ELSD および PDA 検出によるポリマー混合物、共重合体、添加剤のグラジエント分析

  • はじめに
  • 実験
  • 結果および考察
  • まとめ

要約

近年、共重合体の組成ドリフトやポリマー混合物の組成の評価やポリマー添加剤の分析などポリマーの分析にグラジエントポリマー溶出クロマトグラフィー (GPEC) などのグラジエント HPLC を使用することに対する関心が高まっています。分析用に選択したグラジエント条件およびカラムに応じて、分子量による分離または沈殿や吸着メカニズムに基づいた分離を行うことができます。蒸発光散乱検出器 (ELSD) の使用により、ユニバーサル質量検出器を併用して溶媒グラジエントを実施し、溶媒グラジエントによるベースラインの乱れを発生させることなく、UV を吸収するポリマーおよび UV を吸収しないポリマーのサンプルを観察することができます。フォトダイオードアレイ検出器 (PDA) を追加することで、多くの共重合体の分子量分布にわたり組成分析を行うことができ、ポリマー混合物中の成分同定における有用な手段となります。さらに従来の逆相分離におけるポリマー添加剤およびその他の小分子の定量において有益な手段となります。

このセクションでは、ゲル浸透クロマトグラフィーで得られる結果と比較した場合の、ポリマーのグラジエント分析のメリットを示します。また、この研究を実施するために使用した装置を説明し、ポリマー混合物の分析においてこの技術を使用した例をいくつか紹介します。ポリスチレンスタンダードおよびサンプルの分離におけるカラムの機能および溶媒組成の効果を説明し、確認された最適条件を使用して様々な共重合体のモノマー組成分析を行います。最後に、同装置で従来どおりのグラジエント分離を用いて行ったさまざまな種類のポリマー添加剤の分析も紹介します。

はじめに

ポリマーの分析で最も広く使用されているクロマトグラフィー法は、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC) です。GPC では、溶液中のポリマーサンプルのサイズまたはポリマー溶液の流体力学的容積に基づいてポリマーを分離します。図 1 は、それぞれ GPC で分析したポリスチレンサンプル、ポリスチレン-アクリロニトリル共重合体 (アクリロニトリル 25%)、およびポリスチレン-ブタジエンゴム (スチレン 50%) のクロマトグラムです。これらのサンプルの分子量は異なりますが、ポリマーのピークがほぼ同じ保持時間で確認されるほど流体力学的容積が似ています。ポリスチレン、ポリスチレン-アクリロニトリル、およびポリスチレン-ブタジエンの各サンプルをそれぞれほぼ同濃度で混合したサンプルを GPC 分析して得られたクロマトグラムを図 1 に示します。このクロマトグラムを見ると、これらの 3 種類のポリマーが分離されていないことがわかります。したがって、大部分のポリマー混合物の分析に GPC が実用的でないことが証明されています。 



しかしながら、このポリマー混合物をグラジエントモードで分析すると、図 2 に示すように 3 つの成分が簡単にベースラインで分離されます。図 2 は、このポリマー混合物を 2 回インジェクションし、試作品のジビニルベンゼン-ビニルピロリドンカラムを使用して、100% アセトニトリル (ACN) から 100% テトラヒドロフラン (THF) へのグラジエント (20 分間) で分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。

 


この方法を用いて、サンプルを THF に溶解し、100% ACN が流れているクロマトグラフィーシステム中にインジェクションします。混合物中のポリマーはアセトニトリルに溶解しないため、カラムに沈殿します。グラジエントが進行すると、混合物中のポリマーは溶解度に応じて再び溶解し、溶解ピークとしてカラムから溶出されます。このメカニズムは、グラジエントポリマー溶出クロマトグラフィー (GPEC) と似ています。ポリマーの分析で使用される別のグラジエント法も文献で報告されています。このグラジエント法は、ポリマーが溶液中に溶解した状態で、吸着メカニズムにより分離される条件下で行われますが、一般的にアルコールやケトンに溶解する極性ポリマーを未修飾シリカカラムで分析する場合に使用されるため、ここでは説明しません。

実験

すべてのグラジエント分析は、特記しない限り以下のシステム構成を用いて実施しました。

システム:
ウォーターズ Alliance 2690 セパレーションモジュール、カラムヒーター設定 30 ºC 
検出器 1:
ウォーターズ 996 フォトダイオードアレイ検出器
検出器 2: 
Alltech モデル 500 ELSD、LTA アダプター付
(ドリフトチューブ設定 40 ºC、窒素 1.75 L/min)
データシステム: 
ウォーターズ Millennium 32 クロマトグラフィーマネージャ
カラム:
図中に記載、30 ºC
流速:
1mL/min
サンプル:
0.2 ~ 0.5% のサンプルを 10 ~ 25 µl でインジェクション
グラジエント:
リニアグラジエント、条件および移動相は図中に記載

 

GPC で最も広く使用されている検出器は屈折率 (RI) 検出器ですが、RI は移動相の組成変化の影響を受けやすいため、グラジエントポリマー分析の検出器としては適していません。図 3 は、スチレン-アクリロニトリル共重合体 (25% アクリロニトリル) の 0.5% 溶液を 25 µL インジェクションし、試作品の DVB/ビニルピロリドンカラムを用いて 100% ACN から 100% THF へのグラジエント (20 分間) で分離し、屈折率検出器 (RI)、フォトダイオードアレイ検出器 (PDA)、および蒸発光散乱検出器 (ELSD) で検出して得られたクロマトグラムです。

 


グラジエントで変化した移動相が RI 検出器に到達すると (約 2.5 分)、RI シグナルは測定限界を超え、完全に検出器がオーバーロードしています。PDA 検出器 (または UV 検出器) の測定波長を 260 nm に設定して得られたクロマトグラムを見ると、RI 検出よりも UV 検出の方がグラジエント分析に適していることがわかります。このクロマトグラムにも移動相の変化に伴うベースラインのドリフトが見られますが、ポリマーサンプルに対する感度は良好で、ドリフトはグラジエントブランクを使ってベースラインサブトラクションを行うことで簡単に除去することができます。図 3 の 3 つ目のクロマトグラムは、ELSD を用いて得られたものであり、グラジエントアプリケーションには ELSD が優れた性能を発揮することを確認できます。この検出器では検出前に溶媒が蒸発するため、基本的に移動相組成の変化の影響を受けません。この特性とポリマーサンプルに対する高い感度を備えているため、ELSD はポリマーグラジエント分析に最適な検出器です。PDA を ELSD と併用することで、ELSD で未知の物質を検出および定量し、PDA でピーク純度を計算し、未知の物質をライブラリーマッチングにより同定し、共重合体の組成分析を行うことができます。

このシステムを用いると、さまざまな種類のポリマー、ポリマー混合物、および共重合体を分析することができます。図 4 は、多種類のポリマーを Nova-Pak C18 カラムを用いて 100% ACN から 100% THF のグラジエント (30 分間) で分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。分析したポリマーは、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリスチレン-ブタジエンブロック共重合体、ポリジメチルシロキサン、ポリスチレン-イソプレンブロック共重合体、およびブチルゴムです。


この技術を使用してポリマー混合物または共重合体を分析する場合、ポリマーが組成のみで分離されるようにするためには、分離が分子量に依存していないことが必要です。残念なことに、これは主に沈殿/再溶解メカニズムであるため、分子量へのある程度の依存は避けられませんが、カラム、移動相、グラジエント条件を適切に選択することで最低限に抑えることができます。

図 5 は、ポリスチレンの単分散標準試料を SymmetryShield C8 カラム (3.9 mm × 15 cm) を用いて 100% ACN から 100% THF までのグラジエント (10 分間) で分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。


分子量 43,900 から 2,890,000 のスタンダードは、およそ 9 分から 9.5 分の間に溶出しています。低分子量のスタンダードは先に溶出し、多くのオリゴマーは良好に分離されています。これらの低分子量スタンダードは、グラジエントの開始条件 (100% ACN) で溶解するか、ほぼ溶解する (分子量 9100) ため、従来の逆相メカニズムにより分離されます。図 6 は、同じスタンダードを同条件下で試作品の DVB/ビニルピロリドンカラム (3.9 mm × 15 cm) を用いて分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。


同じようなパターンが得られますが、分子量が 43,900 から 2,890,000 のスタンダードは図 5 よりもやや狭い幅で溶出されています。低分子量スタンダードの分離に多少の差は見られますが、2 つのカラムの逆相特性は異なるため予想外なことではありません。

Nova-Pak C18 カラム (3.9 mm × 30 cm) に変更し、30 分間のグラジエントを使用したところ、図 7 のクロマトグラムが得られました。これらの条件を用いることで、分子量 43,900 以上のポリスチレンスタンダードの分子量依存性はほとんどなくなりました。ACN に溶解する低分子量のスタンダードはクロマトグラムの早い時間に溶出するという予測どおりでしたが、低分子量オリゴマーは 3 つのピークに分かれており、異なる末端基により分離されていることがわかります。


非溶媒として使用される移動相の選択が、ポリマーのグラジエント分析での分離に大きな影響を与える可能性があります。

図 8 は、同じスタンダードを Nova-Pak C18 カラム (3.9 mm × 15 cm) を用いて 100% メタノール (MeOH) から 100% THF のリニアグラジエント (30 分間) で分析して得られたクロマトグラムを重ね描きしたものです。これらの結果より、クロマトグラムの早い時間に良好に分離されたオリゴマーから分子量が 800 万のスタンダードまで、分子量に依存していることがはっきりと確認できます。これは、共重合体やポリマー混合物の分析を目的とする場合は望ましくないことです。なぜなら、保持時間の違いが組成の違いによるものなのか分子量の違いによるものなのかという判断が難しいからです。


この非溶媒の効果は、幅広い分子量のポリマーサンプルを分析する際にも見られます。

図 9 は、NBS706 ポリスチレンブロード標準試料を Nova-Pak C18 カラム (3.9 mm × 15 cm) を用いて分析して得られたクロマトグラムです。この際、非溶媒として 1 回目は ACN、2 回目は MeOH を使用し、溶媒として THF を使用したグラジエント (30 分間) を行いました。非溶媒として ACN を用いた場合は望ましいシャープなピークが得られたのに対し、MeOH を非溶媒として用いた場合には非常にブロードなピークが得られました。この研究から、THF 可溶性ポリマーに関しては、100% ACN から 100% THF グラジエントで最も良好な分離が得られることを確認できました。これらの条件から、さまざまなポリマー混合物や共重合体に使用できる堅牢な方法が得られます。


グラジエント分析は、共重合体材料の評価において強力なツールです。この 100% ACN から 100% THF へのグラジエント (20 分間) で、試作品の DVB/ビニルピロリドンカラム (3.9 mm × 15 cm) を用いてランダムスチレン-ブタジエンゴム (SBR) を分析しました。スチレンが 50% 含まれる組成からスチレンが 5.2% 含まれる組成までの 5 種類の SBR、ポリスチレンの単分散標準試料 (分子量 355K)、およびポリブタジエンの単分散標準試料 (分子量 330K) をインジェクションしました。得られたクロマトグラムを重ね描きしたものを図 10 に示します。


各種の SBR は、スチレンおよびブタジエンの相対量により簡単に分離されます。これらの SBR はあらかじめ、分子量依存性を無視できるのに十分な高分子量であることを確認するために従来の GPC で分析されており、ポリスチレンでの相対的較正によりすべての SBR の分子量が約 200,000 から 300,000 の範囲にあることが確認されていました。

グラジエント分析の結果を使い、保持時間に対するスチレンの割合 (%) を決定するために作成した較正曲線を図 11 に示します。


プロットからは、スチレンの割合 (%) と保持時間の間に良好な相関関係があり、この方法を未知の SBR の近似組成を決定するのに使用できることがわかります。PDA で得られた UV データも、ELSD で得られた結果を照合確認するのに使用できます。

同様に、図 12 は、ブロックスチレン-ブタジエン共重合体を上記のランダム SBR と同様に分離して得られたクロマトグラムです。


図 13 にプロットされたデータは、上記のランダム SBR で得られたものに似た較正曲線です。このグラジエント法を用いて、構造上にわずかな違いしかないサンプルも簡単に分離することができます。

 

図 14 は、ポリメチルメタクリレート、ポリ-n-ブチルメタクリレート、ポリ-n-ヘキシルメタクリレート、およびポリ-ラウリルメタクリレートを、Nova-Pak C18 カラム (3.9 mm × 15 cm) を用いて 100% ACN から 100% THF までのグラジエント (30 分間) でそれぞれ分析して得られたクロマトグラムを重ね描きし

たものです。クロマトグラムからは、メタクリレート同族列の各成分がきれいに分離されており、さらに速いグラジエントでも簡単に分離が可能であることが確認できます。


図 15 のクロマトグラムは、上記のメタクリレートを混合物としてインジェクションして同一条件下で分析して得られた結果です。成分を混合して分析しても同一の分離が得られることを確認できます。


同一の条件を用いたこの方法は、低分子量化合物の分析にも使えます。図 16 は、2 つの低分子量ワックスのクロマトグラムを重ね描きしたものです。2 つのワックスは良好に分離されており、オリゴマー比がわずかに異なることを確認できます。


低分子量ポリマー添加剤は、この方法を用いて従来の逆相メカニズムで分析できます。質量分析計と互換性があるように選択した以下の条件を用いてさまざまな種類のポリマー添加剤を分析した結果を、以下に示します。

システム:
ウォーターズ Alliance 2690 セパレーションモジュール、カラムヒーター設定 30ºC 
検出器 1: ウォーターズ 996 フォトダイオードアレイ検出器
検出器 2: Alltech モデル 500 ELSD、LTA アダプター付
(ドリフトチューブ設定 40 ºC、窒素 1.75 L/min)
データシステム:
ウォーターズ Millennium32 クロマトグラフィーマネージャ
カラム:
Symmetry C8, 2.1mm x 15cm, 30º C
流速:
0.29 mL/min
グラジエント:
3 液リニアグラジエント、30 分、H2O/ACN/THF の割合は 70/10/20 から 1/79/20

図 17 は、ポリオレフィン樹脂で広く使用されている UV 安定剤である Tinuvin 440、Tinuvin 900、および Tinuvin 328 の分離結果です。これらの化合物を良好な回収率でポリオレフィンから抽出するのは困難ですが、抽出してしまえばこの方法を用いて高い感度で簡単に分析することができます。


数種類のフタル酸エステル系可塑剤を分離した結果を図 18 に示します。フタル酸エステルは、PVC 樹脂の可塑剤として広く使用されていますが、発がん性の可能性があることから最近注視されるようになりました。フタル酸エステル、特にフタル酸ジエチルヘキシル (DEHP) は、カテーテルや点滴バッグなどの医療用具や子供の玩具などに普通に使用されており、患者や子供がこの発がん性の疑われる物質に高レベルで曝露されています。この方法は、これらのフタル酸化合物を分析する簡単な手段です。


図 19 は、スリップ剤のオレイン酸アミドとエルカ酸アミドおよび静電気防止剤のステアリン酸のクロマトグラムです。これらの化合物はほとんど UV 吸収がなく、UV 検出の感度は低くなりますが、蒸発光散乱検出器では簡単に検出することができます。


図 20 は、ポリオレフィンや他のポリマーで一般的に使用されている 2 つの抗酸化剤である Irganox 1076 および Irgafos 168 の分離結果です。Irganox 1076 はヒンダードアミンで、Irgafos 168 は簡単に分解する亜リン酸化エステルです。クロマトグラムには、Irgafos 168 に対応する 2 つのピークがあります。2 つ目のピークが Irgafos 168 の主なピークで、1 つ目のピークはサンプル中に含まれる、酸化した Irgafos 168 の不純物です。この方法は、最適化された方法としてではなく、さまざまな添加剤で使用できる一般的な方法として示しています。


図 21 は、広く使用されている 10 種類の抗酸化剤を、ポリオレフィン中の添加剤の分析法として承認されている ASTM 法の改訂版を用いて分析して得られた 12 個の分離結果を重ね描きしたものです。カラム、移動相、流速、およびグラジエント条件を最適化して、分析時間を最短に、感度を最大化することにより、10 種類の抗酸化剤を 10 分以内に分析することが可能となりました。


この方法では移動相グラジエントと流速グラジエントの両方を利用することで、再現性と感度が非常に高くなりました。分析種の検出は PDA の測定波長を 230 nm に設定して行いました。この場合、感度が非常に高いだけでなく、フォトダイオードアレイ検出器のライブラリーマッチング機能を用いてピーク同定も可能になります。この分離に用いた装置および条件を図 22 に示します。


まとめ

ポリマーの分析にグラジエント法を使用することで、基本的に分子量に依存しない分離を行うことができます。混合物に含まれるそれぞれ同じ分子量分布を持ったポリマーを簡単に分離し、共重合体をモノマー比により分離することが可能です。同じ装置を用いて最も広く使用されているポリマー添加剤を分析することも可能です。蒸発光散乱検出器は移動相のグラジエント組成の変化の影響を受けないユニバーサル検出器です。また、フォトダイオードアレイ検出器では多くの化合物を確実に同定し、共重合体の組成分析を行うことができます。これらのグラジエント法は、非常に再現性の高い技術であり、組成物成分の分離同定アプリケーションに最適です。

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