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新型コロナウイルス感染症の大流行により、ウイルス感染を検出し、ウィルス量を測定するための現在の検査を補完するものとして、LC-MS ベースの方法の開発が促進されました。タンパク質分解後の体液中のウイルスタンパクの検出によるターゲット質量分析法が、追加の SARS-CoV-2 検査法の 1 つとして提案されています。ここで紹介する研究は、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を用いた SARS-CoV-2 トリプシン消化ペプチドの検出における UniSpray およびエレクトロスプレーイオン化ソースの適用を説明しています。
新型コロナウイルス感染症は、SARS-CoV-2 によって引き起こされる病原性の強いウイルス感染症であり、現在進行しているパンデミックの原因です。SARS-CoV-2 のウイルス粒子にはタンパク質が多く含まれており、スパイク糖タンパク質(SPIKE)と核タンパク質(NCAP)の 2 つが主要な構成要素です。そのため、ターゲット LC-MS 分析法による SARS-CoV-2 タンパク質の検出および定量が、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)ベースの新型コロナウイルスのウイルス量測定法を補完する代替テクノロジーになると考えられます1,2。そこで、「一般的に利用できるコロナのマルチプルリアクションモニタリングアッセイ」を開発するためのコミュニティーベースの取り組みが開始されました3 。本研究では、新規のイオン化手法である UniSpray とエレクトロスプレーイオン化を比較して、特定の SPIKE および NCAP のトリプシン消化ペプチドの LC-MS 検出法(720006967 および 720006968)をさらに最適化し、この LC-MS 分析法のダイナミックレンジと選択性を向上させる可能性について調査しました。
組換え SARS-CoV-2 SPIKE タンパク質および NCAP タンパク質の組み合わせ消化手順で得られるトリプシン Lys C ペプチドは、それぞれ個別の標準試料または汎用輸送培地(Universal Transport Medium、UTM)マトリックスにスパイクした状態で、Cov-MS から凍結乾燥の形で入手しました3。 得られたペプチドを、Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計に接続した ACQUITY UPLC I-Class PLUS システムを使用して MRM モードで分析しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class PLUS |
バイアル: |
MaxPeak HPS を採用した QuanRecovery バイアル |
カラム: |
ACQUITY Premier Peptide BEH C18 300 Å、2.1 mm × 50 mm、1.7 µm |
カラム温度: |
40 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
5 μL |
流速: |
0.6 mL/分 |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
MS システム: |
Xevo TQ-XS |
イオン化モード: |
UniSpray および ESI ポジティブ |
測定モード: |
MRM |
キャピラリー電圧(ESI+): |
0.5 kV |
インパクター電圧(US+): |
0.7 kV |
コリジョンエネルギー: |
ペプチド/トランジション最適化済み |
コーン電圧: |
35 V |
時間(分) |
%B 溶媒 |
---|---|
0.0 |
5 |
5.5 |
33 |
5.6 |
85 |
7.0 |
85 |
7.1 |
5 |
8.0 |
5 |
ソフトウェア: |
MassLynx TargetLynx |
「COVID-19 を理解する:マルチプルリアクションモニタリングに基づく SARS-CoV-2 分析のために LC-MS 検出のダイナミックレンジを最大化」(720006968JA)に記載したコミュニティベースの取り組みの一環として、Cov-MS コンソーシアムと共同で開発したマルチプルリアクションモニタリング(MRM)メソッドを本研究にも適用しました3。 このメソッドでは、デューティサイクルとシグナル対ノイズ比を最大化するためにペプチドごとに 2 つのトランジションを使用し、頑健性とスループットを維持するために通常の LC メソッドと条件を使用します。UniSpray とエレクトロスプレーのイオン化インターフェースを両方適用し、元の Cov-MS 標準作業手順(SOP)の記載に従って、同じ希釈系列のサンプルを分析しました。
図 1 に示すのは典型的なクロマトグラムで、UniSpray を適用すると、エレクトロスプレーと比較して、シグナル強度が強くなっています。一方、この例では、UniSpray では、エレクトロスプレーと比較して、S/N 比も向上していました。この量のタンパク質消化物をオンカラムで注入した場合に、このペプチドについて得られた S/N のゲインは約 2.5 であり、この値は以前に報告されたペプチドについての性能基準と一致しています4。 S/N 向上の利点を図 2 に示します。ここでは、UniSpray およびエレクトロスプレーのインターフェースで、P0DTC9|NCAP_SARS2 由来のペプチド ADETQALPQR について定量的レスポンスが得られていることが示されています。ペプチド ADETQALPQR は、中程度から良好なレスポンスを示したペプチドの 1 つとして以前に同定されたもので、4 つの量レベルでオンカラム注入しました。このペプチドとマトリックスの場合、UniSpray を使用することにより、もっと量レベルを増やしても、残差と線形回帰に関する定量性能を損なうことなく測定を達成できる可能性があります。
比較結果のまとめを図 3 に示します。Cov-MS SOP に明記されている NCAP および SPIKE SARS-Cov-2 タンパク質由来のペプチドについての MRM クロマトグラムすべてのピークの S/N と面積を比較することで、UniSpray およびエレクトロスプレーのインターフェースが相補的な性質を有していることが分かります。一定の量レベルの特定のペプチドの S/N を表し、同じ量レベルの同じペプチドの S/N と対比させることにより、各ペプチドの平均 S/N 比および範囲を計算しました。次に、ペプチドが検出されたすべての量レベルについてのすべての S/N 比の値の平均と信頼区間を、図 3 の左側の比率値のセットに示す四分位分布で表しました。UniSpray を使用した場合、平均でほぼ 3 種のペプチドに S/N の向上が見られ、エレクトロスプレーを使用した場合もほぼ同数のペプチドに S/N の向上が見られました。ただし、特定のマトリックス(鼻咽頭拭い液、唾液、うがい液など)では、より高い信頼度で特定の SARS-Cov-2 ペプチドを検出できるようにするためには、代替のテクノロジーを選択/使用するオプションがあることが重要になります。図 3 の右側に示す分布は、両方のイオン化手法で得られたピーク面積比で、図 2 に示す測定結果、および UniSpray インターフェースの適用によりピーク面積が全体的に大きくなる(エレクトロスプレーと比較して平均 4 倍に増加)という以前の研究結果を確認しており、より優れたイオン統計が得られるため、シグナルレベルが低いデータの再現性が向上する可能性があります(データは表示されていません)4。
NCAP および SPIKE タンパク質は、ウイルス SARS-CoV-2 補体の重要な構成要素で、ウイルス量の直接的な目安であるため、生物学的マトリックス中の量と濃度を LC-MS ベースのテクノロジーを使用して測定することが検討されています。この研究では、UTM マトリックス中に検出される NCAP および SPIKE 由来の多数のトリプシン消化ペプチドのリニアレスポンスと LLOD を調査し、UniSpray およびエレクトロスプレーのイオン化源の相対レスポンスを理解するとともに、Cov-MS コンソーシアムが開発している MRM 分析メソッドがさらに特徴づけられています。得られた結果は、UniSpray とエレクトロスプレーがタンパク質分解ペプチドの相補的なイオン化法であり、鼻咽頭拭い液中および汎用輸送培地中に保管された SARS-CoV-2 タンパク質を検出・定量するために開発された Xevo TQ-XS タンデム四重極型質量分析計を用いた分析法が、ペプチドのサブセットを使用してさらに改良できる可能性があることを示しています。
SARS-Cov-2 MRM メソッドを設計するためのコミュニティベースの取り組みの一環として、評価キットをご提供いただいた Cov-MS コンソーシアムの皆様に対して、感謝を申し上げます。
Stuart Oehrle, Laurence Van Oudenhove, Jan Claereboudt, and Hans Vissers (Waters Corporation); Bart Van Puyvelde, Simon Daled, Dieter Deforce, and Maarten Dhaenens (Pharmaceutical Biotechnology, University of Ghent); Katleen Van Uytfanghe, (Department of Bioanalysis, University of Ghent).
720007054JA、2020 年 9 月