• アプリケーションノート

MS 検出器付きの ACQUITY Arc システムを用いた、ジュース、ビール、ワインおよびウイスキー中の単糖類、二糖類およびアルジトールのプロファイリングと定量分析

MS 検出器付きの ACQUITY Arc システムを用いた、ジュース、ビール、ワインおよびウイスキー中の単糖類、二糖類およびアルジトールのプロファイリングと定量分析

  • Mark E. Benvenuti
  • Gareth E. Cleland
  • Jennifer A. Burgess
  • Waters Corporation

要約

糖や糖アルコールは、発色団を持たず類似した構造の分子が多いため、未だ分析上の課題があるアプリケーションです。それらの糖化合物の多くは、構造が非常に類似した異性体です。

糖の分析には、その優れた分離能力や正確さ、分析時間などの理由から HPLC が選択されてきました。示差屈折率(RI)検出器やエバポレイト光散乱(ELS)検出器に代わる手法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いた質量検出があります。質量検出は従来の LC のための検出器に対する相補的な手法です。質量検出によって、より低濃度の検出限界、そして試料中の成分のマススペクトル情報の取得が可能になります。クロマトグラフィーの保持時間と質量の両方の情報を得ることにより、糖や糖アルコールの分析における選択性が向上します。

本アプリケーションノートでは、ACQUITY Arc システムと ACQUITY QDa 検出器を併用し、ジュース、ワイン、ビールおよびウイスキー各試料の糖のプロファイリングおよび定量を行った結果をご紹介します。

アプリケーションのメリット

  • 示差屈折率 (RI) 検出器やエバポレイト光散乱 (ELS) 検出器を使用した場合よりも低濃度の糖検出を可能に
  • 必要最小限のサンプル前処理、マトリックス効果を低減するための希釈が可能に
  • 分離が難しいソルビトールとマンニトールの異性体対のクロマトグラフィー分離

はじめに

糖および糖アルコールは、人において栄養学的に重要な、天然の食品成分である糖質に分類されます。近年では、先進国諸国での肥満や糖尿病の発症率の増加に伴い、糖の摂取をより正しく把握することに非常に大きな関心が集まっており、この結果として、年々厳しくなる規制の要求に応えるため食品の正確な記載が必要になっています。食品製品の糖含有量のプロファイリングは、製品の信憑性や混入物のある粗悪品の可能性を評価するための手段としても役立ちます。 

糖や糖アルコールは、発色団を持たず類似した構造の分子が多いため、未だ分析上の課題があるアプリケーションです。図 1 に、本試験で分析した化合物の化学式および構造式を示しましたが、このような糖化合物の多くは構造が類似した異性体同士です。糖の分析には、その優れた分離能力や正確さ、分析時間などの理由から HPLC が選択されてきました。RI 検出器や ELS 検出器に代わる手法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いた質量検出があります。質量検出は従来の LC のための検出器に対する相補的な手法です。

図 1.分析した糖化合物の構造式および分子式

実験方法

LC 条件

LC システム:

ACQUITY Arc

データシステム:

Empower 3

分析時間:

40.0 分

カラム:

XBridge XP BEH Amide 2.5 µm、3.0 x 150 mm

カラム温度:

85 ℃

移動相 A:

90% アセトニトリル:5% IPA:5% 水 *

移動相 B:

80% アセトニトリル:20% 水 *

流速:

0.8 mL/分

注入量:

1 µL

* いずれも 500 ppb 塩酸グアニジンおよび 0.05% ジエチルアミン含有。

グラジエント

時間(分)

流速 (mL/分)

%A

%B

初期条件

0.8

100.0

0.0

4.5

0.8

100.0

0.0

18.0

0.8

0.0

100.0

25.0

0.8

0.0

100.0

25.1

0.8

100.0

0.0

40.0

0.8

100.0

0.0

MS 条件

MS システム:

ACQUITY QDa(パフォーマンスタイプ)

イオン化モード:

ESI-

キャピラリー電圧:

0.8 V

コーン電圧:

5.0 V

プローブ温度:

600 ℃

取り込み速度:

2 Hz

フルスキャン:

50~800 Hz

検量線:

二次式、1/x の重みづけ

スムージング:

平均フィルター、レベル 7

標準溶液の調製

上記 9 種の糖類をアセトニトリル‐水の 1:1 溶液に溶解し、100 mg/L をストック溶液としましたこのストック溶液をさらに希釈し、9 種類の濃度の溶液(1、2、4、5、10、20、40、50 および 100 mg/L)としました。

サンプル前処理

すべての試料を現地で購入し、オレンジ、リンゴ、パイナップル、ザクロ、ブドウのジュース試料を評価しました。酒類については、3 種のラガービール(1 種はノンアルコール)の他、レモン風味ビール、リンゴ酒、シェリー酒、赤ワインが各 1 種、ウイスキー 4 種を評価しました。ビール試料は超音波処理して炭酸を除去しました。すべての試料を 0.22 µm PVDF シリンジフィルターでろ過し、アセトニトリル‐水の 1:1 溶液で希釈しました。希釈倍率は、表 1 に示しました。

表 1.検討した“市販品”試料の希釈率
SIR チャンネル:    
分析種 化学式 SIR (m/z)([M+Cl]- ion
アラビノース C5H10O5 185
フラクトース C6H12O6 215
グルコース C6H12O6 215
イノシトール C6H12O6 215
ソルビトール C6H14O6 217
マンニトール C6H14O6 217
スクロース C12H22O11 377
マルトース C12H22O11 377
マルトトリオース C18H32O16 539

 

質量検出によって、より低濃度の検出限界、そして試料中の成分のマススペクトル情報の取得が可能になります。クロマトグラフィーの保持時間と質量の両方の情報を得ることにより、糖や糖アルコールの分析における選択性が向上します。ここでは、Waters ACQUITY Arc システムと ACQUITY QDa 検出器を用いて、ジュース、ワイン、ビールおよびウイスキー試料中の糖のプロファイリングおよび定量を行ったアプリケーションをご紹介します。

結果および考察

図 2 は ACQUITY QDa および PDA 検出器が付属した ACQUITY Arc システムです。本分析では PDA 検出器を使用していませんが、参考のために設置しました。図 3 は上記の分析種をそれぞれ 100 mg/L で混合した標準液の SIR クロマトグラムを示しています。全ての標準品について優れた分離を達成しました。最初にアイソクラティック条件を使用し、分離が難しいソルビトールとマンニトールの組み合わせを含む低分子の糖類を分離しました。4.5 分後にグラジエントを開始した後、混合標準溶液中の高分子の糖類を順次分離溶出しました。

図 2. ACQUITY QDa および PDA 検出器を接続した ACQUITY Arc システム
図 3.本研究で使用した 9 種の糖混合標準液の SIR クロマトグラム。記載した m/z は [M+Cl] - イオン

各標準液の SIR から抽出した質量スペクトルを図 4 に示します。移動相に塩酸グアニジンを使用することで、化合物が確実に塩素付加体([M+Cl]- イオン)を生成しました。37Cl 付加体のわずかなピークも認められました。図 5 には検討した化合物の検量線を示しました。すべての分析種で R2 >0.995 を達成しました。

図 4.9 種の糖混合標準溶液の SIR から抽出したマススペクトル情報。記載した m/z は [M+Cl] - イオン
図 5.分析した 9 種の糖混合標準液の較正曲線。各分析種から得た R2 値を示しています。

図 6(A–E)はラガービールの SIR プロファイルです。図 6A(m/z 185)にはアラビノースが認められました。また、その他のピークも明白であることから、ペントースなど他の糖類の存在が示唆されました。図 6B(m/z 215)にはフルクトースおよびグルコースの存在が確認されています。示差屈折率などの低感度の方法とは対照的に、ACQUITY QDa による感度の向上により化合物の検出を改善しました1。 図 6C (m/z 217) では、ソルビトール、マンニトールが認められます。また、小さなピークはフルクトースおよびグルコースの Cl37 付加体に由来するピークで、ソルビトールおよびマンニトールの分子量と一致するものです。図 5D、5E(それぞれ m/z 377、539)では DP2 および DP3 化合物のマルトース、マルトトリオースが、同一質量を有する異性体を伴って検出されたことから、穀類を原料とする飲料であると考えられました。 

図 6.存在が確認された糖類を記載した、ラガービールのSIR プロファイル

図 7(A–E)には、シェリー酒のプロファイルを示しています。シェリーで存在が確認された主要な分析種はフルクトース、グルコースです(図 7B)。アラビノース(図 7A)、ソルビトール、マンニトール(図 7C)については、いずれも微少なピークが確認されました。マルトースについては、明確なピークが認められました(図 7D)。ワインは穀類ではなくブドウを原料としているため、予想されていたように DP3 化合物は確認されませんでした(図 7E)。

図 7.存在が確認された糖類を記載した、シェリー酒のSIR プロファイル

図 8(A–E)はウイスキー試料の SIR プロファイルです。アラビノース(図 8A)、フルクトース、グルコース(図 8B)が確認されました。特に興味深いことは、図 8B(m/z 215)、および 8C(m/z 217)に保持時間 4.85 分に、明確な未知の糖のピークが現れたことです。RI または ELS 検出器と保持時間情報のみを用いた場合は、このピークがマンニトールと誤認された可能性が非常に高いと推測されました。このピークが m/z 215 および m/z 217 の両方に見られたことから、この成分がアルジトールではなく単糖と同じ質量であることが示唆されました。図 3 および 4 から分かるように、マンニトールは m/z 215 のイオンが検出されていません。

最後に、リンゴジュース試料から得た SIR クロマトグラムを図 9(A–E)に示します。アラビノース、フルクトース、グルコース、ソルビトールおよびスクロースの存在が明らかです。

各種フルーツジュースの定量結果を表 2 に示します。オレンジ、リンゴおよびパイナップルジュースには、フルクトース、グルコースおよびスクロースが含まれていました。これらのジュースの糖の含有量と比率は、他の文献で報告された値と同様です。2,3。 特に興味深いことは、ザクロジュースにソルビトールが検出された点です。ザクロジュース4 には通常、ソルビトールが検出されないことから、これは混入物が添加された粗悪品の証拠になると考えられます。試験したもう 1 つの試料からは、ソルビトールは検出されませんでした(図 10)。ブドウジュース試料はフルクトース、グルコースを検出しましたが、予測されたようにスクロースは不検出でした。2,3

図 8.確認された糖類の他、m/z 215 で存在が確認された未知の糖を示したウイスキーのSIR プロファイル
図 9.存在が確認された糖類を記載したリンゴジュース試料の SIR プロファイル
表 2.本試験でプロファイリングされた、各種フルーツジュースの定量試験で得られた濃度算出値(g/L)
図 10.2 種のザクロジュース試料で存在が確認された糖類を記述した SIR クロマトグラムの拡大図。試料の 1 つにはソルビトールが検出され、不純物添加の可能性が示唆
表 3.オレンジジュースの 7 回注入における保持時間(分)および含有量(g/L)の再現性データ

結論

  • ACQUITY Arc システムと ACQUITY QDa 検出器の組み合わせにより、感度と選択性が向上し、1 回の注入で単糖類および二糖類の試料の分析および定量が可能となります。
  • 質量検出は、示差屈折率(RI)検出やエバポレイト光散乱(ELS)検出に対する実用的な代替手法になります。
  • 感度向上によって、より希釈倍率の高い試料の分析が可能となり、マトリックス効果が最小限に抑えられます。
  • 質量検出とクロマトグラフィー分離の組み合わせにより、偽陽性を低減しながら、当該分析種の同定を行う上での選択性が向上します。

参考文献

  1. M Castellari et al.Determination of Carboxylic Acids, Carbohydrates, Glycerol, Ethanol, and 5- HMF in Beer by High-Performance Liquid Chromatography and UV–Refractive Index Double Detection.Journal of Chromatographic Science.39: 236–238, January 2001. 
  2. M L Sanz et al.Inositols and carbohydrates in different fresh fruit juices.Food Chemistry.87: 325–328, 2004.
  3. M Benvenuti.Analysis of Food Sugars in Various Matrices.Waters application note no.720004677EN, May, 2013.
  4. R Jahromi.6.21 Reference Guide for Pomegranate.Revision June 2012.

720005609JA、2017 年 3 月

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