Xevo TQ-S 質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class システムの組み合わせは、貝組織中の麻痺性貝毒およびテトロドトキシンの検出、同定、定量において優れた感度を発揮します。本アプリケーションノートでは、貝類中の PST および TTX を測定する、単分散抽出および黒鉛化炭素 SPE を用いた迅速な HILIC-MS/MS 分析法のバリデーション結果を報告します。
貝組織サンプル中の親水性海洋生物毒素を測定するための、<1.5% EU 最大許容濃度において、高感度、正確、高精度で、再現性が高いという要件を満たす、シンプルかつ迅速で、費用対効果の高い分析法。
麻痺性貝毒(PST)は、特定の種の藻類や細菌によって産生される天然海洋生物毒群であり、サキシトキシンと呼ばれ、世界各地で報告されています。これらの藻類は、高い細胞密度で周期的に海中で発生し、発生期間中にムール貝、カキ、ハマグリなどの二枚貝に蓄積します1。 テトロドトキシン(TTX)は、海洋細菌によって生成されると考えられているもう 1 つの生物毒であり、貝類の組織に蓄積することが分かっています2。 これらの毒素は強力な神経毒であり、汚染された製品を食べると麻痺性貝中毒(PSP)を引き起こす可能性があります。そのため、二枚貝の公的管理試験および最終製品試験をルーチンで行うことが必要になります。ヨーロッパでは、規制(EC) No.854/2004 (公的規制条項の改訂の一環として規則(EC)2017/625 に含まれるようになった)により、管轄当局による公的規制の一環として、貝肉中の海洋生物毒の有無を確認するため、指定された貝類生産地域でモニタリングプログラムを確立することが求められています3。 すべての食品事業者は、安全で、関連要件に適合した食品のみを市場に出すよう確認することが義務付けられています。
商業向けおよび規制当局の試験検査ラボのいずれにおいても、シンプルで、多くの国で規定されている制限に対応できる高感度で、かつ迅速に使えて、正確度と精度が高く、再現性のある結果が提供できる分析法に注目が集まっています。世界各国のほとんどの規制では、PSP 毒素の最大許容濃度(MPL)が群全体として設定されており、通常貝肉では 800 μg STX eq/kg です。欧州の貝類における海洋生物毒の規制値は、規則(EC) No.853/2004 に定められています4。
欧州連合(EU)では、PST の公定分析法は AOAC OMA 2005.06 で、プレカラム酸化液体クロマトグラフィー(LC)および蛍光検出を使用します5。 これにより、優れたレベルの規制管理が得られますが、この分析法は複雑で時間がかかり、サンプルごとに複数のクリーンアップ、誘導体化、分析を必要とするため、PST の迅速なワンショット分析法が望まれています。
また、LC-FLD 分析法では、近年ヨーロッパの至るところで貝類に見られる TTX を検出できません。結果として、最近開発された親水性相互作用液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析検出器(HILIC-MS/MS)を用いた分析法に大きな関心が寄せられています6。 超高速高分離液体クロマトグラフィー(UPLC)を用いた HILIC-MS/MS 分析法は、PST7 および TTX8 についてバリデーションされており、現在、共同研究によりさらなるバリデーションが行われています。
本アプリケーションノートでは、貝類中の PST および TTX を測定する、単分散抽出および黒鉛化炭素 SPE を用いた迅速な HILIC-MS/MS 分析法のバリデーション結果を報告します。
サンプルを 1% 酢酸と混合し、恒温槽で加熱することによりホモジナイズした貝類組織を抽出しました。抽出物を冷却し、さらに混合した後、遠心分離してから、上清のアリコートを中和し、SPE とカーボンカートリッジを使用してクリーンアップを行いました。抽出物を混合してから、ポリプロピレンオートサンプラーバイアル中で MeCN で希釈しました。分析法の詳細は図 1 にまとめられています。
PSP 毒素および TTX の主要毒素標準試料は、カナダ国立研究評議会の Institute of Biotoxin Metrology またはスペインの Cifga から購入しました。認証済み標準試料には STX di-HCl、NEO、GTX1&4、GTX2&3、GTX5、dcSTX、dcNEO、dcGTX2&3、C1&2、GTX6、TTX が含まれます。それぞれのアナログを等量ずつ移し、適切な割合で混合ストック溶液を調製しました。次に、この混合ストック溶液を使用して、ブランクムール貝抽出物で最低 6 つのマトリックスマッチド検量線用標準試料を調製し、外部標準による定量を行いました。
UPLC システム: |
ACQUITY UPLC I-Class(FTN サンプルマネージャ) |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Amide、1.7 µm、2.1 × 150 mm(製品番号 186004802) |
ガードカラム: |
ACQUITY UPLC BEH Amide 1.7 µm、2.1 × 5 mm VanGuard プレカラム(製品番号:186004799) |
移動相 A1: |
水/ギ酸/NH3(水溶液)(例:500 mL + 0.075 mL + 0.3 ml) |
移動相 B1: |
アセトニトリル/水/ギ酸(例:700 mL + 300 mL + 0.1 ml) |
溶媒 A2: |
水/ギ酸(例:200 mL + 1 ml) |
溶媒 B2: |
メタノール |
注入量: |
2 µL |
カラム温度: |
60 ℃ |
サンプル温度: |
4 ℃ |
分析時間: |
11 min |
この分析法は、流速の変化を含むグラジエントプログラムを使用して正しくバリデーションが行われましたが、全体を通して 0.4 mL/分を使用する方が望ましい場合もあります。各注入の間にカラムが再平衡化するのに十分な時間を確保してください。各バッチの分析前にカラムをコンディショニングし、使用後にフラッシュ洗浄を行いました(詳細については付録を参照)。
MS 装置: |
Xevo TQ-S |
ソース: |
ESI |
極性: |
ポジティブイオンおよびネガティブイオンモード |
キャピラリー電圧: |
+0.5 kV および -2.5 kV |
脱溶媒温度: |
600 ℃ |
脱溶媒ガス流量: |
1000 L/時間 |
ソース温度: |
150 ℃ |
コーンガス流量: |
150 L/時間 |
コーン電圧: |
10 V |
ネブライザーガス流量: |
7 Bar |
コリジョンガス流量: |
0.15 mL/分 |
表 1 に、ポジティブモードとネガティブモードの両方のトランジションで構成される MS/MS 取り込みメソッドが示されています。各化合物について、最良の選択性を示した 2 つの MRM トランジションを使用しました。推奨されるプライマリー(定量)MRM は、以下の表に太字で示されています。ナトリウム(ギ酸塩クラスターとして)は、選択した ESI- トランジションを使用してモニタリングすることができ、溶出の早い C 毒素からの塩のクロマトグラフィー分離の優れた指標となります。データは、MassLynx ソフトウェア v4.1 で取得し、TargetLynx XS アプリケーションマネージャーで解析しました。最適なデュエルタイムは、ピークあたり最低 12 データポイントに基づいて、AutoDwell 機能を使用して自動的に設定されました。
分析法が使用目的に適合していることを示す証拠を提供するために、ラボ内の分析法バリデーションを実施する必要があります。政府規制当局の規制試験での使用要件を満たすために、スパイクした貝類サンプルおよび天然由来の標準物質を繰り返し分析することにより、分析法の性能を評価しました。ムール貝、カキ、ハマグリ、ザルガイ、ホタテ貝などを各種組み合わせた、PST を含まない貝類サンプル 12 個は、英国およびニュージーランド両国から入手しました。これらすべてを使用して、スパイク試験および PST の特異性測定の両方を実施しました7。 TTX 分析法の性能については、ムール貝とカキのみを使用してバリデーションを実施しました8。 既知の濃度の PST アナログを含むカキ組織 CRM の繰り返し分析(n = 32、3 ヶ月)により、分析法の正確度を評価しました。低濃度、中濃度、高濃度の各マトリックスについて、スパイクしたサンプル抽出物を数日間にわたって繰り返し分析することにより、毒素の回収率、精度、再現性を決定しました(表 2)7,8。
ポジティブコントロールラボ標準試料(LRM)を 5 ヶ月間繰り返し分析した後、長期の室内再現性を算出しました。検出限および定量限(LOD および LOQ)によって表される分析法の感度は、回収率データから計算したシグナル対ノイズ比(S/N)から算出しました。具体的には、LOD および LOQ はそれぞれ、S/N 3 および 10 が得られるプライマリー MRM ピークの平均濃度と同等でした。レポート限界(LOR)の計算では、濃度を最も近い有効数字に切り上げ、プライマリー MRM では S/N 10、セカンダリー MRM では S/N 3 が得られました7。
分析法のバリデーションにより、検討した 12 種の貝類マトリックス中の PST アナログおよび TTX の同定および定量において、分析法が優れた性能を発揮することが実証されました。図 2 は、HILIC-MS/MS 分析法を使用して高濃度のキャリブレーション用標準試料を分析して得られた、すべての化合物の分離と検出結果を示しています。重要な検討事項として、各エピマーペアの分離、およびジカルバモイルアナログからの親ゴニオトキシンの分離が挙げられます。それは、ソース中の親ゴニオトキシンよりフラグメントが遅く現れるからです。PST を含まない貝類抽出物の分析データにより、PSP 化合物と同じ MRM および保持時間を持つクロマトグラフィーピークがないことが示されました。マトリックスマッチド検量線用標準試料について、必要な検量線範囲において優れた直線性が示されました(r2<0.996)。
スパイクの分析から検出された MRM ピークのレスポンスにより、感度が優れていることが示されました。表 3 は、すべての貝類マトリックスについて計算した平均 LOD、LOQ、LOR の結果が低濃度で、800 μg STX eq/kg という PST の EU MPL への遵守を確認する方法として適していることがわかりました。また、はるかに低濃度(化合物あたり < 1.5%)の場合のスクリーニングおよび定量も可能であることが示され、大部分のアナログが、10 μg STX eq/kg 未満の濃度も定量可能でした。TTX については、LOD/Q が 1.0 µg/kg 未満であり、分析法の LOR は 2.0 µg/kg に切り上げられました。したがって、EFSA のガイダンス限界である 44 µg/kg より良好な感度であることが示されました9。
分析法の正確度は、PST マトリックス CRM の 2 年間の繰り返し分析(n = 45)により、選択された PST アナログに対して長期的に許容範囲内であることが示されました。CRM に存在するアナログの平均回収率は 85~127%、平均総 PST 濃度は 646 µg STX eq/kg で、総 PST の平均回収率は 97% に相当します(表 4)。
分析した 3 つの濃度レベルにおける分析法の回収率を表 5 にまとめました。回収率はすべての濃度で類似しており、すべての貝類マトリックスにおいて平均総 PST 濃度回収率は 97~100% でした。一部の例外を除いて、個々の PST アナログおよび TTX の回収率は 65~125% でした。12 種類のマトリックスのバッチ内およびバッチ間再現性の平均値も、表 5 にまとめています。ばらつきは 3 つの濃度レベル間で一貫しており、平均バッチ間再現性の HorRat 値はすべて 2.0 未満で許容範囲内であり、過半数は 1.0 未満でした。全体として、ほとんどの化合物で許容できる回収率と再現性が得られることが示されました。
Xevo TQ-S 質量分析計と ACQUITY UPLC I-Class システムの組み合わせは、貝組織中の麻痺性貝毒およびテトロドトキシンの検出、同定、定量において優れた感度を発揮します。この分析法は、貝類の食品安全性試験のスクリーニングと確認の両方に使用できます。黒鉛化炭素固相抽出の前に、弱酢酸中の貝組織の簡単なシングルステップ抽出を行うことで、良好な目的化合物回収率が得られました。また、質量分析による貝類の分析中に、顕著なマトリックスによる抑制を引き起こす共抽出物および塩を効果的に除去することができました。Xevo TQ-S は優れた感度と堅牢性を提供します。また、同一分析法を他の Xevo タンデム四重極 MS/MS 装置に容易に移管して、同じ性能基準を満たすことができ、または抽出物を更に希釈して UPLC-MS/MS 分析を行うこともできます。
720006709JA、2019 年 10 月