• アプリケーションノート

食肉および牛乳中のステロイドホルモンの LC-MS/MS 測定のための QuEChERS サンプル前処理

食肉および牛乳中のステロイドホルモンの LC-MS/MS 測定のための QuEChERS サンプル前処理

  • Masayo Yabu
  • Mia Summers
  • Michael S. Young
  • Waters Corporation

要約

このアプリケーションノートでは、牛乳と牛ひき肉を前処理し、QuEChERS メソッドおよび UPLC-MS/MS を使用して、ppb レベルのステロイドホルモンを分析しました。

アプリケーションのメリット

  • QuEChERS メソッドを使用した、食肉および牛乳サンプルのシンプルかつハイスループットな前処理
  • 迅速かつ簡単なサンプル前処理を用いた食品中ステロイドの高感度 UPLC-MS/MS 分析
  • 複雑な家畜マトリックス中のステロイドの ppb レベルでの検出を実現
  • DisQuE 製品を使用したサンプル前処理は、CEN メソッド 15662 に準拠

はじめに

プロゲステロンとテストステロンは、天然に存在する物質であり、家畜の成長促進剤として世界中で使用されています。デキサメタゾンは、一般に天然ホルモンと同時に投与される抗炎症性グルココルチコイドステロイド薬です。これらの化合物の最大残留限度(MRL)は国によって異なる可能性がありますが、通常は低 ppb の濃度範囲です。牛乳や食肉などの製品中のステロイドの分析は、これらの濃度では、サンプルの複雑さのために多くの場合課題となります。 

QuEChERS は、塩析による液体抽出に続いてオプションで分散型固相抽出(d-SPE)を行うシンプルで簡単なサンプル前処理手法です。QuEChERS を使用したサンプル前処理により、食品分析において高速スループットと高感度が得られます。一般的には、QuEChERS は果物や野菜における多成分一斉残留農薬分析に使用されますが、畜産物に含まれるステロイドの分析にも適用できます。このアプリケーションノートでは、牛乳と牛ひき肉を前処理し、QuEChERS メソッドおよび UPLC-MS/MS を使用して、ppb レベルのステロイドホルモンを分析しました。

実験方法

LC 条件

システム:

ACQUITY UPLC システム

カラム:

ACQUITY BEH C18、2.1 × 100 mm(1.7 µm)

製品番号:

186002352

注入量:

3 µL

温度:

40 ℃

移動相:

A:水

B:メタノール

流速:

0.40 mL/分

グラジエント:

初期値 30% B、5 分で 97% B までリニアグラジエント、8 分までホールド、8.1 分で B 30% まで戻します。10 分までホールドして再平衡化します。

サンプルバイアル:

マキシマムリカバリーバイアル

製品番号:

600000670 CV

MS 条件

システム:

Xevo TQ-S 質量分析計

イオン化モード:

エレクトロスプレーポジティブ(ESI+)

この試験でステロイドホルモン用に最適化した MRM トランジション、コーン電圧、コリジョンセルエネルギーを以下に示します。

MRM トランジション
表 1:MRM トランジション

サンプル前処理

最初の抽出(QuEChERS)

10 mL の全乳(低温殺菌)または 10 g の牛ひき肉(赤身の部分 85%)を 50 mL 遠心分離チューブに入れます。10 mL のアセトニトリルを加え、チューブを 1 分間激しく振とうします。欧州標準化委員会(CEN)の QuEChERS 用 DisQuE パウチ入り塩(製品番号:186006813)を加え、1 分間激しく振とうします。4000 rpm で 3 分間遠心分離し、上清(最上層)の 1 mL アリコートを取って d-SPE クリーンアップを行います。 

d-SPE クリーンアップ

硫酸マグネシウム 150 mg、PSA 吸着剤 50 mg、C18 吸着剤 50 mg が入った 2 mL の d-SPE クリーンアップチューブ(製品番号:186004830)に上清の 1 mL アリコートを移し、1 分間激しく振とうします。4000 rpm で 3 分間遠心分離し、0.5 mL アリコートをサンプルとして取って UPLC-MS/MS 分析を行います。

結果および考察

各ステロイドホルモンの回収率を低濃度と高濃度の両方で測定しました(表 2)。QuEChERS 抽出の前にスパイクしたサンプル(抽出前スパイクサンプル)の MRM ピーク面積と QuEChERS 抽出後にスパイクしたサンプル(抽出後スパイクサンプル)の MRM ピーク面積を比較することで、回収率を計算しました。表 3 に、各化合物について計算したマトリックス効果を示します。マトリックス効果は、抽出前スパイクサンプルの MRM ピーク面積を、アセトニトリル中に調製した同等の標準試料の MRM ピーク面積と比較することによって算出しました。図 1 および図 2 に、低レベルのステロイドホルモンをスパイクした食肉サンプルおよび牛乳サンプルの分析から得られた UPLC-MS/MS クロマトグラムをそれぞれ示します。

牛ひき肉サンプルおよび全乳サンプルからのステロイドホルモンの回収率
表 2.牛ひき肉サンプルおよび全乳サンプルからのステロイドホルモンの回収率
牛ひき肉サンプルおよび全乳サンプルからのステロイドホルモンのマトリックス効果
表 3.牛ひき肉サンプルおよび全乳サンプルからのステロイドホルモンのマトリックス効果
* マトリックス効果(%) = ピーク面積(抽出後スパイクサンプル)/ピーク面積(標準試料)× 100
100% を超える値はイオン化促進を示す
100% を下回る値はイオン化抑制を示す
牛ひき肉サンプルから得られたステロイドの UPLC-MS/MS クロマトグラム。
図 1.牛ひき肉サンプルから得られたステロイドの UPLC-MS/MS クロマトグラム。上のトレースは低レベルでスパイクしたサンプル、下のトレースは牛ひき肉のブランクサンプルです。(a)テストステロン、(b)プロゲステロン、(c)デキサメタゾン。
牛乳サンプルから得られたステロイドの UPLC-MS/MS クロマトグラム。
図 2.牛乳サンプルから得られたステロイドの UPLC-MS/MS クロマトグラム。上のトレースは低レベルでスパイクしたサンプル、下のトレースは牛乳のブランクです。(a)テストステロン、(b)プロゲステロン、(c)デキサメタゾン。

考察

全乳や牛ひき肉のような課題となるマトリックス中のプロゲステロン、デキサメタゾン、テストステロンの分析において、DisQuE サンプル前処理パウチを使用することで、マトリックス効果を最小限に抑えつつ、良好な回収率と再現性が得られました。QuEChERS 抽出は、シンプルで簡単なサンプルクリーンアップメソッドであり、牛乳および食肉からのステロイドホルモンの抽出に有効であることが示されました。高感度 UPLC-MS/MS 分析の前に、d-SPE を使用したサンプルクリーンアップのステップを追加することにより、複雑なサンプル中のステロイドをより正確に回収および定量し、低 ppb 範囲の検出が可能になります。

結論

  • DisQuE パウチ(QuEChERS)は、畜産物中のステロイドホルモンの抽出に有効です。
  • DisQuE 分散型サンプル前処理は、ユーザーのトレーニングが最小限で済む簡単でシンプルな手法であり、複雑なマトリックスのハイスループットなサンプル前処理を行うことができます。
  • DisQuE サンプル前処理と UPLC-MS/MS を組み合わせることで、畜産物中の低 ppb 濃度のステロイドの高感度定量が可能になります。

ソリューション提供製品

720004441JA、2012 年 8 月

トップに戻る トップに戻る