合にもますます多く使用されています4

提唱されているターメリックの薬理学的効果は主に、いわゆるクルクミノイド、より正確にはクルクミン、デメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミンといった物質によってもたらされます。C. longa にはこれら 3 種のクルクミノイドがすべて含まれていますが、C. xanthorrhiza にはビスデメトキシクルクミンが含まれていないため、より価値が低いと見なされ、国際市場で安価になっています。このため、市販の C. longa の粉末にはしばしば、C. xanthorrhiza が混入されており、最終顧客や食品業界に経済的損害をもたらしています。このアプリケーションノートでは、LiveID ソフトウェアを組み合わせた DART-QDa 分析を使用して、このようなスパイスの偽和を検出するための、迅速で簡単な方法を紹介します。

実験方法

サンプル前処理抽出手順

150 mg の乾燥した粉砕サンプルを 2 mL の反応チューブに量り取り、1 mL の ACN:水 75:25(v:v)と混合しました。サンプルを、25 ℃ で 15 分間超音波処理した後、16800 rcf で 3 分間遠心分離しました。上清を回収し、H-PTFE フィルターを用いて 1.5 mL 反応チューブ中にろ過しました。抽出物は、抽出溶媒で 1:99(v:v)に希釈しました。最後に、各抽出物を QuickStrip カード上に滴下し、DART QDa を使用して分析しました。

真正の C. longa(n = 10)および C. xanthorrhiza(n = 10)のサンプルのマススペクトルを用いて、ケモメトリックスのモデルのトレーニングを行いました。モデルのパラメーターを表 1 に示します。

LiveID 真正性モデルのパラメーター
表 1. LiveID 真正性モデルのパラメーター

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa

MS ソース:

DART SVP

イオン化ガス:

ヘリウム

イオン化モード:

DART +ve

ガス温度:

450 ℃

コーン電圧:

10 V

サンプリング速度:

1.00 mm/秒

サンプリング:

10 Hz

測定モード:

フルスキャン

取り込み範囲:

m/z 100 ~ 600

データ管理

クロマトグラフィーソフトウェア

MS ソフトウェア:

MassLynx

インフォマティクス:

Live ID サンプル認識ソフトウェア

結果および考察

DART-QDa 真正性モデル

コンバインされたマススペクトルを、主成分分析(PCA)に線形判別分析(LDA)と組み合わせて 2 グループにクラスター化しました。得られたクラスターを図 1 に示します。

A. PCA および B. PCA/LDA プロット(DART-QDa 真正性モデル用に LiveID で生成)。
図 1A. PCA および 1B.PCA/LDA プロット(DART-QDa 真正性モデル用に LiveID で生成)

ローディングプロット(図 2 および 3)は、クラスの識別に寄与する重要なイオンを示しています。m/z 369 のイオン(クルクミン)は分散の約 70% を占めており、PC1 の主要な特徴であると思われます。m/z 217(ar-ツルメロン)および m/z 235(プロクルクメノール、イソプロクルクメノール、クルクメノール、クルクメノン)のイオンは分散の約 16% を占めており、PC2 の主な特徴です。対応する構造は、図 4 のスペクトルの隣に記載されています。

LiveID で作成された PC1 のローディングプロット
図 2. LiveID で作成された PC1 のローディングプロット
 LiveID で作成された PC2 のローディングプロット
図 3. LiveID で作成された PC2 のローディングプロット
C. longa(上)と C. xanthorrhiza(下)のマススペクトル。さまざまな成分を異なる色で示しています。
図 4. C. longa(上)と C. xanthorrhiza(下)のマススペクトル。異なる色でさまざまな成分を示しています。 

モデルのバリデーション

作成した真正性モデルを、LiveID の「leave 1 file out」(1 ファイル除外)オプションを使用して、クロスバリデーションを行いました。関連するバリデーションレポートを図 5 に示します。2 つの異なるターメリック種から得られた 240 のスペクトルのうち、すべてが正しい分子種に関連付けられている可能性があります。これにより、正確性スコアが 100% になります。さらに、LiveID の「20% out」(20% 除外)オプションを使用してモデルをバリデーションしましたが、この場合も正確性スコアが 100% になりました。

DART-QDa 真正性モデルのクロスバリデーションレポート
図 5. DART-QDa 真正性モデルのクロスバリデーションレポート

モデルの頑健性をさらにテストするために、地元のスーパーマーケットから購入したターメリック粉末の 2 つのサンプルを、記載した方法で抽出しました。作成した LiveID 真正性モデルを使用して、抽出物を分析しました。いずれのサンプルも、それぞれ C. longa および C. xanthorrhiza として認識され、正確性スコアは 100% でした(図 6)。

ターメリックの未知サンプルの認識結果
図 6. ターメリックの未知サンプルの認識結果

結論

  • DART QDa with LiveID システムは、関連する植物種を迅速に識別するための適切な手法である
  • DART QDa により、2 つのターメリック種の抽出物に存在する主要なイオンが検出できた
  • DART QDa は、植物種の識別において、時間が節約できる LC-MS の代替手段となることが示されている
  • C. longa および C. xanthorrhiza の混合物を識別するようにモデルをグレードアップできることが期待できる

参考文献

  1. Li S.; Chemical Composition and Product Quality Control of Turmeric (Curcuma longa L.).TOPHARMCJ.2011, 5(1): 28–54.
  2. Jayaprakasha G.K.; Jagan M.R.; Sakariah K.K. Improved HPLC Method for the Determination of Curcumin, Demethoxycurcumin, and Bisdemethoxycurcumin.J Agric Food Chem.2002, 50(13): 3668–72.
  3. Baell J; Walters M.A. Chemistry: Chemical Con Artists Foil Drug Discovery.Nature.2014, 513(7519):481–3.
  4. Mieloch M.; Witulska M. Evaluation of Skin Colouring Properties of Curcuma Longa Extract.Indian J. Pharm Sci. 2014, 76 (4): 374–378.

謝辞

著者より、このアプリケーションノートで使用した 20 種の真正のターメリックのサンプルを収集し、ご提供いただいた Arko Wicaksono に感謝いたします。本研究は、インスブルック大学の分析化学・放射化学研究所、並びにオーストリア、インスブルックのオーストリアドラッグスクリーニング研究所(ADSI)にて、ADSI とウォーターズコーポレーションとの共同研究契約に基づき、対等な立場で実施しました。

720007046JA、2020 年 11 月

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