糖や糖アルコールは、発色団を持たず類似した構造の分子が多いため、未だ分析上の課題があるアプリケーションです。それらの糖化合物の多くは、構造が非常に類似した異性体です。
糖の分析には、その優れた分離能力や正確さ、分析時間などの理由から HPLC が選択されてきました。示差屈折率(RI)検出器やエバポレイト光散乱(ELS)検出器に代わる手法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いた質量検出があります。質量検出は従来の LC のための検出器に対する相補的な手法です。質量検出によって、より低濃度の検出限界、そして試料中の成分のマススペクトル情報の取得が可能になります。クロマトグラフィーの保持時間と質量の両方の情報を得ることにより、糖や糖アルコールの分析における選択性が向上します。
本アプリケーションノートでは、ACQUITY Arc システムと ACQUITY QDa 検出器を併用し、ジュース、ワイン、ビールおよびウイスキー各試料の糖のプロファイリングおよび定量を行った結果をご紹介します。
糖および糖アルコールは、人において栄養学的に重要な、天然の食品成分である糖質に分類されます。近年では、先進国諸国での肥満や糖尿病の発症率の増加に伴い、糖の摂取をより正しく把握することに非常に大きな関心が集まっており、この結果として、年々厳しくなる規制の要求に応えるため食品の正確な記載が必要になっています。食品製品の糖含有量のプロファイリングは、製品の信憑性や混入物のある粗悪品の可能性を評価するための手段としても役立ちます。
糖や糖アルコールは、発色団を持たず類似した構造の分子が多いため、未だ分析上の課題があるアプリケーションです。図 1 に、本試験で分析した化合物の化学式および構造式を示しましたが、このような糖化合物の多くは構造が類似した異性体同士です。糖の分析には、その優れた分離能力や正確さ、分析時間などの理由から HPLC が選択されてきました。RI 検出器や ELS 検出器に代わる手法としては、エレクトロスプレーイオン化(ESI)を用いた質量検出があります。質量検出は従来の LC のための検出器に対する相補的な手法です。
LC システム: |
ACQUITY Arc |
データシステム: |
Empower 3 |
分析時間: |
40.0 分 |
カラム: |
XBridge XP BEH Amide 2.5 µm、3.0 x 150 mm |
カラム温度: |
85 ℃ |
移動相 A: |
90% アセトニトリル:5% IPA:5% 水 * |
移動相 B: |
80% アセトニトリル:20% 水 * |
流速: |
0.8 mL/分 |
注入量: |
1 µL |
* いずれも 500 ppb 塩酸グアニジンおよび 0.05% ジエチルアミン含有。
時間(分) |
流速 (mL/分) |
%A |
%B |
---|---|---|---|
初期条件 |
0.8 |
100.0 |
0.0 |
4.5 |
0.8 |
100.0 |
0.0 |
18.0 |
0.8 |
0.0 |
100.0 |
25.0 |
0.8 |
0.0 |
100.0 |
25.1 |
0.8 |
100.0 |
0.0 |
40.0 |
0.8 |
100.0 |
0.0 |
MS システム: |
ACQUITY QDa(パフォーマンスタイプ) |
イオン化モード: |
ESI- |
キャピラリー電圧: |
0.8 V |
コーン電圧: |
5.0 V |
プローブ温度: |
600 ℃ |
取り込み速度: |
2 Hz |
フルスキャン: |
50~800 Hz |
検量線: |
二次式、1/x の重みづけ |
スムージング: |
平均フィルター、レベル 7 |
上記 9 種の糖類をアセトニトリル‐水の 1:1 溶液に溶解し、100 mg/L をストック溶液としましたこのストック溶液をさらに希釈し、9 種類の濃度の溶液(1、2、4、5、10、20、40、50 および 100 mg/L)としました。
すべての試料を現地で購入し、オレンジ、リンゴ、パイナップル、ザクロ、ブドウのジュース試料を評価しました。酒類については、3 種のラガービール(1 種はノンアルコール)の他、レモン風味ビール、リンゴ酒、シェリー酒、赤ワインが各 1 種、ウイスキー 4 種を評価しました。ビール試料は超音波処理して炭酸を除去しました。すべての試料を 0.22 µm PVDF シリンジフィルターでろ過し、アセトニトリル‐水の 1:1 溶液で希釈しました。希釈倍率は、表 1 に示しました。
SIR チャンネル: | ||
分析種 | 化学式 | SIR (m/z)([M+Cl]- ion |
アラビノース | C5H10O5 | 185 |
フラクトース | C6H12O6 | 215 |
グルコース | C6H12O6 | 215 |
イノシトール | C6H12O6 | 215 |
ソルビトール | C6H14O6 | 217 |
マンニトール | C6H14O6 | 217 |
スクロース | C12H22O11 | 377 |
マルトース | C12H22O11 | 377 |
マルトトリオース | C18H32O16 | 539 |
質量検出によって、より低濃度の検出限界、そして試料中の成分のマススペクトル情報の取得が可能になります。クロマトグラフィーの保持時間と質量の両方の情報を得ることにより、糖や糖アルコールの分析における選択性が向上します。ここでは、Waters ACQUITY Arc システムと ACQUITY QDa 検出器を用いて、ジュース、ワイン、ビールおよびウイスキー試料中の糖のプロファイリングおよび定量を行ったアプリケーションをご紹介します。
図 2 は ACQUITY QDa および PDA 検出器が付属した ACQUITY Arc システムです。本分析では PDA 検出器を使用していませんが、参考のために設置しました。図 3 は上記の分析種をそれぞれ 100 mg/L で混合した標準液の SIR クロマトグラムを示しています。全ての標準品について優れた分離を達成しました。最初にアイソクラティック条件を使用し、分離が難しいソルビトールとマンニトールの組み合わせを含む低分子の糖類を分離しました。4.5 分後にグラジエントを開始した後、混合標準溶液中の高分子の糖類を順次分離溶出しました。
各標準液の SIR から抽出した質量スペクトルを図 4 に示します。移動相に塩酸グアニジンを使用することで、化合物が確実に塩素付加体([M+Cl]- イオン)を生成しました。37Cl 付加体のわずかなピークも認められました。図 5 には検討した化合物の検量線を示しました。すべての分析種で R2 >0.995 を達成しました。
図 6(A–E)はラガービールの SIR プロファイルです。図 6A(m/z 185)にはアラビノースが認められました。また、その他のピークも明白であることから、ペントースなど他の糖類の存在が示唆されました。図 6B(m/z 215)にはフルクトースおよびグルコースの存在が確認されています。示差屈折率などの低感度の方法とは対照的に、ACQUITY QDa による感度の向上により化合物の検出を改善しました1。 図 6C (m/z 217) では、ソルビトール、マンニトールが認められます。また、小さなピークはフルクトースおよびグルコースの Cl37 付加体に由来するピークで、ソルビトールおよびマンニトールの分子量と一致するものです。図 5D、5E(それぞれ m/z 377、539)では DP2 および DP3 化合物のマルトース、マルトトリオースが、同一質量を有する異性体を伴って検出されたことから、穀類を原料とする飲料であると考えられました。
図 7(A–E)には、シェリー酒のプロファイルを示しています。シェリーで存在が確認された主要な分析種はフルクトース、グルコースです(図 7B)。アラビノース(図 7A)、ソルビトール、マンニトール(図 7C)については、いずれも微少なピークが確認されました。マルトースについては、明確なピークが認められました(図 7D)。ワインは穀類ではなくブドウを原料としているため、予想されていたように DP3 化合物は確認されませんでした(図 7E)。
図 8(A–E)はウイスキー試料の SIR プロファイルです。アラビノース(図 8A)、フルクトース、グルコース(図 8B)が確認されました。特に興味深いことは、図 8B(m/z 215)、および 8C(m/z 217)に保持時間 4.85 分に、明確な未知の糖のピークが現れたことです。RI または ELS 検出器と保持時間情報のみを用いた場合は、このピークがマンニトールと誤認された可能性が非常に高いと推測されました。このピークが m/z 215 および m/z 217 の両方に見られたことから、この成分がアルジトールではなく単糖と同じ質量であることが示唆されました。図 3 および 4 から分かるように、マンニトールは m/z 215 のイオンが検出されていません。
最後に、リンゴジュース試料から得た SIR クロマトグラムを図 9(A–E)に示します。アラビノース、フルクトース、グルコース、ソルビトールおよびスクロースの存在が明らかです。
各種フルーツジュースの定量結果を表 2 に示します。オレンジ、リンゴおよびパイナップルジュースには、フルクトース、グルコースおよびスクロースが含まれていました。これらのジュースの糖の含有量と比率は、他の文献で報告された値と同様です。2,3。 特に興味深いことは、ザクロジュースにソルビトールが検出された点です。ザクロジュース4 には通常、ソルビトールが検出されないことから、これは混入物が添加された粗悪品の証拠になると考えられます。試験したもう 1 つの試料からは、ソルビトールは検出されませんでした(図 10)。ブドウジュース試料はフルクトース、グルコースを検出しましたが、予測されたようにスクロースは不検出でした。2,3。
720005609JA、2017 年 3 月