• アプリケーションノート

食肉および牛乳中のアベルメクチンの LC-MS/MS 測定のための QuEChERS サンプル前処理

食肉および牛乳中のアベルメクチンの LC-MS/MS 測定のための QuEChERS サンプル前処理

  • Masayo Yabu
  • Mia Summers
  • Michael S. Young
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、QuEChERS メソッドおよび LC-MS/MS を使用して、牛乳と牛ひき肉を前処理して、ppb レベルのアベルメクチンを分析しました。

アプリケーションのメリット

  • QuEChERS メソッドを使用した、食肉および牛乳サンプルのシンプルでハイスループットな前処理
  • 迅速で簡単な DisQuE サンプル前処理を使用した、複雑なサンプルマトリックス中のアベルメクチンの高感度 LC-MS/MS 分析
  • アベルメクチンの ppb レベルでの検出を達成することで、各国の最大残留限度(MRL)に対応
  • DisQuE 製品を使用したサンプル前処理は、CEN メソッド 15662 に準拠

はじめに

アベルメクチンは 16 員環マクロライド系薬剤で、動物用の駆虫薬として使用されています。食品中におけるこれらの化合物の最低許容濃度は、世界的な安全性評価に基づいて設定されています。アベルメクチンの MRL 規制値は、国によって異なる可能性がありますが、通常は ppb レベルの濃度範囲です。牛乳や食肉などの食品中のアベルメクチンの高感度分析は、サンプルマトリックスが複雑なため、課題となる場合があります。 

QuEChERS は、塩析による液体抽出に続いてオプションで分散型固相抽出(d-SPE)を行うシンプルで簡単なサンプル前処理手法です。QuEChERS を使用したサンプル前処理により、食品のハイスループットかつ高感度な分析が可能になります。一般的には、QuEChERS は果物や野菜における多成分一斉残留農薬分析に使用されますが、畜産物に含まれる動物用医薬品の分析にも適用できます。このアプリケーションノートでは、QuEChERS メソッドおよび LC-MS/MS を使用して、牛乳と牛ひき肉を前処理して、ppb レベルのアベルメクチンを分析しました。

実験方法

UPLC 条件

システム:

ACQUITY UPLC システム

カラム:

XSelect CSH C18 XP、130 Å、2.5 µm、2.1 × 100 mm(製品番号 186006103)

注入量:

5 µL

カラム温度:

50 ℃

移動相:

A:5 mM 酢酸アンモニウム水溶液

B:5 mM 酢酸アンモニウムメタノール溶液

流速:

0.40 mL/分

グラジエント:

初期値 70% B、5 分で 97% B までリニアグラジエント、8 分までホールド、8.1 分で B 70% まで戻します。10 分までホールドして再平衡化

サンプルバイアル:

マキシマムリカバリーバイアル(製品番号 600000670CV)

MS 条件

システム:

Xevo TQ-S質量分析計

イオン化モード:

エレクトロスプレーポジティブ(ESI+)

この試験でアベルメクチン用に最適化した MRM トランジション、コーン電圧、コリジョンセルエネルギーを以下に示します。 

表 1.  MRM トランジション

サンプル前処理

最初の抽出(QuEChERS)

10 mL の全乳(低温殺菌)を 50 mL の遠心分離チューブに入れます。食肉の場合は、8 g の牛ひき肉(赤身率 80%)と 2 mL の水を 50 mL の遠心分離チューブに入れます。10 mL のアセトニトリルを加え、チューブを 1 分間激しく振とうします。欧州標準化委員会(CEN)の QuEChERS 用 DisQuE パウチ入り塩(製品番号:186006813)を加え、1 分間激しく振とうします。4000 rpm で 15 分間遠心分離し、上清(最上層)の 1 mL アリコートを取って d-SPE クリーンアップを行います。 

d-SPE クリーンアップ

硫酸マグネシウム 150 mg と C18 吸着剤 50 mg が入った 2 mL の d-SPE クリーンアップチューブに上清の 1 mL アリコートを移し、1 分間激しく振とうします。12000 rpm で 5 分間遠心分離し、サンプルの 0.5 mL アリコートを取って LC-MS/MS 分析を行います。

結果および考察

各ステロイドホルモンの回収率を低濃度と高濃度の両方で測定しました(表 2)。QuEChERS 抽出の前にスパイクしたサンプル(抽出前スパイクサンプル)の MRM ピーク面積と QuEChERS 抽出後にスパイクしたサンプル(抽出後スパイクサンプル)の MRM ピーク面積を比較することで、回収率を計算しました。表 3 に、各化合物について計算したマトリックス効果を示します。マトリックス効果は、抽出前スパイクサンプルの MRM ピーク面積を、アセトニトリル中に調製した同等の標準試料の MRM ピーク面積と比較することによって算出しました。図 1 および図 2 に、低濃度レベルのアベルメクチンをスパイクした食肉サンプルおよび牛乳サンプルの分析から得られた LC-MS/MS クロマトグラムをそれぞれ示します。

図 1.  牛ひき肉サンプルから得られたアベルメクチンの LC-MS/MS クロマトグラム。上のトレースは低レベルでスパイクしたサンプル、下のトレースは牛ひき肉のブランクサンプルです。(a)アバメクチン、(b)イベルメクチン、(c)ドラメクチン、(d)エプリノメクチン、(e)モキシデクチン。
図 2.  全乳サンプルから得られたアベルメクチンの LC-MS/MS クロマトグラム。上のトレースは低レベルでスパイクしたサンプル、下のトレースは全乳のブランクです。(a)アバメクチン、(b)イベルメクチン、(c)ドラメクチン、(d)エプリノメクチン、(e)モキシデクチン。
表 2.  牛ひき肉サンプルおよび全乳サンプルからのアベルメクチンの回収率

表 3.  牛ひき肉サンプルおよび全乳サンプルからのアベルメクチンのマトリックス効果

* マトリックス効果(%) = ピーク面積(抽出後スパイクサンプル)/ピーク面積(標準試料)× 100
100% を超える値はイオン化促進を示す
100% を下回る値はイオン化抑制を示す

全乳や牛ひき肉のような課題となるマトリックス中のアバメクチン、イベルメクチン、ドラメクチン、エプリノメクチン、モキシデクチンの分析において、DisQuE サンプル前処理吸着剤パウチを使用することにより良好な回収率が得られました。QuEChERS 抽出は、シンプルで簡単なサンプル前処理メソッドであり、牛乳および食肉からのアベルメクチン抽出に有効であることが示されました。LC-MS/MS 分析の前に d-SPE クリーンアップステップを組み込むことにより、複雑なマトリックス中の低 ppb 濃度のアベルメクチンを、確実に定量することができます。

結論

  • DisQuE パウチ(QuEChERS)プロトコルは、畜産物からのアベルメクチンの抽出における簡単で有効なメソッドです。
  • DisQuE サンプル前処理により、LC-MS/MS 分析を行う前に優れたサンプルクリーンアップが得られ、分析種の回収率が向上するとともにマトリックス効果が最小限に抑えられます。
  • eXtended Performance [XP ] 2.5 µm カラムを使用した DisQuE 抽出と LC-MS/MS 分析を組み合わせることで、複雑なマトリックス中のアベルメクチンを低 ppb レベルで定量でき、信頼性の高い試験が可能になります。

ソリューション提供製品

720004440JA、2013 年 6 月

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