このアプリケーションノートでは、Waters DART QDa with LiveID システムを使用して、サンプル中の高価値の抗酸化・抗炎症の化学的予防効果を有する有効成分の様々なレベルに基づいて、一見したところ同じように見えるターメリック(ウコン)スパイスのサンプルの識別を成功させる方法について説明します。このアプリケーションは、食品の偽装と真正性の研究に関心のある食品の安全管理担当者、および化粧品の配合を検査する品質管理担当者にとって役立ちます。
Curcuma longa(C. longa)と Curcuma xanthorrhiza(C. xanthorrhiza)はショウガ科(Zingiberaceae)に属し、南アジアの熱帯地域に自生する植物であり、世界中の熱帯地域で広く栽培されています。これらの植物の乾燥させた根茎は、ターメリック(ウコン)と呼ばれ、特にアーユルヴェーダや漢方薬において、昔からスパイス、染料、薬品として使われてきました1。 現在では、ターメリックの成分に関する研究で多くの薬理学的特性(抗酸化、抗炎症、抗変異原性作用など)があると主張されているため2、注目を集めていますが、これらの成分の一部は最近 PAIN(パンアッセイ干渉化合物)と認定されました3。C. longa および C. xanthorrhizaの抽出物は、抗酸化、抗炎症、化学的予防の効果を有し、化粧品中の着色料として機能する石油化学由来成分に対する天然の代替品として、化粧品配合にもますます多く使用されています4。
提唱されているターメリックの薬理学的効果は主に、いわゆるクルクミノイド、より正確にはクルクミン、デメトキシクルクミン、およびビスデメトキシクルクミンといった物質によってもたらされます。C. longa にはこれら 3 種のクルクミノイドがすべて含まれていますが、C. xanthorrhiza にはビスデメトキシクルクミンが含まれていないため、より価値が低いと見なされ、国際市場で安価になっています。このため、市販の C. longa の粉末にはしばしば、C. xanthorrhiza が混入されており、最終顧客や食品業界に経済的損害をもたらしています。このアプリケーションノートでは、LiveID ソフトウェアを組み合わせた DART-QDa 分析を使用して、このようなスパイスの偽和を検出するための、迅速で簡単な方法を紹介します。
150 mg の乾燥した粉砕サンプルを 2 mL の反応チューブに量り取り、1 mL の ACN:水 75:25(v:v)と混合しました。サンプルを、25 ℃ で 15 分間超音波処理した後、16800 rcf で 3 分間遠心分離しました。上清を回収し、H-PTFE フィルターを用いて 1.5 mL 反応チューブ中にろ過しました。抽出物は、抽出溶媒で 1:99(v:v)に希釈しました。最後に、各抽出物を QuickStrip カード上に滴下し、DART QDa を使用して分析しました。
真正の C. longa(n = 10)および C. xanthorrhiza(n = 10)のサンプルのマススペクトルを用いて、ケモメトリックスのモデルのトレーニングを行いました。モデルのパラメーターを表 1 に示します。
MS システム: |
ACQUITY QDa |
MS ソース: |
DART SVP |
イオン化ガス: |
ヘリウム |
イオン化モード: |
DART +ve |
ガス温度: |
450 ℃ |
コーン電圧: |
10 V |
サンプリング速度: |
1.00 mm/秒 |
サンプリング: |
10 Hz |
測定モード: |
フルスキャン |
取り込み範囲: |
m/z 100 ~ 600 |
クロマトグラフィーソフトウェア |
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MS ソフトウェア: |
MassLynx |
インフォマティクス: |
Live ID サンプル認識ソフトウェア |
コンバインされたマススペクトルを、主成分分析(PCA)に線形判別分析(LDA)と組み合わせて 2 グループにクラスター化しました。得られたクラスターを図 1 に示します。
ローディングプロット(図 2 および 3)は、クラスの識別に寄与する重要なイオンを示しています。m/z 369 のイオン(クルクミン)は分散の約 70% を占めており、PC1 の主要な特徴であると思われます。m/z 217(ar-ツルメロン)および m/z 235(プロクルクメノール、イソプロクルクメノール、クルクメノール、クルクメノン)のイオンは分散の約 16% を占めており、PC2 の主な特徴です。対応する構造は、図 4 のスペクトルの隣に記載されています。
作成した真正性モデルを、LiveID の「leave 1 file out」(1 ファイル除外)オプションを使用して、クロスバリデーションを行いました。関連するバリデーションレポートを図 5 に示します。2 つの異なるターメリック種から得られた 240 のスペクトルのうち、すべてが正しい分子種に関連付けられている可能性があります。これにより、正確性スコアが 100% になります。さらに、LiveID の「20% out」(20% 除外)オプションを使用してモデルをバリデーションしましたが、この場合も正確性スコアが 100% になりました。
モデルの頑健性をさらにテストするために、地元のスーパーマーケットから購入したターメリック粉末の 2 つのサンプルを、記載した方法で抽出しました。作成した LiveID 真正性モデルを使用して、抽出物を分析しました。いずれのサンプルも、それぞれ C. longa および C. xanthorrhiza として認識され、正確性スコアは 100% でした(図 6)。
著者より、このアプリケーションノートで使用した 20 種の真正のターメリックのサンプルを収集し、ご提供いただいた Arko Wicaksono に感謝いたします。本研究は、インスブルック大学の分析化学・放射化学研究所、並びにオーストリア、インスブルックのオーストリアドラッグスクリーニング研究所(ADSI)にて、ADSI とウォーターズコーポレーションとの共同研究契約に基づき、対等な立場で実施しました。
720007046JA、2020 年 11 月