このアプリケーションノートでは、ProteinWorks eXpress 消化キットおよびプロトコールを用いて、ラット血漿からインフリキシマブを迅速かつ高い感度で定量する方法を説明します。
ProteinWorks eXpress 消化キットを使用して、代表的な検量線のセットとラット血漿の QC サンプルからインフリキシマブを精製することができました。10 ng/mL という定量限界を確実に実現し、優れた線形性と 1 桁の精度を保ちました。
医薬品開発の分野では、抗体や ADC などの高分子が注目を集めており、従来の「低分子」を扱ってきた科学者は、複雑で時間のかかる研究の性質はもとより、LC-MS によるタンパク質定量における多大な潜在的ワークフローにより、困難な状況に置かれています。このことは、ELISA および他のイムノアフィニティー(IA)メソッドの使用が一般的であるタンパク質バイオマーカーの研究に携わる研究者にも当てはまります。IA メソッドは感度が高く簡単に実行できますが、低い試薬の再現性、
標準化の欠如、交差反応、限定的なダイナミックレンジ、その他の問題点により、LC-MS への転換が進んでいます。探索および早期開発段階 / 前臨床研究においてもこの傾向は顕著です。しかしながら、LC-MS のワークフローには多数のサブセグメントが含まれ、それぞれに多くのステップがあります。試薬の選定、時間、温度、試薬の濃度やステップの決定はすべて感度に影響を与え、目的の検出限界を達成するメソッドに短期間で到達するのは困難です。このアプリケーションノートでは、ProteinWorks eXpress 消化キットおよびプロトコールを用いて、ラット血漿からインフリキシマブを迅速かつ高い感度で定量する方法を説明します(図 1)。秤量済みでロットトレーサブルな試薬および綿密に開発された汎用性のあるシンプルで段階的な手順を使用するユニバーサルなサンプル調製メソッドにより、10 ng/mL のインフリキシマブの定量下限値(LLOQ)が得られました。
インフリキシマブは、最初に、96 ウェルのプロテイン A アガロースベースプレートを使用して 35 µL のラット血漿からアフィニティー精製されました。その後、ProteinWorks eXpress 消化キットおよびプロトコールを使用して LC-MS 分析用のサンプルを調製しました。最後に、ProteinWorks μElution SPE クリーンアップキットおよびプロトコールを使用して、シグネチャーペプチドを精製しました。
LC システム: |
ACQUITY UPLC |
検出: |
Xevo TQ-S 質量分析計、ESI+ |
カラム: |
ACQUITY UPLC Peptide BEH C18、300Å、1.7 μm、2.1 mm x 150 mm |
カラム温度: |
55 ℃ |
サンプル温度: |
10 ℃ |
注入量: |
10 µL |
移動相 A: |
0.1% ギ酸水溶液 |
移動相 B: |
0.1% ギ酸アセトニトリル溶液 |
データ管理: |
MassLynx (v4.1) |
流量 (mL/分) |
時間 (分) |
プロファイル %A |
プロファイル %B |
Curve |
---|---|---|---|---|
0.3 |
0.0 |
100.0 |
0.0 |
6.0 |
0.3 |
1.0 |
100.0 |
0.0 |
6.0 |
0.3 |
7.0 |
50.0 |
50.0 |
6.0 |
0.3 |
8.0 |
10.0 |
90.0 |
6.0 |
キャピラリー(kv): |
3.0 |
コーン電圧(V): |
30.0 |
ソースオフセット(V): |
50.0 |
ソース温度(℃): |
150.0 |
脱溶媒温度(℃): |
600.0 |
コーンガス流量(L/時): |
150.0 |
コリジョンガス流量(mL/分): |
0.15 |
ネブライザーガス流量(Bar): |
7.0 |
インフリキシマブの米国での特許が切れる 2017 年が近づいており 1、CRO におけるこの重要な医薬品およびバイオシミラー研究ラボに対する注目が増しています。しかし、一般的なワークフローは非常に複雑であり、多数の選択肢とオプションがあります。このことが、高感度メソッドの開発を困難なものにしています。本アプリケーションノートでは、ProteinWorks eXpress 消化キットを使用してプロセスを簡潔化および効率化しました。インフリキシマブのサンプルは、アフィニティー精製、消化、固相抽出(SPE)によるペプチド精製までトータル 6 時間以内で調製されました。これにより、いくつかの 96 ウェルプレートでその日のうちにサンプル調製を終え、翌朝にはデータを取得可能でした。複数のユニークシグネチャーペプチドとヒトジェネリックペプチドを同時にモニターして定量に使用しました。最高の感度は重鎖からのユニークペプチド SINSATHYAESVK を使用して実現され、追加のユニーク(DILLTQSPAILSVSPGER、軽鎖)およびジェネリック(DSTYSLSSTLTLSK、軽鎖)インフリキシマブペプチドが確認のためにモニターされました。一般的なマウス由来 mAb スタンダード(製品番号 186006552)のユニークペプチド(SVSELPIMHQDWLNGK)が内部標準として使用されました。
キットの最適化されたプロトコールと試薬を使用して、インフリキシマブを 10 ng/mL で検出するために必要な血漿はわずか 35 µL でした(図 2)。各ペプチドの検量線の直線性と真度を、表 2 にまとめます。主要且つ最も高感度の定量ペプチド SINSATHYAESVK は、検量線上の全ポイントにおいて 98% を超える平均真度で 4 桁を超える直線性でした。追加の 2 つのペプチドは、全検量線ポイントにおいて 99% 以上の平均真度で 3.5 桁を超える直線性でした。
さらに、QC サンプルの真度および精度は全相対標準偏差(%CV)が 6% 未満と優れていました。これを表 3 にまとめます。実際の SINSATHYAESVK ペプチドからの QC サンプルに対する平均 %CV は 3% 未満でした。
クロマトグラフィーデータの評価から、ピーク幅および残留内因性成分からの分離に関するデータの品質により、低い定量下限値と共に非常に高い真度と精度の実現が促進されたことが明らかです。このことは、図 3 ~ 5 で示されている全シグネチャーペプチドからの QC クロマトグラムで認められます。
ProteinWorks eXpress 消化キットを使用して、代表的な検量線のセットとラット血漿の QC サンプルからインフリキシマブを精製することができました。10 ng/mL という定量下限を確実に実現し、優れた直線性と 10% 未満の精度を保ちました。アフィニティー精製ステップを含む総サンプル調製時間は 6 時間未満でした。その中で消化処理に係る時間はわずか 2 時間強でした。ユニバーサルでキットベースのアプローチにより、経験の浅いユーザーでも、シンプルで段階的なプロトコールと標準化された秤量済み試薬一式を使用して非常に低い検出下限を達成することができます。同時にメソッドに必要な感度と求められる移管性の双方が保証されます。
720005535JA、2015 年 11 月