質量分析計の基本設計

質量分析では、測定に必要なパラメータをサンプルに応じて最適化することが非常に重要になります。イオン化法の選択及びその条件を最適化すれば、それに応じた感度で検出することができます。気化した試料を真空系内部に導入し、真空下でイオン化する手法ではGCおよび直接導入プローブなどがよく用いられましたが、分析対象となる化合物が揮発性の化合物に限定されるため、測定できるのは約20%でした。現在では、LC分離された試料を溶離液と共に霧状にする過程でイオン化を行い、イオン化した成分だけを真空下に導入するという手法が最もよく用いられています。この手法では、電圧勾配を利用してイオンだけを真空系に引き込むことで溶離液と目的成分を大気圧化で分離します。

質量分析計における真空ポンプの排気容量は重要で、システム内の真空度を一定に維持できなければなりません。さらに、イオン源周辺のデザインについては、イオンの大きさや除去しなくてはならない移動相やキャリアガスの蒸気量を考慮する必要があります。

インレット 分析中の真空維持に必要とされるポンプ排気性能
キャピラリーGC (1 mL/min) ~400
マイクロボアLC (10 mL/min) ~5,000
従来のLC (1 mL/min) ~50,000

 

各分析条件下において 3x10-6 torr(4x10-6 mbar)の真空度を維持するのに必要とされるポンプ排気性能

 

LC/MSの真空ポンプに必要とされる性能は、使用するインターフェースに依存します。このことがMSに導入する前にキャリアである溶離液を気化させて除去(脱溶媒)する大気圧イオン化法のイオン源の開発に拍車をかける理由の1つとなっています。

 

アナライザ:質量分離部
アナライザは真空下に導入されたイオンを分離する部分です。イオン源では分子関連イオンであるポジティブイオンおよびネガティブイオン、また荷電していない中性分子も生成します。しかし、正負両イオンを同時に取り込むことは原理的に不可能です。そのため、正負イオンを同時にモニターするには時間で正負を切り替えて測定しなければなりませんが、最新のシステムではミリ秒単位で正負モードを切り替えることができるようになっています。それによりピーク幅が1秒程度の高分離手法であるUPLCやGCであっても、高い時間分解能で測定することが可能となり、信頼性が向上しています。

 

四重極
四重極および磁場セクター型
1953年に、西ドイツの物理学者であるWolfgang PaulとHelmut Steinwedelが、四重極型質量分析計を開発しました。平行に配置された4本のロッドの間に 高周波電圧(RF)直流電圧(DC) をかけると、質量分離器すなわちマスフィルターとして機能することが発見されました。電圧の大きさを調節することで、特定の質量範囲にあるイオンだけを透過させることができます。 

現在機器メーカーは、各装置を特定のアプリケーション向けに開発しています。シングル四重極型質量分析計は、マトリックス由来の不要なイオンによる妨害を回避することで、高感度定量が可能な装置となっています。

 

 

トリプル四重極あるいは タンデム四重極型質量分析計(MS/MS) は、四重極(Q1)、コリジョンセル(Q2)および四重極(Q3)を直列に配置した質量分析計です。シングル四重極と同様にイオンのm/zによって、Q1でマトリックスから目的のイオンを分離します。選択されたm/zによって分離されたイオンは、コリジョンセル内で別の分子(一般的にはアルゴンのような不活性ガス) と衝突することでフラグメントイオンを生成させることができます(衝突誘起解離: CID)。得られたフラグメントイオンのm/zを、再度Q3で選択することにより、極めて高い選択的な検出が可能となります。また、コリジョンセル内で化合物から生成した複数種類のフラグメントイオンをQ3にて別チャンネルで選択して透過させることも可能です。その時に得られるイオンの検出比率(イオン比)は、物質固有の値であり、標準品により得られたイオン比と実試料でのイオン比を比較することで、化合物を同定することができます。

四重極アナライザーはモリブデン合金などの金属材料でできた4本のロッドから成り、それらのロッドは平行に配置されています。四重極の設計には、当時の最新科学技術や加工技術が必要とされました。DCとRFの中で目的の化合物は、そのイオンの波形運動によってふるい分けられ、検出器に導入されます。一定時間ごとに電圧を変動させ、特定のm/zのイオンを検出器まで到達させるよう制御します。四重極型は、飛行時間型質量分析計(TOF) のような他の質量分析計よりも質量分解能が低いものの、比較的簡単で使いやすく、コストパフォーマンスの高いシステムです。

この後の章で専門用語についても掲載していますが、MSについての違いを明確にするための説明を加えます。:

分解能 (しばしば「res」と略記されます - 質量分析計が2つの質量を分離する能力):

  • 低分解能 = ユニットマス = 1000
  • 中分解能 = 1,000 ~ 10,000
  • 高分解能 = 10,000以上
  • 超高分解能=300 - 500万

分解能の測り方についての詳細は「質量精度および分解能」のセクションに記載しました。計算された精密質量は化合物の質量を表す正確な理論値であり、測定された精密質量は質量の計測値で、誤差範囲が5 ppm程度です。一般的に、測定された精密質量は、未知物質の元素組成解析などに用いられています。 計算された精密質量の一般的な基準(例えば、投稿論文や特許申請のための基準)は、理論値の5 ppm以内の測定ができるかどうかです。すなわち、250 Daの場合、5 ppmは1.25 mDaです(5 mDaとは異なります。250 Daの20 ppmのことになってしまいます)。 

MS/MS - プリカーサイオンを衝突誘起解離させて得られたプロダクトイオンをモニターする手法がMS/MSと定義されます(多重反応モニタリング[MRM]あるいは選択反応モニタリング[SRM])。一般的には、選択性、特異性、検出感度がシングル四重極型質量分析計よりも向上する傾向にあります。1システム内で、質量分離を実行する2つのアナライザーが連続して接続されているか、または間にコリジョンセルを挟んで配置されています。

タンデム四重極型質量分析計は3つの四重極を持ち、1番目と3番目が質量分離フィルターとして機能します。最新設計のシステムでは、2番目のセルの設計が変更され(初期のタイプは四重極が使用されていました)、タンデム四重極と呼ばれるようになりました。1番目の四重極(Q1)はマスフィルターとして働き、選択されたイオンをQ2へ送り、加速します。Q2は衝突(コリジョン)セルと呼ばれています。あるデザインでは、Q2は他の2つの四重極と似ていますが、RF電圧がフィルターのためではなくイオンを輸送するためだけにかけられます。Q2の中の圧力は他の部分より高くなっており、イオンが不活性ガスと衝突します。これはCIDによるフラグメンテーションです。その後、フラグメントイオンはQ3、すなわちもう1つのマスフィルターへと加速され、検出器に入る前にふるい分けられます。

 

フラグメンテーション
CID、または衝突活性化解離(CAD)と呼ばれることもあり、分子イオンが気相中でフラグメンテーションを起こすメカニズムを指します。分子イオンは電位によって加速され、真空中で高い運動エネルギーを持つよう励起され、ヘリウム、窒素、アルゴンのような不活性ガス分子に衝突します。衝突により、運動エネルギーの一部が変換されて化学結合の切断が起こり、最終的に分子イオンは小さなフラグメントになります。電子伝達解離(ETD)、電子捕獲解離(ECD)など、同じような特別な目的を持ったフラグメンテーションの方法があります。「生体高分子のイオン化法」のセクションを参照してください。

 

エンドスルファン-ß のプロダクトイオンスペクトル

左側の237 DaのプリカーサーイオンがMS/MSのコリジョンセルでフラグメンテーションしています。データシステムでは、目的のフラグメントのみ(生成したフラグメント全てではなく)表示します。 プリカーサーイオンやフラグメンテーションの範囲を指定することもできます。

 

MRMレスポンス(左)とSIRレスポンス(右)の比較。溶液中に存在する化合物のピークがSIRではほとんど検出されません。これはマトリックスによるバックグラウンドが原因です。同じGC/MS/MSを使用し、プリカーサとしてm/z=142の酪酸エステルイオンを選択すると、プロダクトイオン(57m/z)にフラグメンテーションし、ポジティブモードで定量することができます。

法規制のある産業界では、検出ピークを陽性と判断するために、MRMのトランジッションを「同定ポイント」1.5としています。一方、SIRは1.0となります。従って、十分な選択性を確保するためのポイント数である3を満たすには、2種類のMRMトランジッション、あるいは3種類のSIRを必要とします。

磁場セクター、または磁場セクター型質量分析計は、初期の質量分析計の技術による設計ですが現在でも分野やアプリケーションによっては活用されています。例えば、ウォーターズのAutoSpec™は、全世界でダイオキシンの高感度分析に使用されています。

磁場セクターはアーク形のイオン軌道を湾曲させます。イオンの「電荷に対する運動量」比により、軌道半径が決まります。その運動量比は電場と磁場によって決まります。大きなm/zを持つイオンは、小さなイオンより長い距離を進みます。その距離は磁界の強さを変えることによりコントロールします。二重収束質量分析計は磁場セクターと電場セクターを様々な組み合わせで用いるものです。通常、電場セクターの後に磁場セクターが配置されます。このような初期のハイブリッドでは、イオンがイオン源を出る時の運動エネルギーを利用してイオンを収束させるために電場セクターを用います。イオンをエネルギー的に収束させるので、同じ整数質量であっても化学式が異なる(精密質量が異なる)イオンを分離することができます。

 

イオントラップおよび他の非走査型装置Ion traps and other, nonscanning instruments
イオントラップは、四重極と原理が似ています。しかし、四重極が透過する過程でイオンを分離するフィルターであるのに対し、イオントラップと イオンサイクロトロン(ICR) は3次元の空間にイオンを封じ込めます。その空間が飽和に近付くと、トラップとサイクロトロンはその質量に応じてイオンを排出し、イオンを検出します。このような一連の動きはトラップの境界内で行われ、そのプリカーサーイオンの断片構造の情報を得るために、目的のイオンを捕獲して、フラグメンテーションすることもできます。2つの電極の間の空間に、束状に、もしくは、サンドウィッチ状(エンドキャップ電極を向い合せ)に形成された高周波電圧の領域に、イオンを捕獲します。高周波電圧を制御することによって、イオンは長期の振動、すなわち捕獲状態から放出されます。イオンの捕獲スぺースが有限の空間であることからダイナミックレンジはあまり広くありません。従って、複雑なマトリクッス中のサンプルを測定する場合には、イオンの蓄積容積の上限が、装置の使用範囲を制限します。

イオントラップは1980年代に登場しました。しかし、初期の装置では、内部イオン化法が採用されており、そのイオン化法の制限が測定対象とする化合物を制限したため、広く用いられることはありませんでした。外部イオン化法が開発されると、様々なアプリケーション、システムに実用化可能なものになりました。

フラグメンテーションでは、1つの特定の質量から多くの構造情報を引き出す連続した動き(つまり、イオンを断片化し特定のフラグメントを選択するプロセスを繰り返すこと)は、MSn と呼ばれます。しかしGCのクロマトグラフィピークは溶出幅が狭く、複数のフラグメンテーション(MS/MSあるいはMS2)には適していません。またイオントラップは、四重極とセクター型のように空間を用いるのではなく、時間差でMS/MSまたはフラグメンテーションを行います。従って、イオントラップは、ニュートラルロスとプリカーサーイオンの比較を行うようなMS/MS測定を行うことが原理的に困難です。さらに、イオントラップによるMS/MSでは、MS/MSのスペクトルの低質量側1/3の範囲が失われるため、トラップの構造設計における課題となっています。この問題を解決するために、いくつかのメーカーではソフトウェアを使って、データの取り込み中にパラメーターの切り替えをする、幅広い質量範囲でのスキャンを可能にしました。

トラップの上限は、プリカーサのm/zと、トラップされる最も小さいフラグメントイオンのm/zの比で決まります。これは「1/3ルール」として一般に知られています。例えば、m/z =1500のイオンから生成したフラグメントイオンは、m/z =500以下で検出されません。これはペプチドのデノボシーケンス解析にとっては深刻な問題です。トラップされる部分に大量のイオンが入ると、スペースチャージ効果により、イオントラップのダイナミックレンジに制限が出てきます。そこで機器メーカーは自動スキャン機能を開発しました。これにより、イオンがトラップに入る前にイオン数を計測し、導入するイオンの量を制限しています。しかし、目的とするイオンの数が少なく、それ以外のイオンの数が多い場合は、分析対象とする化合物の測定は困難になります。

四重極とイオントラップは、機能的なデザインが類似しているため、双方の利点を組み合わせてハイブリッド化されてきました。それによって、感度が改善され、それぞれ単独ではできなかった分析ができるようになりました。これは リニアイオントラップ (または Qトラップ)と呼ばれています。リニアイオントラップは、イオンを蓄積する容積が大きくなっている(三次元イオントラップ以上)ため、ダイナミックレンジの問題が改善されています。

イオントラップは四重極とはスキャン方法が異なるので、選択イオンモニタリング(SIM)あるいは選択イオンレコーディング(SIR)を用いても、感度は改善されません。四重極やセクター型のように、技術的にイオントラップの感度を改善することは困難です。

高速フーリエ変換イオンサイクロトロン(FTICR)は、非常に類似した化合物を分離する能力と、精密質量を測定する能力が優れていることで知られています。多くのアプリケーションには非実用的ですが、14.5テスラの磁石で350万以上の分解能を実現できます。それによって、電子1つの質量よりも差が小さな分子間の質量の違いを識別することができます。

サイクロトロンは、一様な磁場で、静電気的にイオンを捕捉します。高周波電圧のパルスによって軌道のイオンが運動します。また、軌道に乗るイオンは、セルの検出プレートで小さな信号を発生します(イオンの軌道周波数)。周波数はイオンのm/zに反比例します。また、信号の強さは、セルの同じm/zのイオンの数に比例します。サイクロトロンは、非常に低いセル圧力で長時間イオンの軌道を維持し、高分解能測定を可能にします。

持続性準共鳴励起 (SORI) はフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析の中で使用されるCID技術です。イオンはサイクロトロン運動中に加速され、圧力が大きくなると衝突が起こりフラグメントイオンを生じます。フラグメンテーション後は圧力が下げられ、フラグメントイオンを分析するために真空に戻されます。

TOFは何年も前に開発されていましたが、最近になって研究開発に用いられるようになりました。これは、高速で正確な電子技術とESIのような最近のイオン化技術による成果です。TOFでは、真の分子質量の数百万分の一 (ppm) 未満の精密質量測定が可能です。アナライザーであるTOFは、一方向に直線的にイオンを飛行させることもありますが、リフレクトロンとしての働きを持つ静電気グリッドやレンズを利用することにより反射させる方式もあります。リフレクトロンを採用すると、感度を損ねることなく、フライトチューブやドリフトチューブの長さも変えることなく、分解能を向上することができます。

 

高電圧パルスによって、イオンはドリフトチューブ(フライトチューブ)へと加速されます。
軽いイオンほど、マルチチャンネルプレート(MCP、検出器)へ早く到達します。

 

TOF分析は、検出器へ向けて一瞬にしてイオンの一団を加速します。イオンは、「加速」電極から電荷またはポテンシャルエネルギーを受け取って、イオン源を離れます。そしてイオンが持つポテンシャルエネルギーにより、超低圧チューブの中へ加速され(飛行し)ます。同じ電荷のイオンがすべて同じ運動エネルギーを持つので(運動エネルギー=mv2、mはイオンの質量、vは速度)、質量の小さなイオンほど速度が大きく、検出器へ到達するまでの時間が短くなります。イオンの質量、電荷、および運動エネルギーが検出器までの到達時間を決定するので、イオンの速度はv=d/t=(2KE/m)1/2と表されます。イオンは、与えられた距離(d)をある時間(t)で移動します。tはm/zに依存します。全ての質量が「加速(飛行)」ごとに測定されるので、TOFは他の走査型質量分析計と比較して広い質量レンジでの同時モニタリングを行う場合には非常に高感度です。

現在の四重極MSシステムは、毎秒10,000 Daでスキャンすることができます。こような広範囲のスキャンができると、シャープなピーク(例えばLCやGCの1秒のピーク)の各イオンを毎秒10回以上捕らえることが可能です。TOFの検出器は、ナノ秒以内でプレートに衝突するイオンを計測します。この分解能によって、四重極のような走査型質量分析計と比べて、広い質量ダイナミックレンジでの高感度測定が可能となっています。しかし、一般的に、複雑な混合物から目的の化合物を検出する場合には、四重極型質量分析計による選択的な高感度測定が適しています。従って、四重極型質量分析計は、汎用的でかつ選択的な良い定量手段となっています。イオントラップのように、それぞれの装置が持つ性能を組み合わせて使われることがあります。ハイブリッド型の装置が登場するまでは、1台のシステムがあらゆる面で上位のパフォーマンスを発揮するということはありませんでした。

初期のMALDI-TOFのデザインは、イオン源を離れたイオンを直ちに加速するものでした。従って分解能は低く、精度にも限界がありました。MALDI-TOF用に開発された、ディレイドエクストラクション(DE)は、イオンが生成した後、およそ150ナノ秒でイオンを「冷却し」、収束させます。その後、イオンはフライトチューブへ加速されます。冷却されたイオンの運動エネルギーは、冷却されていないイオンより低くなります。この作用により、イオンがTOF分析部に入る際の一時的な拡散が抑えられ、分解能と精度が向上します。しかし、DEは、高分子(例えば30,000 Da以上のタンパク質)に対しては、効果的ではありません。

 

スキャンモードで取り込みを行う場合、TOFではタンデム四重極の5倍から10倍の感度となります。

 

ハイブリッド
「ハイブリッド」は様々な質量分析計のデザインに利用され、二重収束、磁場セクターのような、既存の技術を組み合わせたものです。最近では、サイクロトロンにイオントラップを組み合わせた質量分析計もあります。最も興味深いデザインとしては四重極飛行時間型(QTOF)で、TOFに四重極を組み合わせたものです。この組み合わせは非常に良い組み合わせであり、多くのパフォーマンス特性があり、精密質量測定、フラグメンテーション、高品質の定量などが可能です。

 

 

さらに技術が進化すると、イオンモビリティ測定とタンデム質量分析による分離を組み合わせた装置が生み出されました。イオンモビリティ・マススペクトロメトリ (IMMS、ここではIMSと略される「イメージング質量分析」と識別)は、イオンの大きさ、形状、電荷、質量などの組み合わせによってイオンを識別する技術です。 IMMSは、携帯型の装置として空港で使用されています。空港では、既知のモビリティがわかっている低分子、例えば麻薬や爆発物のようなものを、迅速に(20ミリ秒)検出します。 IMMSが高品位の装置に応用されたものは、異なる次元の分離(LCとMSに対して)を提供するものとなっています。そして、次のような多くの可能性が拡がります:

  • 異性体、同族体及び配座異性体(タンパク質から低分子まで)の分離、およびその回転衝突断面積の平均値の決定
  • 複雑な混合物の分離の向上(MS、LC/MSによる分離以上に)。ピークキャパシティとサンプル精製度の向上(特にノイズの原因となったり、目的化合物に対して妨害となるイオンとの分離を物理的な分離によって行う)
  • CID/IMMS、IMMS/CID、CID/IMMS/CIDを行い、フラグメンテーションから構造を解析するための有益な情報量の増大

3つの分析シナリオの中で示したように、高性能イオンモビリティとタンデム質量分析の組み合わせで、従来の質量分析計や液体クロマトグラフィを含む、他の分析手法では困難だった問題の解決につながります。

このセクションの末尾で引用している、H.H.Hill Jr.らによる総論では、様々なタイプのイオンモビリティ(その総論の2007年の出版の時点で利用可能な質量分析計)を比較、対比しています。そして、イオンモビリティを広範囲の化合物に応用する利点を述べています。総説では、現在質量分析計と共に使用されている4つのイオンモビリティ分離法をターゲットとしています。:

  • Drift-time ion mobility spectrometry (DTIMS)
  • Aspiration ion mobility spectrometry (AIMS)
  • Differential-mobility spectrometry (DMS) または field-asymmetric waveform ion mobility spectrometry (FAIMS) とも呼ばれています。
  • Traveling-wave ion mobility spectrometry (TWIMS) )

著者は次のように述べています。「DTIMSは最も高いイオンモビリティ分解能を持ちます。また、衝突断面積を直接測定することができる唯一のIMMS法です。AIMSは分解能の低いイオンモビリティ法ですが、イオンを連続的にモニターすることができます。DMSとFAIMSは連続的にイオンをモニターすることに加え、高い分離選択性のある垂直方向のイオンモビリティ分離を行います。TWIMSは最新のIMMS法で、分解能は低いものの高感度で、製品化されている質量分析計の操作によく適合しています。」

 

イオンは一時的にトラップされてから、T-waveのイオンモビリティ分離(IMS)領域に輸送されます。

 

T-wave領域に輸送されたイオンは中性緩衝ガス(一般的には0.5mbarの窒素)の中へと導かれ、移動度によって分離されます。

 

同じ移動度を持つグループに分けられたイオンは、その後TOFのドリフトチューブを透過し、チューブ内でm/zが測定されます。従って、このシステムでは、ピークキャパシティを増大したMSやLC/MSによる質量分析よりも、同重体イオン(同一のm/zのイオン)や非常に類似したm/zのイオンを分離できる可能性があります。

 

MSと組み合されるようになり、イオンモビリティは生体分子の気相構造を解析するためにも利用されるようになりました。Pringleら(このセクションで引用されています)は、ハイブリッド四重極/TWIMS/直交加速TOFを使用して、ペプチドとタンパク質のイオンモビリティ分離を試みています。TWIMSから得られたモビリティデータと他の様々なモビリティ分離器を用いて得られたデータを比較すると、次のことが示されました。「モビリティ特性は他の装置とも類似していますが、新しいハイブリッド装置の形状は、質量分析計の感度を低下させることなくモビリティ分離を実現します。これにより、分析する意義のあるサンプルについて、モビリティ研究が推進されることでしょう。」

参考文献:

  • Special Feature Perspective: Ion mobility-Mass Spectrometry, A. B. Kanu, P. Dwivedi, M. Tam, L. Matz and H. H. Hill Jr., J. Mass Spectrom. 2008; 43: 1-22 Published online in Wiley InterScience, (www.interscience.wiley.com) DOI: 10.1002/jms.1383
    • 160の参考文献を引用した、イオンモビリティMS(IMMS)の総説
  • An investigation of the mobility separation of some peptide and protein ions using a new hybrid quadrupole/traveling wave IMS/oa-ToF instrument, S. D. Pringle, K. Giles, J. L. Wildgoose, J. P. Williams, S. E. Slade, K. Thalassinos, R. H. Bateman, M. T. Bowers, J. H. Scrivens, Published online (www.sciencedirect.com), International Journal of Mass Spectrometry (2006), doi:10.1016/j.ijms.2006.07.021
    • IMMSが生体分子の分析にどのように利用できるかについて述べています。
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