• アプリケーションノート

Oasis PRiME HLB を用いた全血からの合成カンナビノイドのシンプルで迅速かつきれいな抽出

Oasis PRiME HLB を用いた全血からの合成カンナビノイドのシンプルで迅速かつきれいな抽出

  • Xin Zhang
  • Jonathan P. Danaceau
  • Erin E. Chambers
  • Waters Corporation

法中毒学目的のみに使用してください。

要約

このアプリケーションノートでは新規の逆相 SPE 吸着剤について説明しています。Oasis PRiME を使用することにより、全血サンプルから、内因性リン脂質をほぼ完全に除去し、マトリックス効果を低く抑えつつ、合成カンナビノイドおよびその代謝物を一貫した高い回収率で抽出できました。重水素化内部標準を使用せずに、優れた定量結果を実現。

アプリケーションのメリット

  • コンディショニングや平衡化が不要なシンプルな SPE プロトコル。
  • すべての被験化合物について、効率的な回収と低いマトリックス効果を実現。
  • 全血からの合成カンナビノイドおよびその代謝物を分析するための、迅速かつ汎用的な抽出メソッド。
  • 除タンパクと比較して、リン脂質が 95% 超低減。 
  • さまざまな合成カンナビノイドおよびその代謝物の定量において、優れた正確性と精度を実現。

はじめに

Oasis PRiME HLB は、従来のサンプル前処理メソッドと比べて、よりシンプルで迅速な SPE プロトコルが可能になると同時によりきれいなサンプルが得られるように開発された新規の逆相固相抽出(SPE)吸着剤です。Oasis PRiME HLB を使用することにより、コンディショニングと平衡化を省いたサンプルロード-洗浄-溶出という 3 ステップの SPE プロトコルを使用して、全血サンプルから 22 種の合成カンナビノイドおよびその代謝物を抽出することに成功しました。優れた分析種回収率と、マトリックス効果(ME)の低減がすべての化合物について確認できました。これらの結果は、すべての化合物について一貫しており、ばらつきもあまり認められませんでした。さらに、Oasis PRiME HLB により、除タンパク(PPT)と比較して、全血サンプルから 95% 超のリン脂質が除去されました。22 種の合成カンナビノイドおよびその代謝物を、Waters Oasis PRiME HLB 30 mg プレートを使用して抽出しました。すべての化合物について、検量線の範囲は 0.2 ~ 100 ng/mL でした。品質管理サンプルから得られた定量結果は、検量線の範囲全体にわたって正確かつ精密でした。複数の異なるクラスの中性分子、酸、塩基を含むこれらの薬物およびその代謝物の分析により、異なるケモタイプにわたってこのメソッドが有用であることが実証されました。さらに、このメソッドは、改変の必要性がほとんどなく、新しく開発された類縁物質に適用できると考えられます。

実験方法

LC 条件

LC システム:

ACQUITY UPLC I-Class

カラム:

CORTECS UPLC C18、90Å、1.6 µm、2.1 × 100 mm(製品番号:186007095)

カラム温度:

30 ℃

注入量:

5 µL

流速:

0.6 mL/分

移動相 A:

0.1% ギ酸水溶液(MilliQ 水)

移動相 B:

0.1% ギ酸アセトニトリル溶液

グラジエント:

初期組成は 30%B。% B を 2 分間で 50% まで増加、その後 1 分間ホールドし、%B を 4 分間で 90% まで増加、その後 %B を 0.2 分間で 30% まで戻しました。1.3 分間システムの平衡化を行いました。全体の分析時間は 8.5 分でした。表 1 にグラジエント条件について示しました。

グラジエント

表 1.  移動相グラジエント。移動相 A と B の組成は実験方法(分析法)に記載しました。

MS 条件

MS システム:

Xevo TQD

イオン化モード:

ESI ポジティブ

取り込みモード:

MRM(トランジションについては表 2 および表 3 を参照)

キャピラリー電圧:

1 kV

コリジョンエネルギー(eV):

分析種毎に最適化(表 2 参照)

コーン電圧(V):

分析種毎に最適化(表 2 参照)

データ管理

データはすべて Waters MassLynx ソフトウェア v.4.1(SCN 855)を用いて取り込んで分析し、TargetLynx ソフトウェアを用いて定量しました。Intellistart を用いて MS 条件を最適化しました。

試料

AM2233、JWH-015、RCS-4、JWH-203、RCS-8、JWH-210、JWH-073、JWH-018 は Cerilliant 社(Round Rock, TX)から購入しました。その他の化合物および代謝物はすべて、Cayman Chemical 社(ミシガン州アナーバー)から購入しました。

個々のストック溶液(1 mg/mL)はメタノール、DMSO、50:50 DMSO:メタノール中に調製しました。すべての化合物を合わせたストック溶液(10 µg/mL)はメタノール中に調製しました。作業用標準溶液は、用時 40% メタノール水溶液中に調製しました。

キャリブレーションサンプルおよび品質管理(QC)サンプルは、さまざまな濃度の作業用標準試料をマトリックス(全血)に添加することで調製しました。すべての分析種について検量線の範囲を 0.2 ~ 100 ng/mL としました。品質管理サンプルは、全血中濃度 2.5、7.5、75 ng/mL になるように調製しました。

分析した 22 種の合成カンナビノイドを表 1 に示します。幅広いクラスの法医学的に重要な合成カンナビノイドから構成されています。リストには adamantoylindoles(AM 1248 および AKB48)、napthoylindoles(JWH-022)、phenylacetyl indoles(RCS-4 および RCS-8)、tetramethylcyclopropylindoles(UR-144 および XLR11)が含まれます。JWH-073 および JWH-018 の主要な代謝物を含み、これらのいくつかの分析種は同じマススペクトルフラグメントを持つ構造異性体であるため、正確な定量のために適切なクロマトフィーによる分離が求められます。

サンプル前処理

Oasis PRiME HLB 30 mg プレートによりサンプルを抽出しました。0.1 mL の 0.1 M 硫酸亜鉛/酢酸アンモニウム水溶液を 0.1 mL の全血サンプルに加え、5 秒間ボルテックスして細胞を溶解させました。全てのサンプルは 400 µL のアセトニトリルを加えて除タンパクしました。サンプルを 10 秒間ボルテックスした後、5 分間 7000 rcf で遠心分離を行いました。上清を 1.2 mL の水で希釈し、コンディショニングと平衡化を行っていない Oasis PRiME 30 mg プレートにロードしました。その後、500 µL の 25:75 メタノール:水で 2 回洗浄し、90:10 のアセトニトリル:メタノール溶液 500 µL で 2 回溶離しました。溶離液は窒素気流で蒸発乾固させ、100 µL の 30% アセトニトリル水溶液に再溶解し、5 µL を UPLC システムに注入しました。

分析種の回収率は下記の式で計算されます:

A は抽出サンプルのピーク面積を表しており、B はブランクマトリックス抽出後に分析種が添加されたサンプルのピーク面積を表しています。

マトリックス効果は下記の式で計算されます:

マトリックス有りのピーク面積値はサンプル前処理後に分析種を加えたピーク面積を表しています。マトリックス無しのピーク面積値は分析種を添加した溶離溶媒のピーク面積を表しています。

結果および考察

クロマトグラフィー

CORTECS のソリッドコア構造および最適化されたカラム充塡法により、優れたクロマトグラフィー性能を発揮します。図 1 に、全分析種の 20 ng/mL 校正標準物質の代表的なクロマトグラムを示します。CORTECS UPLC C18 カラム(90Å、1.6 µm、2.1 × 100 mm)を用いることにより、全分析種が 7.5 分以内に溶出し、合計分析時間は 8.5 分でした。全分析種においてピーク形状は優れており、テーリングや非対称性はなく、ピーク幅はベースラインから高さの 5% の位置で 3 秒未満でした。

図 1.  22 種の合成カンナビノイドおよびその代謝物の UPLC-MS/MS クロマトグラム

回収率およびマトリックス効果

本研究で用いた合成カンナビノイドおよび代謝物は、中性、酸性、塩基性の分析種を含みます。Oasis PRiME HLB 吸着剤を使用することで、イオン性に関係なく、一斉に分析種および代謝物を抽出することが可能になりました。回収率およびマトリックス効果(ME)は実験方法セクションに記載した方法で計算し、図 2 に結果を示しています。この抽出プロトコルにより、すべての化合物がほぼ完全に回収され、大部分の分析種についてマトリックス効果が最小限に抑えられます。1 化合物を除くすべての化合物について、回収率が 80% 以上で、全体的な平均回収率は 91% でした。回収率は一貫しており、すべての化合物にわたる平均 %RSD が 5% でした。パネル全体にわたって優れたマトリックス効果が見られました。2 化合物のみでマトリックス効果が 40% をわずかに超えており、残りの化合物すべてでマトリックス効果は 25% 未満でした。平均マトリックス効果はわずか 17% でした。合成カンナビノイドの一斉分析において回収率が高くマトリックス効果が最小限であったことは、Oasis PRiME HLB により、シンプルなロード-洗浄-溶出プロトコルを用いて、他の関連分析種についても同様の結果が得られることを示しています。

図 2.  Oasis PRiME HLB µElution プレートを使用して全血から抽出した合成カンナビノイド化合物の回収率およびマトリックス効果。棒グラフとエラーバーは、それぞれ平均と標準偏差を示します(N=6)。

リン脂質除去

Oasis PRiME HLB の特長の 1 つとして、他のサンプル前処理法よりもきれいな抽出物が得られることが挙げられます。これが達成できたのは、1 つには内因性のリン脂質を除去できたためです。図 3 に、Oasis PRiME HLB により精製したサンプル、および同一のサンプルを除タンパクで精製したサンプル中のリン脂質のクロマトグラムを組み合わせたものを示します。Oasis PRiME HLB では、除タンパク(PPT)と比較して 95% 以上のリン脂質が除去されており(図 3)、はるかにきれいな抽出物が得られます。このことは、マトリックス効果の低減、カラム寿命の延長、質量分析計のイオン源の汚染防止にもつながります。

図 3.Oasis PRiME HLB 抽出と除タンパクでの残留リン脂質のクロマトグラムの比較。スケールは統一してあります。

検量線の性能、正確性、精度、感度

直線性と分析感度を評価するため、すべての成分について、濃度範囲 0.2 ~ 100 ng/mL で検量線を抽出しました。2.5、7.5、75 ng/mL の品質管理サンプル(N = 4)も抽出して分析しました。表 2 に、すべての化合物の検量線および QC サマリーデータからの R2 値をまとめています。品質管理(QC)の結果は、低濃度、中濃度、高濃度で正確かつ精密でした。低レベルの QC サンプル(2.5 ng/mL)の正確性は 95 ~ 110% の範囲(1 化合物 AM2233 を除く)で、平均 102% でした。中および高 QC レベルの結果は、1 分析種を除くすべての分析種について優れており、正確性はすべて予想値の 15% 以内でした。分析精度は優れており、ほとんどの % RSD は 10% 未満で、15% を超えるものはありませんでした。すべてのレベル(低、中、高)にわたって正確性を評価したところ、平均で 93% ~ 104% の範囲でした。ほとんどの分析種で定量限界 0.1 ng/mL に達しており、1 ng/mL より大きいものはありませんでした。これらの結果は重水素化内部標準を使用せずに得られており、Oasis PRiME HLB を使用した場合の一貫性が再度実証されました。

表 2.  すべての化合物の R2 値および品質管理の結果。下の平均値は、特定濃度のすべての化合物の平均値を示しています。右側の値は、すべての QC 濃度にわたる個々の化合物の平均値を示しています。
表 3.  本アプリケーションでの合成カンナビノイド化合物およびその代謝物の分子式、保持時間、MS/MS 条件。定量トランジションを最初に示し、続いて確認トランジションを示しています
表 4.  リン脂質の MS/MS 条件

結論

このアプリケーションノートでは、内因性リン脂質をほぼすべて除去できる、シンプルかつ迅速な SPE プロトコルが可能になるように設計された、新規の逆相 SPE 吸着剤である Oasis PRiME HLB を紹介しています。シンプルなロード-洗浄-溶出戦略を使用して、吸着剤のコンディショニングや平衡化を行うことなく、22 種の合成カンナビノイドを全血サンプルから抽出できました。全体的な抽出回収率は平均 91% で、マトリックス効果の平均の大きさはわずか 17% でした。これらの結果は、すべての化合物の平均 %RSD が 5% であることと一致しています。さらに、除タンパクと比較して、95% 超のリン脂質が除去されています。定量結果も優れています。重水素化内部標準を使用しなくても直線的な検量線が得られ、22 化合物のうち 21 化合物の R2 値が 0.99 でした。QC 結果の 97% は目標値の 15% 以内で、%RSD はすべて 15% 未満でした。結論として、Oasis PRiME を使用することで、全血サンプルから、内因性リン脂質をほぼ完全に除去し、マトリックス効果を低く抑えつつ、一貫した高い回収率で抽出できました。重水素化内部標準を使用せずに、優れた定量結果が得られます。

参考文献

  1. Danaceau, J. P, Chambers, E. E., and Fountain, K. J, Analysis of synthetic cannabinoids from urine for forensic toxicology using Oasis HLB μElution Plates and CORTECS UPLC Columns, Waters Application note p/n 720004780EN

720005417JA、2015 年 5 月

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