このアプリケーションノートでは、メラミン、シアヌル酸(CA)およびジシアンジアミド(DCD)の一貫したシンプルな定量を行うために、Waters ACQUITY QDa 検出器と ACQUITY UPLC H-Class システムを組み合わせた分析法を紹介します。5 つのマトリックススパイク分析において 3 つ の化合物の回収率は 75% ~ 123% でした。
メラミンおよびシアヌル酸(CA)は過去の様々な食品中のタンパク質汚染に関連した窒素を豊富に含む低分子化合物です(図 1)1。 メラミンとシアヌル酸は、個別には毒性はありませんが、共存すると、水素結合を介して付加化合物メラミンシアヌレートが生じることがあります。この化合物により鋭利な結晶が生成され、臓器不全を引き起こして死に至る可能性があります2。 同様の化合物ジシアンジアミド(DCD)は、放牧の家畜が環境に及ぼす影響を最小化するために使用されており、ニュージーランドにおいて乳製品中に少量検出されました3。 メラミンの公表されている限界値は、乳児用調製乳中では 1 mg/kg で、他の食品や動物飼料中では 2.5 mg/kg です。これらの値は、メラミンおよびその類縁体の耐容一日摂取量(TDI)である体重(bw)1 kg あたり 0.64 mg に基づいて設定されています4。 最近、より厳格なメラミンおよびその類似体の耐容一日摂取量(TDI)として体重 1kg あたり 0.2 mg が設定されました5。 ジシアンジアミド(DCD)については、欧州食品安全庁は体重 1kg あたり 1 mg と設定しています6。 これらの化合物は非常に極性が高いため、一般的に逆相分離はこれらの分析種に利用できません。現在の分析法では、HILIC ケミストリーまたはイオン対メカニズム7を、多くの場合 MS/MS 検出と組み合わせて使用しています。
このアプリケーションノートでは、メラミン、シアヌル酸(CA)およびジシアンジアミド(DCD)の一貫したシンプルな定量を行うために、Waters ACQUITY QDa 検出器と ACQUITY UPLC H-Class システムを組み合わせた分析法を紹介します。
LC システム: |
ACQUITY UPLC H-Class |
CDS データシステム: |
Empower 3 |
分析時間: |
14.0 分 |
カラム: |
ACQUITY UPLC BEH Amide 1.7 µm、2.1 × 150 mm |
カラム温度: |
35 ℃ |
移動相 A: |
10 mM ギ酸アンモニウム 0.125% ギ酸含有 50%アセトニトリル水溶液 |
移動相 B: |
10 mM ギ酸アンモニウム 0.125% ギ酸含有 90%アセトニトリル水溶液 |
流速: |
0.6 mL/分 |
注入量: |
5 µL |
シリアル番号 |
時間(分) |
流速(mL/分) |
%A |
%B |
---|---|---|---|---|
1 |
初期条件 |
0.6 |
2 |
98 |
2 |
3.0 |
0.6 |
2 |
98 |
3 |
3.5 |
0.6 |
98 |
2 |
4 |
4.0 |
0.6 |
98 |
2 |
5 |
4.1 |
0.6 |
2 |
98 |
6 |
14.0 |
0.6 |
2 |
98 |
メラミン、シアヌル酸およびジシアンジアミドの個別の 1000 mg/L の標準溶液を水で調製しました。これらから、2 mg/L メラミン、100 mg/L シアヌル酸および 100 mg/L DCD の中間混合溶液を水で調製しました。この標準溶液を 90% アセトニトリル水溶液で 100 倍希釈することで、20 µg/L メラミン、1000 µg/L シアヌル酸および 1000 µg/L DCD の標準溶液を調製しました。この標準溶液を、90% アセトニトリル水溶液で 9 段階希釈して、表 1 に示す濃度の分析種の検量線を作成しました。
MS システム: |
ACQUITY QDa(パフォーマンス) |
イオン化モード: |
ESI+/- |
キャピラリー電圧: |
0.8 kV ポジティブイオン、0.6 kV ネガティブイオン |
プローブ温度: |
デフォルト(600 ℃) |
イオン源温度: |
デフォルト(120 ℃) |
SIR: |
m/z 127.1、ポジティブイオン |
コーン電圧: |
15 V |
SIR: |
m/z 128.0、ネガティブイオン |
コーン電圧: |
10 V |
SIR: |
m/z 85.1 ポジティブイオン |
コーン電圧: |
10 V |
取り込み速度: |
5 Hz |
フルスキャン取り込み: |
m/z 50 ~ 300 |
コーン電圧: |
15 V |
ポジティブおよびネガティブイオン、セントロイド |
1 g の粉ミルクまたは乳児用調製乳を 2% ギ酸水溶液 10 mL 中に溶解しました。乳児用調製液状乳 1 mL を 9 mL の 2% ギ酸水溶液に加えました。この溶液 1 mL に 9 mL のアセトニトリルを加え、よく混ぜました。20 分間静置してタンパク質性沈殿物を沈降させ、rcf 2,233 g で 20 分間遠心分離しました。得られた上清 1 mL を、事前に 6 mL の 10:90 水:アセトニトリルでコンディショニングした認証済み Sep-Pak 6 cc シリカカートリッジ(製品番号 186004616)にロードしました。カートリッジから 90% アセトニトリル 4mL で溶出させ、得られた溶出液を注入しました。粉ミルクおよび乳児用調製乳(粉末状、液体状、牛乳由来および大豆由来)の 5 サンプルを試験しました。
回収率を判定するために、スパイク実験を実施しました。1 g(乳児用調製液状乳の場合 1 mL)に 1 mg/L のメラミン、20 mg/L のシアヌル酸およびジシアンジアミドをスパイクしました。これを上述の 5 サンプルについて行いました。各サンプルに上記のサンプル前処理プロトコルを適用しました。回収率を表 2 に記載しています。
このアプリケーションの 3 種類の分析種を分離するのに、HILIC は理想的な手法です。このアプリケーションでは、2 種類の HILIC カラム(BEH HILIC カラムおよび BEH Amide カラム)を調査しました。図 2 に、どちらのケミストリーでも保持されないマーカーとして使用したアセナフテンとともに、両方のカラムにおける分析種の保持の比較を示します。図 2A からわかるように、シアヌル酸とジシアンジアミドは、HILIC カラムに充塡された非修飾 BEH 粒子にほとんど保持されませんでした。ACQUITY UPLC BEH Amide カラムの三官能性のカルバモイルリガンドを用いると、目的の分析種の保持が大きく向上したため(図 2B)、このカラムを選択しました。図 2B に示すように、3 種類の分析種について優れた分離が得られました。メラミンは、3 種類の分析種の内で最も強く保持され、3 分以内に溶出しました。
図 3 に、標準溶液 1 の UV マックスプロット*とそれぞれの分析種(20 µg/L のメラミン、1000 µg/L のシアヌル酸およびジシアンジアミド)の SIR クロマトグラムを示しています。図 3 では、UV トレースでわずかに見えるのはジシアンジアミドのみであり、3 種類の分析種がいずれもそれぞれの SIR チャンネルで強いシグナルを示したことから、これらの分析種は質量検出により感度が高められることが実証されました。
クロマトグラフィーメソッドを評価するために、サンプルマトリックスの例として、市販の 5 種類のサンプル(脱脂粉乳、牛乳ベースの乳児用調製粉乳、大豆ベースの乳児用調製粉乳、牛乳ベースの乳児用調製液状乳および大豆ベースの乳児用調製液状乳)を最寄りの店で購入しました。これらのサンプルを分析したところ、サンプル中の未知化合物がメラミンと同様の保持時間で溶出されることが明らかになりました。この化合物はメラミンの溶出直後の凹みとしてSIR クロマトグラムに表れました。SIR クロマトグラムとともに取り込んだフルスキャン MS データにより、原因をさらに調査することができました。この化合物は m/z 104.1 を示し(データは示していません)、試験したすべてのマトリックス中に存在することがわかりました。メラミンのレスポンスの抑制を避けるために、認証済み Sep-Pak シリカカートリッジを使用してパススルークリーンアップを行いました。このメソッドの有効性を図 4 に示しています。ここでは、スパイク済み乳児用調製乳を、Sep-Pak カートリッジによるクリーンアップの有無について比較しました。
図 4A に、クリーンアップなしのスパイク済み乳児用調製中に含まれるメラミンの SIR トレースを示します。メラミン溶出後のベースラインの凹みは、前述したシグナルの著しい抑制を示唆しています。図 4B の m/z 104.1 の抽出イオンクロマトグラムには、対応するこの抑制を引き起こしているピークが見られます。図 4B のクロマトグラムの強度も、この化合物が対象分析種よりもはるかに高いレベルで存在することを示しています。
図 4C からわかるように、クリーンアップ後、メラミンの SIR クロマトグラムのベースラインは影響を受けなくなりました。図 4D に、クリーンアップ後の m/z 104.1 の抽出イオンクロマトグラムを示します。
m/z 104.1 のレスポンスは、クリーンアップによって約 1/250 になりました。対象分析種の選択された SIR チャンネルとフルスキャンを同時取得することよって、この分析法開発の調査と改善が可能になりました。
SIR 分析により、対象分析種をスクリーニングするために必要な最低濃度での高感度定量が実現します。フルスキャン MS データにより、分析法開発およびマトリックスバックグラウンドの変化についての貴重な情報が得られました。
分析種についてのキャリブレーションプロットを図 5 に示します。キャリブレーションの範囲は、検量線の直線部分を使用するために選択しましたが、この範囲は、図 5 に示すように、3 種類の化合物ごとに異なります。すべての化合物の回帰は残差 20%未満で 0.996 以上でした。
スパイク済みおよびスパイクしていない、脱脂乳粉末、牛乳ベースの乳児用調製液状乳、大豆ベースの乳児用調製粉乳の比較を図 6 に示します。メラミンを 1 mg/L になるようにスパイクしたクロマトグラムは図 6A に示しています。シアヌル酸(図 6B)および DCD(図 6C)は 20 mg/L(図 5 の検量線の範囲内)になるようにスパイクしました。メラミンのピーク(保持時間 2.5 分、図 6A)の前の低レベルのピークが牛乳ベースの乳児用調製乳サンプルでは顕著でしたが、これによってメラミンのピークの波形解析が妨げられることはありませんでした。
回収率を評価するために、スパイクした量と図 5 の検量線を用いて定量した値を比較しました。5 種類のマトリックスに前述のレベルでスパイクした場合に得られた回収率を表 2 に示しています。回収率は、すべての分析種について 75% ~ 123%でした。スパイク済みの乳児用調製液状乳の 7 回繰り返し注入について再現性を評価し、保持時間および量の %RSD をそれぞれの分析種について表 2 に示します。
乳児用調製乳中のメラミン、シアヌル酸およびジシアンジアミドの迅速スクリーニング分析法が開発されました。5 回のマトリックススパイク分析において、 3 種 の化合物の回収率は 75% ~ 123% でした。ACQUITY QDa 検出器、BEH Amide カラムケミストリーとともに ACQUITY UPLC H-Class システムを使用することで、以下のメリットが得られます。
720005397JA、2017 年 10 月