• アプリケーションノート

SmartMS を搭載した BioAccord LC-MS システムを用いたバイオ医薬品ペプチド質量確認および不純物プロファイリング

SmartMS を搭載した BioAccord LC-MS システムを用いたバイオ医薬品ペプチド質量確認および不純物プロファイリング

  • Kiran Krishnan
  • Sumit Bobhate
  • Raghu Tadala
  • Dr. Padmakar Wagh
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、BioAccord LC-MS システムを使用して、研究、開発、並びに製造および QC でより厳しい規制を受けているラボ内で、ペプチド質量確認および不純物プロファイリングを行う方法について説明します。UNIFI 内の統合ワークフローにより、単一のプラットホーム上でのバイオ医薬品ペプチドとその不純物の精密質量ベースの同定、配列確認、および相対定量が可能になり、SmartMS 機能により、組織内の広範な分野の科学者や技術者がこれらの機能にアクセスできるようになります。

アプリケーションのメリット

  • 光学分析および質量ベースの分析によるペプチドの質量確認および不純物プロファイリングのための、コンプライアンス対応の定性・定量ワークフロー
  • 迅速な導入、トレーニングと、LC-MS の初心者でもルーチンに操作できる SmartMS ベースのシステム操作

はじめに

今日、さまざまなペプチドバイオ医薬品が開発パイプラインを通過しています。数多くの治療上の有益性、並びに合成による生産と遺伝子組換えによる生産、下流工程での処理、およびバイオデリバリーシステムに関するテクノロジーが大きく進歩したことがその理由です。これらの分子の物理特性はさまざまですが、ほとんどの分子量は 5000 Da 未満です。最終的に、ペプチドの純度は、生産および処理工程におけるさまざまなパラメーターの最適化に依存します。これには、主要製品や特徴的な不純物を確認し、予期しない製品の変化を検出するために、迅速かつ確実に結果が得られ、分子を評価できる分析ツールが必要です。一般的に、光学検出を用いる従来の液体クロマトグラフィーアッセイは不純物プロファイリングに対応しますが、これらのアッセイには未分離の不純物および新たに発見されたピークの原因をつきとめることに関して一定の制限があります。このことから、これらのプロファイルに関するより多くの構造情報を提供できる高度な分析装置を使用することが、これらの課題に駆け足で対処するための解決策となるのです。

質量分析は、バイオ医薬品ペプチドの同定と純度の確立に最適です1。高分解能質量分析を分析ワークフローに組み込むことで、ペプチド性 API および既知の不純物の精密質量ベースの確認、およびそれらのフラグメントイオンによるペプチド配列の確認が可能になります2。BioAccord LC-MS システムは、LC-MS テクノロジーの経験者でなくても効率的かつ容易に導入および操作できるように設計・開発された高性能分析プラットホームです。BioAccord の SmartMS 機能は、簡素化されたユーザーインタフェース、自動起動、および高度な自己診断機能などが特徴です。このアプリケーションノートでは、BioAccord システムがバイオ医薬品ペプチド分析と不純物プロファイリングのための統合ワークフローをどのようにサポートしているかについて説明します。

グルカゴン様ペプチド-1 受容体作動薬であるリラグルチドは、31 個のアミノ酸(HAEGTFTSDV SSYLEGQAAK EFIAWLVRGR G)からなるペプチド医薬品で、グルタミン酸リンカーを介してリジン側鎖にパルミチン酸鎖が付加されており、モノアイソトピック質量は 3748.9465 Da です。rDNA テクノロジーと化学合成のいずれでも生成することができます。本研究では、rDNA 由来のリラグルチドを用いて、BioAccord システムの統合ワークフローを実証します。waters_connect インフォマティクスプラットホーム上のコンプライアンス対応 UNIFI アプリケーションにより、自動化されたデータ取り込み、解析、およびレポート作成を組み合わせた合理化されたワークフローが実現しました。

図 1.  Waters BioAccord LC-MS システムおよび waters_connect インフォマティクスプラットホーム。このシステムは、waters_connect インフォマティクスプラットホーム上の UNIFI アプリケーションによって制御される、光学検出器(TUV/FLR)および ACQUITY RDa 質量検出器を備えた ACQUITY UPLC I-Class PLUS で構成されています。このプラットホームでは、コンプライアンス対応の取り込み、データ解析、レビュー、レポート作成が統合および自動化されています。 

実験方法

サンプル前処理

6 mg/mL のリラグルチド(rDNA 由来)溶液を使用します。

LC-MS 条件

LC-MS システム:

ACQUITY RDa 質量検出器を組み込んだ BioAccord

ACQUITY UPLC I-Class PLUS および ACQUITY UPLC TUV 検出器

カラム:

ACQUITY UPLC Peptide CSH C18、130 Å、1.7 μm、2.1 × 150 mm(製品番号:186006938)

カラム温度:

45 ℃

TUV 波長:

215 nm

流速:

0.12 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

注入量:

1 µL

グラジエント

ステップ

時間(分)

溶媒 A の組成(%)

溶媒 B の組成(%)

検量線プロファイル

1

0.00

95

5

初期条件

2

2.00

70

30

6

3

80.00

45

55

6

4

100.00

5

95

6

5

101.00

95

5

6

6

105.00

95

5

6

MS 条件

モード:

フラグメンテーションによるフルスキャン

質量範囲:

m/z 50 ~ 2000

極性:

ポジティブ

キャピラリー電圧:

1.50 kV

脱溶媒温度:

550 ℃

コーン電圧:

50 V

フラグメンテーションコーン電圧:

95 ~ 100 V

ロックマス:

waters_connect ロックマス溶液(製品番号:186009298)

データ管理

インフォマティクス:

waters_connect プラットホームと UNIFI アプリケーション

結果および考察

バイオ医薬品ペプチドの質量確認および不純物プロファイリングのための LC-HRMS 戦略では、ペプチドおよび不純物のピークの特性解析のための UNIFI インフォマティクスペプチドマッピングワークフロー、並びにターゲット不純物プロファイリングおよび自動相対割合測定のための精密質量スクリーニングワークフローを利用しています。特性解析段階のデータを使用してペプチド分子種のターゲットリストを生成し、精密質量モニタリングと定量を行います。

ペプチドマッピングワークフローを用いたペプチド特性解析

リラグルチド中の不純物をまず、0.1% ギ酸の浅いアセトニトリルグラジエントを使用して、ACQUITY UPLC Peptide CSH C18 130 Å カラムでクロマトグラフィー分離しました。次に、取り込んだ LC-MS データをペプチドマッピングワークフロー法によって解析し、不純物を同定し、不純物とリラグルチドのペプチド配列を確認しました。図 2 に、リラグルチドサンプルの拡大したトータルイオンクロマトグラムを示します。ピークにはそれぞれの識別子のラベルが付いています。図 3 には成分サマリーが示され、これらの識別子の詳細が記載されています。認められた不純物は、リラグルチドの異性体、N 末端欠失型、付加型、および酸化型でした。

図 2.  ペプチドマッピングワークフローにおけるリラグルチドの LC-MS 分析のトータルイオンクロマトグラム 
図 3.  ペプチドマッピングワークフローにおけるリラグルチドの LC-MS 分析の成分サマリー 

ACQUITY RDa の操作モードを使用して、構造に関する情報が豊富なフラグメントイオンを生成できるため、精密質量ベースのペプチド割り当てに対する信頼度が高まります。この独自の機能は、データ取り込み時の MS スキャン(コリジョンエネルギーが低いものおよびより高いコリジョンエネルギーランプを行うもの)を変更することで行うことができます。結果として、MS のみ(MS 1)、または衝突で誘発するフラグメンテーションを伴うフラグメンテーションモードのフルスキャン(データインディペンデント測定)モード(MS 2)で装置を作動させることができます。図 4 と図 5 に、パルミチン酸鎖がグルタミン酸リンカーを介して Lys20 側鎖に結合しているリラグルチドと、N 末端の 2 アミノ酸「HA」が欠失していることが確認されるリラグルチドの欠失不純物(UV 検出での相対レベル 0.45% で)のフラグメンテーションスペクトルを示します。自動データ解析では、検出された成分すべてに対して注釈付きフラグメントイオンスペクトルが生成されます。

図 4.  パルミチン酸鎖がグルタミン酸リンカーを介して Lys20 側鎖に結合しているリラグルチドのフラグメンテーションスペクトル 
図 5.  N 末端の 2 アミノ酸「HA」が欠失していることが確認されるリラグルチドの欠失不純物のフラグメンテーションスペクトル

UNIFI サイエンスライブラリーでの新規アミノ酸修飾および非天然アミノ酸の作成

UNIFI での解析時に、既存のアミノ酸修飾を選択してペプチド不純物に割り当てることができます。新規のアミノ酸修飾を作成して、既定のソフトウェアの修飾の設定を補完することができます。また、非天然のアミノ酸を作成して UNIFI サイエンスライブラリーに保存することができます。サイエンスライブラリーアプリケーションには、このような新たな修飾の生成が可能になる簡単なインターフェ-スがあります(図 6)。

図 6.  サイエンスライブラリーアプリケーションでの、リジン上の新規アミノ酸修飾 GPA K(パルミチン酸鎖とグルタミン酸リンカー)の作成

UNIFI 精密質量スクリーニングワークフローを使用した不純物プロファイリング

ペプチドマッピングワークフローによって特性解析段階で同定された不純物をサイエンスライブラリーのファイルに追加し、ターゲット不純物プロファイリングのための精密質量スクリーニングワークフローにインポートすることができます。以前の情報に基づいて、追加のライブラリーエントリーを作成することもできます。精密質量スクリーニングワークフローでは、この成分ターゲットリストの質量および保持時間の情報に基づいて、ターゲットとする各成分の XIC を使用します。精密質量スクリーニングワークフローを使用して、UV および MS レスポンスに基づく相対ペプチド純度の決定、およびメインピークの MS レスポンスに対する % 相対存在比の決定を自動化します。図 7 に、MS 検出および UV 検出の両者を使用してモニターしたリラグルチドおよび不純物成分の純度レベルを表示する、精密質量スクリーニングワークフローの成分サマリーを示します。図 8 に、リラグルチド(A)および欠失リラグルチド不純物「LGT-HA」(B)の抽出イオンクロマトグラム(XIC)を示します。

図 7.  MS 検出および UV 検出を使用してリラグルチドおよび各ターゲット不純物の純度レベルを表示する、精密質量スクリーニングワークフローの成分サマリー 
図 8.  リラグルチド(A)と欠失リラグルチド不純物(B)の XIC     

事前定義された(既定またはユーザー定義)テンプレートを使用して、取り込み後に単一のレポートまたは複数のレポートを自動的に生成し、この不純物モニタリング試験の最終結果をまとめることができます(図 9)。規制要件または組織要件によって電子署名が必要な場合、本ソフトウェアでは、これらのレポートに電子署名することができます。

図 9.  ペプチドマッピングワークフローで実施されたリラグルチド分析の代表的な UNIFI レポート     

ここで説明したペプチドマッピングと精密質量スクリーニング/モニタリングワークフローをリラグルチドに用いることで、BioAccord LC-MS システムを利用して、効率的な統合アプローチでペプチドバイオ医薬品の質量確認と不純物プロファイリングを行えるようになります。 精密質量データを追加することによって生成される重要な構造情報により、より迅速な分析法開発、分析法移管、および製品の逸脱の調査が容易に行えるようになり、ペプチドバイオ医薬品組織内での意思決定がより適切かつ迅速になります。  

結論

このアプリケーションノートでは、BioAccord LC-MS システムを使用して、研究、開発、並びに製造および QC でより厳しい規制を受けているラボ内で、ペプチド質量確認および不純物プロファイリングを行う方法について説明しています。UNIFI 内の統合ワークフローにより、単一のプラットホーム上でのバイオ医薬品ペプチドとその不純物の精密質量ベースの同定、配列確認、および相対定量が可能になり、SmartMS 機能により、組織内の広範な分野の科学者や技術者がこれらの機能にアクセスできるようになります。

参考文献

  1. Prabhala BK, Mirza O, Hojrup P, Hansen PR.Characterization of Synthetic Peptides by Mass Spectrometry.Methods Mol Biol.2015; 348:77–82.doi:10.1007/978-1-4939-2999-3_9.
  2. Zeng K, Geerlof-Vidavisky I, Gucinski A, Jiang X, Boyne MT 2nd.Liquid Chromatography-High Resolution Mass Spectrometry for Peptide Drug Quality Control.AAPS J.2015; 17(3):643–651.doi:10.1208/s12248-015-9730-z.

720007093JA、2020 年 12 月

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