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新規固相抽出デバイスを使用したミルク中動物用医薬品 UPLC-MS/MS 一斉分析のための迅速クリーンアッププロトコール

新規固相抽出デバイスを使用したミルク中動物用医薬品 UPLC-MS/MS 一斉分析のための迅速クリーンアッププロトコール
  • Defeng Huang
  • Kim Van Tran
  • Michael S. Young

  • Waters Corporation

要約

本実験では、新たな固相抽出デバイスである Oasis PRiME HLB カートリッジをミルク中の動物用医薬品多成分一斉分析のクリーンアップ法に用いました。初期の抽出とタンパク質沈殿は酸添加アセトニトリルで行いました。この除タンパク溶液を Oasis PRiME HLB カートリッジに通過させるパススルー法で UPLC-MS/MS 分析のためのクリーンアップを行いました。サンプル前処理、クロマトグラフィー条件および MS 条件の最適化を行い、

サルファ剤、フルオロキノロン、β-作動薬、マクロライド、糖質コルチコイド、アンフェニコール、β-ラクタム、セファロスポリン、ペニシリンおよびテトラサイクリンを含む 9 系統 72 種の動物用医薬品を 0.1 ~ 10.0 µg/mL の範囲でスパイクした結果は、50% ~ 130% の回収率、20% 未満の相対標準偏差(n=5)でした。本クリーンアップ法は簡単で速く正確で、ミルク中の動物用医薬品多成分一斉分析に適しています。

利点

  • 革新的な固相抽出デバイスの使用により多様な動物用医薬品の一斉分析を可能にします
  • UPLC-MS/MS 分析に適した簡便、迅速なサンプル前処理法です
  • 中性脂質とリン脂質を除去できる簡易な固相クリーンアップによりマトリックスの干渉を排除。カラムの寿命を延ばし質量分析装置のメンテナンスを減らします

はじめに

私達の食用のため、多くの動物用医薬品が成長促進と治療用に動物へ投与されています。動物用医薬品が過剰量残留しているミルクなどの畜産物を摂食すると、健康被害を起こす恐れがあります。そのため、畜産物中の医薬品を同定・定量するための効果的で信頼できる分析手法が求められています。牧場で使用される動物用医薬品には、サルファ剤系、フルオロキノロン系、β-作動薬系、マクロライド系、糖質コルチコイド系、アンフェニコール系、β-ラクタム系、セファロスポリン系、テトラサイクリン系などがあります。動物の血流中の残留医薬品は乳製品の摂取を介して最終的には人に移行します。その結果としてアレルギー反応の誘発や、薬剤耐性の副作用を起こす可能性があります。このため、ミルク中に残留する動物用医薬品のモニタリングは乳製品の安全性を保証するために重要です。公的機関や文献で公表されている手法の多くは、個別試験法となっています。従来、個別試験法を一つの多成分一斉分析手法に集約する事は、頑健でユニバーサルなサンプル前処理手法が無かったため、困難でした。また、動物用医薬品をひとつの LC-MS/MS 一斉分析方法として確立することも同様に挑戦的なことです。

実験

UPLC 条件

システム:

ACQUITY UPLC I-Class

カラム:

ACQUITY UPLC BEH C18、1.7 µm、2.1 × 100 mm

注入量:

5 µL

カラム温度:

45 ℃

移動相 A:

10 mM 酢酸アンモニウム水溶液(pH 5.0)

移動相 B:

10 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液

流量:

0.45 mL/分

グラジエント条件:

開始時 - 0.25 min 2% B →12.25 min 99%B リニアグラジエント→13.0 min ホールド→ 13.01 min 2%B → 17 min ホールド、再平衡化

MS 条件

MS システム:

Xevo TQ-S

測定モード:

エレクトロスプレー(ES+ / ES-)

キャピラリー電圧:

3.5 kV

ソース温度:

150 ℃

コーンガス:

150 L/時間

脱溶媒温度:

600 ℃

脱溶媒ガス:

1000 L/時間

コリジョンガス(アルゴン):

0.15 mL/分

本手法はウォーターズの新規固相抽出デバイス Oasis PRiME HLB を駆使して作成しました。この新たな固相抽出デバイスはミルク中のリン脂質と中性脂肪の大部分を保持し、タンパク質沈澱処理と組み合わせることによって、ミルク中マトリックス成分の干渉を効果的に減少させることが可能になりました。

Xevo TQ-S システムと動物用医薬品の分析パラメーターが入っている Quanpedia データベースを用いることでミルク中動物用医薬品多成分一斉分析のための非常に効果的なトータルソリューションを構築しました。

サンプル前処理

抽出:

1 mL のミルクに 4 mL の 0.2% ギ酸 / アセトニトリル溶液を加えよく混合します。10,000 rpm、5 分間の遠心分離を行い、得られた上清を固相抽出精製に使用します。

固相抽出による精製:

Oasis PRiME HLB 3 cc /60 mg カートリッジ(製品番号 186008056)を用意し、3 mL の 0.2% ギ酸/アセトニトリル溶液を通液します。このコンディショニングステップは自然落下による通液を促進するためのもので、吸引または加圧で送液を行う場合は不要です。カートリッジに抽出で得られた上清を通液し、素通りしたものを集めます。窒素ガスを穏やかに吹き付けて、乾固した後、1 mL の 5% メタノール水溶液で再溶解します。この溶液をフィルターろ過し、UPLC-MS/MS 用バイアルに移して測定を行いました。

表 1. 分析種の MS パラメーターと保持時間

結果および考察

サンプル前処理の最適化

ミルクの組成は複雑です。大量のタンパク質とリン脂質を含み、それらは目的の分析種の検出を干渉します。ミルク中の夾雑成分のクリーンアップと分析種のマトリックス成分との分画は非常に重要です。

初めの抽出とタンパク質沈殿において、3:1 と 4:1 のアセトニトリル:ミルクの混合比で 0.2 % と 1.0 % のギ酸/アセトニトリルを比較しました。その結果、1.0% ギ酸濃度でアセトニトリル:ミルク比率が 4:1 の条件が最もタンパク質沈殿効果が高いことがわかりました。しかし、1% ギ酸/アセトニトリルは回収率に悪影響を与え、とくに基本的な分析種であるサルファ剤系において回収率の低下がみられます(図 1)。これは、酸性条件によりサルファ剤の解離が促進され、有機溶媒混合比が高い条件で溶解度が低下するためと考えられます。そのため、0.2 % ギ酸/アセトニトリルをミルクに 4:1 の比率で混合する方法を選び、最終的なタンパク質沈殿と抽出の条件としました。

図1. 0.2% と 1% ギ酸濃度条件によるサルファ剤の回収率比較

ミルク中の大量のリン脂質は目的の分析種に対するマトリックス干渉を引き起こすだけでなく、分析装置のメンテナンスに対するコストと時間の増加を招きます。Oasis PRiME HLB の使用によりサンプル中の中性脂質とリン脂質を除去することが可能です。その結果、分析装置のメンテナンスをせずに分析可能なサンプル数は大きく増加しました。図 2 には Oasis PRiME HLB によるクリーンアップを用いたリン脂質除去の効果を、溶媒によるタンパク質沈澱のみの場合と比較した結果を表しています。溶媒によるタンパク質沈澱後のサンプルでは、Oasis PRiME HLB によるクリーンアップではほとんど除去されたリン脂質が夾雑物として大量に残っています。

図 2.タンパク質沈澱法と Oasis PRiME HLB を用いたクリーンアップ法によるミルク中リン脂質除去の比較

使用機器の条件最適化

多成分一斉分析法の進歩には多くの時間と努力を要しました。一斉分析法の開発を行った各研究室の間で、開発された方法に大きな違いがあり、それが各研究室間における試験結果の偏りを生んでいました。本実験では Quanpedia データベースを利用して UPLC-MS/MS 手法を確立しました。このデータベースは 1000 以上の化合物の LC-MS/MS 分析法からなり、食品安全性試験で要求されるほとんどの動物用医薬品が含まれています。装置に組み込まれてすぐに使える状態で提供される Waters Quanpedia データベースは、各成分の液体クロマトグラフィー分析条件、MS 条件および定量条件の情報を含み、メソッド開発にかかる時間を大幅にカットし、また、潜在的なエラーの可能性とメソッド開発における労力を大きく削減します。結果的に研究室で費やされる仕事量や時間、資源の量を減少します。

分析種の回収率と精度

回収率はブランクのミルクに既知濃度の分析種医薬品を添加して決定しました。添加濃度は 0.1 µg/L、0.5 µg/L、1.0 µg/L および 10.0 µg/L としました。各濃度 5 回測定で再現性を確認しました。すべてのサンプルはこれまでに記載した手法に従って処理を行いました。濃度はマトリックス添加検量線を使用し計算しました。平均回収率と精度を表 2 に示します。

表 2. 抗生物質添加ミルクにおける回収率と精度(RSD%)

結論

  • ミルク中に残留する動物用医薬品 9 系統 72 成分の多成分一斉分析法を確立しました。
  • 全ての成分に対して回収率は 50% から 130% の範囲に入り、相対標準偏差は 5 回測定で 20% 以下と、良好な結果を得ました。
  • Oasis PRiME HLB カートリッジはミルク中のリン脂質と中性脂質を効果的に除去しました。本サンプル前処理法は簡便で効果的、かつ大量のサンプルをルーチンで分析することに適したものといえます。
  • Waters Quanpedia データベースは動物用医薬品分析における全ての液体クロマトグラフィー条件、MS 条件と定量方法のパラメーターを含み、メソッド開発に非常に有用なツールです。

ソリューション提供製品

720005414JA、2015 年 5 月

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